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魔陣の織り手:Magical Weaver   作者: 永久 トワ
キイア村受難編
24/137

5

 シャワーの魔法を終えて、ミレイと共に訪室してきたユキアの表情は、興奮と湯が上がりの火照った表情から、次第に冷静となり憂いの表情が浮かんでくる。


「タカさん、魔法を便利に使いすぎです」

「ん?ユキアは嫌だった?」


 あの魔法はいつ考えたんですか?とか質問を受けているうちに、だいぶ前からという話になり。それを聞いたユキアの表情が徐々に心配げに変化していくのに疑問を感じていた。


「いえ、簡単に入浴できますし、大変に気持ちよかったです。でも、便利すぎて魔法を使えない人達の事を考えてしまうと、私、あまり公に言って良い魔法ではないように思えて、すごく申し訳ない気持ちになるんです」


 すると、丁度、夕飯が出来上がったという各階の鐘が鳴った。話を少し切り上げ、オルソンさんと食堂についた後、ユキアの表情がすぐれず、先ほどの話の事情をオルソンさんに説明する。


「魔法を人より使えると言う事は、普通の方でもおごりや傲慢ごうまんを生みやすいんじゃないかと思うんです。知識や物覚えだって似たようなもので、人より要領が良く勉強が出来るのと一緒で、人よりも上手に魔法が使える。それは、魔法が使えない人の事を考え無くなりやすいんじゃないかと・・。それが、出来て当たり前な人にとって、出来ないことの苦痛は知ることが難しいように」


 ユキアの言いたいことが少しずつわかってくる。ユキアは俺を傲慢や怠惰な衝動で魔法を使う様になって欲しくないのだろう。知識を持つ者も魔法を使う者も、使う人の心の持ちようが大切だと言いたいのだ。そして、ユキアはそれを俺に忘れて欲しくないと思っていたのだろう。


「ありがとう、ユキア。心配してくれて」

「そうだな、ただでさえ、タモト君は特殊な才能の持ち主の様だからね。今後、便利な魔法をいくつも織り出せるかもしれない。慣れた頃に降りかかるのは自らの傲慢ごうまんや、人々の嫉妬という形になってしまうのかもな」

「いえ、すみませんタカさん、変なことを言ってしまって」

「いや、ありがとうユキア。確かに魔法に慣れてきたことで、より多くのことが出来るようになったし、その言葉を覚えておくよ」

「はい」


 ユキアは、本当に俺の事を心配しているようだった。俺がユキアの想いを感じてやれたことで、少しは表情が晴れやかになったようだった。なぜ、ユキアがそこまで心配してしまうのかを、俺は知らなかった。


 夕食の内容は、宿屋で焼かれたパンと見かけも味もコーンスープだった。10席あるテーブルの約半分が埋まっている。利用者は皆、宿の宿泊客の様で商人風の格好をしたものが多い。体格も肉体労働というよりも細身の男性ばかりである。


「ところで、明日の予定を決めておかないとな」


 食事が終わったあと、オルソンさんが雰囲気を変えようと思ったのだろう。


「はい、明日は午前中にギルドに話を聞きに行かないといけません。それに、村の依頼をしないといけませんし、依頼自体は手紙であるのですぐに終わると思いますけど。話っていうのが何なのかわからないので、いつくらいに終わるのか検討もつきません」

「そうだな、じゃあ俺は君たちがギルドに行っている間に、雑貨の品を注文してこよう。昼は各自で取れば良いだろう、タモト君たちも街道で報酬として宝石をもらっていただろう?あれを換金かするなりして自由に街を見て回るといい」

「オルソンさんは、換金しないんですか?」

「ああ、俺のは、明日の午前中に商品の手続きと一緒に出来そうだからな。わざわざ、昼から俺も換金に付いて行くことは無いだろう」

「そうですか、わかりました」


 それで、夕方には宿に戻ってくるように言われ、ユキアも俺も了承して頷いた。

夕食を終えた俺達は、今日の疲れを取る意味で速めに休むことになった。思えば、朝からグレイウルフに襲われたりとゆっくり休めていなかったのだ。俺はベッドに横になると、まだ、早い時間だが寝れるか不安だったが、杞憂に終わりすぐ眠ってしまった。



 朝に3人で食事をして。何かあったときには宿屋に言伝を頼むといいと言われ、オルソンさんとは宿屋の前で別れた。今日の俺達はそれぞれ徒歩での移動だった。補充の為に依頼する商品は、出立の日に店を廻って回収していくのだという。たしかに、宿屋には商品を保管する場所も無いだろう。それで、今日は注文をまとめて店を廻るとの事だった。俺とユキアは、大通りへ向かい歩を進めていた。荷物はほとんど無い、換金する宝石を入れた袋と依頼の手紙をユキアが持っている

くらいだ。まだ、朝の街の雰囲気は賑わいの様子は無い、中央の広場に出品するのか荷台を運ぶ商人風の人や、家々では洗濯物を紐に吊るしながら干しているのが見える。


「すごいですね。朝だというのに人がたくさん」

「ああ、商売人が多いんだろうか。荷台を運んでいる人が多いね」

「アロテアは南北の交通路にありますから、そこを通る商人は多いのかもしれません」

「なるほどね」


 宿屋のある路地から大通りへと抜けると、中央の広場が見渡せる。広場と言っても噴水などは無く、陸上の400mトラック程の大きさだ。それぞれ定められた場所に、簡易のテントが備え付けてある店や、荷馬車を商品棚の変わりに準備している人も見かける。

朝という事もあるのだろうか、果物や野菜の品物を並べている人が多い。昨日は昼過ぎになると様々な雑貨が並べてあったのを見かけたので、昼からは色々な物が売りに出され、昼からの自由時間に眺めることができるのを楽しみにしていた。

 俺達は馬車と歩道との区別の無い石畳の大通りを進んでいく。途中には、様々な看板がありそれぞれが絵模様の看板が多い。蝋燭、剣、パン屋、他は何の意味かわからない看板もある。まだ、そのほとんどの店の扉が閉まってはいたが、パン屋は開店しており数人の客の姿も有った。その店先を見て驚いたのは、パンの大きさに度肝を抜かれたのだ。

 菓子パンに見慣れている俺にとって、織り籠に入れ込んであるパンは優に1mを長く超えている。数多くカウンターの向こうに並べられ、人々はカウンター越しに指差し店員に購入希望を伝えていた。


「すごくでかいパンだね」


 ミレイが起きていれば「おっきぃ」とはしゃぎそうだが、まだ姿を見せていない。 


「ほんとです。村にもこのくらいのお店があるといいんですけど、焼けるところが限られていますし、今はそれぞれの家で作ってオーブンか、それが無ければ素焼きですから」


 ユキアは、パンを焼けるのがうらやましいのだろう。確かに、ユキアの自宅にはオーブンらしい設備は無かった。

 そう思いながら歩いていると、割とすぐに冒険者ギルドに着くことが出来た。こんなに早くギルドが開いているかを心配していた俺は、問題ないとオルソンさんから教えてもらっていたのだ。

基本24時間でギルドは対応しており、勤務人数は違うものの夜中も人が常駐しているのだという。緊急な事態に対応できるようにと言う理由らしい。


「昨日のジーンさんって人来てるかな」

「そうですね、あっ、あの方ですかね」


 扉の無いアーチ状のギルドの入り口を入ると、受付席で拭き掃除をしている女性を見つける。昨日対応してくれた受付の女性ジーンさんで間違いないだろう。俺達は、まだ準備中ではないかと、話しかけるのに躊躇したが、向こうも入り口を入ってきた俺たちに気が付いた様子だった。


「あ、おはようございます。どうぞ、腰掛けてお待ちください」

「はい、待たせていただくので、ごゆっくり」


 ジーンは拭き掃除を終えると、布巾を片付けに行き、向かいの応対の席に腰掛ける。


「おはようございます。すみません。ギルドマスターは、まだ出勤していないんです。もう少しで来ると思いますので、お先に用事があれば、それを先に済まされますか?」

「そうですね。でわ、内容はこの手紙に書いてあると思います」


 そう言うユキアは、村長からの手紙を取り出し手渡す。今回は、ジーンが開封しても問題のないのだろう。一度表と裏を眺め、開封制限が無いのを確認した後、封筒を開き内容を確認している。


「わかりました。依頼記載は土木工事の人員要請ですね。募集期間も大体決められているようです」


 ジーンは手紙の内容を教えてくれる。人員最大20名、内容は土木作業、選別は土木経験者で18歳以上。報酬は日当で最長勤務期間は15日らしい。10名以上集まった時点で、ギルドが馬車を手配しキイア村へ向かってもらうという手続きらしい。この作業を選択すると最大半月はキイア村に居る事になるのだろう。


「わかりました。そのままで依頼をお願いします」

「であ、依頼を貼らせてもらいますね」

「よろしくお願いします」


 割と依頼手続きも簡単だった。


「依頼料金は取らないんですか?」


俺は疑問を聞いてみる。手数料は要らないのだろうか?


「依頼を張り出す時点で、依頼料金は発生しないんですよ。ここの時点で行うのは、依頼の内容が適切か報酬は妥当かを判断するんです。依頼料金が発生するのは、この張り紙をみて、仕事をしたいと言ってきた人に一時金として払っていただきます。そして、私達が書類を作成して正式な仕事の受注者であることの証明書をつくるので、その書類を依頼主に渡すことで依頼主から一時金を払い戻してもらって、間接的に依頼料金を支払ってもらってるんです」

「そうですか。仕事が受けられたら料金が発生して、ちゃんと仕事の受注者である証明にもなるんですね」

「そうですね。でも、獣の討伐依頼などは緊急な場合が多く、追加料金を頂きます。そうする事で、街にいる冒険者に伝達するサービスが付いたり、仕事が受注されない事を防いでいます」


 なるほど、仕事は多く来て欲しいギルドとしては、仕事の依頼が尽きないほうが良い面を補っているようだった。そう話をするジーンは仕事の張り出し用紙に簡潔に報酬や仕事内容を書き写していた。それが終わると、カウンターから掲示板に出て行き、[新規]と書かれた掲示板と仕事内容の[土木工事専門]の所だろうか、二箇所に張り出しがされる。



「よぉ、ジーンおはよう」

「おはようございます。マスター」


 ジーンが掲示板に張り出しているときに、ギルドの入り口から一人の女性が入ってくる。ジーンがマスターと声掛けていることから、昨日、話を聞きたいと言っていた、当のギルドマスターその人だろう。

 でも、まさか30台くらいの女性とは思わなかった。髪はショートでスラリとした細身の女性だ、しかし、上着を着ていてもスタイルの良さがわかる服装をしていた。一瞬どこかのカジノのディーラーではないか?と思える程、パンツスタイルの似合う華のある人物であることは間違いないだろう。メガネを掛けており、知的な一面もよりいっそう際立たせていた。


「あ、マスター。この方々が昨日来られたキイア村の方です」


 ジーンはギルドマスターを呼びとめ、カウンターに腰掛けている俺たちを紹介してくれた。


「ほお、君たちがそうか。女性の方は若いな。と言うことは君の方か?ふーん」


 なにやら独り言をいいながら、俺は顔から足先までじっくりと観察された。初対面で値踏みされる視線はどうかとも思うが、村長が何を書いたのか分らないが興味は持ってもらえているみたいだと思い我慢する。


「まあ、いい。ジーン部屋に案内して」

「わかりました。こちらへどうぞ」


 俺達は椅子から立ち上がると、案内されカウンターを越えて奥の階段から2階へ案内される。2階は、個別の部屋に分かれており扉の外からは、何があるのかはわからなかった。突き当たりの部屋に案内されジーンの後ろを付いてきながら。俺達は部屋の中に入るように促される。


「ああ、気にせず腰掛けて」

「「失礼します」」


 俺とユキアは隣同士に、革張りのソファーに腰掛ける。来客用でもあるのだろう、高価なソファーみたいで座り心地がいい。ギルドマスターは自分の執務用の机から鍵を外し、一通の手紙を取り出す。そして、再度机に鍵を掛けると、俺たちの正面に腰掛けた。


「ジーン、ごめんお茶をもらえるかな?」

「はい、マスター」


 そう言うと、ジーンはギルドマスターの執務室から出ていきお茶を準備しに行った。


「申し送れてすまない。冒険者ギルドのマスターでルワンナと言う、わざわざ来ていただいて申し訳ない」

「自分はタモトといいます。こちらはユキアです。いえ、俺たちも村の依頼のついででしたので、大丈夫です」

「そうか」


 すこし、間をおいてルワンナというギルドマスターは考えた後。ゆっくりと話し始める。


「でだ。話しと言うのは、タモト殿はこの手紙の内容はご存知か?」


 急に話す雰囲気が変わったことで、俺もユキアも驚いてしまう。先程までの、気が抜けていた話し方から仕事モードに入ったのだろう。手に持たれた手紙をピラピラと見せてくる。


「いえ、キイア村からの村長からは、手紙を届けて欲しいということだけ、内容までは知りません」


 それを聞いた、ルワンナはふぅーと息を吐くと、理解したようにうなずいた。


「だろうな。ぁの爺ぃ、ほくそ笑んでやがるな」

「はぁ?」


 ユキアが理解できないという声を漏らす、俺は爺が誰なのかは深く考えないでおこう、きっと思っている人物で間違いないはずだ。


「まあいい、それだけ期待されてるのか」


 一人で、納得しながらルワンナは俺を見つめてくる。決して扇情的ではなく何かを見定める様にだ。


「じゃあ、ここからが本題だ。タモト殿、この手紙にはひとつ依頼内容が書いてあったと思ってもらえばいい。受けるかは君次第だ」


 ようやく教えてくれるようだ。ここでサヨナラだったらなぜ呼ばれたかもわからない。村長は何を依頼したかったんだろう。


「これは、アロテアのギルドが承認した正式な依頼だ、タモト殿、キイア村のギルドマスターにならないか?」

「「ハァ!?」」


 俺とユキアは固まるしかなかった。 

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