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俺の冒険  作者: 黄昏人
第5章 俺のために地球世界と異世界は混乱する
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ジャラシンの怒り

読んで頂いてありがとうございます。

 侵略軍を追い返した部隊は、地球で雇った傭兵部隊であった。その傭兵団は、サーガラ傭兵団と名乗っており、イギリス軍で少将だった、ピート・サーガラ将軍が設立したものだ。今の団長はその副長を務めていた、ミッシェル・コーナン元中佐である。


 コーナン団長は、ハウリンガ通商の山下社長の飲み友達であり、この傭兵団については山下がハウリンガ世界での活動を考えて様々にテコ入れをしていた。そのテコ入れは、主として飛翔機とマジックバッグの安値での販売であり、傭兵団は10機の飛翔機と2台のマジックバッグを出世払いで入手していた。


 飛翔機についてはACバッテリーの充電が必要であるが、その点は多めの予備電池の供給と、「門」を通じての交換電池の供給ルートを確立している。実のところ傭兵団にとっては、通常不便な場所でのミッションが多いわけであるが、そのための移動というのは最も脆弱かつ面倒な作業である。


 そういう意味では、飛行場が無くても好きなところに移動できる重力エンジンの飛翔機は理想的な移動手段であった。しかも容量が500㎥のマジックバッグを2つ供給という山下の話に、彼らは一も二もなく乗ったものだ。


 むろん、定員6人の10機の飛翔機に乗れるのは60人であるが、かれらはシートなしの飛翔機を注文して無理やりに最大12人乗れるように改造してしまった。随分窮屈であり、危険でもあるが、彼らが普段使う輸送機やヘリコプターに比べれば、飛翔機のハヤブサの飛び方は随分優しいので、全く問題はない。


 更に彼らは必要に応じて、貨物機に使えるように、また屋根を取り外して重機関銃を据え、上空から銃撃できるようにも彼らのガレージで改造した。また、マジックバッグは彼らの武器弾薬の輸送能力を大幅に高め、実施する作戦に大きな余裕をもたらした。


 中世において騎馬は、その突進力のみならず、輸送力によって少数の兵を機動的に使える大きなメリットがあった。その意味で、サーガラ傭兵団は飛翔機とマジックバッグを入手することで、その戦力を何倍もあるかの如く活用できるようになったのだ。


 飛翔機を駆る傭兵団は有名になり、仕事も潤沢に舞い込むようになったが、いずれの仕事もその機動力を生かして手早く片付けている。だから、山下からハウリンガの荒仕事の話が来たときは、コーナンはためらうことなく受けている。


 それに、報酬が金を200㎏、大体1千万ドルというのは悪くはない。ハウリンガに来るにあたっては、彼らの中東の基地にゲートを設けて、そこから人は歩いて、飛翔機は飛んで次元の壁を越えたが、状況を知っているコーナンを除いて傭兵たちは次元の壁を越えることには大いに驚いた。


 ハウリンガに来て、団長のコーナンと副団長のマクレビーは、俺を交えた作戦会議を行った。そして、そこでコーナンはプセセ峠の待ち伏せの否定はしなかったが、その前の威嚇攻撃を提案したのだ。待ち伏せ作戦で傭兵団を高所からの重機関銃・無反動砲の攻撃を使うというのは判る。


 しかし、それが侵攻軍の犠牲を少なくすることというのであれば、中途半端と断じたのだ。そして、彼が提案したのは、飛翔機を用いて先行して、あらかじめ警告文の散布、さらに次の日の威嚇射撃である。


 彼にとってはそれが、彼のわずか150人の軍団を、機動力を使って最も有効に活用する方法であった。さらには、戦闘のプロである傭兵団のスキルを最も有効に使う手段でもあった。果たして、実際の事態の経過はコーナンらの思惑通りに運び、侵攻軍は何ら成果を上げることなく王都に引き上げることになった。


 コーナンとマクレビーにとっては、1兵も損なうことなく、単に弾薬のみを消費したというのは望外の成果であった。しかも、注文主も結果に大いに満足している。両家はプセセ峠を要塞化して、さらに自分の領兵を送り込んだので、それなりの負担はしている。


 だが、魔法を使って工事を行ったこともあって、要塞化にはそれほどの投資はしておらず、領兵は常雇いの兵なので経済負担も最小に抑えられている。だから、両家のトップは、自分たちに損害がないことに加え、王家から大きな恨みを買わなくとも済んだことに満足している。


 ここで不満であったのは、プセセ峠に配置されて戦闘がなく、むなしく帰ることになった兵たちのなかの武芸自慢のものたちであった。ただ、結果的に異世界から来た者達が、自分の火力を見せつけたのみで終わったと思ったこの出来事は、それのみで終わらなかった。それも、兵がプセセ峠から引き揚げてきて賑わっているカロンでなく、シーダルでその事は起こった。


 辺境伯、ポロフル・ミル・シーダルイは、患っていた結核は殆ど完治しているが、まだ本調子ではなかったために、侵攻軍が引き上げている映像を確認して、シーダルの自分の城に帰っていた。嫡子のジャラシンは領兵がまだカロンに居ることもあって、当分は帰れない。


 また領兵は、主要部隊を根こそぎ動員して、プセセ峠へ送っていたので、シーダルの辺境伯の城にはわずかな警備の兵しか残っていなかった。辺境伯領の魔法師部隊の長のミーゼルは、突然の叫び声にハッと顔を上げた。彼女は42歳で独身であるが、城に2間続きの部屋を与えられて住んでいる。


 本当は市内に自分の家があって、しばらくはそっちに住んでいたのだが、城に電気と上下水道が引かれて、エアコン、風呂が気楽に使えるようになったので、快適さに引かれて城に住むようになったのだ。ちなみにシーダルの市内も上下水と電気の工事が進んでおり、自分の家に引かれたら帰ろうと思っている。


 彼女たち魔法師は、半ば業務としてマジックバッグ他の魔道具を作っており、その販売から大きな割戻しがあるので経済的には豊かなのだ。その意味では、彼女やその部下はそのような魔法の使い方の幅を大いに広げてくれたミシマに感謝している次第だ。


 ミーゼルは声が聞こえた方に探査魔法を伸ばした。そして、それを検知すると厳しい顔で部屋を飛び出したが、領都に残っている部下の5人を呼び詰めることも忘れない。

『緊急事態!侵入者が伯爵閣下の部屋に侵入している。彼らは警備の兵を殺した。油断するな。不審者はためらわず殺せ!緊急事態だ』


 ミーゼルが率いる魔法師部隊は15人いるが、10人は副隊長のカマラズが率いてプセセ峠へ行く部隊に同行している。

 廊下を走って、伯爵の寝室に向かうミーゼルであったが、当然配置されている警備兵は血に染まって倒れている。息を切らしながら角を曲がった時に、正面に2名の者が立っており、足元には伯爵領の警護兵の制服を着た一人が倒れている。


 すでに、探知によって状況を把握していたミーゼルは、風魔法で2人の足を凪ぐ。マジックバッグから砂を出して渦に混ぜて威力を上げた風の刃は、2人の足の根元をあっさり切断する。足首や首では避けられる可能性があり、胴では鎧によってその刃が防がれる可能性がある。足の腿を切断されても尚戦闘能力を持つものはいない。


 開いているドアの中を覗き込んでミーゼルは絶叫する。

「伯爵閣下!」

 探査によって解ってはいたが改めて目で見て、絶望せざるを得なかった。そこには3人の男がいて、一人が切断した伯爵の頭部を白髪を持って吊るしている。彼女に気が付いた一人がとっさに短剣を投げつけたが、ミーゼルはそれをバリヤーで受け止める。


「こいつら、許さんぞ!このーーー!」

 ミーゼルは風の刃を投げつけるが、興奮のあまり威力が弱く、3人のうちの一人の魔法使いの必死の風魔法で逸らされる。ミーゼルは反省して集中する。


 それを見て危ないと感じた一人が突進してくる。彼女はとっさに、風の刃を投げつけると、渦に砂の混じった刃は迫ってくる男の首を切断して、後ろの2人にぶつかる。

 その一人の魔法使いの一人には顔に当たり、そいつは目を抑えて「ううー」と唸るがそのように訓練されていて声は出そうとはしない。もう一人は持っていた伯爵の首を投げ出して、剣を抜き振りかぶって迫ってくる。魔法を練る時間がない。そして、迫ってくる男の剣技は半端なものではない。


 ダメか、と思った時、ドンという鈍い音と共にその男に胸に槍が生えた。

「ぐぐ!」男はうなったがばったり倒れた。

「おお、サビラム、助かったよ」

 彼女は、部下の気配をはっきり感じて安心して振り向かずに言った。それは彼女と同じく城に住んでいる部下のサビラムであった。彼女の半分くらいの歳と若いが、武道も魔法も相当にできる。


 彼女は、急ぎ魔力を練って、顔を抑えている魔法使いの頭を風のハンマーで殴りつけて気絶させる。廊下に倒れている腿を切り離された侵入者2人は生きてはいるが出血多量でもはや虫の息であった。

「ああ、伯爵閣下が!ミーゼル様」

 サビラムがようやく伯爵の首に気が付いて叫びをあげて上司の顔を見る。

 彼女は若い部下に対して静かに頷く。


 ミーゼルは嫌だったが、新たに主人の伯爵になる嫡子に知らせないわけにいかなかった。彼女はカロンにいる魔法師の部下の一人に、念話で起こったことを伝えた。そして残った侵入者の魔法使いの体を徹底した拷問で壊して、心身喪失状態として素直になった心を読んだ。

 その結果、予想した通り彼が王国の暗部の一人であることを確認してそれも、遅れて部下を通じてジャラシンに告げた。


 これら暗部のものは、10人の隊商のメンバーとしてやってきており、当初からの命令は辺境伯の暗殺であった。直接の命令者は暗部の統領であり、実際の命令は誰から出されたかはわからなかったが、ミザラス公爵が絡んでいることは間違いないだろう。


 ジャラシンがその知らせを受けたのは俺の目の前だった。他にカリューム侯爵とその嫡子であるパイロムに傭兵団のコーナンがいた。彼は据わっていた椅子から立ち上がって、しばらく呆然として立っていたが、はっと回りを見渡して目を俺に焦点を当てて言った。


「父上が殺されたらしい。王国の暗部の仕業だ。くそ!残った奴は何をしていたんだ。ミーゼルもいたのに。くそ!」

 だんだん声が大きくなっていったが、言葉を切ってさらに言う。

「申し訳ない。しばらく一人にしてくれんませんか?」


「「「ああ、わかった」」」

 部屋にいた一同は返事をして部屋の外に出た。俺は部屋の外にとどまったが、カリューム父子は自室に引き上げた。そこに、先ほど凶報をもってきた魔法師がまたやってきたので俺が応対する。

「ああ、ジャラシン殿は一人にしてほしいそうだ。俺が聞いて伝えるよ」


「ええ、そうですか。御父上が亡くなったわけですからね。またミーゼル隊長からです。捕虜にした襲撃者から聞き出したそうです。彼らは王国の暗部の者で、10日ほど前に伯爵の暗殺を狙って商隊としてシーダルに着いていたそうです。

 それで、伯爵が城に帰られたので暗殺に踏み切ったということです。

 商隊は全部で10人だったようです。暗殺者は5人でしたが、尋問した者を除いて死にました。商隊の残りの者も拘束するそうです」


「ありがとう。でも、せっかくだから直接報告してもらおうか。ちょっと待って」

 俺はジャラシンのいる部屋をノックして返事を待って、ドアを開けて報告に来た魔法師を中に入れる。部屋の中で、彼がジャラシンに報告する声が聞こえる。やがて、ドアが開いて、ジャラシンが俺とコーナンを招く。俺は更にカリューム侯爵父子も迎えに行かせ、彼らも入ってくる。


「今回の暗殺団をシーダルに送ったのは、ミザラス公爵を中心とする王国政府であると私は信じる。そして、私は新たな辺境伯として、今後のことを考えても父の死に対して報復をすべきであると考える」

 領の魔法師を横に立たせて、ジャラシンは言ったが、その目の奥は怒りに燃えている。


「うん、妥当なところだね。好むと好まざるにかかわらず、王国の残部に関しては今後も係わらざるを得ない。その場合に指導者を暗殺されて、その暗殺者を送り出した相手が明らかにも係わらず、報復しないのは今後に悪い影響があると思う。ただ、王太子もその対象とも考えられるが、王族への報復はやめておいた方が良いように思う」


 俺の考えを言うとジャラシンも同意して言う。

「王族に関しては、私もそう思う。この際は、ミザラス公爵に責任者として全てをかぶってもらおう。公爵の王都の屋敷・さらに王都に隣接する彼の領の領主館を更地にする。ただ、彼本人を見つけるのは難しいと考えられる。だから、彼が代表とするに王国政府への懲罰として、王宮の中央宮殿を廃墟にする」


 俺には異論はなかったが、カリューム家のパイロムがためらいながらも反論する。

「し、しかし、王国の象徴の中央宮殿を破壊するのは……」

 しかし、それに対してカリューム侯爵が息子の言葉を否定する。


「いや、もはや王国の寿命は尽きた。王国は長く停滞、いや衰退の道をたどっていた。そこで、我が領はカロンを中心として、何とか商において栄えようとしていた。さらに、シーダルイ辺境伯家において、それ以上に大きな変革と繁栄の道が開けようとしてきた。

 王国政府がそれを活用しようとすれば、王国全体が栄える道はあったのだ。しかし、ミザラス公爵は王太子を焚きつけてそれを取り上げて、自らの利益のみのために富のみを吸い取ろうとした。その態度が無ければ、われらも裏切りの道を選ぶことはなかったのだ。


 そして、もはや我らは選んだのだ。もう後戻りはできぬ。ミザラス公爵は王国軍として我らを討伐しようと大々的に王都を進発したが、我らが差し向けた部隊に脅されてすごすごと引き返した。

 全ての民がそれをみていた。そして、ミザラス公爵を中心とした勢力は王国の暗部を動かして、我が盟友の辺境伯を暗殺した。

 ミザラス公爵が象徴する王国政府への報復として、その象徴たる中央宮殿を破壊することは彼に対する報復としてふさわしいと思う。そして、それは王国の滅びの終章として歴史に刻まれるだろう」


新しい連載を始めました。よかったら読んでください。

「異世界の大賢者が僕に取り憑いた件」という題名です。

作者名から入って下さい。

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2025年、12/17文章修正。


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