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思いつめた表情の中、サニーさんが打ち明けた内容に驚くばかりだった。三人は義賊という盗賊であり、今は意見の別れた盗賊一味から逃げ出したことで追われている立場であるらしい。そこまで聞いて、なぜ今になって真実を話すのかと不思議に思うと次の言葉で私は息を飲むしかなかった。
「それで、村を襲うと言っていた、今の盗賊団のリーダーが先ほど到着したギルドの馬車に乗っていたのを見つけたんです」
「本当ですか!」
思わず声を上げてしまい。「すみません」と驚きをひそめる。母親であるユリアは、じっと話を聞きながら軽くうなづくと話を促した。
「ガール、盗賊のリーダーですが、私を見つけに来たのか村を襲いに来たのかわかりません。ロイドが先ほど確認しに行ったのですが」
「そうでしたか」
「はい、詳しくは村人の目もありましたので簡単にしか話ができませんでしたが、サニーお嬢様がこの村に滞在しているとは思っていないようですね」
ロイドさんの話によると、後で自警団の人数や村の村長や主要人物を報告しないといけないと言う。向こうも、ロイドさんがサニーさんの味方をしているとは思っていないらしかった。
「そうすると、村を襲いに来たという目的が可能性として高いのですね?」
「はい、私が情報を伝えたとしても、1日か2日程金品類の所在確認や準備に掛かるでしょう。もしかすれば、増援も森に潜んでいるかもしれません」
ロイドさんは直ぐには襲われることは無いだろうと言われても、猶予に2日程しかないなんて何が出来るだろうか。村人全員がアロテアに逃げることも不可能であり、その前に気づかれるだろう。
「サニーさん、よく打ち明けてくれました。あなたがたを恨む思いや嘘をついていた事に怒るつもりはないわ。むしろ、村に危機が迫っている状況を知らせてくれてありがとう」
「・・・・・・はい」
ずっと黙して聞いていた母のユリアがサニーさんの肩に手を置きながら話す。サニーさんはロイドさんの話しの途中から顔をうつむかせていた。
「辛かったわね」
母が肩を抱き寄せると、不意にサニーさんの瞳から涙がこぼれるのを私は見てしまった。いつもは大人っぽいなあと憧れる女性だったが、私とは1歳しか違わないと聞いていた事を思い出す。本当の事を打ち明ける事で嫌われ、村の人へ嘘をついていた事への重圧を感じる少女なのだと気づかされた。
「ユキア、お願いオニボーさんに至急の件ができたと伝えて連れてきて頂戴。いい?他の人には今の事は絶対言ってはダメよ」
「はい、お母さん」
私が部屋から出ていこうとすると、ロイドさんもまた紛れ込んだ盗賊側の情報を集めてこようと共に部屋をあとにした。一階へ降りると、まだ食堂で馬車での移動を労われている様子だった。私は、横目でその喧騒を見ながら、オニボーさんの所在を把握しているだろう自警団の詰所へ向かった。
「なんてことだ。少し前ならまだしも、村の3分の1はまだ被害が片付いていないというのに」
部屋にうなだれたオニボーさんの声が響く。自警団長のオニボーさんは、詰所で問いただすと直ぐに見つかった。作業には加わらず、人員の作業分担を指示していたため、詰所に居たからだ。直ぐに、連れ立って宿の部屋に戻りサニーさんに話しを求めたが、きっと母親が傍にいて慰めたのだろう、2回目の告白は淡々と吹っ切れたように説明していた。
「武器を預かるとかできないんですか?」
「不用意に向こう側(盗賊)を警戒させるのはどうかと思う。村に入られた今は厄介だな。外から襲われるならば緩急の見込みがあるが、内側にいるとなると大々的準備したり対抗しにくい」
難しい事はわからないが、村人に公に伝えることができないという事かなと思う。仕事を優先にと名目で武器を預かれば良いんじゃないかな?と思ったが、不用意な刺激で怒らせてもなと聞くと悩んでしまう。
「もう、今晩にでも酔わせて捕まえるのはどうですか?」
「悪い手では無いが、いくつか問題があるな。まず、都合よく酔ってくれるかが1つ。そして、武器や練度の違いだな。相手は手練を連れてきているだろう、最悪自警団員と同等かそれ以上の武器の使い手と考えたほうが良い。抵抗された場合の仕返しで死傷者がでる事は村にとって避けたい」
そう説明するオニボーさんに、サニーさんも無言でうなづいている。
「何もしないでただ待つんですか」
「ユキア、気持ちはわかるけれどそれくらいにしなさい」
「でも、この前みたいにタカさんも居ない。今の内に何もできないなんて」
黙っていた母親から注意を受け少しだけ不快になる。
「できない事はないと思います」
「クルト君だったか、と言うと?」
「まずは逃げ道を確保する事が大事だと思います。あとは、何処までを目標にするかですけれど。すみません、上手く言えませんが」
「いや、協力してくれるとは言え、仲間だった者たちの事だろうからな。無理しなくていい」
クルトさんもオニボーさんも決着をどこに持っていくかを名言しなかった。その秘めた部分は私にも気づいた、極端には金銭で解決するか武力で解決するかという事だろう。
「そうだな、逃げ道のほうは何とか準備できるだろう。突然要求された場合にも、金銭については村長と話して見る必要があるな」
村から避難することを考えると、不意にアロテアのギルドマスターから言われたことを思い出す。
「オニボーさん、避難するにしても逃げる際にはアロテアに事前に連絡したりしなくて良いんですか?」
「ああ、そうだな。こういう状況だからこその連絡手段もあるからな」
「村長が金銭的に解決が無理だと判断したら?」
今まで黙っていた母親がオニボーさんへ質問する。
「・・・・・・その時は、皆を逃がしつつ抵抗するしかないだろう。その時には皆の世話を頼む事になる」
「わかったわ」
部屋の中は、少しの沈黙のあとオニボーさんが私にギルドへの連絡を送ると言う。数部屋隣の私達の部屋から鳥籠を持ってくるように言われ、私は急いで部屋を出て行く。
その夜、私は一羽の鳥を宿屋の窓から空へと離した。その足には、紙切れが結びつけてある。その飛んでいく姿を、どうか、いち早くアロテアのタカさんの元へ届くように願いを込めて見つめていた。
キイア村よりアロテアへ アブロニス歴 134年 水月12日
村に盗賊が数名から10数名潜入しており襲撃となる可能性あり
村人をアロテアへ避難させる計画と金銭的解決を考慮中
解決不可能な場合、避難の受け入れと抵抗助力を願う
自警団長 オニボー




