きな臭くなってきたアメリカとの関係2
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紺野太一総理大臣も、閣僚と同様にため息をついて言う。
「あの国は、敵を作らないと成り立っていかないのかな。C国という敵が退場したら、次はわが国か。ロシアはどうも彼らの敵としては軽すぎるようだ」
首相の言葉に、官房副長官宮田和樹が応じる。
「ええ、ロシアはすでに資源国としてしての存在であり、かつてそれなりの存在であった工業については完全に西側の後塵を拝していますね。なにしろ、情報で遅れたのが致命的です。それでも、ソ連時代に作り上げた膨大な核ミサイル体系によって、軍事的なプレゼンスを持ってきてましたが、すでにその体系が老朽化でまともに機能していないことが暴かれ始めました。
その上に、わが国の空中イージスは、大陸間弾道弾のような長距離ミサイルシステムを実質的に無効化しました。なにしろ、気候に関係なく機能し、障害がなく探知が出来ますので極めて正確な監視ができます。さらに重力の底から迎撃ミサイルを飛ばさなくてよいという点で、非常に有利にミサイルを使えます。
1億5千万とわが国をしのぐ人口でありながら、経済レベルがわが国の1/3レベルと、もはや経済的には中進国に過ぎません。アメリカがまともに相手にするわけはありません。
その点は、わが国もGDPではアメリカの1/3以下ではありますが、来年はすでに凋落したC国よりは上になるでしょうから、世界2位であることにはなります。そして、なんと言っても今世界の産業界を席捲しようとする重力エンジンとACバッテリー、AEE発電の技術と権利を握っています。
とりわけAEE発電は、そして重力エンジンとACバッテリーの組み合わせは、その圧倒的な効率の優位性から、従来のシステムから変換しようという動きが出るのは必然です。そのために、国内では莫大な需要が生まれています。いわば現在の産業革命が起きているのです。
そして、幸いにわが国には資本が莫大に蓄えられており、それが今もどんどん投資されているのです。このため、ここ3年のわが国のGDPの伸び率は7%を超えています。さらに、重力エンジンとAEE技術による宇宙開発もすでに始まっていますし、AC技術の派生技術と活用は年々進んでいます。だから、今後も当分はこの経済の活況は続くものと考えられます。
翻ってアメリカを見るに、あの国は産業として工業を他に移し、ソフトウェアなど知的な部分、金融等の面に特化してきました。その意味で、今起きつつある世界的な産業革命には乗りにくい産業構造になっているのです。事実、今起きている産業革命の大きな部分はわが国の企業に握られつつあります。
しかも、圧倒的に優位性があった軍事においても、その産業革命に伴って全面的に更新していく必要があります。そうでないと、戦力の優位性が保てないのです。一方で、米軍は巨大な戦力を有していますが、それは過去の莫大な投資によるものです。それが、急速に陳腐化していっているのです。
一例として、重力エンジンの導入に伴って、とりわけ航空戦力の整備にはあたっては、コストが従来の1/2から1/3になっており、しかもそれらは亜宇宙の活用にも適するものです。ですから、彼らに比べると大幅に劣位な我が国の予算でも比較的速やかに配備を行えております。そのため、航空戦力においては、すでにわが国の戦力はもはや米軍に劣らないと聞いております」
宮田が一旦言葉を切り、二宮防衛大臣を見ると彼は我が意を得たりと大きく頷く。
「そして、宇宙開発において、重力エンジンのお陰で、明らかにわが国は他国に比べ圧倒的に優位に進めておりまして、これは大いに防衛にも関与しております。なにしろ宇宙からは地上は丸見えですし、重力の底に対して上空では圧倒的に上が有利です。
ですから、C国という存在が自国の内乱で当分はその力を失ない、KT国が国を開いた以上、大きな脅威は基本的になくなっており、日米安保条約は必要がないことは明らかです。
ただ、わが国が、絶対的な強者たりたいとするアメリカに対して、気に障る存在になったことは否定できませんね。そして、軍事的にも対抗できる存在になったこともあって、場合によっては軍事的な衝突もありうるということも考えておく必要があると思われます」
宮田の長い話が終わった。彼はおしゃべりではあるが、なかなか論理的で的を得た話をするので、聞いている人の頭の整理には適しているのだ。その話を受けて木村が言う。
「そうですね。軍事的な衝突の可能性は置いといても、基本的な流れは宮田さんの言う通りだと思います。ここで少し、わが国のアメリカに対する強みと弱みについて整理しておきたいと思います。私もアメリカからの様々な圧力は増してくると思っています。
ですから、この点を抽出して、それに対する対策を浮かびあがらせたいと思っているのです」
その木村の話に応じて、経産大臣田川が手を上げて、木村が頷くのを確認して話を始める。
「では、私から、思い付くままに話をさせていただきたい。
ええと、産業面ではアメリカに対するわが国の弱みは、長くソフトウェアでした。それは一つには、トロンなどわが国発の技術がつぶされてきた面もありますが、わが国がこの面では支配力があるものを生み出せなかったこともまた確かです。
一方で、わが国はアメリカでも全力を挙げて取り組んでいる、飛翔機の重力エンジン化さらにAEE発電において、キーパーツはわが国が握っています。その面での力関係を考えると、かの国が締め付ける種がないと思いますし、逆に我が国が締め付けようとすれば可能です。
また、エネルギーは同様に長くわが国の泣き所でしたが、すでに2/3の発電所がAEE発電になった今では、圧倒的に低コストの電力を使えますので、摩擦の大きな問題になりえません。ごく最近、石油の資源量の底が本当に見えてきて、大幅な価格上昇の契機になりえました。ですが、AEE発電の導入によって弱含みで推移しています。
残るは、私の範疇ではありませんが、多分食料であると思います。今はまだ問題になっていませんが、この気候変動であれば、いつ世界的な凶作にならないとは限りません。そうした時を考えると、大輸出国であるアメリカと敵対はできないでしょう」
「なるほど、篠田さんの御意見では、問題になりそうなのは食料位ということですか?」
そう受ける木村官房長官の言葉に、西野外務大臣が口を挟む。
「いえ、貿易規制も立派な障壁ですよ。そして、わが国はアメリカに対しては現在大幅な輸出超過中です。ですが、主な品目である重力エンジン関係、ACバッテリー関係、AEE発電関係は近年急速に伸びてきたものです。そして、それはアメリカ官民ともに喉から手が出るほど欲しているものです。
だから、例え関税を上げたからって代替はないですから、値段があがるだけで、産業界や消費者の声を聞けばその選択肢はないと思いますね。ただ、手続きとかで様々な嫌がらせをしてくるかもしれませんね。とは言え、決定的にはならないでしょう。考えてみれば、わが国の弱みと言えば篠田大臣の言われる食料位かな」
「しかし、食料は重要ですよ。足りなければ国民が飢えます。仮に世界的な凶作になって輸入出来なくなれば、国内だけではどうにもならんでしょう。これだけ気候変動が進めば、この点はアメリカをあてにせず真剣に考える必要があるな」
吉田財務大臣が言うのに対して、宮田副官房長官が応じる。
「その点では、前に閣議で話のあったハウリンガという異世界はどうなんでしょう。地球に比べると科学や産業の発達は遅れていて、その人口密度は大幅に低いとか。なにかハウリンガ商会という会社が入り込んでいるらしいが、そこで農場開発という選択肢はあるんじゃないですか」
「でも、ゲートで出入りするらしいけど、数百万トンの物を通すことができるのかな?それに、相手の国や政府とどう付き合うとかいろんな問題がありますよね。ええとハウリンガの調査には入っているのですか?」
田川経産大臣が聞くのに担当している二宮防衛大臣が応える。
「ええ、ゲートを握っている三嶋さんと合意できたので、間もなく調査隊が入ることになっている。三嶋さんのことは何度か閣議で話題になっているから、覚えていると思うけど、ハウリンガの女性と結婚した。日本にもちょくちょく連れていきているようだ。
だから、結構向こうの世界に思い入れがあってね。向こうの人にも役に立つような形で係わってほしいということだ。重力エンジンとACバッテリーにAEE発電など、今や重要技術は皆、彼が持ってきたものだから、彼とは友好的でありたいんだ」
「なるほど、しかし環境に配慮して開発を進めれば、大きな問題にはならんだろう。相手の経済に貢献することは間違いないはずだからね。これは結構重要な調査になりそうだ。二宮さん、よろしくお願いします。
ところで、日米安保条約はやはり解消しよう。米軍は友好的と言っても、彼等の忠誠心は国にある。そんな敵意を持つ可能性が高い政府の軍を国内にはおいておけない。今までの話を聞いていても、続ける意味を見いだせない。
いいかな、二宮防衛大臣、西野外務大臣、担当としての君らの意見は?」
首相の話に、彼ら2人は顔を見合わせて、年配の二宮から話し始める。
「はい、現場の制服組も基本的には解消に賛成です。ただ、最近は米軍側の傲慢さも無くなって、和気あいあいになってきているので、残念とは思っているようです」
続いて西野外務大臣である。
「総理のおっしゃる通りです。私も続ける意味はないと思っています。ただ、けんかはしたくはないので、お礼を言って去ってもらうという形にしたいと思います。ただ、USでの話から判断すると、友好的な別れは難しいかも知れませんね。強引に言い張るしかないと思います」
「どうかな、国民のアンケートを取ることにすれば。相手へのけん制にもなるし、国際社会へのアナウンスにもなる。多分、70%以上は解消に賛成だと思うけどね」
財務大臣吉田が言い、首相が賛成する。
「そうだね、それはいいね。木村さん、その方向で方法を含めて検討してください」
「はい、わかりました。次の閣議で提案させて頂きます」
官房長官が応える。
アンケートはネット投票とすることになったが、西野外務大臣はアメリカに飛んだ。アンケートのことは少なくとも通知はしておく必要がある。それも、まさか電話やメールというわけにはいかない。
国務長官マーガレット・スミスは不機嫌であった。先に自分が否定的な反応をしたのに、再度同じ話を持ってきたことにである。実際のところ、アメリカとしては、C国が自滅した余勢で、アジアと中東、さらにアフリカにおけるプレゼンスを高めようと思っていた。
一時期シェールガスの生産で、アメリカにとって中東の重要性は低くなっていたのだが、その採取による環境面の弊害が明らかになるにつれて、国内での採取が難しくなってきた。日本発の永久機関とも言えるAEE発電によって、燃料としての重要性は減じてきたために、原油価格は大きく値を下げている。ために、シェールガスは全く採算に乗らなくなった。
北海など高コストの油田も同様であり、この点でコストの低い中東油田の重要性がまた高まっているのだ。今は石油からACバッテリー、AEE発電への切り替えの過渡期であるが、将来その切り替えが終わったとしても工業原料としての原油の必要性は全く変わらない。
また、アメリカとしてはアジア・アフリカ地区への日本独自のプレゼンスを持つのは防ぎたく、あくまで自分たちの補助としても役割に限定したかった。その意味で、日本への米軍基地は置いておきたかった。その上、極めて高い技術を持つ基地として、米軍は日本を大変重宝しているのだ。
しかし、民主主義の総本山を自称するアメリカとして、国民にアンケートを取るということに拒否は難しかった。その上に、西野が言うように“日本にとって”日米安保条約の役割は終えていることに疑いはない。
「お前たち日本人は恩知らずだ。我々がいたからこそ、日本はぬくぬくと経済成長を遂げることができた。それを今になって、要らないから帰れというのは恩知らずだ」
スミス長官は少し顔を赤くして感情的に言う。
「いや、感謝はしていますよ。たしかに米軍の存在が無ければ、かつてのソ連、最近のC国から侵略されることはあり得た。その点、わが国の安全保障に大いに貢献して頂いたことは大変に感謝しています。日本国民は、条約解消の際には貴国に大いに感謝するでしょう。
しかし、必要なくなって尚も続けた場合にはどうなるでしょうか?迷惑な存在、厚かましい存在になり果てるでしょう。今までは友好的に行き来していた米軍兵士が、日本の街において疎ましくみられるようになります。そうなる前に引かれることです。できればお互いに美しい姿のままにしたいと思います」
西野が穏やかに返すと、スミスはそのきつめの青い目で、彼を睨んで吐き捨てた。
「まあ、いずれにせよ。貴国が取るという自国でのアンケートを拒否するわけにはいかない。でも覚えておきなさい。わが国の国民は日本と日本人を恩知らずと思うでしょうよ」
「ええ、アンケートは実施します。その結果を一つの判断材料としての決定に、そのようなことにならないように望みます」
西野は穏やかに言って引き上げた。
日本政府は、アメリカの主要新聞とインターネットで大々的に広告を打った。
『アメリカ国民に感謝!』と題したそれは、日米安保条約の中身と歴史に触れ、それが戦争に敗れ貧しかった日本が、それに如何に支えられ成長してきたかを感謝と共に述べている。その中で、アメリカ国民の支持のもとで、多くの兵士が日本の安全を保持してくれたお陰で、一度として戦火に見舞われることがなかった。
そして、アメリカが手ごわい敵になりそうな相手を排除してくれたお陰で、今や自らを守る自信を持つことが出来た。ありがとう!アメリカ合衆国の皆さん!
そのような内容であり、それを読んだ人々は胸を打たれた。お陰で、アメリカ政府は公的には日米安保条約の解消に反対はできなかった。日本においても同様なキャンペーンが張られ、アンケートが行われた。
アメリカ政府は密かに解消反対の運動の煽動をしたが、マイナンバーを使っての投票であり、しかも100万を超える数の投票者にほとんど影響を与えることはできなかった。結果は解消賛成が75%であり、その1か月後に国会の決議をもって条約解消が決定した。
よろしければ、連載中の「異世界の大賢人が僕の頭に取り憑いた件」も読んでください。
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2025年、2/17文章修正。




