C国支援
お読みいただき有難うございます。
相変わらずの誤字脱字で、訂正有難うございます。
俺は、M大学の浅井から呼び出されたのでやってきた。友人の名誉教授浅井の研究室に行って、俺を見て立ち上がった彼を見て思わず言ったよ。
「おお。浅井、ますます老けたな。今日はまた何だ?」
「なんだ、最初の御挨拶がそれか?相変わらず口の悪い奴だ。まあ、ちょっと相談があってな。まずは学長室に行こう」
彼は立ち上がったその足で、俺を促してドアにカギをかけて外に出る。
「いや、大体の話をしておくとな、この大学にも留学生がいるんだけど、最大数がC国よ」
道中で浅井が言う。
「ああー、内乱な。なるほど。だけど、大学がそれにどう係わるんだ?」
「うん。政府はまだウンたらカンたらやっていて、はっきりしない。それに、どうせ役所のやることだから遅いよなあ。そこでな、この大学というかM大学技術研究所にはAEE発電と、ACバッテリーの関係で潤沢というより、どう使っていいか解らんレベルの金がある。そういうことさ。あとは島田学長と一緒に話をしよう」
イケメンちょい悪親父風の島田学長が、学長室のソファに迎えてくれ、物理学教室の鹿島教授も間もなく来た。部屋には20歳代後半の長身の痩せた帳という男性と、小柄な石という女性がいた。
「ええと、まず本来伺うべきところをお呼びだてしてすみません」
学長が俺に向かって頭を下げる。
「いえ、ちょうどこっちにいる時でしたから。たまに伺うのもいいでしょう。それにしても、日米安保もあっさり解消しましたね」
「ええ、今日の件は、それとも多少は、関係があります。浅井さんからも聞かれたかと思いますが、C国の支援を考えているのです」
「ええ、少し聞きました。まあ、相手が大きすぎてちょっと手におえない感じですね。だけど、放っておくと餓死者数億という予測があります。それを放置しておくと、彼等は周辺、更には世界を恨みますよね。後々の禍の種になるような気がします」
「ええ、言われる通りのことを我々も心配しています。それに、我々は他人とは思えない事情が留学生ですよ。本学で2100人の学生がいて、彼等の苦境を見ていますと、到底他人事ではいられないのです。でも考えようによれば、C国人でそれなりに意欲もあって優秀な若者が、たぶん東京だけで8万人以上いるわけです。
ですから、彼等を支援してやれば、今の動乱をうまく治める方向に行けるのではないかと言うことです。それに際して必要なのは金です。そして、技術研究所には3千億円の金があります。それを使わせて頂きたいのです。三嶋さんには、AEE発電と、ACバッテリーの権利を頂いた格好になっていて、今は理事になって頂いています。それで、このことを説明して、あなたの了解を得ようということで来ていただきました」
「いえ、余剰金というか、その権利は全てお任せしていますので、使い道はそちらで決めて頂ければいいのですよ。ただ、日本にいるC国の学生が、荒れた祖国を治めるのを支援するというのはいい使い道じゃないですか。私も賛成です。
それと、彼等も地元に行かないと支援は機能しないと思いますが、その際に重力エンジン機が欲しい所ですね。その点は私の方で利便を図れると思います」
「いや、有難うございます。現状では、留学生の生活支援に限っているのです。そして混乱の回復に、いくつか見るべき計画がありますから、具体的にかかりたいと思っています。それと、本来のC国の食糧の買い付けが、国の混乱で滞っているものがあります。
これは必要なものですから、押さえておきたいと思っています。それに、重力エンジン機については、お願いしたいと思っていたところですで是非お願いします」
「ええ、分りました。だけど、さっき具体的に進めていることがあると言われましたが、どういったことを進めているのですか?」
それに対して、帳が答えるが、彼はほとんど訛りもない。
「まず、組織化ですね。首都圏のみならず全国にいる留学生で、国の動乱を止めたいという者をリストアップして、連絡を取れるようにしています。現状のところ1万2千人ほどが登録しています。そして、埼玉県の5か所ほど寮を作って、2千人位を集めていつでも動けるようにしています。
また、遼帝省の小連に地元出身者の30人ほどを送り込んで、警察と軍の取り込みにかかっています。大学の線から日系企業に繋いでもらっていますので、動きやすいので助かっています。とりあえず、最初に遼帝省の治安を取り戻して、全土に広げていこうという所です。
その手法としては、まずは遼帝省と同様に地元出身者を送り込んで軍と警察を取り込みます。軍と警察に関しては横の連絡もありますので、その線での説得もやっています。もともと、この全国規模の反乱は噂にはなっていた共産党幹部の腐敗が裏付けられたことと、西側諸国の締め付けで今後の成長が望めなくなったことです。
つまり、幹部連中が海外に莫大な資産を蓄えている一方で、自分たちの生活はすでに苦しくなりつつあるということです。そのことを、人民をITで監視して取り締まる側の人々も認識した時点で、共産党への反乱という形で暴発したわけです。
そして、共産党は支配の手段として、自分たち以外の互いの通信手段を独占していました。そして、それを破断して滅びましたから、各都市、各省バラバラで協調する術がないわけです。また、我が民族は残念ながら協調という点は得意な方ではありません。
だから、とりあえずお山の大将になったものはその小さな権力を手放さないように無駄な抵抗をするわけです。しかし、かれらも飢えるのは望まないし、工場の生産が止まり、流通が止まると生きていく術がなくなることは理解しています。
だから、我々は妥協しなさいと、そして当面多頭体制で協力して生きるすべを取り戻そうと説得するわけです。必要なものとして、いろいろあるけど、足りない食料は確保しているし、自分たちの裏には日本がついていると言うわけです。
そういうことで、概ね遼帝省では説得ができていますが、いずれにせよ当面は、武力を持ったもの達、つまり軍と警察主体の政治体制になるでしょうね。ただ、彼らも共産党の末路を見ていますし、結局は世界とケンカをしては、国として成り立たないと実感していますから、早いうちに民政化するはずです。
今回の騒ぎで、共産党関係で30万人ほど殺され、20万人が檻に繋がれていると推定されていますからね。ちなみに、食料ですが、我が国の穀類は95%以上の自給率で、今年は豊作でもあり、農村部はそれほど生産が落ちこむほどの争乱の影響は受けていません。
だから、流通さえキチンを機能すれば人々が飢えるまでのことはありません。また、大豆は足りていませんが、輸入分は手付金を打って抑えているので、これも問題ないはずです」
その話を聞いて、俺はそんなにうまくいくのかなと思った。過去C国では、王朝が滅ぶ前後で長く戦乱が続き、群雄割拠と言えば聞こえがいいが、実態は山賊のはびこるこる世の中になる。
「うーん、そんな風にお国の人々が理性的に振舞えるとは思えないけど。増して、最近までというか、今でも探しだされた共産党員が処刑という殺人が繰り返されているようだから、理性的な話を聞けるのかな?」
俺の懸念に帳も同意する。
「ええ、その通りの面があります。でも、今の世で、過去の帝国・王朝の時代と決定的に違うのは通信の発達です。そして、C国にいる人々も互いにスマホで連絡を取り合っていますし、日本にいる留学生も本国とメールで連絡をとっています。
無論、彼等はこのような事態を招いた共産党に怒りは持っていますが、この混乱を解消はしたいとは思っています。その混乱を解消したいという思いは、互いに伝わっていますから、従来であればあり得なかった妥協もできるようになるのです。
そして、本国の人々は、我々のような国の外からの支援の呼びかけを凄く心強く思っていますし、期待もしています。そして、間もなく日本から大規模な援助があるというので、すごく期待しています」
石嬢が俺の疑問に答えて言うので、俺はその話を受けて島田学長に聞く。
「彼女がこう言っているし、こんな風にプライベートな支援もいいとは思うよ。けど、政府を動かして正式に支援すると言わせた方がいいのじゃないか?その方が早く混乱が収まると思うけどね」
「うん、無論やっていますよ。留学生を抱える大学が集まって政府に陳情している。僕も経産大臣をはじめとして、閣僚にも知り合いがいるし、首相とも面識はあるので、個人的にお願いはしている。ただ、政府として突出して動けない訳があるらしく、出来れば民間からの活動から始めてほしいということです。
ただ、日本政府が援助をすると言うことは構わないということだから、動くつもりはあるようだね。頑なだった共産党政権が倒れた以上、世界一の人口大国のC国が価値観を共有できる政府ができるように動くことは、日本にとってすごく大事だからね。
それに、地球温暖化に関してもC国の協力なくしてはその防止に関しての対策の効果は薄い。今後かの国が乱れたままだと、温室効果ガスの発生量はますます増えるだろう」
「その、政府が表に出られないのは、アメリカが原因だろうな。もう少し弱らせて支配しようということだ。だからこそ、今動くのは意味があると思うな。どのみち、アメリカの日本敵視は、日本が脅威にならないほどに弱らん限りは収まらん。それに、日本には味方が必要だ」
俺の言葉に浅井が頷く。
「ああ、俺もそう思うよ。というより、俺の研究室にもいるC国の留学生が可哀そうでな。何とかしてやりたい」
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李サションは、飛翔機のⅡ型改に乗り込んでシートベルトを締めた。H社製の飛翔機ジュピターである。夜の10時に、長崎県の佐世保市の沿岸道路から飛び立つのだ。無論、日本の飛翔機運用法では、全国交通ネットワークから外れること自体を禁止はされていないが、領海外に出ることは明確に禁止されている。
そして、飛翔機は全てコードNOが振られて監視されているので、そのような機動をすれば警告がされて、運転機能を取り上げられる。いわゆるフリーズして、急行してくるパトロール飛翔機を待つことになる。
しかし、李の他ドライバーを入れて5人が乗った飛翔機は、最初から全国交通ネットワークを無視して海に向かう。それから、平戸列島を越えてさらに領海も越えて、チェジェ島を大きく南に迂回して山海省の青山市に向かう。行政側で手を回しているので、それに対するネットワーク監視システムからの警告はない。
約1千㎞の道程であるが、3万mの高空に昇って空気抵抗を低減しているので十分バッテリーは持つ。すでにC国のレーダー網は、人民監視の象徴として暴動のターゲットになったために破損していて機能していない。わずか2時間のフライトで、黄海を越えて夜の海に海岸線が見えてくるが、暴動の影響か照明は少ない。
また、海岸を走る道路に走る車のヘッドライトの数も少ない。彼らの乗ったジュピターは、海岸に沿って設置された展望台の駐車場に静かに降りる。そこには、ハザードランプを点滅している車が止まっている。そして、ライトを点けないで音も無く降りてきたジュピターに、車のそばに立っていた男が近づいてくる。
「ようこそ祖国に。久しぶりだな、シャオリン。はるばる日本からだけど、こんな飛翔機があれば簡単なものだな」
話しかける男は、30歳代だろう、警察の制服を着ているが、中背で痩せている。彼は、同乗している周シャオリンのいとこであり、周タオと言う者で日本から連絡を取った相手だ。
彼は、青山市の治安を掌握している武装警察の一員だが、武装警察では軍が動けば踏みつぶされるのは目に見えている。それに、彼等は市民の暴動を傍観し、さらに焚き付けて武装警察の幹部を始め省政・市政を牛耳っていた共産党の幹部を粛清したのだ。
その段階で、彼らも暴徒に加わって、幹部連中が汚職の金で作った邸宅に襲い掛かり、財産を奪い家族を凌辱・殺戮してきた。その後は、十分な情報が入らず復活するかもしれない中央政府、または軍からの粛清におびえていた。また、今のところ抑え込んでいる市の流通や産業をいつまでも抑えてはおけない。
そこに、日本政府がバックについているというグループのいとこから連絡が入ったので、会おうということになったのだ。この連絡はインターネットによるものだが、C国の誇る?IT監視網はそれを操る人が反逆しているわけだから機能している訳はない。
そして、周の案内で市内に入り、武装警察の事務所に入る。そこには、上級幹部を粛清して指揮をとっている中級以下の幹部が集まっている。彼らが知りたいのは、国内のマスコミとあらゆる組織の連絡網が機能していない今、全国の状況とそれが国際的にどう見られているかであった。
一方で、日本から来た李などの一行は、日本のみならず世界中の留学生や、業務上の赴任者に連絡をとって概ねの状況を掴んでいた。それは流血革命の常として血塗られたものであった。死者数ははっきりしていないが、自分の管轄の範囲のみで少なくとも数十万であり、主として共産党員といて様々な組織を牛耳っていた者個人と彼らの家が襲われ、強奪・殺戮が行われている。
その混乱の中で、反撃で殺された者もいるし、巻き添えも数多く生じているが、社会全層に渡るほどではなかった。そして、主として個人の建物が破壊・焼き討ちされて延焼も数多く起きているが、インフラや工場などへの焼き討ちは少なかった。それは暴動参加者が、その後は自分は働く必要があることを自覚していたからであろう。
しかし、混乱の中で農業を除き、ほぼすべての生産活動・流通が全面的ではないにしてもストップしたことによる影響は非常に大きい。
現実に物の不足による略奪が起き始めており、そのためにさらに死者が増え始めている。だから、少なくとも流通は早急に回復しなければならない。それは、青海市を支配している者達も自覚しているので、情報をきちんと伝えた後は、彼等の説得は比較的容易であった。
こうして、日本へのC国人留学生が動いて、いくつかの省で正常化がなされ、生の状況が伝わると、世論に押される形で、日本政府も人道支援を宣言して動き始めた。それは、自衛隊の機材も用いて留学生や日本に駐在していた人々が帰国しての現地の支配機構の説得を後押ししている。
つまり、M大のやり始めたことの後押しだ。さらに国際的な食料の確保、その運送を全面的に援助し始めた。そして、その状況を広くアナウンスして、人々に安心感を与えている。
このことで、最悪の事態も懸念されたC国の争乱は、半年程度で鎮静化したが、まだ政治体制が定まるには時間がかかりそうであった。しかし、そこに日本政府がオブザーバーの形で入りこんだことは確かだった。そして、この日本政府の行動は必要なことではあったが、アメリカとの反目をさらに強めることになった。
よろしかったら並行して連載の「異世界の大賢者が僕の頭に棲みついた件」もよろしく。
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2025年、12/17文章修正。




