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ユールの絆学園 8


 シャーロットちゃんがはにかみながら答えた。


「ああ、と言っても血の繋がりはないんですけどね。私は親を亡くして、教団に引き取られたようなものですので。だから父や母のような人や、兄弟姉妹のような子たちはたくさんいて……その人たちのことを思うと、胸が温かくなるんです」


 不思議と胸に響いた。


 家族ではないが、家族のようなもの。

 その言葉に照れはあっても、気負いや暗さはない。

 どこか誇らしげな表情さえ見えた。


「我は、拾われた子じゃ」


 気付けば我も、自分のことを話し始めた。

 シャーロットちゃんがはっとした表情を浮かべた。


「……そうなのですか」

「パパとママとは血が繋がっておらぬ。村の者は皆知っておるし、特に隠すことでもない。だというのに我は、パパとママを家族であると疑ったことなどない。パパとママは、パパとママであった」

「……私もです。家族は、家族です」

「ただ世話をしてもらった分は恩を返さねばならぬと思うし、早く独り立ちせねばならぬ。だが妙に上手くいかぬのじゃ。いつも冗談と思われたりするし、真面目な話に持ち込めても『そんなに慌てるな』と言われる。でも今回は、学校に行け、外の世界を見ろと言う。不思議じゃ」


 我が記憶を取り戻して竜の力を発揮したときも、我の行く末を心配していた。


 確かに我は、赤子であり子供であった。

 心配も掛けたであろう。

 だがいずれ旅立つならば見送るものではないだろうか。

 見送らないのであれば、なぜ道を示そうとするのだろうか。


「……そんなの簡単ですよ。あなたのパパとママは、あなたが大好きだからです。あなたがパパとママを大好きなように」

「おかしいではないか。ならばそのまま日常を続ければよかろう」

「好きだから成長してほしいし、旅立ってほしい。でも好きだから別れがたいし寂しい。そんな気持ちなのではないでしょうか。あなたのパパとママも、きっとあなたのように、我慢しているんだと思います」


 そんな理屈に合わぬことがあるかと言い返したくなったが、できなかった。

 我は、旅立ちたいけど、旅立ちたくはないのだ。


 我は強くなりたい。

 パパとママがおらずとも強く生きていけると証明したい。


 だが別離を望んでもいない。

 そんな都合の良い答えなどないとわかっていても、求めてしまう。


「……矛盾していますよね。でも、それでよいのではないでしょうか」

「そうなのであろうか」


 我の疑問に、シャーロットちゃんは答えなかった。

 答えてほしいわけでもなかった。

 答えと許しを与えられるのはシャーロットちゃんではなく、パパとママだからだ。


「シャーロットちゃん」

「なんでしょう?」

「我はそなたの事情は詳しくは知らぬ。我の知らぬ不幸がその身に起きたのだろう」


 人の世は色んなことが起きる。

 我や魔物から見れば呆れるほど複雑で意味不明だ。

 獣のように気高くシンプルに生きていけばよいのにと思うことがたくさんある。

 だがそれでも、その複雑さの中に生まれる不思議な繋がりを、心地よいと感じるときがある。


「しかしそなたは優しい。優しいということは、そなたはきっと今の家族が好きで、今の家族から好かれているからなのだと思う」


 我の言葉に、シャーロットが嬉しそうにほほえみを浮かべた。


「ありがとうございます、ソルさん」

「さんなど付けずともよい」

「では、ソルちゃん」

「うむ」

「私たち、似ているのかもしれませんね」

「……そうかのう?」


 我は我の可愛らしさと強さに一点の疑いも抱いてはおらぬが、シャーロットちゃんの楚々とした綺麗さは持ち合わせてはおらぬ。こればかりは認めざるをえんだろう。


「私もなんだか、父上の顔を見たくなってきました。ソルちゃんみたいにたまには甘えん坊になりたいです」

「わっ、我は甘えん坊ではないわ!」

「悪いことじゃありませんよ。甘えるのも甘えられるのも、幸せなことなんですから」

「それは断固として反対するのじゃ。我は早う、甘えずに済む一人前になりたい」

「……そうですね。一人前になって、恩を返したいです。こうしてお友達ができたことも教えたいし、元気で頑張っていることも、見せてあげたい」

「お友達……」


 そういえば、この学園にはエイミーお姉ちゃん以外に友達はおらぬ。

 ゴライアスくんは犬目当てなのでお友達扱いしてよいかはわからぬし。


「そうじゃな! 我と、そなたは、今日から友達じゃ!」


 我はそう言って手を伸ばした。

 シャーロットちゃんが我の手を取る。


 村の外で、初めてお友達ができた。




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