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魔陣の織り手:Magical Weaver   作者: 永久 トワ
キイア村受難編
62/137

43

 盗賊達の鎮圧が済み2日目の朝を迎えていた。ようやく、落ち着いた雰囲気を見せ始める村の路を、俺とユキアとハントの3人は村長の家へと向かっていた。つい昨日の夕方に話があると呼び出されていたのだ。


「それで、ハントさんもアロテアへ戻るんですか?」

「ええ、思いの他被害が家々の焼失だけで済みましたから、アロテアのギルドにも一応詳細を報告しなくてはいけませんし」

「すみません、本当ならば自分がしなくてはいけないんでしょうけれど、今村を離れる訳には」

「タモトさん、構いませんよ。何より飛竜ワイバーンを使える自分の方が報告が早い、唯それだけです」

「そうですか?助かります」

「それにしても、よく降りますね」

「ははは」


 ハントの指摘する雨は、先日自分が魔宝石で作り上げた魔陣で降らせている雨である。もちろん気象を操って降らせている訳ではない為、魔陣の上は既に快晴であり暖かい陽光が降り注いでいるにも関わらず、水滴(雨)だけは振り続けている状態だった。

 結果、水の精霊達は魔陣の光の筋に魔力の限り陽気に踊っているだけなのだが、地上からはその小さい姿は見えず蒼い光の筋が水の魔陣を形作って昼夜輝いている。


「その内、魔力が切れたら自然に消えると思いますよ」

「そうですね。でも、本当タモトさんといると珍しい事ばかり体験できますね」

「そんなつもりは無いんですけれどね」

「あの銀狼はどうしたんですか?」

「あぁ、スノウですか。昨日、村人が恐るのにショックを受けて、アロテアへの街道を避難している村人の護衛に行きましたよ」

「まぁ、あの大きさですからね。今まで村人達の街道の安全を守ってきたんでしたっけ?それなのに、怖がられるとは可哀想ですね」

「そうですね。一部の子供達に人気があったみたいですけどね。『コノママ留マレバ子供達ノ飼イ犬ニナリソウダ』って言ってましたから。まぁ満更でも無かったみたいでしたけどね」

「タカさん、あの銀狼って話せるんですね?どうりで周囲で話している内容が分かるようにいつも落ち着いていたので納得しました」

「森に戻るって言ったら、子供たちが泣いていたし。また、近日様子見に来ると思いますよ」

「なるほど」

「そろそろ、村長の家ですね。何なんでしょう、私達も呼ぶような用事って?」

「さあ」


 話しているうちに、村長宅の玄関に到着し扉をノックする。すぐに内側から扉が開かれ、自警団の副団長が室内へ案内してくれた。そして、案内された先には、オニボ自警団長を始めギタニ村長や今回の一番の被害を負った宿屋の女将さん達が長机のテーブルに腰掛けていた。


「おぉ、来たな」

「よう来たな、さあ、そこの椅子に掛けなさい」


 村長が勧めた椅子は丁度自分達3人分の椅子が用意されていた。特に座る席順も悩まずに真ん中の椅子に自分が座り左右にユキアとハントが腰掛ける。


「人も揃ったことだし、そろそろ始めるかの」

「そうですね」


 俺達は何の話をされるのか黙って聞くことにする。恐らく今回の盗賊の件や今後の事だとは想像がつく。


「まずは、今回の盗賊騒ぎの件じゃが皆には大変世話になった。村長として何も助けになれず申し訳ない」

「いえ、自警団だけでは唯では済まなかったでしょう。今回の功労者はハント君やタモト君達が駆けつけてくれたからこそ、最小の被害で済んだのです」

「そうじゃの、本当に二人とその仲間の人達には本当に感謝しておる。じゃが、それでも、協力してくれたのにも関わらず、被害を被って宿を焼失してしまい申し訳ない」

「いえ、しょうがなかったと諦めてます。それに、村の皆が無事なだけで私は嬉しいですよ」

「そう言ってもらえると、少しは慰められる。まあ、そこでじゃ今後村をどうするかじゃが、皆の意見を聞きたいと思っての」

「まずは、アロテアに避難した村人達の希望を聞きたい所ですが、今の村に残っている人達の中にもアロテアに移り住みたいと願っている者が居るかもしれません」

「そうじゃの、アロテアに向かった者達は家々が流された者も多い。もう落ち着いたからと戻ってこいとは言えんの」

「はい」

「それならば、移住希望者が居るかどうか自警団の方で調べてくれんかの?」

「わかりました」

「それで、本題なのじゃが村として存続していく上でも宿屋の拠点は必要不可欠じゃて、先日までは流出した家々の再建を優先してきたが、その家々に住む住民も今はアロテアに向かった者が大半みたいだからの、ついでに既に伐採した木材を宿屋の再建に使おうと思うのじゃが、意見はあるかの?」

「あぁ、宿屋を立て直してくれるんですね。そりゃあ嬉しいねえ」

「自警団としては、特に意見はありません。タモト君やユキア君の意見はあるか?」

「私は特には」


 ユキアは急に話題を振られ、特に案も無かったのだろう。自分も答えるべきだろうが、この場で意見を言っていいものかと思ってしまう。


「えーと」

「うん?何か意見があれば遠慮せず言うといい」

「すみません、自分が呼ばれたのはてっきり今回の盗賊の件だけと思っていたので」

「あぁ、そうじゃったそうじゃった。つい肝心の本人へ説明を忘れとったわい。いやなに、タモト君は先日キイア村でのギルド役を務めると約束してくれたんじゃろ?もう、ここに居る皆も知っておるからついついその流れで話しとったわ、ハハハッ」


 村長はつい先程思い出した様に笑いながら話す。よくよく考えれば、村長からの手紙によって自分がキイア村のギルドマスターへ推薦されたのだった。その点で、村長自身には俺がギルドマスター役を行うことに不満は無いのだろう。

そうだとすれば、何が自分に出来るかはわからないが、これからの村に今後何が必要かの意見を聞かれて居るのだと理解した。


「そうでしたか、やっと呼ばれた理由が分かりました」

「そうかそうか、いやはやすまんの。それで何か意見があれば聞かせて欲しいのじゃが」

「今後の村の為にですね……やっぱり宿屋の再建は最優先だと思います」

「ほお、そこまで言い切るのに理由が有りそうじゃの?」

「少しだけアロテアの街でギルドの仕事(役割)を見てきましたが、これから村を元に戻すためにも土木工事の為に冒険者を雇い仕事と宿泊するために拠点となる宿屋が無ければ受け入れが出来ないと思います」

「うむ、そうじゃの。他には何か思いつくことは無いのかね?」

「一つ思いつくことがあるんですが」

「なんじゃね?遠慮は無しじゃ。申し訳ないが村からの給金は今は難しいぞい」

「いえ、もし良かったら。新築する宿屋に仕事の斡旋できるギルドの施設と治療師ヒーラーの居る治療院を併設して欲しいんです」

「ほお、それはまた。何故じゃね?」

「タカさん、ギルドカウンターだけで無く治療院もですか?」


 ユキアは不思議そうに聞いてくる。ギルドカウンターの話は今後必要な場所だと皆が理解できたのだろう。しかし、既にあるユキアの自宅兼診療所があるにも関わらず宿屋に併設する理由が分からない様子だった。


「今回の件で、いざと言う時の村の中心拠点が宿屋であると思いました。今回の事件が特別だったのだとは思いますけど、それでも、宿屋の部屋で怪我人の治療を今後も行うのは、今後の仕事をしに来てくれる冒険者の方達の事を考えると、一つにまとめた方が効率が良いと思うんです」

「私は別に部屋で治療してくれても構わないけれど、もしそうなるとどうなるんだい?」


 女将さんは、なかなかイメージがつかない様子だった。確かに先日までの宿屋に2つの施設を併設すると言えば奇抜な宿屋になるイメージなのだろう。


「そうですね。宿泊する冒険者は宿に宿泊しながら、ギルドカウンターで職を探す。もちろんアロテアからの紹介であればその案内も出来るでしょう。治療院は、宿泊している仕事を求める冒険者の方の怪我や体調不良の人を見ても良いですし。村の怪我人であれば、家族は宿屋に宿泊してもらうことも出来ると思います」

「確かに、宿泊客が急に熱を出されたり、お腹が痛いと言われてもウチらじゃ何もできないしね」

「本当ですね。私の家にもベッドが2つしかありませんし。母に聞かないといけませんけど、凄く魅力的だと思います。タカさん、そう言った所がアロテアの街に有ったんですか?」

「いや、無かったよ。ただ、今後のキイア村に必要なのはそれが中心に有ってこそじゃないかと思ってね」

「ほお、儂は元に戻すことだけを考えとったわ。年を取るといかんのぉ」

「いえ、それだけでも、ほんの少し元に戻し色を付けただけに違いは無いと思います。後は、何か考えないと」

「まだ案があるのかね。もう儂は話について行くのでいっぱいいっぱいじゃ、のお団長」

「はぁ、全くです」

「まぁ、タモト君においおい考えをまとめてもらっておこうかの、思いついたら言うてくれ。ひとまずは、宿屋の再建とギルドと治療院の併設で案は良いようじゃな?」


 宿屋の女将さんも、幾つか便利になりそうな印象の為か俺の提案に少しばかり乗り気になってユキアと話をしていた。もうすでに、内装の事に話が盛り上がりそうになっていたが、村長は咳払いをすると話し合いを続けようと場の雰囲気を戻した。


「あー、ごほん。良いかの?実は相談したい事はあとひとつあるんじゃ。のお、団長」

「はい、あと一つの件は今回の捕まえた盗賊とその仲間だったという二人についてどう対応するか?ですが」


村長と団長の二人が言いたい事は、今回の盗賊達だけでなくサニーさんとロイドさんの二人の処遇をどう扱うか?という事だった。


「いまお二人はどうされているんですか?」


ユキアがそれを聞いて心配そうにオニボ団長へ質問している。恐らくあの二日前の夜から忙しいあまり姿を見ていない事にユキア自身心配していた様子だった。


「今二人には、今回の件について事情を聞いている所だよ。協力的に聴取も出来ているからそう時間はかからないだろう」

「盗賊達は、どうするんですか?」


俺が不思議だったのは、今回の盗賊達を誰がどの様に罪を裁くのか?についてだった。それについて答えてくれたのは、ギタニ村長だった。


「聴取がまとまり次第、盗賊達は村の襲撃の罪でアロテアへ移送する事になるじゃろうな。聞いている二人については、事情もあろうがゴブリンや盗賊の件で協力もしてもらったと聞いとる。村としては襲撃の件で告発する事は皆の意見を聞いてからと考えている所じゃよ」

「そうなんですね。少しホッとしました」

「じゃがの、ウチの村で助けてもらった、問題が無かったからと言って安心はできんぞい?今までは仲間だったのなら、それなりの責任はあろうし何よりも被害届けがあればそれだけに連帯の責任もあろう」

「そうですか」

「まあ、それでじゃ。村として二人の事情は聞いておるが、今回は盗賊の一味では無かったと言う。逆に村としては助けてもらった恩も少なくないからの、刑罰を減刑してもらえないかと恩赦を願うべきか意見を聞きたくての」

「私は、今回の事で二人に助けられたと思っています。盗賊と自警団団長としての立場は許すべきではないと思いますが、個人としては……二人に感謝している」

「私も、サニーさんが村に来てからの姿しか見てませんが、今だに盗賊の一味だったとは思えません。それほど村の皆への手伝いに熱心でしたし、何より子供達を庇った姿が忘れられません」

「私は、宿屋での姿しか知らないけど、ダリアとダルがあれほど懐くのも分かるくらい良い娘だって事はわかるけどね」


俺は、特に言う必要も無いように思え無言でいた。俺でさえつい先日村へと来たばかりなのだから、それぞれの意見に結果が出ているように思えたのだ。


「あい、わかった。この件については団長の聴取が終わってから、改めて最終的に判断する。それで良いかな?」


 皆の沈黙が了承の意思表示になったように話し合いは終了になった。結局サニーさんやロイドさんの処遇については意見を言わなかったが、宿屋の再建についての提案は、自分なりに言えたつもりだった。ギルドの仕事を行っていく上で場所を作るならと希望を言ったに過ぎなかったのだが、しかし実際に作られるならば僅かばかりにも仕事のしやすい村になるはずだ。


「しかし、何ともまあキイア村のギルドマスターになったばかりとは言え、魔陣の織り手も目を見張る活躍とはの、これからが大変じゃな頼んだぞい。ホッホッホ」


 そう言いながら村長は窓辺から振り続ける雨を眺めて、俺へと年甲斐もなくウィンクした。


                          キイア村受難編 終了

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