燃えゆく森 2
我は放火犯の前に舞い降りる……前に、近くの倒れ伏したゴブリンたちのところに来た。
「うぅ……すまねえ……止められなかった」
「よい。生き残ったならばそれも勝利よ」
ジェイクは黒焦げだ。
これで死んでないのが不思議なくらいであった。
「太陽の光よ、生命を育みその傷を癒せ……【サンシャイン・キュア】」
ジェイクの体が光に包まれ、黒く焦げた皮膚が生まれ変わっていく。
やはり隠蔽のようなテクニカルな魔法より回復魔法や攻撃魔法の方が楽しいの。
「……すまねえ!」
復活したジェイクが槍を持って立ち上がり、我の前に立った。
「よい。よく立ち向かった。我が代わろう」
「気を付けろ……やつは、魔法使いじゃない」
「む?」
「何がなんだかわからねえうちに燃やされた……っ来るぞ!」
ジェイクの言葉と同時に、謎の少年が我に右手を突き出した。
その瞬間、我の体が突如として燃え上がった。
「あなたが新しい森の主だね……しかも大いなる神を僭称しているとは度しがたい。燃やし尽くしてあげよう」
「ソルフレア様!」
火の柱が勢いよく燃え盛る。
うむ、これは、少々熱い。
「確かにこれは不可思議じゃな……魔力がまったく感じられないのに燃えておる。しかも杖や手から火を出したのではない。突如として炎が現れた」
我はすでに竜の魔力を身に纏っている。
以前、ラズリーと戦ったときよりも少し精度が上がった。無駄な魔力の放出を抑え、薄い膜のようにして身を守っている。皮膚はもちろん、服も、髪の毛の先端さえも、ダイヤモンドのように硬く絹のようにしなやかで動きを妨げることもない。服を燃やして怒られることもないしの。
「な、なんなんだ、あなたは……どうして僕の炎が効かない……!?」
「なるほど。魔術的な防御を貫いて発火させる力であるがゆえに皆、黒焦げになっておったか。これは……よもや、一種の異能の力かの」
「くっ……舐めるなよ……」
「やめておけ。恐らく脳に負荷が掛かる。死ぬぞ」
我の制止も聞かずに少年は再び右手を突き出した。
その手の先の空間が、ねじれる。
青白い炎がうねり、球体と化した。
いや、青色さえも消え果てて、ただの閃光となる。
「凄まじい炎じゃ。これは下手な高等魔法よりも凄かろう。王にも匹敵するやもしれぬ、が……」
「怖気づいたか……!」
「なんで我がそんな技をボサっと見ておらねばならぬと思う」
爪を剣のように伸ばして斬撃を放つ。
少年の右手が宙に舞い、鮮血が円を描いて飛び散る。
「あ……え……?」
「直球勝負を受けて立ってもよいが、服が焦げるのは困るのでな。それに森を燃やすそなたの勝負など受ける義理もないわ」
少年は呆然として、宙を舞って地に落ちた腕を見つめていた。
そして何が起きたかを理解し、絶叫した。
「ぼ……僕の、腕がぁ……腕がああああ!」
「あまりにも大きな攻撃力にあぐらをかいて奇襲ばかりで、尋常な立ち合いの経験が薄い。火属性の魔法使いにありがちな傾向だが、そなたは特に強いようじゃな」
そして不発となった炎の弾を受け取って圧縮する。
凄まじい熱の塊を、ひょいと口の中に入れた。
「な、なっ……なにを……!?」
「火は竜の餌。だからこそ火山や太陽こそ竜の巣である。知らぬのか?」
他人の魔力によって生まれた炎は取り込みにくいが、異能で生まれた炎は自然の炎に近い。うむ、悪くはない。
「ば、化け物……」
「我のような美少女を異能使いが化け物扱いするとは、なっておらんな」
異能、という力がある。
魔物には恐らくない。人間や一部の獣だけが偶発的に持ちうる力だ。
血筋などには関係なく、数百万人や数千万人の中に一人程度の稀な確率で、突然現れる。
理由はわからぬ。獣人や竜人、あるいは魔物のように、この世界に適応した存在にはない、進化の可能性の発露であるとも言われるが、定かではない。
そして、総じて強い。
同時に、強すぎるがゆえの脆さを抱えている。
「ふっ……ふざけるなぁーッ!」
敵意をぎらつかせて我をにらみ、なくなった腕を我に向けた。
心折れぬのであればあっぱれだが、どうもそうではなさそうだ。
「よせ。暴発するぞ。恐らく右手で照準を付けているのであろう?」
「そんな未熟者と一緒にするな……!」
「なにっ!?」
炎が溢れ出たと思いきや、それは我に襲いかかるまえに凝縮し、一つの形となった。
腕だ。
失った腕を炎で補っている。
「もうよせ……本当に死ぬぞ。我がおぬしの仇というわけでもあるまい」
「……『新世界の子』のために」
「『新世界の子』?」
聞いたことがない。人の名前か、組織の名前か……。恐らくは後者かの。
「食らえ……!」
炎の手で拳を硬く握り、思い切った大振りで我に襲いかかる。
その膨大な熱と拳の大きさは凄まじい威力を孕んでいる。
先ほど、我を燃やしたときの倍以上の力があるだろう。
失ったものの大きさと痛みで、レベルアップしたのやもしれぬ。
「……それでもまだ甘い。獣のように心を振り切れてはおらぬ。どうせなら指を開いて握りつぶすように焼けばよいのだ。その範囲の広さを利用して逃げ場を塞ぐ方が理に叶っているであろう」
「ぐっ……!?」
炎の拳を受け止め、爪で切り刻む。
これならば勝てるという決意の形ならば、それごと潰す。
奴は炎を飛ばして爪を防ぎ、あるいは陽炎のように揺らめいてこちらを幻惑する。
一合、二合と爪と爪を合わせる。
急ごしらえの戦闘にしてはセンスはあるが、無駄だ。
「ぐわっ……!」
炎の拳を放出する力が弱った隙に、胴体を殴りつけた。
やつの体は衝撃を殺せずに、真後ろの巨木に叩きつけられる。
「敗北を認めるならば目は残してやろう。異能は魔法とは異なり、感覚器官による制御を失えばお前はお前の炎で焼かれるぞ。お前はお前の中の世界にしか見えなくなるからの」
爪を、こやつの眼前に突きつける。
あと1ミリでも踏み込めば眼球に突き刺さる距離だ。
「ひっ……」
「……わかるな? これは温情であるぞ。首を垂れ、命乞いをしろ」
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