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俺の冒険  作者: 黄昏人
第6章 異世界の再編と日本の異世界への進出、日本発宇宙時代の始まり
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アジラン帝国からの解放3

読んで頂いてありがとうございます。

 マーマリア・カインス・ミザイガは、従者として付けられたムーライ・ジランの後について嘗ての王都であり、現在はミザイガ伯爵領の領都であるマゼガの町をゆったりと歩いている。一緒に彼女をずっと支えてきた、女騎士のウェラス・ザム・ソーサスも後ろに従っている。


 第2王女だったアーマリアは25歳、5歳の時にアジラン帝国の侵攻によって王族の大部分が殺されたミザイガ王室の唯一の生き残りであり、ミライア大森林に逃げ込んで生きてきた。彼女を保護して連れて大森林にきたのはソーサス他の騎士たちである。


 女騎士ソーサスの父は、大森林を住みかとするオムリオ族の出身であり、持ち前の優れた身体能力によって卓越した戦士として王国の騎士として働いていた。流石にその実力にもかかわらず、異民族ということで下級騎士であったが、そのアジラン帝国の侵略の日、体を張って王女と自分の娘を逃がしてくれたのだ。


 アジラン帝国はミザイガ王国を平定後に、ミライア大森林にも攻め寄せた。だが、彼らの武器である火縄銃と野戦砲では、身体能力に優れて森林を自在に移動できる弓の名手揃いのオムリオ族を平定はできず結局諦めている。そのため、ミライア大森林にはその後もミザイガ王国の残党が100人ほど逃げ込んで住みついている。


 マーマリア達が路地を歩いているのは夕刻であり、辺りはすでに薄暗いが、人口が30万人を越えるミザイガ領最大の都市であるマゼガでは人出は多い。彼らは、涼しい今の気候にあった暗い色のシャツとズボンの長身のジランと、シャツとスカートの平均的な身長のマーマリアに女としては長身のソーサスである。街を歩く市民が殆ど同じ服装であり、薄暗いこともあって、彼ら自体は殆ど人目を引かない。


 マーマリア王女と一緒に隠れ住んでいた旧王国の一同は、200日程前に旧王国の貴族家の一人であるイバン・ドナーの訪問を受けている。40歳代後半のドナーは、ニホンの援助の元で組織したミザイガ王国復興戦団の暫定的な団長を務めている。


 彼は、元王国の残党たちに旧ミザイガ王国とアジラン帝国の事情について説明した。ごく最近まで広大なシンバ大陸の半分をすでに占領して、人口の6割を支配しているアジラン帝国は、ますます武威を張っていて対抗しうるものがおらず、今後20年から30年以内にシンバ大陸を制覇するとみられていた。


 だから、ミライア大森林に逃げ込んでいた旧ミザイガ王国の者達は王国復興を掲げてはいるが、年々強大化していく帝国に王国を取り戻すことを殆ど諦めていた。だから、十数年間はしばしば行っていた旧王国への調査行も近年はほとんど実施していない。


「アジラン帝国の支配は極めて過酷なものでした。税は極めて高く、人々にはかろうじて生きて行ける程度にしか残りません。しかも、アジラン人の我々に対する扱いは、到底我慢しかねるひどさでした。

 現在、彼らが言うミザイガ領の人口は、王国時代と変わらず500万人程度ですが、アジラン帝国兵が5千人程度、兵以外の一般のアジラン人が5万人程度ですから、我々に対する割合はわずかなものです。

 そのうちでも、とりわけアジラン軍の兵が極め横暴で、飲み食いをして金を払わない、商品を強奪する、女性を襲って連れ去り強姦するなど日常茶飯事です。さらに一般のアジラン人も負けず劣らずで、財産や土地を勝手に取り上げたり、商売上で騙す、強引な不正をするなども日常茶飯事です。


 だから、アジランの支配以来、農業生産高などはそれほど下がってはいませんが、様々な商取引は間違いなく低調になっていますので、領内の年間に生み出す富は王国時代より却って減っています。だから、しばしばアジラン帝国の連中とミザイガの者達の争いがありますが、公になれば必ず我々の側が泣き寝入りすることになります。

 公にならない場合で、アジラン人が殺される場合もありますが、その場合は適当な罪をでっちあげられて正当なものとされます」


 ドナーが言うのに対して苦しそうな顔をしたマーマリアが言う。

「私にはアジラン帝国という連中が何を考えているのか解らない。我々のミザイガ王国に限らず、ある国が他の国を征服することはよくあるが、極端な圧政は却って損だということは常識だと思う。征服地について差別は間違いなくあるものの、それなりに遇して富を生ませてそれを税として取る方が明らかに得のはずだ。

 アジラン帝国のやっていることは、征服地の人々を人として扱わず、苛め抜いて結果として生産高を落として自分の実入りも少なくしている。まあ言っても詮無いことだ。ところで、アジラン帝国も強力な挑戦者が現れたとか、それを聞かせてほしい」


「ええ、今日の主題はそれなのです。私の元にニホンという国の使者が訪れたのはもう200日前ですが、彼らは、我々がアジラン帝国から独立するのを助けるというのです。その使者は、アミアという別の大陸から来たもので、ニホンという国に雇われていると言いました。

 そのニホンというのは異世界の国だそうで、社会の仕組みや技術が非常に進んでいるということです。彼らはこのハウリンガの国々と取引きをしたいのだけど、そのためにはアジラン帝国が邪魔だから、帝国の解体をするというのです。だから、帝国の征服地の旧国家の独立を手助けするということなのです。


 勿論、そんなことを素直に信じられるわけはありませんが、帝国に勝てる武器を供給してくれるというので、私は仲間を集めました。さっきも言ったようなアジラン人の振る舞いで、帝国を憎んでいる者は非常に多いので、帝国に抵抗する仲間を集めるのは難しいことではありませんでした。

 そして、実際にニホンは我々に武器を供給してくれました。それを持って来ましたのでお見せしますが、小銃と手で投げる手榴弾という爆裂弾に爆裂弾を発射できる迫撃砲という筒です」


 ドナーが持って来た包みを解いて渡すと、それを聞いている者達が手に取って見ている。

「小銃は、アジランの火縄銃に比べて続けて撃つのが遥かに早く、射程も倍以上かつ当たるので明らかに優れています。また、手榴弾についてはアジラン帝国は同じようなものは持っていません。爆裂弾を打ち出す迫撃砲は帝国の野戦砲と射程は同じくらいですが、手で持てる重さですから、遥かに使い勝手が優れています。

 つまり、我々は帝国以上の武器を手に入れたのです。王国では弓を使ってはいましたが、銃の存在は知ってはいても作れませんでした。その点で、帝国はいち早く隣国で作られ始めた火縄銃を、自分たちで大量に作るようになり使いこなしました。


 その際に、彼らの国土には非常に大きい幸運な条件がありました。鉄砲の弾薬に必要な硝石をとれる鉱山があったのです。だから、彼らは全ての兵に銃を持たせることが出来たので、弓と槍と剣しか持たぬわが王国は鎧袖一触で敗れました。

 その後、彼らはわが王国を治世に当たっては、5百万の国民を僅か5千の兵で抑えています。無論それは本国及び周辺の帝国領からの支援も計算に入れてのことですが。

 ところが今は状況が変わりました。我々はすでに3千丁の小銃と各100発以上の銃弾を、3千人の訓練済みの兵に持たせ、さらに各兵に5発の手榴弾を持たせています。加えて、全部で200基の迫撃砲を各5発の迫撃弾と共に持っています。我々の小銃は火縄銃が1発撃つうちに10発は撃てますし、射程は単純に倍を超えしかも当たります。


 だから、銃だけ考えても、我々の3千人の兵は10倍は大げさですが、まず5倍の帝国兵に相当します。つまり、すでに国内においては我々の戦力は、領主であるマインス・ジレ・ドノーミル伯爵の率いる、ミザイガ領のアジラン軍の戦力を上回っているのです。

 ですから、30日前から我々は、今までは我慢してきたアジラン人の横暴に対する表だった抵抗に入っています。人々に暴行または、女性を攫うなどを行うアジラン人は殴り倒すなどして排除しています。

 さらに、今までのようにそれを理由に無関係なものを処刑しようとした場合には、処刑者を銃殺し対象者を逃がしています。そして、アジランの治安維持部隊が出動したら、攻撃して射殺していますし、彼らの兵舎や事務所には手榴弾を投げ込んで爆破していますので、すでに彼らは実質的に活動ができていません」


「しかし、それだけ派手にやると、本国や近くの領から増援を呼んでくるのではないかな?」

 王国政府の官僚だった老年の旧王国組のまとめ役である、イバン・デラ・ドーブルが口を出すと、それに対してドナーがニヤリと笑って言う。


「アジラン帝国にはそれが出来ない事情があるのですよ。実はニホン国は、遠いアミア大陸の多くを占めるジャーラル帝国と同盟を組んでいます。そして、彼らは飛行戦艦でアジラン帝国の首都であるアージラスに乗り込みました。そして、すべての征服した国や地方は解放しろと要求し、かつそれを守らなかったら、すべての陸上・海上交通を遮断すると文書で通告したらしいのです。


 それに対して、アジラン側がその飛行戦艦を攻撃したものだから、それはアージラス沖に停泊していた112隻の大型艦を全て沈めたと言います。それが100日前です。アジラン帝国本国からの物資輸送は、大部分が船によっていますが、最近50日では殆どこの領の港町のカメライに本国からの便は着いていないようです。

 つまり、わがミザイガ領においては、すでに我々のミザイガ王国復興戦団の戦力は守備側を上回っているのです。そこで、マーマリア・カインス・ミザイガ王女にマゼガにお帰り頂いて、ミザイガ王国を復興させたく思い、ここに伺ったわけです」


 しばしの沈黙の後にドーブルが口を開く。

「なるほど、話は判ったが、そのニホンという存在とジャーラル帝国の関係が良く解らない。さらに飛行戦艦などと言われては猶更だ。そして、なにより王女殿下がお帰りになって迎える体制が出来ているのか。その辺りをもう少し詳しく教えてほしい」


 そのようにして、詳しい説明を求められるのにドナーが丁寧に応えて、最終的にマーマリア王女を旗印にミザイガ王国の復興を目指すことが決定された。その協議を元に、すでに王女に従っていた者達は旧王都マゼガなどに散らばって、王国復興の動きに加わっている。そのような状況の元に、王女がマザガの街を歩いているのだ。


 彼らの目的地は、地元の綿花の倉庫であるが、そこで王国復興に加わっている者達に王女を紹介しようというもので、今日は2百人ほどが集まるために広い場所が必要なのだ。ミライア大森林から出てきた、まとめ役のドーブルなどは既に現地に行っている。


 このように首都たる領都で大胆な活動ができるのは、すでに治安維持を担うアジラン帝国軍はアジラン人を守ることに専念しており、街中の治安維持をする余裕がない状態になっている。しかも、実態は銃を持って町中を歩く軍の部隊は狙撃されて殺されるものが続出しており、10人や20人の部隊だと全滅する可能性が高い。


 だから、軍が危なくて外に出ることが出来ない状態になっていて、すでに彼我の力関係が逆転していることを軍も暗黙の内に認めているのだ。 無論領主のドノーミル伯爵は、本国に実用化されている初歩的な無線機を使って、必死に増援を求めている。だが、同様な革命騒ぎはすでに帝国の35ヵ所の征服地の内、21か所で起きている。


 いずれも明らかに帝国の武器より優れている兵器が、かつての国を復興しようと企む連中に供給されているため、現地に派遣した軍では対処できないというものである。その上に、テコ入れのため送り出した帝国の輸送艦、戦闘艦など大型艦は次々に沈められており、とてもこれ以上の被害は看過できない状態になっている。

 だから、当然帝国軍務省も、ドノーミル伯爵などの征服した領土からの要請に、耐えろとしか言えない。


 そういう状態なので、王女一行はさほど緊張することもなく目的地に着き、外に待っていた数人から迎えられた。彼女は、会場の別室で王女に相応しい服装に着替えるつもりである。ここまで平民風の服で来たのは、道中で目立った服装でいることは危険であるからである。


 会場の別室には王女の着替えのドレスが準備され、そうした服の着付けに長けた中年の女性が、手早くかつ丁寧に豪華なドレスを着せて送り出す。

 彼女が、王女に相応しいドレスに隠されていた王家のアクセサリーをつけて、会場の高くなった壇上に現れると、倉庫で待っていた2百人ほどの男女が一斉に歓声を上げて拍手をする。彼女は、まだ珍しい照明に照らされているので薄暗い倉庫の中でも人々にはっきり見えている。


 マーマリア王女は、アジラン帝国の侵攻時に殺された、有名な美人であったミーサラ王妃の金髪と容貌を受け継いでおり、ちょうど王妃の最後の時と同じ歳である。だから、そのころの王妃を覚えている参加者の涙を誘った。


「皆さん、お待たせしました。かつてミザイガ王国の国民だった皆さん、私がミザイガ王国の第2王女だったマーマリア・カインス・ミザイガです。20年前、私がその王族の一員であったミザイガ王国はアジラン帝国に滅ぼされました。

 そして、王族として生き残ったのはミライア大森林に逃げた私だけでしたが、そこで暮らした20年の間に私なりに勉強しました。その結果、王国が滅びたのには父である王、そして私を含む王族にも大いに責任があると思っています。

 だから、アジラン帝国が滅びた王国の人々にとって良き支配者であれば、それで良しと私は考えていました。でも残念ながら侵略者であるアジラン帝国は、支配者として最悪の者達であったようです」


 王女の言葉に戸惑っていた聴衆は、彼女の最後に言葉に「「「そうだ、その通りだ」」」と叫び拍手する。それが一旦静まるのを待って彼女は言葉を続ける。


「アジラン帝国の圧政に喘いでいる我々の前に、ニホンという援助者が現れました。彼らは援助の見返りに独立の暁には交易をしたい、また資源開発に協力して貰いたいと言います。彼らの言う意図が本当かどうかは判りません。でも彼らが圧倒的に我々より社会的、技術的に進んでいることは確かなようです。

 加えて、我々より圧倒的に豊かであることも確かでしょう。一方でアジラン帝国は全体としては豊かかもしれませんが、一般の兵や人々はそうではなく、だから彼らが個々に我々から奪おうとしています。


 その意味で、ニホンも我々から何かを求めてはいると思います。しかしそれは多分我々を引き上げて豊かにしてからであると思います。

 だから私はニホンの援助は素直に受け取り、アジラン帝国を排除すべきと思います。そのために、まずはミザイガ王国を復興を目指すべきです。そして、王国が復興してニホンと付き合う中で、より良い国の形態があればそれにしてもいいと思います。よろしいですか。私に声を合わせて下さい。

 アジラン帝国を排除するぞ!ミザイガ王国を復興するぞ!」


 その声に、室内にいる2百人余りの人々が唱和すると、その大きな声の響きに室内の壁がビリビリ震えた。


よろしかったら並行して連載中の「異世界の大賢者が僕に住み憑いた件」も読んでください。

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2025年、12/19文章修正。

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