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俺の冒険  作者: 黄昏人
第6章 異世界の再編と日本の異世界への進出、日本発宇宙時代の始まり
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「ハ」世界開発機構設立

お読みいただきありがとうございました。

 日本政府が、ハウリンガ世界を開発するための組織を設立した。称して仮称「ハ」世界開発機構である。理事長は自衛隊の退役陸将、黒崎慎吾であり、副理事長は国交省元次官の香川翔太である。


 そして、その下に総務部、外交部、自衛部、開発部、農林水産部、鉱業部、産業部があり、自衛部が現役の自衛隊の1佐をもってきている他は、それぞれ本省の課長級を当てているという本気の構えである。もっとも今後さらに増員はされるが、設立すぐの今は配置されているスタッフは500人足らずなので、頭でっかちの組織である。


 これは、要するにジャイアンであるアメリカ合衆国が、叩き落す次のターゲットとして定めた日本として自衛の道を探る必要があるということだ。アメリカは何と言っても、日本の3倍の人口と3倍のGDPを持ち、世界を相手に出来るほどの戦力を持っている。


 とは言え、戦力は数と質の積であるから、戦力の大部分を重力エンジン駆動に代替しつるある日本が、アメリカに対して必ずしも大幅に劣っているという訳ではない。特に、宇宙に関しては宙空護衛艦が2隻就航した今、すでにアメリカを上回っていると言ってもいいだろう。


 また、最も劣っていて日本が全く持たない核戦力は、実質的にアメリカが日本に対して使うことはできない兵器である。つまり、一応民主主義であるアメリカが、核を持たない日本に非人道的と定義されている核兵器を使うことは国民が決して許容しない。


 白人が政治を完全に支配をしていた時代であれば、非白人国である日本に再度核を使うことはあり得たが、白人の割合がすでに60%である現在では無理だろう。勿論日本が、人権抑圧国家などとして人類の敵とされれば別であるが、それはいくらこじつけても無理だろう。


 しかし、日本の弱点であり最も脆弱であるのは食料を始めとする資源である。このうち、エネルギー資源はAEE発電とACバッテリーの開発・普及ですでにクリヤーできた。そこで、近々に最も懸念されているのは、とりわけ食料で締め上げられことである。


 無論、食料や資源はアメリカのみが産出し、輸出しているものではないが、その産出国にアメリカ政府またはその企業が力を及ぼしているところが多い。だから、アメリカがその気になれば、日本に向けた輸出を相当に制限できることは確かである。


 ただ、食料に関しては、通常の作柄であれば日本が飢えるまでの制限は不可能である。しかし、地球温暖化の環境下で、地球の穀倉地帯全般が凶作というのは大いにありうることだ。その際にアメリカから恣意的に供給を絞られれば、彼らの要求を全て受けいれざるを得ないことも考えられる。


 そこで、国にばれちゃったハウリンガ世界の開発というアイデアが浮上してきたわけだ。政府もその存在を察して調べてはいたのだけど、俺とハウリンガ通商が、はっきりその存在を明かしたのは、シャイラの日本滞在許可をもらうためであった。


 俺としては、愛する嫁さんを非合法の状態で日本に留まらせたくはなかった。さらに、どうせ政府が知るのは時間の問題である。すでにハウリンガ通商の職員や、契約した大学教員や学生などの調査隊が千人程度ハウリンガに滞在している。


 さらには、近々ハウリンガの地球にはない果物や魚や魔獣の肉などを持ち込んで売ろうとしているのだ。だから、ハウリンガ通商としては、ハウリンガの存在を明らかにするしか商売をする方法がない。


 ハウリンガ通商は、まずは人工衛星を20基打ち上げて惑星ハウリンガのマップを作った。重力エンジンがあれば、人工衛星はドローンレベルのもので実現可能であり、精密カメラ等を含めての1基3千万円程度で軌道に乗せて観測がはじめられる。


 そして、それらにはリモートセンシングの機能も持っているので、マップには森林や砂漠、湖の位置や鉱物資源、さらに町や都市はむろん村落まで重ねられている。今、そのマップをプロジェクターで会議室の大画面に映して、ハウリンガ通商の調査部長の室田真由が、レーザーポインタを当てて説明している。


 ここは、防衛省の大会議室であり、ハウリンガ通商からは社長の山下、説明している室田、相談役の俺が出席している。そのほかに、仮称「ハ」世界開発機構の、理事長の黒崎、副理事長の香川他各部長及び、最初に乗り込む自衛隊の派遣部隊の長と外務省の職員が居並んでいるので、主席者は40人に近い。


「このように、惑星ハウリンガの直径は1万2千㎞ですから地球にほぼ等しく、重力加速度は10m/秒^2で少々地球より大きく、海面の気圧は1020ヘクトパスカルで、一日は24時間と5分32秒です。ただ、太陽たるミモスまでの距離は2億㎞あり、公転周期は655日です。つまり、1年間は現地の日数で655日です。

 ただし、地軸の傾きが5度ですので、1年の気候の変化は地球に比べ大幅に小さいということになります。太陽光の地表への放射量は全体としては概ね地球と同等ですので、気温も温帯、熱帯、寒帯で同じ程度です。この場合には温度変化の少ない寒帯はまず住むには適しません。


 ところが、このマップをご覧ください。寒帯に当たる部分にはほとんど陸はなく、赤道付近の熱帯に当たる部分はほぼ島ばかりで大陸はなく、北・南半球ともに温帯に近い部分に陸が集中しています。

 そして、陸地の面積は総計で概ね1億㎢ですので、表面の22%が陸で残り78%が海洋ということです。だから、総体として陸地の面積は地球の30%より少ないですが、居住に適する面積が同等かそれ以上ということになります。


 また加えて四季はほとんどありませんので、気候変動が少ないことになりますので、1年半の観測では暴風雨を伴う嵐が少なく、年間の降雨も安定しているようです。そして、大陸が細長くどこの地域も海洋の影響を受けることから、地球には多い、砂漠などの裸地が非常に少なくなっています。ここまでが自然条件です」


 説明している30歳台後半の室田は、M大学の環境系の研究者であったが、山下の誘いに応じてわが社に入社した人物で、自然環境・社会環境すべてを含む調査に能力を発揮している。

「よろしいですか?」手を挙げて「ハ」世界開発機構の農林水産部、茅野義男の名札をつけた官僚タイプの40歳代の痩せた部長が同意を得て話し始める。


「お聞きすると、ハウリンガは気候、重力、気圧、日常の時間などほぼ地球と同じ感覚で住め、気候も安定しているということですね。その場合、日本の人々が暮らすには良い条件の世界である上に、農業にも適しているということだと思いますが、水産はどうでしょうか」


「ええ、地上でも人を派遣して実際に確かめていますが、降雨が年間を通して均一に近いので、多分半分程度の陸地が農業には適しています。無論肥料は必要ですが、後で申しますが全惑星の人口は3億5千万人程度なので開発をやれば、日本の必要農産高程度はすぐに上げられます。

 水産ですが、これも漁船を持ち込んで試験操業をやっています。ほぼ地球に近い魚から魔魚というか巨大魚までいますが、基本的は皆食用になり、しかも魚影は濃いです。これは、こちらの船舶と漁業の技術が低いために、巨大な魔魚が出現した場合には対応できないために、ほとんど漁業そのものが行われていないためでもあります」


「ほお!農林水産部としては大いに楽しみですね」

 茅野が嬉しそうに言うが、室田は説明を続ける。

「ええと、農業・漁業を話が出ましたが、鉱物資源、社会状況についても引き続き説明します、その上でご質問があればお受けすることにします」

 


「まず、エネルギーを含む鉱物資源ですが、石油、石炭は地球並みにあると推定されています。一つの大規模な油層は、我々が最初に接触したシーダルイ領にあり、この資源量は海底部まで含めると地球最大のガワール油田ほどと推定しています。

 つまりここだけで、日本の消費量なら100年は賄えますね。いえいえ、失礼しました。それは日本の5年前の消費量の話で、AEE発電などが実用化された今、5百年位は持つのではないでしょうか。もっとも、当面はハウリンガの人々が使うでしょうから、そうはならないでしょうけど。

 しかし、そのほかにも似たレベルの規模を思わせる資源がここ、ここ、さらにここなど数か所見つかっています。他にも石炭は、………。それから鉄鉱石は………。マンガンは……。ニッケルは……。コバルトは……。リンは……。カリウムは……」


 衛星で見つけ、人を送り込んで地上で確認した目ぼしい資源について、次々にマップ上で示される。このマップは鉱業部長もすでに入手しているが、改めてその豊かさに感激している。


「次に人口分布と社会状況及び国について説明します。最大の大陸は北半球のアジラン帝国のあるシンバ大陸で、面積は概ね3500万㎢あります。そのうち半分の地域がアジラン帝国でその人口は1億2千万、シンバ大陸そのものは1億8千万と推定されています。

 面積で言えば、同じく北半球のドラムス大陸が2番目、南半球にあるムラン大陸が3番目、ララーム大陸が4番目と続き、ジャーラル帝国のある面積1千万㎢である南半球のアミア亜大陸が5番目になります。


 それらの内で南半球のムラン、ララーム大陸が住民はそれぞれ2百万、3百万程度の人口と推定できますが、これらの人々は国としての概念を持っておりません。大航海時代前での北アメリカ、あるいはオーストラリアの現住の人々と同じ程度ですね。

 また北半球のドラムス大陸の人口は8千万人程度ですが、30位の国や地方に分かれてお互いに争っています。でも、面積が2千8百万㎢に対して8千万人ですから、互いに距離があって中々頻繁な争いになっていません。


 その意味では、シンバ大陸を席捲しつつあるアジラン帝国及び、アミア亜大陸のジャーラル帝国は抜けた存在ですね。

 アジラン帝国の技術レベルは、大航海時代の欧州レベルより少し上で、特に武器と魔法を組み合わせた技術と戦闘における強さはシンバ大陸では突出しています。また、その残虐さと侵略性は地球の欧州の上をいっていまして、占領された国や地方は人々が奴隷化され悲惨な目にあっています。

 その点では、ジャーラル帝国はその初期はともかく現状での侵略性向は強くなく、他国を併合しても温和な支配をしています。また、戦争技術はともかく文化的には、むしろアジラン帝国より上だと思います」


 そこで、副理事長の香川からコメントがある。

「あの、室田さん。そのあたりは、貴方の私情つまり私の情ではないでしょうか?」

「いえ、これは我々ハウリンガ通商としての統一見解です。そして会社としてのポリシーとして、アジラン帝国には協力しない、そしてその侵略行為は妨害するとしています」


 このように室田が言うのに俺は同調して言った。俺はアジラン帝国に対して曖昧な態度を許すつもりはないのだ。

「室田調査部長の言う通りです。わが社にとってアジラン帝国は敵です。あの国に、シンバ大陸を統一させてはなりません。この点は日本政府、及び「ハ」世界開発機構も同調して頂けることを望みます。

 ちなみに、私はすでにアジラン帝国の先遣艦隊がアミア亜大陸に到着して、地元で侵略行為をしていたので、彼らの艦を撃沈して侵略者を捕縛しました」

 

「香川副理事長。アジラン帝国については、私もハウリンガ通称から資料を提供頂いて調べましたが、あれはどうにもならんでしょう。日本国民が最も嫌う体制だと思います。正当づける必要はありますが、アジラン帝国は敵であるという点は私も賛成です」


 上司である黒崎退役陸将が言うのに、役人である香川は諦めて言う。

「分かりました。私としては、選択肢を今から狭めるようなことをしたくないのですが。理事長もそう言われるのならその点は了解しました。しかし、ハウリンガ通商のポリシーとなどと言われても我々が困ります。あなた方が先行している面はあるでしょうが、今後は国の機関である我々に従ってください」


「香川さん。あなた、何を言っているの?国の機関である自分たちに従え?我々の条件はすでに示しましたよね。『ハ』世界開発機構はそれに沿って行動するのじゃないの?」

 

俺は、次元ゲートを使わせる条件に5項目を提示して、国側もそれを飲んでいる。それは、シャイラも含まれるハウリンガの人々が、経済的に損をせずに不幸にならないようにというものであり譲るつもりはない。なんたって次元ゲートは俺の一存で閉められるのだから。


「条件なるものは読みましたよ。ただ、国を代行して我々が行動する以上、周囲は我々に従うのが当然です。ねえ理事長?」

 黒崎はまだ柔和な顔であるが、疲れたような顔をして香川に言った。


「いや、そうじゃないな。ハウリンガは日本じゃない。そして、そこに行く方法はハウリンガ通商を頼るしかない。あのね、香川さん。三嶋さんが、次元ゲートを開いてくれないと、我々はハウリンガに行けないの」

「そ、そんな馬鹿な!国のプロジェクトがそんな訳はない!」

 香川は叫ぶが、黒崎は冷静に返す。

「それは、次元ゲートという何か分からない先の世界のことです。だから今までの常識は捨ててください」


 それから、俺の方を向いて言う。

「我々事業団は条件を守りますし、ハウリンガ通商の行動がその条件というかポリシーに沿っている限りは口出しするつもりはありません」

 流石に黒崎は我々にも『自分の出した条件はお前らも守れ』と条件を付けてくる。無視された形の香川はふらふらと部屋を出ていくが、それを横目に見て俺は室田を促す。

「じゃあ、室田さん続けて」


「はい。我々は通商する相手として現在はジャーラル帝国と契約を結んでおり、日本国にも正式に国交を結んでほしいと思っています。立憲君主制のジャーラル帝国は、人口が5200万人で、面積1000万㎢のアミア亜大陸の半分を占めています。

 この亜大陸の残り半分の面積に3400万の人が住む王国や共和国があります。そして、今後帝国が地球の文明に触れて経済的に大発展することで、10年以内には戦うことなく大陸全土がその領域にはいると考えています。


 しかし、もし我々が介入することが無ければ、アミア亜大陸はアジラン帝国に征服されたでしょうね。 そして、我々は介入する限りは、アジラン帝国の侵略を防ぐのみならず、ジャーラル帝国に協力して、シンバ大陸の同帝国に支配されている国々、民族を解放するつもりでした。しかし、これには長い時間を要します。だから、できれば日本国の決断のもとに、このアジラン帝国の対策を自衛隊にお願いしたいと思っています」


 俺が要求した通りににあっけらかんと室田が言うが、ことなかれ主義の日本政府に対しては、なかなか重い話であり、それを知っている室内には沈黙が落ちた。


よろしかったら並行して“なろう”で連載中の「異世界の大賢者が僕に住み憑いた件」及び“カクヨム”の以下のURLのRevolutionも読んでください。https://kakuyomu.jp/works/16816452219050653749

後者は前に書いたものの途中から、ストーリーを変えて書いているもので、私の小説の原点です。

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2025年、12/17文章修正。

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