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俺の冒険  作者: 黄昏人
第6章 異世界の再編と日本の異世界への進出、日本発宇宙時代の始まり
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日本、宇宙戦艦建造

読んで頂いてありがとうございます。

早めに投稿します。


 自衛隊に宇宙部隊が創設された。当初は陸・海・空に宇宙を加えるという意見があったが、当初は組織も小さいので、結局航空自衛隊に宇宙部隊としてくっつけることになった。


 ちなみに、米軍は宇宙軍としてすでに独立しているが、実用戦力として“そら”型宙空機を25機と“さきもり”と同型の空間イージス、“ガーディアン”を4基保有している。さらに、亜宇宙空間で運用できる重力エンジン戦闘機10機が実質的な実用戦力である。


 他にもスペースシャトル、様々なロケット、偵察衛星なども管理対象としてはあるが、情報収集手段として偵察衛星は使えても、他は意味をなしていない。従来運用していたロケットエンジン方式は、重力エンジン機が出てきた時点で、コスト面から到底実用面で運用できないのだ。


 C国も宇宙軍を創設していたが、“さきもり”を日本から調達する前に内乱で受け取りができなくなって、ロケット方式の宇宙機しか運用していない。さらに、国が5つに分かれた結果、荒れた国内の再建に精一杯で宇宙に目を向ける余裕はない。


 さて、日本の宇宙部隊は“さきもり”4機と、“そら”型宙空機を35機運用しているほか、発電ステーション“らいでん”を民間と共同で運用している。“らいでん”はACバッテリーの賦活ステーションであり、亜宇宙または宇宙を飛び回る小型機へバッテリー供給のためにある。


 “さきもり”にしても“そら”型にしてもバッテリーでの駆動なので、バッテリーの交換システムの構築が必要で、これによって行動範囲と時間が限定される。だから、発電システムを積んだ宇宙艦の建設は宇宙部隊創設に当たっての悲願であった。


 そこで、障害になったのは重力エンジンが大型化できないことと、多数のエンジンの同期が難しいという点であった。しかし、その点は2基のエンジンをセットにして、それを複数備えて同期させることに成功してクリヤーした。つまり大型艦の重力エンジン駆動についてはクリヤーできたわけだ。


 そこで、工期短縮のために発想を転換して、退役した自衛隊の潜水艦を船体に使うことにした。潜水艦であれば、気密構造であることは確かであり、長さ82mで幅最大9m高さ10mの船体は、50万㎾級のAEE発電装置を組み込め、かつ必要な乗員40人が乗りこめる。


 1機体制はあり得ないので、退役したばかりの“うずしお”と“まきしお”が選ばれた。これらの艦は、横腹が大きく切り裂かれエンジンや燃料タンク、魚雷発射装置、電池や推進機構などの中身が引っ張りだされて、高圧洗浄で内部が徹底的に洗われた。


 鋼製の船体のメリットは切断・溶接で好きなように船体をつぎはぎにできることだ。そのあとに、今や大量生産段階にあるAEE発電機、大型重力エンジン、空気清浄、酸素発生装置、ミサイルランチャーなどに加え様々な制御システムが次々に運び込まれて据え付けられる。


 この場合の船体の改造の特徴は、一つには艦橋と船体の前部が切り開かれて異世界技術の透明窓が取り付けられている。さらに、船体の両側の腹部にそら型宙空機が2機ずつ半ば埋め込まれている。つまり、4機の艦載機を積んでいるわけだ。


 そのことで、艦載機を含めると艦としての自由度が大いに増しているが、相当に醜い船体になったことは確かである。なにしろ太さ10mで長さ82mの船体の縦横に、切り開かれ塞がれた溶接線が縦横にくっきりと浮き上がり、艦橋と船体の前部には窓、横腹には両側に艦載機が2機ずつ半分突き出している。


 しかし、大型重力エンジンを2基ずつセットで4セット積み込み、最大加速度は2Gで40日間の連続航行が可能である。つまりは、動力にほぼ永久機関に近いAEE発電機を積んだこの艦は宇宙空間では2Gで連続した加速が可能なので、光速に近い速度にすることができ、理論上は太陽系のどこにでも行ける。

 また武装はマジックバッグを活用して迎撃ミサイルが200基、中型の空対艦ミサイルを50基を積み、さらに20㎜機関砲が4基、127㎜艦載砲が1基積まれている。


 そして、この艦の色について様々な意見が出た。目立たないことを旨とする潜水艦は黒に近い色でいいだろうが、全体をさらす宇宙艦はもっと明るい色が好ましい。だが、船体の縦横に走る溶接線、突き出した艦載機をごまかすには暗い色の方がいいだろうということで、結局濃紺になった。


 また名前であるが、正式名称は宙空護衛艦01号、02号であり、愛称は山の名前ということになって“ふじ”と“つるぎ”になった。船の場合は進水式に命名されるのであるが、切り開かれた船腹から装備が運びこまれて、再度穴が閉じられて艦としての形が整ったときに、進水式の代わりにお披露目式となったのだ。


 かくして世界初の宇宙戦艦である、“ふじ”と“つるぎ”が、マスコミの前にお披露目したときは、その姿は賛否両論であった。しかし、一般の人が醜いという意見が多い中に、マニアからは意外に評判が良かった。「古強者って感じだ!」そう言われている。


 長さ80mで10mの太さの胴体は空を飛ぶ乗り物としては最大級の大きさであり、濃紺という色によって重量感があって、極めて存在感が大きい。横腹に半分収まった艦載機も上部甲板にある気密で射撃が可能な艦砲と相まってその機能性を思わせる。近くに寄ればその凸凹した胴体は歴然と解るが、遠目には圧倒的なその存在感が迫ってきて、一言で言えば“強そう”である。


 収納されている機関砲4基を含めて、ミサイルの数などの武装及び連続航行可能日数など防衛機密であるが、すでにマジックバッグの存在を知られている現在、多数のミサイルを装備していることは公然の秘密であった。


 造船技術者の柳井は、出来上がった“ふじ”を感慨深く眺めている。横に立っているのは若い仁科である。仁科が茶目っ気を出して聞く。

「柳井さん“うずしお”の船体が使われて、宇宙艦“ふじ”ができたわけですが、ご感想はどうですか?」

 それに対して白髪が多い柳井はしみじみと言う。


「ああ、俺が“うずしお”の設計と建造に携わったのは丁度君くらいの年齢だった。それが退役して、練習艦になるところを、宙空護衛艦に改造される、しかも自分が担当できると聞いて、俺は本当に嬉しかったね。もっとも使われたのは実際的に船体だけだったけどね。まあ、それでも入れ替える施設の配置設計、補強設計などそれなりに楽しかったよ。

 強度的には元は200mの水圧に耐える必要があったのが、今度は実質大気圧のみだから強度については過剰なくらいだった。しかし、船腹を切り裂いて中身を引っ張りだす仕事は豪快だったな。引っ張りだした後の穴だらけの船体はまさに廃墟だったが、こうして宇宙艦として蘇った。


 切り張りだらけのフランケンシュタインみたいな表面だけど、ちょっと遠くから見れば分からないものな。それに船腹に取り付けた艦載機は悪くないのじゃないかな。機能的で強そうに見えるぞ。

 そして、スペックを聞いて驚いたな。その気になれば冥王星の軌道までだって行けるそうだなあ。それに250発のミサイルとは武装がすごい。古い艦の船体は使ったが、歴史に残る艦になると思う。うん、俺は満足だよ。定年を2年前にしていい仕事ができた」

 


 その顔を見て仁科も茶化す気はなく自身もしみじみ言った。

「そうですね。僕もすごくこの仕事は面白かったです。確かに使った船体は古かったが、入れ替えた中身は正真正銘の最新技術の塊ですからね。むろん中身は判らないものがたくさんありますが、多分今回の仕事は僕の技術屋人生でも最高の一つになります。あとは、2日後に始まる試験飛行がうまくいくことを望むのみです」


「ふん、お前もたまにはしおらしいことを言うじゃないか」

「でも、柳井さん、そうじゃないですか。落ち目と言われる造船科を出た僕が宇宙船を作ったんですよ。これは一生自慢できますって」

 そう言って拳を握る若い技術者を笑って見る柳井だった。


      ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー


 実際に艦を浮上させて行う試験運転前に、機器の動作試験が地上で行われ概ね1週間をかけて機器の動作・連動の不具合が是正された。試験運転は、最初は艦長瀬島1佐以下10人の最小限の人数で浮上と最小限の航行試験である。


 万が一落下すると洒落にならないので、人数を絞っての試験になる訳である。1時間足らずで鉛直上昇、緩速航行を行って正常な運転が可能であることを確認した。そして、再度着陸して当直員として操作に必要な20名の乗組み員に加えて、監察官の3名、視察の20名で合計43人が乗り込んだ。


 ちなみに、着陸は艦底に取り付けたレールで接地して行う。本当は4本程度の足で着陸したいのであるが、2千トンを超える船体の重量が足に集中した場合には船体が耐えられないのだ。だから、レールで荷重を分散させる。従って、着陸する地点は原則として水平の道路のような場所になる。


 ただ重力エンジン機の強みで、自艦の重量を自由に操作できるので、凸凹の地面でも一点に接地して他を浮かすというような接地も可能である。だから実際的にどこでも自由に着陸はできる。従って船底は、地上から30㎝程度で低いために、低層デッキは地上から1m足らずになって、入り口からせり出した長さ3mほどの斜路から歩いて船内に入ることになる。


「今日は、この“ふじ”の試験運転にお立合いありがとうございます。私はこの艦の副艦長の水野3佐です。今から3時間ほどお付き合いを願います。では、今から垂直上昇します。高度千mに上昇してそれから傾斜度1/20で上昇し、高度300㎞に登って定速で地球を1周して帰ってきます」

 副艦長の水野佐奈3佐が淡々と案内する。


 この試験運転に立ち会うのは3人の将官を含み全て身内の自衛隊員であり、大部分が宇宙部隊の者であるから、彼らはいずれ“ふじ”または“つるぎ”のいずれかに乗り組む可能性がある。彼らは大スクリーンに面するデッキにシートベルトをつけて座る。


 それは普通の車の座席程度のものでシートベルトも同様の簡単なものである。重力エンジン機では、立っていても問題がないので、特別な座席は必要ないのだ。

 2Gで加速して6秒で時速200㎞に達し、等速で鉛直に千mまで上昇する。それから時速千㎞で1万mまで上昇、さらに徐々に速度を高めながら高度300㎞に達し秒速約10㎞の軌道速度になる。


 ここからは、重力エンジンはアイドリング状態で地球を周回し始める。すでに1万㎞を飛んできているので残り2万㎞を1時間弱の飛行である。これは減速過程が必要なので実際はそこから30分足らずで減速にかかり、結局2時間半でH造船のドックに戻って来たのだ。全く問題がない順調な飛行で、乗り組んだものはある意味拍子抜けであった。


「皆さまお疲れ様でした。では今日は一旦ここで艦の点検をいたします。点検の結果、異常がなければ明日は月まで行って武器の使用訓練を行います」

 見かけは淡々とアナウンスする水野であるが、内心は足が震える思いであった。同乗した視察者も皆押しなべて興奮のため頬が赤い。


 中には従来型のアメリカの宇宙船に乗った者も交じってはいるが、大部分は亜宇宙を航行するなど初めてである。まして、地球を1周して帰ってくるなどということを自分で出来るなどとは思っていなかった。ロケットを使う場合には宇宙圏に行くためには周到な準備と、多数の補助要員が携わって莫大な費用をかけての大イベントである。


 そして、40人以上の人員が一緒に行くなどということはあり得ない。それがどうだろう。地上にあれば巨大な宙空護衛艦“ふじ”が重力エンジンの常で、ほぼ無音で軽々と浮き上がり、自分たちを乗せてあっさりと地球を周回して帰って来られた。

 時代が変わった、すべての者が思ったが、この試験運転に同乗した宇宙部隊の司令官である結城茂宙将もその一人である。


 そして、彼は自らが属する宇宙部隊という意味を嚙み締めた。かつては核を持つものが絶対の強者であった。しかし、それは余りに威力があり、かつ長く有害な放射能をまき散らすということで、実質的に脅しのみのためのものであった。


 ところが、宇宙を自由に飛び回れるものはそれに匹敵する武力を所持しているに等しい。結城など将官の職にあるものは、将官以上を集めた内部の極秘の会議において、宇宙軍の戦闘のシミュレーションを行っている。その中で亜宇宙にあることを利用して戦法が試された。


 これは、単純に言えば質量兵器の利用である。“ふじ”や“つるぎ”に数百トンの物を積むのは容易なことであり、それを落下軌道を厳密に計算して、狙った半径100m程度のエリアに落とすことは可能である。

 重力エンジン機は速度を自由に調整できるので、その狙いは猶更確かなものにできる。そして、その落下物はなにも地球から持って上がる必要もなく、月から持ってくることだって可能である。例えば、地上100㎞から落下した1トンの岩はどれほどの威力になるであろうか。


 日米安保条約の解消に向けては、日本も改憲を行っている。アメリカの武力の傘を抜けるということで、改憲が必要であるという論が通ったのだ。そもそも、素直に読めば武力を持ってはいけないという憲法のもとで暮らすことは、今後は許されないということに流石の平和ボケの日本人も納得した。


 それでも、改憲賛成は62%で、30%は依然として反対であったが。この改憲の内容は、防衛のために武力を持つことは明記して、侵略の禁止はしっかり謳っている。

 そして、2隻の宙空護衛艦の建設費は臨時予算を組んで550億円であったので、配備に当たっては国会で議論して承認を得す必要がある。そこで、左向きの党は侵略ができる兵器ということで猛反対をした。だが、彼らは今までどうでもいいことで、余りに政府を非難・追求した結果、普通の人の信を全く失ってしまっている。


 だから、その予算は内容の割に比較的額が小さいこともあってあっさり決まった。しかし、結城宙将は、この2隻の艦を持つことが、日本が核兵器数十発を持つ以上の武器を持ったことを意味することを人々が知っていたら、国会の議決はそう簡単にはいかなかっただろうと思う。


 しかし、彼もその会議で議論した将官達も確信していた。近い将来アメリカが日本を敵として、近年C国に対したように圧迫することはありうる。その時には、アメリカはこの宙空護衛艦レベルの宇宙船を間違いなく持っているだろう。また、宇宙から重量物を落とすことは核に比べてハードルが低いのだ。


 その抑止のために、それに対し日本が同等の兵器を持っていないということはあり得ない。

 幸い日本の国土は小さい。だから守るにはアメリカに比べて楽である。将来敵性国家になりうるアメリカに対しても鉄壁の防衛体制が必要であると結城は確信している。


よろしかったら並行して“なろう”で連載中の「異世界の大賢者が僕の頭に住み憑いた件」及び“カクヨム”の以下のURLのRevolutionも読んでください。https://kakuyomu.jp/works/16816452219050653749

後者は前に書いたものの途中から、ストーリーを変えて書いているもので、私の小説の原点です。

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2025年、12/17文章修正。


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[一言] 造船ならまだしも、航空工学は大変だね‼️
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