表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の冒険  作者: 黄昏人
第5章 俺のために地球世界と異世界は混乱する
43/84

イミーデル王国争乱の始まり

読んで頂いてありがとうございます。

 俺はジャラシンの連絡で、シャイラを連れて、すぐさまシーダルの屋敷に戻った。シーダルにはハウリンガ通商の事務所があって、ゲートにまたがった通信ターミナルによって日本とはメールで繋がっているのだ。


 その連絡は、あらかじめ予想されていたように、いよいよ王都イミーデにおいて、軍の招集が始まったというものだ。すでに、3か月前に王国の税制といくつかの制度が改定された。その内容は、商工業の収益に対して領から大幅な国への増税と、新たな技術あるいは工夫は国に公開して国が自由にその用途を決めるというものである。


 加えて、ジャーラル帝国など海外の国との取引はすべて国の許可制とするということで、当面現在の取引は審査が済むまで全面禁止となった。これらの措置は、新技術によって商工業で経済成長著しいシーダルイ伯爵領と、カロンを抱えるカリューム侯爵家及びその周辺の同調している貴族家にとっては大幅な増税になることになる。


 さらに、ジャーラル帝国との貿易で大きな利益を出しているところに大きな痛手となる。そして、これは結局、王国中枢部に反抗的な両家をたたきのめそうとするもので、その措置に呆れ怒っている辺境伯家、カリューム侯爵家及びその同調者に対して、その反抗の暴発を待っているというものである。


 それに対して、両家は無視し黙殺してきた。拒否のアクションは起こしていないものの、税の納入はまだ半年以上先のことで、ジャーラル帝国との貿易は全く止めていない。それに対して、国から派遣された勅使が、貿易港を管理している両家を詰問してきたが、すでに契約があるものは止められないとの一点張りで拒否している。


 これに対して、王都においてある諜報部からの連絡では、王国軍に加え、ミザラス公爵家など20家に余る貴族家が私兵の動員を始めているという。さらに、辺境伯と公爵本人の召喚を通告してきた。このことで、ジャラシンが俺を呼び出したのだ。


 集まる場所は、カロンにあるカリューム侯爵家であるが、これは王都からシーダルイ領に行く途中にカロンがあることから当然であり、王国軍も当然カリューム領から攻めかかることになる。


「それで、王国政府には返事は出したのでしょう?」

 挨拶の後俺が尋ねた。部屋には主のカリューム侯爵とその嫡子、パイロムそれにシーダルイ辺境伯本人と嫡子ジャラシン、さらに侯爵家の家宰のダマンザイ子爵、辺境伯家の家宰のクルマ・ドノン子爵が同席しているが、シャイラは実家に帰している。


「ああ、連名で出した。縁切り状だ。ジャーラル帝国に鞍替えするとな」

 侯爵が答える。

「ほお!思い切りましたね。帝国には?」

 俺の問いにジャーラルが答える。


「むろん。外交府の第1次官ミシュレーネ・ドナスに確認済だ。大歓迎とさ。ただ、カザミードを5機売って欲しいということだ」

 ここではハヤブサをカザミード(ハウリンガ語で鷲)と呼んでいる。

「はは、まあしょうがない。直接戦力としてはあまり意味のない10機以内だったら売ってやるよ。援軍のことは何か言っていたか?」


「ああ、カロンの防衛だったら、海軍の艦と海兵隊5千人だったら出してもいいと言っていたぞ。それとシーダルイ防衛戦だったら、陸軍を5万人は出せるっていうことだ」

「まあ、あっちもアジラン帝国のことがあるからな。とは言え、こちらで何とか出来るんだったら、極力手は借りない方がいい。それで、どうです、地球の傭兵をそう150名位雇うというのは?多分金が200カラ(㎏)程度で雇える」


 俺の言葉に辺境伯が応じる。

「うむ、それは良い。ただ、わずか150名の傭兵が王国軍に対抗できるのか?王国軍の兵力は全軍ではないが、今のところの予想では7万を越える。それを打ち負かせるならば、200カラ(㎏)の金も全く惜しくはないが」


「はっきり言えば自重せずに戦えば、絶対に勝てる。伯爵に侯爵も、小銃と無反動砲の試射を見たでしょう?1ケラド(㎞)離れて対峙した場合には、敵が走って近づく前に無反動砲は千発撃てるし、銃は200ケラ(m)離れたところから有効射程に入るが、その距離から近づく前に大体一人が100発は撃てる。

 そして、それは傭兵だけの場合だ。別途同じ小銃を1万丁と弾を80万発、無反動砲と200基と弾を5千発送り込んだだろう? シーダルイ領の領兵2千人はすでに小銃と無反動砲は訓練済だし、カリューム領兵2千人はまだ訓練は始まったばかりだが、兵として訓練された者なら1週間も訓練すれば使える。

 傭兵はさらに軽機関銃、重機関銃を持っているし、そうした武器の扱いに熟達している。逆に言えば、私が用意した武器を使っても、傭兵の助けなしには7万の兵力相手では少々危うい」


 俺は一旦言葉を切って、皆を見回して言葉を続ける。

「自重せずと言ったが、相手がいつもの戦いのように攻めてきたとき、傭兵と、あなた達の部下が持っている武器を自重なしに戦えば、たぶん最初の1/10刻(12分)で王国軍の1万人は死傷して倒れ、戦闘に耐えられなくなるだろう。

 そして人は正面からの吹き付ける自分を間違いなく殺す全面的な砲撃や銃撃に耐えられない。だから、その時点で王国軍は崩壊するはずだ。我々も将軍や大隊長に中隊長などの幹部を積極的に殺るから、余計崩壊は早い。ただ、その場合は5千人が死んで、5千の手足を失うような戦傷者が発生するだろう。普通の戦いで数千が死ぬことは少ないだろう?」


 俺の言葉に、室内のものは顔色を変えて沈黙する。実際のところ弓や槍また刀で相手を殺すことは容易ではない。だから、銃や大砲が現れる前の戦争の死傷率はさほど高くはなく、適当なところで片方が逃げ出して終わるのだ。しかし、銃器で攻撃するのは、刀剣に比べればはるかに容易であるし体力を使わない。


「うむー、帝国に鞍替えするまでは同じ国民だしのう。多分今回は農民兵の徴兵ではないが、いい職場と思って加わっている一般の兵士には恨みはないし、彼らは命令に従っているだけだものな」

 侯爵があごをさすって言うが、嫡男のパイロムが反発する。

「父上!相手は徴兵の農民兵が加わらない7万人もの精鋭です。そのような甘いことは言っていれば、こちらが食われる」


 それに対して、より事情を知っているジャラシンが口を挟む。

「いや、パイロム殿。ケンジがこう言うのは、勝てるのは確定しているからだ。実際にこちらのある程度の被害を甘受して、相手のことを考えなければ、我が領の無反動砲を加えた4千の銃兵で7万の相手を蹂躙することは可能だ。増して、我らには貴領の訓練中の4千があるから、過剰ともいえる戦力だ。

 だから、出来るだけ相手の損害も少なく決着をつけたいということだ。とりわけ命令に従っている平民の兵についてはな。私の見方では将来、今度敵対する貴族家や王家も、結局はジャーラル帝国に加わるはずだ。その同じ仲間になる連中を出来るだけ傷つけたくないというのは当然だと思う」

 

 そこまで言って、彼は俺の顔を見て続ける。

「我々は貴族の子弟として、幼いころから武芸を磨いてきた。今回敵対するはずの王国軍にはそのように営々と訓練してきて、我らが敵わぬ強さの兵士や将が大勢いるはずだ。しかし、ケンジが持ち込んだ銃や無反動砲を使えば、まったく普通の兵士がいかなる武術の名人も簡単に蹴散らし殺すことができる。

 そして、そのような道具は我々が開発したものではなく、持ち込まれ与えられたものだ。しかし、今我々の置かれた立場は、反撃しなければ滅ぼされるというものだ。だから、当然我々はこの与えられた武器を使うよ。だけど、そこで将来たぶん仲間になるもの達の犠牲をできるだけ少なくしたいと思うのだ」


「フーム、それほどのものか。ケンジ殿が持ちこんだ武器は?わしも試射は見たが、兵の訓練はまだ見ていない」

 カリューム侯爵の言葉にジャラシンが応じる。

「侯爵閣下。それほどのものです。わたしは何度も自ら指揮をとってみましたが、それらを装備して十分な弾を持った4千の兵に、いかに大勢でも弓と槍と刀しかない軍では勝てる要素はありません。しかもそれを自由自在に操る傭兵が加われば………」


「そういうことです。私も戦いには勝つことが条件ですが、出来るだけ犠牲を少なくしたいと思っています。しかし、実際に自分でその兵器を持った兵を動かして、その有用性をジャラシンは理解していますが、王国軍は自分が体験するまでは理解しないでしょうね。ジャラシン、説明は任せる」


 ジャラシンに続けて俺が言って、彼に準備していた作戦の説明を任せる。すでに、ハウリンガの衛星写真をつなぎ合わせた画像は完成しており、イミーダル王国・ジャーラル帝国については街や道路、河川、山、池、平野などの主要な地名は入っている。

 これらは、当然コンピュータに入ったデータなので、すでに用意していたプロジェクターからの映像を部屋の壁に映し出す。


「そこで、私の提案はこうです。場所はここ、カロンから西に30ケラド(㎞)の位置の峠です」

 俺がプロジェクターを操作して、イミーダル王国全体が入る画像を映して、その位置を〇で囲むとジャラシンが言う。続けて俺はその付近を拡大していく。


「これが、王都とカロンを結ぶカロン街道ですが、このように曲がりくねった王都側の登りと、比較的まっすぐのカロン側の下りになっています。そして頂点は2つの尾根に囲まれた比較的なだらかな地形です」

 ジャラシンが説明していくが、今日の聴衆はいずれもこのマップを見たことがあるものの、このように自由に操るところを見るのは始めてだ。だから、操作の都度、控え目ながら感嘆の声があがる。


「王都からカロンに至る街道で、カロンに比較的近くて待ち伏せに都合の良い場所はこのプセセ峠のみしかないと思います。それに、この街道は海側にう回路はありますが、険しく狭くて大軍の通行には明らかに不向きですので、間違いなく王国軍はこの街道を通るでしょう」


 侯爵がそれに対して同調して頷き、付け加える。

「うむ、その通りだ。それに王国軍はそれほど苦戦するとは思ってはおらんだろう。我ら2家と寄子を入れても直轄兵力は1万人余りで、徴兵しても合計2万程度と見ているはずだ。その程度は徴兵が含まれない7万の兵力なら鎧袖一触だと考えるな。だから、ごく普通にやってくるだろうな。

 ただ、間違いなく斥候は放つだろうが、我らの兵力が実際には8千強と知れば、なおさら油断するだろうな。1/10足らずの兵力が立てこもる間に合わせの砦が脅威とは思わんだろう」


「王国軍の指揮は、第1軍から第3軍まである内の最精鋭であり、大将軍である第1軍司令官のゼルドール将軍が執ると考えています。ゼルドール将軍は手堅く勇猛ではありますが、策謀を巡らすタイプではなく、今回は兵力においても王国軍が上回ることは確実です。

 なので、峠に我々が立てこもっているのを知れば、強攻策をとるでしょう。そして、この映像にあるように我々は峠の最頂部の街道沿いの両側に各々長さが500ラド(m)ある砦を築き、更に両側の山頂に櫓をそれぞれ10か所設置します。街道そのものには門を設けますが、商人を止めたくはないので、戦が始まるまでは通行はできるようにします」


 その等高線の入った地図に街道、砦、櫓を配置した画像を各々見入り、やがてパイロムが口を開く。

「砦の壁は丸太で、高さは3ラド(m)だから割に低いよな。だから梯子があれば簡単に登れるが、低すぎはしないだろうか?」


「いや、銃を持った兵がびっしり張り付いている壁を昇れるとは思えんが」

「うむ、丸太の壁を火魔法や火矢で燃やすことは?」

「いや、生の丸太を使うので、なかなか燃やすのは難しいと思うぞ」


「この櫓は街道から1ケラド(1㎞)、も離れているようだが、高さは街道より100ラド(m)ほども高い。ここに銃手を配置するのだろうが、なんでまたこのように高くて遠い位置に櫓を作るのかな?」


「実はこの櫓こそが、相手の犠牲を減らす工夫なのです。この櫓の上に傭兵を配置して、まずは軍の中枢部を狙います。将軍と参謀及びその周辺ですね。今回の遠征には、彼らの総大将のミザラス公爵と取り巻きの貴族連中が加わるという話がある。彼らには真っ先に散ってもらいましょう。

 それから、あまり兵に当てないように無反動砲を乱射しますから、兵は逃げ始めるでしょう。それを引き留めようとする連中を順次狙撃します。さらに、上空からカミザートでこのように放送します。

『こちらは、カリューム侯爵家とシーダルイ伯爵家の連合軍である。カロンに近づくことは許さん。去る者は追わないし、銃撃もしない。前に出るものは打ち殺す。我々は君らを殺したくはない。直ちに峠を下って去れ!』

 我々の予想では、さほどの犠牲が出ないうちに王国軍は崩壊するでしょう」


 ジャラシンの言葉に暫く沈黙が落ちたが、シーダルイ辺境伯が口を開く。

「うーむ。ゼルドール大将軍が真っ先に死ぬのか。ハハハ、あいつは有能ではあるが、嫌な奴だったな。なあ、カーマル(侯爵)」


「ああ、嫌みな奴だった。強くてなあ。俺たちは剣での槍でも勝てないものだから、俺らにとっては余計嫌な奴だった。ちなみに、王太子は来ないだろうな。あれはミザラスに好きなように操られていることからも判るが、あまり利口ではないものの悪人ではない。彼を真っ先に殺すのはいささか気が咎めるぞ」

 侯爵の言葉に辺境伯が応じる。


「今更だよ。俺が知る限り王家は碌な政治をしてきていない。俺も殺したくはないが、ミザラス公爵について来るようだったら運が悪かったと諦めてもらうしかない」

 そこで、俺が口を挟んで話題を変える。

「ところで、少なくともカロンとシーダルの間の貴族は味方にしたいところですが、そのあたりはどうなんですか。なにか動いていますか?」


「うん、君の妻の実家のロリヤーク家は無論我が家の寄子になったから問題はない。ロリヤーク家といろいろあったマルガイ伯爵家も、最近の我が家の経済発展ですり寄ってきたから、こっちに引っ張り込んだ。シーダルイ領との間には2伯爵家とその寄子がいたが、彼らもこっちに同調したよ。

 彼らも豊かになりたいのは変わらないからね。それに、シーダルイ領での銃と無反動砲を使った演習を見せたらたいして苦労はしなかった」

 カリューム侯爵が俺の問いに答えた。


2025年、12/17文章修正。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ