表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の冒険  作者: 黄昏人
第6章 異世界の再編と日本の異世界への進出、日本発宇宙時代の始まり
65/84

アジラン帝国からの解放4

読んで頂いてありがとうございます。

 その倉庫での「アジラン帝国を排除するぞ!ミザイガ王国を復興するぞ!」との唱和の後、その声の響きが治まる前に、ドアが叩かれて数人が飛びこんでくる。

「ハアハア。おい、来たぞ!軍がきている。数が多いが迎え撃つぞ!」

 先頭切って飛び込んで生きた若者が、喘ぎながら叫ぶ。


「「「おお、やるぞ!」」」会場に居た皆が目を輝かせてそれに応じる。

 壇上に立っていたマーマリアは突然のことに焦った。そして、壇上に立って彼女の話を聞いていたムーライ・ジランに聞く。

「ジラン、これはどういうこと?」


「王女殿下、ご心配なく。今日のこの会合のことは、ドノーミル伯爵率いる警備隊にわざと漏らしていたのですよ。最近では警備隊は町中に来ると殺されるものですから、出てこなくなっています。ですが、流石に大規模な集会をやると言えば、軍の部隊を送ってくると思っていましたが、思った通りですね。

 心配ありません、今日はこっちも千人以上を動員していますし、全員がお話した小銃や手榴弾を持っていますから、負けることはありません。万が一のことがあっても、殿下の安全は最優先で確保します」


 ジランが説明する間にも、声が飛び交う。

「部隊までの距離は?」

「兵舎を出てまだ半分だから、時間は十分ある」

「相手の数は?」

「千人はいるな。キガリ町兵舎のほぼ全員だ。全員が銃を持っていて、車付き大砲も5門運んでいる」


 そういうやり取りを聞いているマーマリアのところに、イバン・ドナーがやって来て言う。43歳のドナーはミザイガ王国復興部隊のトップの位置にあって、マーマリアがその旗印ということのなる。

「マーマリア殿下。アジラン帝国兵約千人が迫っています。我々は戦いますが、殿下は万が一のことがあってもいけませんので、ジランについて行って避難しておいてください」


「いえ、私も残ります。形だけでも私が率いるミザイガ王国復興部隊の戦いを是非自分でも見守りたいと思います。ドナー卿、どうか残らせて頂きたい!」

 きっぱり言う彼女に、ソーサスが引き下がるしかなく、ドナーはわが意を得て応じる。

「ご立派です、マーマリア王女殿下。では、すこし見晴らしの良いところに行って、殿下の戦士たちの奮闘をご覧ください。ではついてきてください」


 一行は、倉庫に隣接する工場兼事務所の建物に入り階段を登って屋上に出る。そこは4階の高さであるため、繊維工場の広い構内の中の隣の倉庫の屋根及び周囲を囲む塀が見下ろせる。塀の向こう正門の正面には、100m四方ほどもある広場があって、その広場に3本の道路が繋がっており、その各々の幅は6mほどもある。


 街灯はないが、家々に明かりが灯っており、さらにこの世界の月も照っているので、路面など全体としてはかなりはっきり見えているが、路上・広場には人影は見えない。ただ、眼下の工場の塀の中には多くの人が動いているのがはっきり見える。ほとんどの者が長細い銃を持っているようだ。


「殿下、あの中心にある道路からアジラン軍の部隊がやって来ています。数はさっき言ったように概ね千人で、全ての兵が銃を持っていますが、彼らの銃は火縄銃ですので、我々の銃に比べると撃つ速さが大幅に違います。

 我々の兵はあの道路の両側の建物にも多く隠れていますので、彼らが広場に達した段階で射撃をはじめます。それと彼らは人が引く大砲を持ってきていますので、手榴弾で爆破します。ですが、手榴弾は周辺の建物に被害がでますから、道路では出来るだけ使わないようにします。

 まして、さらに被害が大きくなる迫撃砲は危険なので。今回は使いません」


 ドナーが説明する言葉にマーマリアが応じる。

「ここは全体が良く見えますね。でも周囲の建物に、多くの者が銃を持って隠れているということですが、その住民がよくそんな武装した兵に家を使わせますね?」


「ええ、この街の人々のアジラン人、特に兵に対する憎しみは非常に強いものがあります。殆どの家のものが何等かに被害を受けているはずです。特に女性は多くが彼らの兵から辱めを受けています。彼らは子種を残さないように薬を飲んでいるので、妊娠する恐れはないのですが。

 彼らに言わせると、劣等人種との混血は作ってはならんということらしいです。だから、街中のアジランの兵達が行くようなところには、年頃の女性はまずいません」

 そう言ってドナーは乾いた笑い声をあげる。


「そ、それは。皆がそのような目に遭っている時に私は逃げ出して………」

「いや、殿下。それはアジランの連中が悪辣過ぎたのです。王室と王国政府としては侵略を防ぐために懸命な努力はしたと思います。私も父が王国政府の貴族で大臣でしたし、私自身も王国政府で働いていました。しかし、力及ばず……。

 とは言え、今や彼らの強みである多数の火縄銃と大砲をしのぐ武器を我々が手に入れ、彼らは恐れて出てくることができない状態になっているわけです。これは痛快ですよ」


 ドナーは笑って見せるが、「ハア!」とマーマリアはため息をついて、話題を変える。

「それで、ドナー卿、わざと敵を引き寄せるということですが、それはどういう意味があるのですか?」

「はい、今晩は新生ミザイガ王国復興の旗揚げの日と位置付けています。唯一の王家の御血筋の殿下が、同志の皆の前で王国復興を宣言され、その日にアジラン兵を蹴散らすということで、後の歴史書に残る快挙の日となるはずです」


「なるほど、それは、それは。わざわざ敵に今日の我々の旗揚げを漏らした意味は解りました。ただ、まだ戦いの前ですから油断は禁物ですね」

「はい、王女殿下の御賢明なるご忠言痛み入ります」


 ドナーは言いながら、内心は王女の賢さに複雑な心境であった。実のところ彼は、彼女が辺境で世間と隔離されて暮らしている以上、碌な教育を受けていない無知な女性であると思っていた。しかし、実際に大森林で会った彼女は、同じ場所に逃れてきた旧臣下たちに十分に教育されていたようだ。さらに自身の逆境に思うところがあったのだろう、自らよく学んで自分で考える賢い王女であった。


 ニホンと接触して、国を復活することが確実になったと思った時から、彼としては国民の団結を促すためにも、当面は王国を復活することが近道と考えていた。しかし、唯一の王族である王女の下で王国を続けることは難しいとも思っていた。

 しかし、大森林で会い、かつ今晩の同志の前での演説を見て、よく自分を律して賢明なマーマリアであれば、女王として十分に国政をこなしていけるようにも思うようになった。


 彼は、かつての王国において侯爵の家柄であり、国の中枢を担う行政に携わる家の出身であった。国が侵略されたときは23歳であり、すでに行政府で働いていた彼はむざむざ国を奪われた責任の一端を担っているという自覚があった。


 彼は、唯一残された王女を、女騎士ソーサスをつけて脱出させた段取りをつけた一人でもある。その後、アジラン帝国に征服された国に、彼は隠れ住みながらアジラン打倒の動きを続けてきた。その中で当然相手のことを深く調べたが、アジラン帝国という相手は大雑把な連中であって、強大な武力の割にその占領後の手法と体制は極めて稚拙であるとしみじみ思う。


 ミザイガ王国がアジラン帝国に負けたのは、結局火縄銃と大砲によるごり押しであった。こちらも同じく投射武器を操る弓兵はいても、弓は極めて専門性が高い武器であり、その数は精々全体の兵数の1割前後であり、かつ盾で簡単に防げる。


 一方で、銃は普通の農民でも簡単に撃てるようになるほど習熟するのが容易であり、訓練すればそれなりの命中率を得られる。だから、兵数の大部分が銃を持った軍を相手には、概ね3倍以上の兵数が無いと対抗できない。その上に、兵が引いて移動できる大砲が交じり、その大砲が散弾を撃てるとなると10倍の兵でも対抗は難しい。


 ミザイガ王国は平坦で農作には適しているが、銃を持った軍に対抗するには非常に都合が悪い。そのようなことで、ミザイガ王国軍は必死に戦ったもののずるずる押され、王都も陥落して国を奪われてしまったのだ。


 そして、その後アジランが征服した地を穏やかに治め、民を普通に扱っておけば、人々もアジラン帝国の民と感じるようになっていたと思う。

 しかし、彼らは粗野な自分らを絶対的な上位として位置づけ、一方でミザイガの民を賤民として扱い、殆ど食えない限界まで搾り取り、暴力・強姦は当たり前の治政を行った。そのようにしても、銃や大砲をもっている卓越した武力をもって安定的に支配できると思ったのだろう。


 しかし、彼等はより進んだジャーラル帝国とニホンに敵対してしまったが、それが致命傷になったと彼はそう思う。ちなみに、ニホンはミザイガ王国が復興の際には、通商条約を結んで商取引をしたいと言っている。

 だが、我々のようにアジラン帝国にしゃぶり尽くされて、貧しくなった国と結んで何の得があるか不思議である。とは言え、彼らの支援は極めて有難いもので、断るという選択肢はない。


「おお、殿下、アジラン軍の部隊が来ました。ほら、ご覧ください」

 ドナーが言う方向を王女も見て、その規模の大きさを心配して言う。

「数が多い!大丈夫なのでしょうか?」


 真ん中の通路を埋めて、大勢の軍勢が歩いてくるのが見える。数十人に一人くらいの彼らは、薄暗いが明かりの魔道具を持っているので、進んでくる軍が良く見える。彼らは揃いの軍服を着て、長細いものを抱えて周囲に気を配りながら慎重に歩いているが、その棒に赤い火が灯っているところを見ると火縄銃であろう。

 その隊列は、薄暗い中をうねうねと進む虫の集団のようで不気味な光景である。


「大丈夫です。周りには数百の我々の兵が伏せています。我々の兵は彼らが広場に進むまで待ちます。今から、彼らをこちらから誘いますので驚かないでください」

 ドナーが言うのに合わせたように、目の下の塀の中央の門がきしみ音と共に開けられ、10人ほどが走りだす。彼らは、銃を構えて撃つが、まだ距離は300mほどもあるので射程外だろう。


 それに対して、近づいてくる集団の先頭のもの達が銃を構え、歓声をあげて追って走り始める。迫ってくる大勢の軍に恐れたように、門の外に出ていたもの達が門を潜って構内に帰り門を閉じる。見ると、門の両側の高さ3mほどの塀には内側に歩廊がついていて、長いものを構えた兵がびっしり張り付いている。


 やがて、アジラン帝国軍の部隊の半数程度が広場に入り、最後尾が見えたとき、パン、パン、パンと塀に張り付いた中から3つの火柱が少し間をおいて見え、射撃音が聞こえた。


「始まった。殿下、味方の攻撃が始まりました!よく見ていてください」

 ドナーが沸き起った連続した銃声に負けないように声を張って言う。

 数百の火柱が道の両側の家の2階や屋上から、さらに目の下の塀のところから一斉に、広場と道にいるアジラン帝国兵に向かう、銃声は数百の発射音が重なって一発の大きな轟音のように聞こえる。


 さらに、続いて銃からの火柱が断続的に見え、銃声は今度は重ならないで断続的に聞こえる。また、広場と道には、いくつもの大きな火柱が上がって、一瞬間遅れて銃声とは違う重低音がドーンと響く。

「殿下、あれが手りゅう弾の爆発です。アジラン帝国軍は大砲も運んでいましたが、あれですべてが破壊されたはずです。アジランの連中も抵抗し始めましたが、あれでは狙いもなにもないでしょう」


 ドナーが興奮して叫ぶように言うが、マーマリアは激しい射撃に口に手を当ててただ見つめる。体を引き裂かれた男たちの悲鳴もはっきり聞こえ、あの中では今も大勢が死に、傷ついているのだ。

 味方の兵は隠れて撃っているが、敵は剥き出しの広場と道路にうずくまっているか、横たわっている。敵兵も撃って来る火柱めがけて撃っているので、味方も犠牲者ゼロとはいかないだろうが、圧倒的に有利だ。


「降伏する!」と叫ぶ者もいるが、お構いなしに銃撃と広場での手榴弾の爆発は続く。どのくらいの時間であったか、広場と道路から銃を撃つもの動くものもいなくなったとみて、「撃ち方止め!」という声が響き、次々に同じことを叫ぶものが出て、やがて銃撃と手榴弾の爆発は止む。


 やがて、目の下の門が開かれ、人々が多数の横たわっている敵兵に向かって出ていく。同時に銃撃が行われた道の両側、広場の周辺からぞろぞろと人々が出てくる。薄暗い中ではっきりは見えないが、まちまちの服装であり、男も女もいるようだが、共通しているのは皆が銃を持っていることだ。


「殿下、我々も降りましょうか?」ドナーの声にマーマリアが応える。

「え、ええ。行きましょう。今日戦った皆を讃える必要があります」

 そしてドナーに続き、女騎士ソーサス他を引き連れて階段を下りる。


 そのように地表に下りて門を潜って広場に行くと、大勢のアジラン兵が横たわり、そこはむせるような濃い血の匂いだ。千人余りがここで死んでいるのだ。味方の兵達は横たわっている者達を片付けるために集めており、同時に銃を構えて死んだ振りのものがいないか調べている。


 負傷して気絶していた者、死んだ振りをしていたものが実際は20人近くしたらしいが、見つかって喉を掻き切られるか剣で刺されて殺されたらしい。

 そして、あくまで歴史には、その夜、味方兵士の8人の死者と35人の負傷者という犠牲の下に、アジラン帝国軍兵士1021名は、アーカブ広場付近で全滅したと書かれるのだ。




よろしかったら並行して連載中の「異世界の大賢者が僕に住み憑いた件」も読んでください。

作者のモチベーションアップのためにブックマーク、評価をお願いします。

2025年、12/20文章修正。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ