表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/52

ユールの絆学園 9


 シャーロットはソルと別れた後、ある部屋へと向かった。


「ああ、お戻りになられていたのですね、父上」


 扉を開け、その部屋の主に白百合のような笑みを向けた。


 ここは、この『ユールの絆学園』の執務室である。この部屋の主は常に多忙で、誰かがいることは少ない。いつも『ユールの絆』の最高幹部の一人として様々な街を回り、信徒の活動の監督をしている。学園長を兼任していると言えども、その椅子に掛けることのできる日は少ない。


 だがそれでも機会があれば常にここへと舞い戻っている。ここは彼……学園長にして、ユールの絆最高幹部の一人、ベルグトゥーの理想を体現した場所だからだ。


「やあ、シャーロット。長く留守を任せてすみません」


 落ち着きのある、渋みのある声が響く。

 身長が高いだけではなく、体に厚みがある。

 強さ以上に頼り甲斐を感じる姿に、シャーロットはこの上ない喜びを感じていた。


「いいえ、父上。お力になれたならば、これほど光栄なことはありません」

「その心遣いが嬉しいよ。……ところで、皆の様子は?」

「生徒の皆は元気に頑張っています。辺境からも体験入学の子が来ていて盛況です」

「『恩恵』を与えるに足る者は、現れそうかい?」

「ええ。見所のある子はいます。まだ幼く、親もいるのでこちらに引き入れるのは少々難しいとは思いますが……」


 シャーロットの逡巡に、ベルグトゥーは慈愛の笑みを浮かべる。


「焦ることはない。我らの理想に共感してくれるかどうかは腰を据えて考えねばね」

「はい! それと、その、父上……お願いがございまして」


 シャーロットがもじもじと恥ずかしそうに言った。


「何かあったのかい?」

「そろそろ、お仕事があるならば……と思いまして。妹や弟たちの様子も心配ですし」


 その気恥ずかしそうな態度に、ベルグトゥーはにこやかに笑った。


「シャーロット。きみの願望を妹たちの願望とすり替えるのはよくないぞ」

「えへへ……すみません」

「だが、聖なる御業に邁進するのはよきことだよ」

「はい!」


 ソルと話していたときとは異なる、爛々とした輝きがシャーロットの目に宿る。


「怠惰な人間、怠惰な魔物、ともに太陽神の裁きを与えなければならない。そのためにこそ暗黒領域を我々が手に入れなければ」


 ソルフレアを太陽神と崇める『ユールの絆』。


 そもそも彼らは賢神教を棄教したアウトサイダーたちであり、社会の片隅で生きる、その名に反した日陰者たちに過ぎなかった。竜の時代や獣の時代に憧れを持つ人間や、神話を読んでソルフレアの壮大さに惚れ込んだ人間のみならず、様々な理由で信仰を捨てて棄教した者たちや、故郷を追われた者、家をなくした者たちの寄り合い所帯だった。


 そんな彼らを纏め上げ、神殿を建て、学校を経営し始めたのがベルグトゥーだ。街の人々からは不良や愚連隊を更生させた篤志家であり、『ユールの絆』の教徒たちにとっても頼れる指導者だ。


 だが彼には、野望があった。


「弟、妹たちは順調に入り込んでいる……が、予想できない変化が起きつつある。彼らへの援護となるが……できるかね?」

「もちろんです。何度も潜っていますから」

「焔から報告が上がってきた。どうやらラズリーが何者かに倒されたようだ」


 シャーロットは、その言葉に驚いた。


「まあ……どこかの小国が戦争でも仕掛けたのですか?」

「いいや。新興勢力のようだな。竜の力を使うことに間違いはないようだが、死体啜りの森にいる者しか姿はよくよく見ていない。ラズリーの配下たちは皆、新たな森の主の配下となった」

「竜の力、ですか……」

「ソルフレアを騙ってラズリーを騙し討ちし、手下の魔物たちを隷属させた邪悪な魔物だという噂もある」

「なんと不遜な……捨て置けません」

「焔は単独で死体啜りの森に行くようだが……不測の事態も考えられるだろう」

「しかし私と焔が共に行動するとなると……少々、手荒なことになると思いますが。森が燃えてしまうかも」

「もちろん構わないさ。太陽神に与えられた恩恵、存分に振るいなさい」


 彼は、太陽神の預言者……神の言葉を預かる者と呼ばれている。

 同時に、神の力を預かっている。

 己を信仰に力を分け与える、大自然の化身にのみ与えられた偉大なる力……力を与える力だ。


 ベルグトゥーの右手が光り輝き、その手がシャーロットを優しく撫でる。


「……ふむ。しっかりと鍛えているようだね。貢献度も十分だ。位階(レベル)を上げても問題はあるまい」

「あっ……ああ……ありがとう……ございます……!」

「【覚醒(アウェイクニング)】」


 そして光は、シャーロットへと吸い込まれていく。


「……赤き手と言われているようだが、君の手は美しい」


 光がやがて治まる頃には、シャーロットの体には獰猛なまでの力が宿っていた。


「さて、それでは門を開こう。そして穢れた者共を蹂躙してくるんだ」


 ベルグトゥーが指を弾くと、その部屋の鏡に不思議な光景が写りだした。

 その先にあるのは鬱蒼とした森があった。

 異なる世界に繋がっているかのような奇妙な光景に、シャーロットは獰猛な笑みを浮かべた。


「はい、父上の御心のままに。そしてユールのために」


 シャーロットは制服を脱ぎ、仮面を被る。

 そこに、ソルを慰めていたときの慈しみ溢れた姿はなかった。




ご覧いただきありがとうございます!

もし面白かったときは、下部の☆☆☆☆☆を★★★★★に押して

評価をして頂けると、とても励みになります。

また、ブックマーク登録もぜひお願いいたします。


他にも面白い作品を読んだときはぜひ評価を押してあげてくださると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ