ムラン大陸の開発2
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カツラ・ドラは、ミノリ町の町長である。ミノリ町は灌木の生えた大きな山並みの裾にある岩山の連なりを様々に利用して作られた町だ。それは天然の岩の隙間に加えて、洞窟を大規模に掘って住居にしているのだ。幸い、背負っている山並みからの湧水があちこちで湧いていて、水には不自由はしない。
食料は、その町の前を流れるミノリ川に沿った湿地でマドリ(米)を栽培しており、さらにその周辺で様々な野菜を育てている。加えて、カバラという豚に似た家畜と、インガという鶏に似た家禽を飼って肉と卵を得ており、周辺で狩りをし、さらにミノリ川では魚を取っている。
だから、食料と水には基本的に不自由することはないのだが、問題は5㎞ほど離れた大森林からしばしば襲ってくる魔獣である。もっとも多く襲ってくるのは体長が3m体高2mほどもある狼のようなワイガ、羽根を広げると5mほどにもなる鷲のようなカザンであり、いずれかが3日に一度ほどは襲ってくる。
ミノリ村では鍛冶師がいて、鉄の武器として剣、槍、弓を作っている。狩りをする戦士はそれらで武装してワイガやカザンと戦うが、10人ほどでようやく追い払える程度である。時折運よく倒せることもあるが、討伐したことは非常に稀である。
だから、カツラ達のムラン人は、洞窟に住んで入り口を頑丈な柵で囲むしか身を守る方法がないのだ。だが、作物の耕作、漁、狩りのためにはどうしても外に出る必要があって、旬(10日)毎に何人かの犠牲が出る、そして、耕作や狩りに漁も魔獣を避けながらになるために十分とは言えず、食料は常に不足した状態になっている。
カツラは50旬ほど前に、日本人という者達が3人来たのを覚えている。彼らは空を飛んで滑らかに光る乗り物に乗ってやってきて、1旬ほど滞在して帰って行った。言葉は全くしゃべれなかったが、比較的暇な婆さんを捕まえて、いろいろ話かけて言葉を習っていた。
彼らは驚くほど沢山の食べ物や、貴重な鍋や食器を持ってきて、それをくれたので、彼らの頼みを断るという選択肢はなかったのだ。彼らは、俺たちが持っていた木簡に興味を示して、婆さんに色々聞いていたが、一番反応を示したのは“飾りもの”だった。
わしたちは、外になかなか出られないこともあって、木や岩を刻んでいろんな飾り物を作って、あちこちに飾っている。それは先祖から伝えられたものもあって、それらは一族で大事にしているが、彼らはそれを欲しがった。
そして、彼らはナイフや、包丁、斧、鋸など見事な刃物を代わりに差し出したので、わしたちはかなりの木簡と、最近作った新しい“飾り物”と交換した。わしたちが驚いたのは、彼らは帰る頃には、余り不自由なく喋っていることだったが、不思議なのはしゃべる言葉は彼らが下げている小さな箱から聞こえたことだ。
違う連中だったが、同じ日本人と名のる連中がまた来たのは10旬ほど前のことだ。やっぱり飛ぶ乗り物2機でやってきたが、連中は今度は最初から不自由なく喋っていた。もっとも俺たちが解る声が出るのは彼らが下げている箱からだが。そして、同じように沢山の食料と様々な役立つ物を持ってきてくれた。
今度は、彼らは色んな事を教えてくれて、彼らが来ている理由を言った。その時初めて、丸いこの世界の模型というものを見せてくれた。それは空に浮かぶ月みたいに球体であり、その表面の多くは海で陸は少しだ。わしたちが住んでいるのは、自分の世界という意味で使っている“ムラン”大陸という大きめの陸地の一つだと言う。
町の衆は、俺たちが丸い球の上に住んでいるなど馬鹿なことはないという奴が多かった。もし球に住んでいるのだったら、落ちてしまうという訳だ。だけど、わしは月が丸いのを見ているので、仕組みは良く解らんが丸いというのはおかしくないと思っている。まあ、それはしかしどっちでもいい話だ。
ところで“ムラン”という名前は、近くの集落で聞いたこの世界の名ということで陸地の名前にしたらしい。そして、彼らはわしたちが住むこの陸地は本来大変豊かなのだが、魔獣がその豊かさを利用するのを邪魔していると言う。しかし、そんなことは判っていることで、どうしようもない話だ。
とは言え、それからの話はなかなか重要であった。彼らの仲間の日本人も、その豊かな土地と資源を求めてここに住みたいと言う。資源は鉄とか同じようなものと、燃えるものとかのことらしい。そして、このムランは広大なのでわしらも彼らと一緒に住んでも十分の土地があるという。確かに地球儀と“地図”というものを見ると、ムランの土地は広大だ。
「しかし、魔獣はどうする?あれらがおる限り洞窟に住むしかないぞ」
「大型の魔獣を含めて、あれらは順次滅ぼしますから、あなた方も魔獣からは安全にはなります。ただ、少々時間は相当かかりますから、当分は被害なしとはいきません」
「滅ぼす?ここらに出てくる、ワイガやカザンなどは小さい方だぞ、わしらは手に負えんがな。だが、遠目にだが、この裏の山より大きな魔獣がおったぞ。また、お前らがワイバーンと呼んでいる巨大な空を飛ぶ魔獣もおる。あれを人がどうにかできるとは思えん」
「いえ、大丈夫です。任せて下さい。任せてくれるなら、我々はあなた達を魔獣から守りますので、洞窟でなく外に住めるようになります。また、あなた方の住むところは外に私たちが作ります。さらに、農場を作るのを手伝って食べ物に不自由がないようにします。どうです、私たちが一緒にこの大陸に住むことを認めてくれますか?」
わしらは、その場にいる仲間の組長と顔を見合わせた。住みたければ住めばよいのに、何でわしらにそういうことを聞くのか解らん。しかし、仲間内で話をして、折角言ってくれるのだから望むことを要求はした方がいいということになった。
「ああ、魔獣から守ってくれるのだったら有難い。しかし、それだけでなく、住むところ、農場、家畜の飼育所、そして今後食い物に困らんように十分な食料、さらに前にもらった色んな便利なものを続けてほしい。そして、口約束だけでは信用ならんので、木簡にそういうことを書いて神に誓ってくれ」
わしは、奴らが全部は認めんだろうと思いながら町長としてバシッと言った。そして、わしだけでなく組長も全員がドキドキしながら相手の親方である前橋の顔を見ていた。
「ああ、いいですよ。今後食べ物に困らないように食料は供給します。また、今度持って来た以上の色んな便利なものを持ってきます。そして、魔獣から安全な家と農場、そして家畜の飼育場を外に作ってあげますよ。また、その外に作る町は、私たちの警備隊が守りますので安全になります。それは木簡に書いて約束します」
あっさり同意されてわしは損をしたような気になった。だが、考えてもそれ以上の要求が出てこないのだから仕方がない。それに、所詮相手に約束を守る気が無ければどうしようもないのだ。
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しかし、今日の朝、彼らはやってきた。前に来た前橋という男がわしを訪ねてきたのだ。
「やあ、カツラさん。約束を果たすためにやって来ましたよ」
「おお、前橋と言ったな。約束を果たすとは?」
「まず食料です。このミノリ町の人口は4200人でしたね。米を400トン、小麦100トン、肉10トンに魚5トンや調味料、お菓子などもろもろを20旬分は十分なだけ持ってきました。さらに、仮設棟を50棟持ってきましたので、厨房、倉庫、住宅に使えます。
そして、この町の周りには鉄柵を巡らしますので、魔獣も簡単には入ってはこれません。また、農場を大幅に広げるための機械を持ってきましたので明日から仕事にかかります。さらに………」
前橋はいろいろ言っていたが、よく理解できなかったものの、彼らは以前乗ってきた空飛ぶ乗り物が10機ほどに長さが60mほどもある飛ぶ貨物機というものを持ち込んだ。
その貨物機は、荷物を降ろすと、前橋と一緒に引きあげて行った。しかし、後に60人ほどの日本人と、10台ほどの大きな重機と言うらしい機械に、空飛ぶ乗り物(飛翔機と言うらしい)が8機残った。
残った者の責任者は向井という、がっちりした男でミノリ町開発班の班長だと言う。また、彼らの中に銃というものを常に持った警備専門の者が15人居て、その隊長は伊刈という細身の女であり、女性隊員は6人加わっている。この警備隊は、開発班と独立していて向井からの命令権はないらしい。
ちなみに、わしらムラン人は男と女は、男の方は力が強くがっちりしているが、身長は変わらず素早さはむしろ女が優れている場合が多い。だから、戦うのが専門の警備部隊に女がいること自体抵抗はない。
彼らは、その日のうちに小屋の組み立てを始めた。最初に地面をブルドーザという重機であっという間に100m四方を均して締め固めて、杭を打ち込んでその上に床を乗せる、さらに壁を組み立てて天井を乗せて、窓を嵌めこんで2時間余りで3棟の形ができる。
その時のわしらは、重機を使っての作業を唖然として見るばかりで、なにも解らなかった。だが、後で何度も見ながら説明を受けて何をやっているかわかるようになったのだ。その日の内に日本人は3つの小屋を作ってしまい、そこで眠ったが、わしらからすれば、そんな外の小屋で寝る奴の気が知れない思いだった。
伊刈純3尉は、夕刻屋外炊具で作った夕食を食べた後のブリーフィングで、部下の西野陸曹長以下9名に言った。
「皆には資料を送ったように、ここの住民から聞きとった結果から言えば、魔獣は幸いに夜行性ではないようだ。多分、人に対しては絶対に近い強者なので、夜行動する必要がないのだろうな。それに、昼の方が人がよく外に出てくるからかもしれん。
まあ、今夜も大森林の手前に3機ドローン飛ばして、聴音とカメラで見張ってAIに判断させるので、襲って来れば解るはずだ。ただ、もしものこともあるので、木沢と森は22時から3時、村井に沢尻は3時から6時は見張りだ。総員の生活は基本的には就寝は22時で起床は6時だ。
明日は、同じくドローンを3機飛ばして見張ると共に、基地内の警備のために飛翔艇12号と15号の2機に重機関銃と無反動砲を各1機備えて、各隊員3名を配置してくれ。さらに、私は飛翔艇17号と18号でこの近くに生息するはずの大型狼のワイガや大型鷲のカザンを積極的に狩る。西野陸曹長はミノリ町の警備を頼む」
「は!了解しました。それにしても、隊長、積極的に狩れとは本部も思い切ったものですね」
「ああ、待ち受けるだけでは結局消耗して士気が落ちる。私も本部の方針に賛成だ」
「でも、隊長。超大型の魔獣ティラは衛星軌道から爆撃するらしいですが、他は我々に任されているのでしょう?」
「ああ、そうだ、武器は12.7㎜重機関銃に迫撃砲、無反動砲だが、ワイバーンを含めてティラ以外に対応できるという保証はない。だが、戦闘機雷光が5機がムラン大陸に配備されているから、危なくなれば呼び寄せられる。
どこでも1時間で駆けつけるというから、それを頭に置いてくれ。雷光は25㎜機関砲を装備しているから大丈夫だと思うぞ」
伊刈隊長が言うのに、木沢1士が応じる。
「隊長、我々のような開発班が11か所のムラン人の町に配置されたと聞きますが、ムラン人の人口は200万人位と言いますので、11か所位ではほとんどカバーできないでしょう?」
「木沢1士か。ああ、その通りだ。現状で見つかった最大の町で人口5千余りらしく、多くは数十人から数百人までの集落だ。外に集落を作れないので制約が大きい訳だ。だから集落の数は1万を超すらしいので、到底全部の面倒は見切れない。
だから、11の大きめの町で、適当に全大陸にバランスよく配置され、かつ有力資源の近くになるように選んで、そこを開発拠点にしようと言う訳だ。我々の担当のミノリ町は、背後の山地に大規模なニッケル鉱が眠っているし、前を流れるミノリ川を灌漑に使えば大規模な農地が造成できる。
だから、普通にいけば数十万の人口を抱える都市を作ることは可能だ。まあ、選んだ11か所をそのような拠点都市に育てるのと、さらに適地が見つけて開発拠点を増やす訳だ」
そのように答えた伊刈に木沢が言う。
「なるほど、解りました。それにしても隊長、このミノリ町の人たち、というか尻尾も耳も人と違っていて言ってみれば獣人ですが、清潔で感じの良い人たちですねえ。それにあの“飾り物”あれは素晴らしいものです」
「うん、いいですねえ、可愛いこちゃんが一杯。ここは良い勤務地ですよ」
長野士長が軽薄に言う。
その言葉に伊刈以下女性隊員は苦笑する。そこで、村井梓3曹が話を変える。
「いや、木沢1士が言ったようにあの飾り物は素晴らしいですよ。私は高校で美術部に入っていたので少し判るのですが、じっと見ていると心に浸み込んでくるものがあります。ハウリンガ通商が手に入れたものを売っているようですが、どんどん値段が上がっているようですよ。
他の町から持ち出されたものも評価が高いようですから、ムラン人は造形の才能が豊かなようですね。彼らが経済的に自立していく上で貴重な才能だと思いますよ」
流石に大卒であり、彼女は視点が違う。
翌日午前10時、伊刈3尉は飛翔艇17号に乗って、18号を率いて狩りに出発した。すでにドローンを5機大森林に放っている。このドローンは回転翼を使ったものではなく、反重力プラットフォームに使ったレベルの重力エンジンを搭載している。
これらのドローンはAIを頭脳として使っているので、自立して判断が行え、森林の樹木の中にでも入っていける。午前6時夜明けとともに放たれたそれらは、森林の端から一旦5㎞奥に潜り込んで、ワイガの群れを見つけてそれを追っている。
伊刈は助手席でモニターを見てマイクに向かって言う。
「ワイガ、狼だ。ここから7㎞でこっちに向かっている。早いな。時速30kmで進んでいるから森を出るのは8分後だ。森を出たところで迎え撃つ。数はええと、9匹だ。木沢1士、長野士長、長ハッチを開けて機関銃を準備!」
木沢は命令に従って、飛翔艇17号の中央部のハッチを跳ね上げて、機関銃を持ち上げ銃座にセットする。50m離れて飛ぶ18号では小太りの長野士長が同じことをしている。時速80㎞で飛ぶ飛翔艇にベルトで固定して立つ彼らに風がビュービュー当たるが、訓練で慣れている2人の銃手には何と言うことはない。
やがて森の迫った時に大きな狼が飛びだしてくる。1匹、2匹……9匹だ。
「減速して奴らに近づけろ!ゆっくり、銃手は狙いをつけろ。木沢は手前から、長野は遠い方から……いいか。撃て!」
伊刈の命に2人の銃手は引き金を絞る。ドドドドドドドドドと重低音の射撃音が響き、火箭が大きな狼の体をとらえる。人間に当たれば引きちぎるほどで人間には過剰な大威力の銃弾は魔獣の体にめり込み引き裂き、狼はドウと倒れる。
目を見開いてそれを見ていた伊刈は、溜めていた息を吐きだした。魔獣を銃弾が貫けるかどうか不安があったのだ。しかし、1発では致死ではなく、それらの狼を殺すには数発の着弾が必要であった。9頭の狼を殺すにはベルト装てんされたすべての弾を撃ち尽くす必要があった。
よろしかったら並行して“なろう”で連載中の「異世界の大賢者が僕に住み憑いた件」及び“カクヨム”の以下のURLのRevolutionも読んでください。https://kakuyomu.jp/works/16816452219050653749
後者は前に書いたものの途中から、ストーリーを変えて書いているもので、私の小説の原点です。
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2025年、12/18文章修正。




