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俺の冒険  作者: 黄昏人
第5章 俺のために地球世界と異世界は混乱する
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ジャーラル帝国への服属

読んで頂いてありがとうございます。


 シーダルイ辺境伯領はイミーデル王国を離脱したために、ジャラシンは父の死後に辺境伯の爵位を受け継ぐことができないことになった。まあ、この点はカリューム侯爵をはじめとする貴族連中も、王から認められて貴族になったわけであるので、王国から離脱した段階で彼等の爵位は無効であるため同類である。


 今般、ジャーラル帝国に鞍替えすることで、帝国貴族になる約束であるが、シーダルイ辺境伯とカリューム侯爵が連れて行く連中はそのままの爵位でということになっている。約束は第2皇子ミマーシャル、皇帝の妹の外交府の第1次官ミシュレーネ・ドナスの推薦で、皇帝も認めているという書類を受け取っている。


 帝国として大甘の対応であるが、地球の技術を持ちこんだ俺の存在と、すでにシーダルイ辺境伯領とカリューム侯爵領ではその技術が産業として根付きつつあるということがその決定の裏にある。加えて、シーダルイ領に眠る石油資源である。俺が客観的に考えても帝国に損はないと思うぞ。


 ジャラシンの代替わりは約束に入っていないが、シーダルイ領の重要性を考えれば問題ないはずだ。ただ、要らざるいちゃもんを付けられないために、俺が言って自領に帰った時に辺境伯への世襲を宣言させた。そして、時をおかず婚約者であるカリューム侯爵の娘のアデリーナ嬢と結婚式を挙げた。


 5割ほども増加して、35万人を超えた辺境伯領の領民は、自分たちに豊かさをもたらしたジャラシンの伯爵への世襲と結婚を大いに歓迎した。その日はシーダルで結婚式に合わせて祭りが催され、10万もの人が集まって盛大なものとなった。俺は、シャイラと一緒に式に列席したよ。


 アデリーナはその美貌もさることながら、高位貴族としての隅々まで染みついた上品さが際立っていたな。シャイラは、俺の好みのど真ん中だけどそこのところは勝てないとは思ったけど、一緒に暮らすとなったらいささか引いてしまうかな。やはりシャイラが一番だよ。

 しかし、ジャラシンもアデリーナに似合っているから、普段はそれほど上品とは思えないあいつだけど、やはりお坊ちゃんなんだと改めて思った。


 実のところ、王国からの離脱と帝国への鞍替えは、当初は一部の寄子からも懸念する声もあった。特に王国軍が7万の大軍で進発したという情報にそれはピークになったが、結局それを追い返し、加えてミザラス公爵家の城を破壊して公爵を討ち果たしたという知らせに、そうした声は完全に収まった。


 結婚式の後には、王国から離脱した貴族の当主がうち揃って帝都ジャーラに行き、正式に皇帝の臣下になり叙爵する。つまり改めて帝国貴族としてそれぞれの貴族の位を得ることになる。辺境伯は侯爵相当であるので、帝国に鞍替えするのはシーダルイ辺境伯とカリューム侯爵のトップの両家とその寄子合計8家に加え、その間にある、1つの伯爵家、2つの子爵家、3つの男爵家、5つの騎士爵家である。


 シャイラの実家のロリヤーク騎士爵家は、カリューム侯爵家の寄子になったが、その領の著しい発展に伴ってということでカリューム侯爵の権限で男爵に陞爵している。これは、本質的には俺に気を使ってのことである。とは言え、男爵と騎士爵には結構大きな差があり、そのまま帝国に鞍替えするので、侯爵には一応感謝している。


 帝国に行くのには船によることになるが、この船は地球の技術を使った鋼製の船であり、帝国にもまだないレベルの船であるので、鞍替えする貴族の集団を帝国に印象付けるのに有効とジャラシンが決めたものだ。


 造船所は新しく乾ドックがシーダルに建設され、同型船が2隻建造できる規模である。そこで作られた最初の鋼製の船が、今回使う船である。それは、全長70m、幅9mの総重量500トンのものであり、日本から持ってきたレシプロエンジンを積んで時速30㎞で航行可能である。

 これに旅客200人、貨物を200トン積載出来る。名はシーダル1号であるが、同型船がもう1隻建造中で間もなく完成する。


 ちなみに、鋼製の船を作るには、相応の製鉄能力が必要である。これは面積だけは広大なシーダルイ領には良質な鉄鉱石の鉱山があり、元々鉄が作られていたが、それは木炭を使った効率の悪いものだった。だから、俺も最初にテコ入れして製鉄能力を高めることになった。鉄は全ての産業の基礎だからね。


 まずは、燃料が木炭では早晩資源が尽きるので、隣接した寄子の男爵領から出る石炭を使うことになった。この石炭は燃料に使われていたが、無煙炭である良質なものである。石炭が出る炭鉱と鉄鉱山は50㎞ほど離れているので、船で運搬することにして男爵領の炭鉱に近い川沿いに、コークス炉を建設した。


 コークス炉からは、コークスと共にコールタールが出てくるが、これは大事な舗装などに使える瀝青材である。だから、最近ではシーダルの道路は、魔法で固めた舗装もあるがアスファルト舗装も使われている。そのコークスを鉄鉱山に隣接して作られた海沿いの製鉄所の高炉に運んで、今では銑鉄が日産100トンに達している。


 さらにそこでは製鋼設備として転炉を使って1日80トンの鋼鉄を作る能力を持っている。この日産能力は嘗てのシーダルイ領の年産量に匹敵する。現状のところそこまでの需要はないが、ジャーラル帝国だったらそれ以上の需要があると見込んでいる。


 さて、シーダル1号に乗って王国を離脱した貴族一同が帝国へ行くわけであるが、シーダルイ家の寄子の者達は隣接している領の発展ぶりを知っているが、他の者達はまずシーダルの街並みに驚いた。舗装した街並みと中心の商店街のふんだんにガラスを使った商店に、華やかなアーケードと街灯のある景観は、王都はおろかジャーラル帝国の帝都ですら存在しないものである。


 そして、彼等はシーダルイ家の手配した会場で、盛大な会食を振舞われ、最近大型高級なものが増えたシーダルのホテルに驚きながら泊まった。さらに翌朝、自分たちの乗る船を見てまた驚いたものだ。彼らの常識では船というのは、せいぜいが20mとか30mの全長であり、無論木製の帆船である。


 目の前の高さ5m以上にそのデッキがある船は、上部船室に多数の窓があって多くの客室があることを伺わせるが、驚いたのはその巨大さである。さらに驚くのは、帆がないことで、鮮やかな薄い緑に塗られているそれは、彼等の常識からかけ離れた存在である。


「ジャラシン殿。こ、これは帆がないが、どうやって進むのか?それと、このような巨大な船をいかにして作られた?」

 カリューム侯爵が、驚いて自分に並んで新妻である自分の娘と共に立っている新辺境伯ジャラシンに聞いた。彼は、シーダルイ領で新しい造船所が作られたことは、ジャラシン自身から聞いていた。だが、このような巨大な船を作れるものは思っていなかったのだ。


「ふふ、義父上、この船の動力は、油で動くエンジンというもので、この世界、少なくともこの大陸では初めてのものです。帝国の度肝を抜いてやりたいと思いましてね。実際のところ帝国にはこれに匹敵する大きさの船はありますが、無論帆船であり、さらにこれは鋼鉄製ですから彼等もまだ作れませんよ」


「なんと、これは鉄製なのか?シーダルイ領では鉄が大量に作れるようになったと聞いたが、このようなものまで作れるのか?また、油で動くと言ったが、それは前に言っていた、地下から湧き出る油を使えるようにしたということなのか?」


「その通りです。製油所という、油を分離して燃料の他に様々な有用なもの分ける設備を作りました。油は石炭に比べると使い勝ってが素晴らしくよく、一つにはさっき言ったエンジンというものに使えます。また、船だけでなくエンジンで動くので馬が要らない車を作ることができます。これは、もう何台か出来ていますから、義父上にも進呈しますよ」


 侯爵のみでなく、集まっている貴族とその配偶者や随員は、全員がこの国の常識を超えた巨大な船に感嘆している。今回の帝都ジャーラまでの旅は、シーダルイ家が各家について5人までの同行を認めているので、多くの貴族は配偶者や娘や息子を連れている。


 帝都ジャーラの繁栄は大陸中に鳴り響いており、そこを訪れることは皆の憧れであるので、同行を望むものが多いのに無理はない。とは言え、貴族家の当主にとっては今回の旅は物見遊山ではない。現在の爵位は担保されるとの書類があっても、超大国に対して小さな王国のそれを飛び出した者達とは圧倒的な力の差がある。


 だから、約束を反故にされても抵抗のすべはないのだ。それに、彼等の感覚からすれば、今回の話はうますぎる。そもそも男爵という貴族の位置にしても、イミーデル王国とジャーラル帝国の男爵では世の人々が見た場合に重みが全く違うと思うのだ。


 しかし、彼等はジャラシンと俺が帝国の前にぶら下げたニンジンを知らない。無論それは、様々な地球由来の技術もあるが、それ以上に、そのためにすぐにでも起きる産業革命に必須の“石油”という資源である。衛星によって現在調べた範囲では、この大陸ではシーダルイ領のものが飛びぬけて最大のものだ。


 また、帝国は彼等シーダルイ辺境伯領とカリューム侯爵領にも調査員を送りこんで、急速に発展しつつあるその状況を把握している。その2つの領のみならず、周辺もその影響を受けて発展を始めている。だから、これらの2家が連れてくるもの達であれば、そのままの爵位を認めるということになったのだ。


 帝国としては、これらの領に対しては、帝国の1地方としての防衛を行うことは原則である。しかし、それ以上の経済援助などの特段の援助や便宜を与えるつもりはない。彼らの調査の結果からは、この点は帝国の平均的な経済情勢から見ても、その必要はなく帝国として損はないと見ている。


 ジャーラル帝国は、すでに立憲君主制の段階に入っており、その体制は皇帝及び取り巻きの強権で動かしているようなものではない。基本的に政策は官僚の積み上げで策定して、上院(貴族院)、下院(平民院)の議決を経て決定されることになっている。ただ、貴族への任命は基本的には皇帝の専決事項となっている。


 イミーデル王国から鞍替えしてくる20ほどの貴族家に、王国の貴族位と同等の位階で認めることは、帝国にも利があるとして、皇帝がすでに了承した事項で、これら貴族が心配するようなことはないのだ。


 俺も妻のシャイラ、それに実家のロリヤーク一家も加えてこの船旅に加わっている。カリューム侯爵がその寄子として認めたゼンダ・デラ・ロリヤーク男爵とその婦人ナタリア、そしてシャイラの弟のカミール、妹のメランダである。舅のロリヤーク男爵は、帝国の男爵として正式に認められるための大事な旅になる。


 その意味で、男爵とその婦人はそれなりに緊張した旅になるが、シャイラの弟と妹はそれとは関係なく大はしゃぎである。彼らは、カロン近くの自領からはシャイラの操縦する飛翔機でやって来て、帝都までは新造の汽船による航海であるから、短時間であるが極めて快適かつ贅沢な旅をしていることになる。


「ケンジ殿、この船は本当に帝都まで1日足らずで航海できるのだろうか」

 義父であるゼンザが聞くのに、俺は答え、ついでに少し解説する。

「ええ、この船はエンジンで動くので、1時間30ケラド(㎞)は進みますから、帝都の港までの700ケラドを1日足らずで行けることになります。お義父さんも、領で使っているトラクターやトラックのエンジンはよくご存じですから、船にエンジンを使うことは不思議でも何でもないでしょう?」


「ううむ、それはそうなのだが、前に港のあるシーダルイから帝都までの航海の事を聞いたことがあるが、10日以上日数を要したというな」

「はい、風任せの旅だとそうなりますよ。ただ、今後は定期航路が開かれますから、1日の旅が普通になります。今度、カミール君は帝都の西学園に転入しますが、領から車で最寄りの港のドマルまで3時間、ドマラからシーダルまで船で4時間、シーダル~帝都まで1日と待ち時間を入れると3日位の旅ですね」


「うん、帝都の学校は楽しみだ。だけど、王立学園では驚いたなあ。一部の教科は入学前の半年で新しく使われていたカロンの教科書よりうんと遅れていた。僕は科学と数学については、僕がケンジさんからもらって持っていった本で勉強していたよ。高位の貴族の家の連中は威張っているし、あまりいい雰囲気ではなかった。

 でも、姉さんからも援助してもらって勉強させてもらっているので頑張って勉強したよ。だけど、帝都の学園もうんと費用がかかるだろうけど、いいのかな?」


 横で聞いていたカミールが健気なことを言う。彼はなかなか優秀な成績を挙げていたが、寄り親の王国離脱に伴って王都から帰らせたのだ。

「いや、我がロリヤーク領はもはや前のような貧乏領ではないぞ。農作物は5倍に増えたし、紙や木工品が売れているのでお前たちの学園の費用位は何ということはない。1年遅れでメランダが入学するはずだけど心配はないぞ」


 父のゼンザがにこやかに言うのに、メランダが口を出す。

「だけど、遠くの帝都の学園に行くことにそんなに意味があるのかしら。今のカロン近くの中学校の教科書は随分変わってしまったわ。それは、ケンジさんの世界の知識を取り入れたすごく進んだ内容だそうよ。兄さんが王都の学校が遅れていたと言ったけど、その意味ではジャーラル帝国だってあまり変わらない気がするわ。

 それに、今カロンとシーダルに大学と名付けた高等な学校ができるらしいし、そこではケンジさんの世界の知識を教えてくれると言うからそっちの方が良いような気がする」


 なかなか彼女は聡く、旧来の知識とシーダルイ辺境伯領とカリューム侯爵領で始めている地球の知識の教育の違いを理解している。

「うん、たぶん、帝国は王国よりは進んでいるが、大差はないだろう。だから物足りない面はあるだろうが、見分を広げる意味では、帝都に留学するのもいいのじゃないかな。

 今度シーダルに作る大学では、異世界から教師を連れてくる予定もあるから、ひょっとしたら帝国からも学生がくるかもな。そっちで学びたいと思ったらまた変わればいいさ」

 俺はカミールとメランダに言ったよ。


 旅をする船室は、基本的にベッドのある2人から4人部屋で、机が付いてはいるが、洗面台やトイレ、シャワーは共有でシンプルなものであるが、すっきりした内装でそれなりに豪華にみえる。馬車での旅しか知らない人々は、穏やかな海にも恵まれ、結構な距離をわずか1日で走破する船の旅は十分に快適で満足するものであった。


 午後に出発した船が、帝都へ到着したのは翌日の午後も少し遅くなっていたが、鮮やかに塗られ、多数のガラス窓が目立つシーダル1号は人目を引いた。一つには帝国の出迎えを命じられた官僚が、200人に近い者達が1隻の船で来ること、さらに1日の航海で着くことの連絡を受けて、よほどの船だろうと喧伝していたのだ。


 出迎えたカザル・ザイ・マケマイという外交府の役人を率いる責任者は興奮した顔で、今回の訪問団の代表を務めるカリューム侯爵に言う。


「いや、素晴らしい船ですね。これで、シーダルからの700ケラドの距離を1日で来られたとか。さらにこの船は鋼鉄でできているとか。聞いていた以上の技術をお持ちです。正直に言って、今回のあなた方の貴族位を帝国のものとして認めることに不満を持つ者もおります。しかし、この船は彼らにもその意見を翻す材料の一つになるでしょう」

 なるほど、やはり懸念した点は当たっていたのだな。


 その日は、港近くのホテルに宿泊し、近所をぶらついた程度で、ほとんどの者がホテルの食堂で食事をとり、ジャラシン夫妻やカリューム侯爵さらに俺の義理の父母も彼らに付き合った。

 しかし、そうした付き合いに興味もない俺は、シャイラとその弟・妹を連れて、市内を案内してハウリンガ通商の帝都支社に予約させたレストランに行った。年少者に受けるだろうと、用意されたレストランとその周辺の市街はカミールとメランダを大いに楽しませた。


 翌日御前、200人を超える帝国高位貴族が見守る前で一緒に来た20人ほどの新来の貴族たちが、爵位を叙爵する儀式は何事もなく終わった。


 この中のサプライズは、俺が伯爵位を叙爵したことである。俺自身は『取り込みにかかったな』と思っただけで、少々迷惑だったが、これだけの人質がいる中で断ることもできない。見守る貴族たちの視線は、余り好意的なものではなかったが、当然だと思っていたので気にはしなかった。


よろしければ、新連載?の「異世界の大賢者が僕に取り憑いた件」も読んでください。

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2025年、12/16文章修正。

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