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「すみません、貴方は?」
ついタモトさんの話題になり意地を張ってしまう口調になってしまった。
私の事を聞いてくるユキアと言う娘も怪訝そうに見つめ返して聞いてくる。
本当なら、会った人達の第1印象を良くして、村の人達に受け入れられなければならないのに頭の中で後悔してしまう。でも、あの横顔を見たら黙っておれなかったんだもの。
「アイナ・ハーリンです。タモトさんとはアロテアのギルドで一緒に色々教わりました」
「そうですか、私もタモトさんには色々手伝ってもらって助かってました。でも、良かったです。ギルドの人が二人も来てくれたなら、タモトさんの仕事も楽になりますよね。慣れない役割に大変そうなのに、治療院の方も手伝ってくれると言ってくれてはいたんですが気になってたんです」
何なの?タモトさんがこれから忙しくなるって当たり前じゃない。治療院の方の手伝いって、無理に決まってるじゃない。それに、この村にそんなに病人や怪我した人が多く居る訳?
「あぁー、これからタモトさんも忙しくなると思いますよ。今も村の事情説明に首都に行ってる訳ですし、戻って来たらギルドの事で色々決める事も有りますし。そうですよねっ?ジーンさん」
「えっ?ええ、そうね」
ジーンさんはカウンターの中から、私達二人のやり取りを聞いていたみたいだが、急に話を振られ簡単に返事を返してくれる。
「むっ、慣れない仕事ばかり、タモトさんに負担をかけさせないでくださいね?すぐ無理をしようとするので、きちんと休養を取って休ませないと。それに、首都に行くなんて連絡してくれてもいいのに」
「タモトさんも自分の役割を一生懸命に頑張ってましたし、そんな余裕なんて無かったんじゃないですか?」
それに何?連絡くれて当たり前みたいな態度。この娘タモトさんの何な訳?
「それは、ギルド側がタモトさんに頼り切りだからじゃないんですか?だから負担がタモトさんに回ってくるんです!」
「しょうがないじゃないですか!中央から事情を聞きに来た人が居て、丁度タモトさんが居たんですから。誰も代われる訳ないじゃないですか!」
「それなら、村に連絡でもしてくれれば詳しくまとめて報告出来るのに。そうしなかったのは、やっぱりタモトさんを特別頼ってた結果じゃないですか!」
「うっ……」
何なのよ!時間が十分に有ったならそうするわよ!相手の方も急いでいたし、アロテアのギルドは色々大変でそれどころじゃ無かったんだから。
「よお、村長が皆に顔合わせするんだと。呼びに来た……ぞ?」
まったくターナーってなんでこんな間の悪い時に来るのよ。
そういうターナーは、店舗側から入ってくると私とユキアが向き合い話している状況をみて驚いた表情をしていた。
「あんたがユキアか?同時に新しい宿屋についての意見も聞くそうだから、ここに居るはずだと聞いたんだが」
「え?そうですが」
「意見って宿屋の中の作りですか?」
え?凄い!思い通りに作ってくれるって事?
「そうだろう?他に何を話すんだ?」
「ジ、ジーンさん!私も!私も参加していいですか!?」
「ええ、もちろんよ」
やった!念願の……と言っても、馬車の中で色々考え(妄想し)たのだ。私の席は、タモトさんの一番近くにとか、二人で腰かけ食事をするテラス付だとか。
もう構造上ギルドには見えなくても、それが一番大事だったりする。
『マスター(ご主人様)、書類に目を通してもらって良いですか?』
妄想上の私の姿が、ジーンさん並に長身のグラマー美女になっているのはしょうがない事である。「マスター」の意味も、私の心の中だけの声だから大丈夫だ。
タモトさんの胸のポケットの中に居る、水の精霊も今はヌイグルミに見える。
『あぁ、ありがとう。もうこんな時間か道理で暗いわけだね、帰っても良いよ?』
『いえ……マスターこそ、最近帰られてませんよね?』
『みんな頑張ってるからね、でも、アイナのおかげで今日は帰れそうだよ。でも、まいったな。最近帰ってなかったし、帰っても食べ物を買い忘れてるよ。男一人はこういう時駄目だよなあ』
『……それなら私が……作りましょうか?』
『え?それって……』
『そういう事です』
空想の中で、仕事を終えて帰る二人の陰が一つに重なって家路を帰っていったのは言うまでもない。それから先の想像は経験の乏しい私にはピンク色で想像できなかった。
もちろん、空想の隅の端にユキアが羨ましそうに私達を見ていたのは言っておこう。
「ねえ、アイナ?大丈夫?」
「うふ、うふふふ。……へっ?」
ジーンさんに尋ねられ、気が付くとキイア村のメインストリートを歩いていた。いや、確かに両側に古い店舗が並んでいるだけだけど、私の中ではメインストリートに決定したのだ。
私達はターナーの先導で、話し合いが行われると言う場所へ向かっていた。その隣には、ユキアが怪訝そうにこっちを見ていたので、表情を引き締めフンと横を向く。彼女にだけは弱味を見せないと決めたのだ。
「ここだ」
案内されたのは、村長の家だと言う。今度こそ、村の人に良い印象を持ってもらわなくてはいけない。タモトさん共々長い付き合いになるのだから。
「おお、どうぞどうぞ、こちらにお掛け下さい」
すでに村長さんの家には、男女数名が腰かけていて談笑している所だった。私達が入ってきた時にも、主にジーンさんを見て「おぉ!」と感嘆の声があがっていた。
もちろん私達の服は私服からギルド専用の受付担当のスカート服に着替えている。あれ?私っていつ着替えたっけ?来た時は、私服だったけれど、ターナーが呼びに来た後で知らない内にと言うのも可笑しいが着替えたんだと思う。まあ、昔から度々そんな事があった事があるからそうなんだろう。
「じゃあ、自己紹介をしますかな」
そう言って、村長から始まり、自警団の団長、宿屋の女将さん、治療院の治療師と言う女性。あっ、この人はさっきのユキアのお母さんだよね。雰囲気は似てるし、くそっうちのお母さんよりも美人じゃない。
何かユキアに負けた気がして、ユキアの自己紹介はよく聞いていない。なぜか顔もあまり見ようと思わなかった。
美人なお母さんに軽くショックを受けながらも、自己紹介はターナーへと移っていくのを聞いていた。
「それで、アロテアギルドから参りました。ジーン・カウールと申します。キイア村へのギルド支店の本格的な立ち上げとの事で、微力ながら務めさせて頂きます」
「おぉ、何でも必要な物が有れば言ってくだされ。これは、うかうかしてられませんな。早く宿を再建せねば」
「えーと、私もタモトさんの補佐をするように言われて参りましたアイナです!どうぞ、よろしくお願いします」
ジーンさんが殆ど役割とか理由を言ったので、私からは何もいう事は無かった。仕舞った!緊張のあまりファミリーネームを言うのを忘れてしまったが、村の人達は暖かい目で気にしなかったようだ。
年齢的に、ギルドの小間使いとでも思われたのだろうか、もう!新米でもカウンター担当なのに!
「さて、紹介も終わった所で話を始めるかの?」
そう村長の始まりから、徐々に村の現状や材木の伐採数など報告されていく。私達が意見を求められるのは、まだ先の様子だった。
「だいたい分かりました。規模は宿屋にギルド支店と治療院の併設ですか……。無理じゃありませんが、また変な建物を考えましたね」
「いや、これはタモト君の案でもあるし事前に私達が話をまとめていたら、効率が良いのではないかという話にまとまってね。ならば、雑貨も取り扱ってはどうかと収集が付かなくなりそうだった所だよ」
え?タモトさんってやっぱりすごい人。治療院はどうでも良いけど、宿屋と併設っていつも冒険者の人から希望が上がってた事じゃない。それが理由から、アロテアのギルドに冒険者用の休憩所がギルド内に作られたのだと聞いていたのだ。
「そうか、併設するってぇと。そこに働くギルドや治療院の嬢ちゃん達も時には泊まるんだよな?部屋は一つでいいのか?」
「あ、それなら。二つお願いできますか?」
急にユキアが提案をターナーに告げる。何を言い出すんだろう?
「タモトさんが、私の家に住むのを気にしている様子だったので、その新しい治療院に部屋が有れば安心できるんじゃないかと」
「おぉ、確かにそう言っておったな。宿屋でも借りたいと言うとったわ」
はぁ?何だって!?今一緒に住んでるらしい事を言わなかった?それに何?図々しく治療院に部屋を二つって。
「ちょっと待ってください!タモトさんの仕事はギルドマスターっていう大事な仕事ですよね?それならば、ギルド側に作るのが正しいんじゃないですか!?」
私の指摘にグッと表情をしかめるユキア。フフン、笑みを向けてやる。
「で、でも、ギルドとは言ってもキイア村にそんなに夜の仕事が有るとは思えません。治療院は、それはもう夜中でも大変な時が有るんです。それにタモトさんも手伝ってくれると言ってますし、治療院にある方が便利です!」
「まあ、夜は暇じゃろうな。暇なのは残念じゃが、それもそうだのう」
グッ。今度は向こうも正論で反論してくる。くぅ、今度はユキアが満面の笑みで見返してくる。むかつくっ!
夜が暇だろうことは私さえ想像していたのだ。アロテアでさえ昼夜の利用者の差が激しいのだ。キイア村ではきっとカウンターが私のベッドになってしまう。
「まあ、とにかく意見は以上ですかね?製図しますんで、また後日お見せします」
そうターナーは、半分飽きれた表情で私達を見ていた。
後日、記載された製図には、U字の中央にタモトさんの部屋のある奇妙な建物が書きあがってきたのだ。ターナーのその時のドヤ顔にイラついたのは言うまでもない。
私の恋の障害となるであろうユキアを、ライバルと認めた瞬間だった。




