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俺の冒険  作者: 黄昏人
第5章 俺のために地球世界と異世界は混乱する
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きな臭くなってきたアメリカとの関係

読んで頂いてありがとうございます。

 アメリカの大統領選挙が終わった。老齢のバラス大統領は早くから引退を宣言していたので、民主党は跡継ぎとして、現職の国務長官のジョナス・カーピントンを候補者に選んだ。

 このバラス大統領はボケが始まっていたらしく、その言動は嘲笑と顰蹙を買うものが多かったものの、国務長官をはじめとするスタッフは実務者ぞろいで手堅い政策を立案して実施した。


 彼等は敵をC国に定め、他とは同盟関係を強化した。その中で、欧州とはまた絆を結び直し、中南米、東南・南アジアには投資を強化して、C国からサプライチェーンの移転を図った。この動きには、C国の覇権主義に警戒して嫌悪した日本をはじめとするG7がほぼ全面的に協力したので、C国の経済劣化は急速に進んだ。


 さらには、C国の技術剽窃と不正な情報収集には徹底した対策が取られ、この国は盛んだった技術的な躍進がほとんど止まってしまった。この中で、C国包囲網はG7及び経済成長著しいインドや豪州に加え、その横暴な振る舞いに、内心では怒りを抱いていた周辺国ほとんど全てが加わることになった。勝ち組に乗るともいう。


 この中で、C国内部では経済の落ち込みによって、様々な矛盾が一気に吹きだしたが、全体が貧しさを自覚する一方で、一部の権力者に権力と富に集中していることがあからさまになった。その結果として、この国の古来からの宿痾である民衆の反乱が始まったのだ。


 これに対して、C国指導部は最新のIC技術を用いた監視システムを使って、その対策は万全と考えてきた。しかし、その監視システムは人によって操られるものであり、民衆を取り締まる側もまた民であり、彼らが不満を抱いたらどうなるかの想像力に欠けていた。彼らに分け与えるほどの富は無かったのだ。


 C国の指導者層が莫大な富を蓄積していることは、民衆にも一般に伝播はしていた。ただ証拠があるわけでなく、それは燻っている噂であった。その富は、アメリカをはじめとする、銀行などの金融機関に預けられたものだった。そして、経済の監視を強める先進国は密かに手を握って、これらの口座の実態と、真の持ち主をすでに掴んでいた。


 そして、C国の指導者その係累の口座情報を世界にさらしたのだ。これは、燻っていた民の不満に完全に火を点け、それに民の監視・取締りに当たっていた官憲も同調して、C国はたちまち制御不能な戦乱の巷になった。こうした工作、そしてタイミングの読みはアングロサクソンを始めとする白人は極めて巧みである。


 C国という異形の大国は、その野望をむき出しにするのがいささか早すぎたのである。

 かくして、アメリカの大統領選のさなかにその暴動は起き、各所で軍を離れた連中も加わって、焼き討ち・銃撃が数えきれないほど起きて、死者は2千万人を超えると言われている。外国人も無論巻き込まれており、その死者・行方不明者が10万人を超えている。


 日本人も巻き込まれたが、最終的な死者・行方不明者は日本政府の帰国命令に従わなかった200人に、帰国騒動に巻き込まれた300人ほどである。無論、航空便・船便がなく帰国の足がない者が出たが、日本政府は、護衛艦と、重力エンジン旅客機に戦闘機の護衛を付けて現地に派遣して全力で救い出した。


 自衛隊はその救助の過程で自国民のみでなく、救えるものは救っており、自衛隊が救出したのは日本国籍の者1万2千人、外国籍2万1千人であった。救出時に最大の問題であったのは、逃げようとするC国人であり、中には日本人または外国人を人質にしようとする者もいた。

 しかし、救助の船または飛行機に、そのように入り込んだとしても、それに備えている者にとって排除は難しくはない。


 そして、2か月余りの狂乱の後に、C国の疲れ果てた人々は収まった。しかし、荒れ果てた街や村の中に、20ほどの政府を名乗る武装組織が現れている。この状態に、人々を援助する試みはなされてはいないが、アメリカや先進国としては、金融機関に預けられているC国人の資産はC国に返すことを表明している。


 その総額は5千億ドルを超えることから、食料の供給や限定的な復旧のためには十分であろう。ただ、いずれにせよ治安の回復を待ってのことになるので、それまでに数億人の餓死者が出るのではないかと危惧されている。国連は、人道支援を叫んでいるが、あまりに規模が大きすぎて手に負えないのが実態である。


 ところで、C国がこのような経緯をたどった間に、日本の隣国のK国とKT国がどう振る舞い、どうなったかを見ておきたい。KT国は実質的に国を閉ざしており、もはや空間イージスを配置した日本にとって、最大の脅威の一つであったそのミサイルは無いに等しい存在である。


 一方で、K国は国と人々の日本に対する種々の反日行動の結果、日本人も嫌韓が主流となって、お互いに交流しないことが一番となってしまった。また、どちらかと言うと韓国寄りの立場で、日本との仲裁をしてきたアメリカにもその行動の実態が知られ、そのことで客観的に見られるようになってきた。


 そのことによるK国民の反米意識の高まり、さらに、反日・反米・親KT国の大統領の施策によって結局在韓米軍は撤退の方向で固まった。これは、アメリカから見れば、C国の経済の落ち込みによる脅威が弱まり、KT国のミサイルが自国や日本に対して無力化されたことで、駐留の必要が無くなったと判断されたからである。


 K国も日本の肩を持つようなアメリカより、KT国をコントロールできるC国とつながっていれば良いという判断である。歴史において常に賢明な判断とは逆張りするK国らしい選択であるが、彼らは幸運だった。


 これはK国に住みついていた駐留軍の撤退はそう簡単にいかず、その駐留軍の撤退が終わるまでは米国の半島へのコミットは続くことになる。そして撤退する部隊が残り5千人になった時にC国の動乱は起きた。米軍を追い出す決断をした大統領の、後継の左派の大統領は大慌てに慌てた。


 米軍の核の傘が無くなったら、まず間違いなく核による脅しでKTの指導者は屈服を迫るだろう。その時、経済的に先進国に迫るほど豊かになった自国と民は人権などないKT国の奴隷になるのだ。その時、彼は前代の大統領がいかに愚かな決断をしたかを痛感し、それを踏襲した自分も同等だと思い知った。


 そして、野党も含めて使えそうな人材を自ら頭を下げて集め、最後に居残っている米軍のサイモン少将へのお詫びと防衛の協力依頼をまず指示した。さらにワシントンに連絡させて、幸運にも捕まった国務長官のジョナス・カーピントンへ自国の防衛を頼み込んだ。


 また、日本には空中イージス“さきもり”の防衛範囲を自国に広げるように頼み込んだ。アメリカからは、今までの態度をなじられて、嘲笑われるのを耐えて泣いて頼んだ。日本へは、例によって高圧的に出ようとしたが、呆れて断わられようとして一転態度を変えて土下座して頼んだ。


 アメリカとて、K国には数百億ドルの投資が残っており、KTにむざむざ渡すのは本意ではない。さらに、あの貧しさでとことん抵抗したKTがK国の富を握ることは避けたい。また、人権などない飢えたKTの軍と人民がどのような振る舞いをするかを考えれば断れない。


 日本の場合には、うんざりしてはいたが、やはりK国にはそれなりに投資していて、進出している企業もあるのでK国がKT国に征服されることは望まなかった。それに、K国の市民に虐殺など大きな危険が及ぶことを考えれば、要請を断るのはいかにも印象が悪い。

 それに、自衛隊が出動するわけでなく、今ある“さきもり”の防衛範囲を広げたと単にアナウンスするだけだ。


 結局、アメリカはKT国に対して、K国が自国の防衛範囲であることを世界に向けて改めて宣言して、軍はグアムからB2爆撃機を3機半島に飛ばした。また、日本は“さきもり”による防衛範囲を半島に広げることを宣言した。そして、それに対して結局KT国は動けず、そのことでK国は救われたのだ。


 また、動かないことで、C国という後ろ盾を失なった結果、国が従来の路線では立ち行かないことを悟ったKT国の軍は太った指導者を抹殺した、そして、日本に、拉致被害者を返すこと、また日本とアメリカに国を開くことを通告した。


 このように、バラス大統領の名のもとにアメリカは最大の敵を叩き潰したのだが、その政府としては、いささか効果の大きさにビビっているところである。そして、アメリカ国民は表向きはともかく、内心はC国の有様を歓迎した。自らなにもせずに勝手に半ば滅んでくれたのだ。


 なにより、C国の無政府状態も自分でやっていることである。そして、結果として“敵”は消え、偉大なアメリカはいささかも揺らいでいない。だから、大統領選挙は、バラス大統領が後継者として指名した民主党のジョナス・カーピントンが大差で当選した。


 彼が、実際にアメリカの政治を動かしていたのは衆目の一致するところであったのだ。ちなみに、アメリカ民主党は伝統的に日本に対して厳しく、共和党は比較的融和的と言われる。しかし、バラス大統領の初期においては、日本に対しては非常に好意的であった。


 ただ、これは当面の敵であるC国への圧力に、日本が絶対に必要であったという側面があったことは誰の目に明らかであった。その表れとして、C国の退潮と共に徐々に日本に厳しくなってきている。日本が大きく力をつけてきたことが明らかになった頃から、とりわけ国務省の率いる外交面の締め付けの傾向がでている。


 これは、日本において重力エンジンやACバッテリーとAEE発電が現れ、世界への技術を供給し始めた。また、日本が国を挙げてその産業への実用化にと力を入れ始めたことで経済がはっきり上昇し始めた。そこで、日本をC国に代わる新たな敵として捕らえ始めたが、それをリードしていたのが、新大統領になったカーピントンである。


 ただ、アメリカ側とて一枚岩でなく、国防省は極めて友好的であって、両者はとりわけ宇宙への進出・ミサイル防衛に関して密接に協力している。これはある意味当然である。彼等にとって重力エンジンとACバッテリーの導入、そしてそれによって軍用機の高性能化とコスト削減、宇宙へのアクセスの極端なコスト削減が起きた。これは、祖国及び同盟国の防衛という彼らの命題を万全にするものである。


 これら反日に傾くもの達にとって残念なのは、この世界を変えている諸技術が日本発であることである。このため、今までとは大きく違って教えを請う立場になっている。さらに防衛についてもすでにアメリカに頼る必要がなくなり、日本を締め上げるための梃が無くなっている。


 かつて、アメリカは繊維、自動車、半導体において日本が優勢になると、様々な手でその力を削ごうとして成功してきた。そのための梃が、圧倒的に優れていたアメリカの基礎技術であり、その巨大なマーケットであり、さらに軍事力であった。

 とりわけ、危険な敵として、古くはソ連、最近ではC国とKT国による核の脅威があって、日本がアメリカの“核の傘”に依存するしかなかったことは、アメリカにとっての最強の梃であった。


 しかし、すでに日本はアメリカの核の傘は不要である。また、通常戦力においても、最強であることを尖閣沖で証明した重力エンジン駆動の戦闘機をすでに多数運用している。さらに宇宙を自由自在に往還できる手段を持っていることから、仮にC国の軍事力が万全であっても脅かされることはない。


 その点は経済的に衰退しているロシアも同様である。つまり、日米安保条約はすでにその役割を終えているのだ。これは、国際的にもそのように見られているし、日米双方もそのように思っている。そして、その団結のリンチピンであるC国の脅威が事実上消えてしまった。つまり、双方が安保条約の解消を言い出すタイミングを図っている段階である。


     ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー


「それで、安保条約について、アメリカはどう言っているのだ?私も新大統領とは電話で話をしたが、原則論に終始して真意が掴めなかった。ただ、冷ややかというのは伝わってきたけれどね」


 日本国総理大臣、紺野太一が外務大臣の西野秀樹に聞いた。防衛大臣二宮博、官房長官木村みどり、官房副長官宮田、経産大臣田川、財務大臣吉田など重要閣僚は皆揃っている。日本にとって同盟国であり、最大の輸出国でもあって、安全保障面で従属していたアメリカの意向は今でも極めて重要なのだ。


 西野は、アメリカの新国務長官マーガレット・スミス、新国防長官などと会談して、今日早朝に帰ってきたのだ。思ったより深刻な話になりそうなので、関係する閣僚を集めて話を聞こうということだ。


 なお、現在日本政府は、“そら”型飛翔機を改造して小型旅客機にした機体3機を持っており、西野はそれを使って、日本とワシントンを片道2時間で飛ぶことができた。これは、高度300㎞の亜宇宙に飛び出して秒速10㎞で飛ぶことができるもので、1万㎞でも千秒でカバーするので、地球の裏側でも3時間あれば行くことが出来る。


 乗員は2名で、なにしろ飛行時間が短く、動力はACバッテリーなので調達費1機5億円は少しかさむが、運用費は非常に小さく、専用の旅客機を運用するのに比べればはるかに低コストである。だから、かつて外務大臣が専用機を要求した時のような国会での騒ぎは起こらなかった。


 帰国して、数時間の仮眠をとった西野は総理に答える。彼は、52歳でイギリスに留学経験もある細身長身の甘いマスクでご婦人方に人気がある。


「ええ、冷ややかというより表には出しませんでしたが、敵意が伝わってきましたね。懸案の安保条約については、日本の申し出にいたくお怒りのようで、『お前から切り出す話ではない、判断するのは守ってやっている自分たちだ』ということのようです。さらに、様々な日本に対する優遇措置を見直すと言う言葉が出ました」

 西野大臣が応える。


 ニュアンスはすでに閣僚に伝わっていたが、テーブルに座っていたメンバーからため息が漏れた。

「ふーう。そういう態度だと困りましたね。日米安保は確かに片務的な条約で、アメリカが日本を守ってやるというもので、逆はないものでした。しかし、それは日本に再武装させたくない彼らの都合から始まったもので、過去それを梃にわが国は数々の理不尽な要求に屈してきました。

 しかし、わが国から出た重力エンジンとACバッテリーで、その事態は変わったのです」

 論客の官房副長官である宮田和樹が言うのに、防衛大臣二宮博が続ける。


「そう、その通りです。今や自衛隊の航空機は、エンジンのみを乗せ換えたものも含めて、ほとんどが重力エンジン機に代わっております。それは護衛艦や潜水艦も同様に代替が始まろうとしています。

 対C国で協力関係にあった米軍には、ほぼ全面的に協力してその技術は供与していまして、彼等も主力戦闘機の半数を除き、戦闘機や攻撃機の代替を急いでいます。

 しかし、わが国の航空機、宇宙機を含めてわが国の重力エンジン、ACバッテリーを用いた最新の装備は、数もアメリカ軍をしのいでおりまして、テクニカルな“防衛”ということに関しては彼らの協力は必要ありません」


「うん、それで日米安全保障条約の役割はすでに終わった。ただ、長年の貢献を鑑みて友好の印として部分的に残すのはやぶさかではないが、国内の基地は順次撤去してもらいたいと言うことだったんですがね」

 紅一点の官房長官木村みどりが言うのに、再び大半の閣僚が期せずしてため息をつく。


よろしければ1連載中の「異世界の大賢者が僕の頭に取り憑いた件」もお読みください。

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2025年、12/17文章修正。


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