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魔陣の織り手:Magical Weaver   作者: 永久 トワ
召喚編
17/137

16

 「「「乾パーイ!」」」


 ゴン!と、もう何度目になるかわからない木製の酒瓶を打ち合う音が響く。もう真夜中で祝宴が始まって何時間経ったのか分からなくなっていた。自警団の面々の賑わいは終わる気配を見せなかった。

すぐ後ろの壁際には酒に弱いのか、すでに床に寝ている者さえいる始末である。だが今日くらいは、無礼講という事にしておこう。


「なるほど、今回の戦闘の成果はタモト殿にあると言う理由はそこにありましたか」

「ええ、私自身も彼には後衛で傷の手当などに尽力してもらおうと思っていましたが、わずか一日で自らの役目を切り開く者はそうそういません」

「確かに、人は求められている以上の役割に自分で気付けることは殆どない。特に自らの命や他者の命に危険が及ぶ場面では、保身に走り安全な所に居たいと逃げる事を考えるのが一般の者じゃからな」

「ところで、そのタモト殿の今後の事なのですが、今は診療所のユリア殿の家に居候をしている様子。しかし、旅人という立場からいつ村を離れると言っても可笑しくない様に思います」

「うむ、そうじゃの。そなたの言いたいことはわかるつもりじゃ」

「はい、彼を今後もどうにかして村に留めて置きたいのです」

「自警団に入れておきたいと言わぬお主がわしは好きじゃよ。ホッホッホッ」

「いえ。無理強いはできません。特に今は危機が去った後で、村に居てほしいと説得する理由にいささか無理がありますから」

「まさか魔陣の使い手だったとはの、人は見かけによらないとはこの事よ」

「ええ、奇策だけで無く、今回は彼の魔陣に助けられました」

「そうかね、まあ引き込む絡め手はワシに任せてもらえんかの?前々からの村の問題もあっての、上手くいけば一気に解決じゃて。ホッホッホッ。ワシの策が駄目なときには仲の良い村娘に頑張ってもらえば良いしな。そっちの方も期待できそうじゃしな」


 そう言う酔い気味の村長を見ながらオニボは呆れてしまった。村長の人を見る目もそうだが、酔っているせいなのかいつもより饒舌だった。

 ふと話題の当事者達をみると、一層賑やかな集団に囲まれており、タモトの隣にユキアとサオが座りながら笑顔で話している様子だ。自分達の思惑など知らず、特に村長の今後の謀略の対象となるタモトを気の毒に感じながらあの青年が今後も村に留まる可能性がある事に嬉しさを感じて杯を傾けるのだった。



「ヨオ!兄ちゃん!乾杯ぃ!飲んでるかい?」

「え、えぇ。かぁんぱぃ」


 何の景気づけだろう、もう雰囲気で乾杯している気がする。

 うっぷ。まずい、完全に飲みすぎてしまった。

 何を?かというと、キイア村の地酒だ。夕方から始まった宴会は、もう何時間続いているかわからない。

 食事とお酒から始まった宴は、いつの間にか食事だけが早々に無くなってしまい。勧められるまま注がれた果実酒が思いのほか美味しく飲めたのが問題だった。


「お!兄ちゃんイケルじゃねえか」

「あ、結構美味しいですね」


 前の世界でも同じ様に、この場でその言葉は禁句だった。


「おっ?いける口か!?」


 それから俺はコップの底を見れることは無かった。巡って来る村人や自警団員にその都度、次々に注がれ飲まないわけにはいかなかった。そして、地酒が本当に美味しく喉通りが良いため飲める限界が無かったのだ。

 次第に耳が遠くなり、見たい視点が定まらない。呂律がちゃんと話せてるとも思えない。まだ、意識があるだけましだった。おそらく、あと数杯も飲めば綺麗に記憶がなくなる自信がある。


「かくぅごしとけ、ってぇ、飲ませすぎぃっす」


 ほら、独り言も呂律がまわってない。


「タカさん、大丈夫ですか?お水飲みます?」


 ユキアは未成年のため飲酒せず、俺の介抱を隣でやってくれている。この世界では明確な飲酒の年齢は決まっていない様子だ。自警団の様な仕事を任されている者には飲酒を止める者も居らず、ユキアは勧められるお酒を断ってもそれを無理強いする村人は居なかった。

 俺はユキアからそっと差し出された水が、ずっと捜し求めた聖水のように思え受け取った。すこし水を飲んだことで呂律が戻った気がする。


「ありがとぅ、ユキア」

「いえ」


 ん?ユキアの顔がすこし赤い?お酒もまったく飲んでないはずだが?と不思議に思っていると。


「タカさん。手を、ぃえ、私は良いんですけど。皆が見てるので困ります」


 ん?手がどうしたのだろう、俺は自分の手を見てみると、今受け取ったコップを両手で受け取ってから、その後、ずーっとユキアの手を握っていたらしい。


「んぁ、ごめん!つい」


 つい、なんだ。握り心地が良かった?ちがうな。安心したんだろうなと思う。


「「……」」


 ユキアは、うつむき気味で顔を赤らめていた。すこし、話題を変えようと話しかけたが、俺を見ようとせず相槌を言うとすぐうつむいてしまう。


「とぉ!」


 不意に誰かが背中に飛びかかってくる。


「タカさぁん!ユキアにばっかりちょっかい出さないで私達にも付き合ってよ」

「バッ、違うっ。サ、サォ!?」


 急に背中に飛び掛られ、微妙なユキアとの雰囲気から狼狽する。誰かと思ったら、片手にお酒の瓶を持ったサオだった。その隣にはニコニコな笑顔のサニーもいる。いぁ、控えめにも美人な二人の後ろに後光のような怪しい酔っ払いオーラが見えるのは、俺が酔っているせいなのか。


「サオ、君はお酒飲んでいるのか?」

「そぉんなこと。村では16歳を過ぎれば大人なんです!自警団員はチームワークが大事ぃです!それなのにぃ!ぉ酒の席で飲めない云々と断るのわぁ罪!です!!和を乱すとあのようになりますっ!」


 ビシッっと凛々しくサオが指差す先には、床に陥落したアロニスの姿があった。サニーはニコニコ笑顔でしきりにサオの言葉にうなづいている。

あぁ、同情するよアロニス。俺ももうすぐ仲間入りするのだろうか。


「でぇ、何してたんですかぁ!ずぅーっと見てましたが、タカさぁん!ユキアにちょっかい出してましたねぇ。ダメですよぉ!年齢では大人でもユキアは純情ぉなんですから。タカさんに見つめられるだけで、ファーストキスが奪われちゃいますぅ」

「んな!そんなぁこと無いわ!」


 俺が必死にそんな事しない!って否定する中。


「サオちゃん、そんなことタカさんはしないわ。それにもうファーストキスはタカさんと……」

「「「え?」」」


 え?小声でユキア、今なんて言った?お酒の影響で耳が遠くなってて良く聞こえない。それは、サオやサニーも同じだったようだ。重大な事を言ってる気がするが、酔っ払い達には聞こえなかった。俺と2人がユキアにキョトーンとする中、ユキア一人耳まで赤くなり、もう詳しくも聞けなかった。


「とにかく!コレ付き合ってください」


 サオの差し出すものはお酒の入った瓶だった。俺の減っていないコップに溢れるばかりに注がれるお酒。要求は飲め!と言う事だろう。


「あぁ、わかった。でも、酔いつぶれてぇ、寝ても知らないからな?」

「だいじょぶですぅ。その時は、私も一緒に寝ますからぁ!」


 ハア、サオがこれほど酒癖が悪かった事も驚いたが、事前に言われ覚悟していたがこの宴会は酔いつぶれでもしなければそれぞれが終わりそうに無い。

 確かに、生死を左右した村の一大事だったのだ。羽目を外すのはしょうがないだろう。


「よし!わかった!皆、お疲れ様!乾杯ぃ!!」

「「「乾杯ぃ!!!」」」

「「かんぱぃ~!」」


 ヤケ気味に、乾杯の音頭をとり飲み干す俺。遠くの席からも便乗して村長達の「乾杯」と声が聞こえてくる。ユキアも先ほどの赤面から笑顔がこぼれ果実ジュースを打ち鳴らしていた。俺が最後に覚えていたのはようやく見る事ができたコップの底だった。



 翌朝、暖かい日の暖かさが頬を照らす中意識が覚醒していく。体は抜けきれていない疲労感を残し、右手はソフトボール程の柔い何かを掴んでいた。

 ふにっと握ってみる、何か中は軽く硬い抵抗があり、外は餅の様な感じで手に馴染む。


「……キャアアアアアアアア!タカさん!なんで隣に寝てるんですかぁ!!」


 俺の目覚ましは同じベッドの隣で絶叫するサオの声だった。


「どうしたんだい。その顔は」


 食堂のカウンター越しに聞いてくる宿屋の女将さんは、俺の顔を見るなりびっくりした驚きの表情で聞いてきた。


「あ、ちょっと朝にいろいろありまして」

「ハハハ、そうかい、そうかい。夕べは皆あんなに騒いだんだ。起きたら怪我の一つもあるってもんだわねぇ」

「えぇ、まあ。そんなもんですかねえ。すみません、水をもらえますか?」

「はいよ」


 女将さんは、樽に貯めてある飲み水からひしゃくを使って水を汲み、カウンターにトンとコップを置いてくれた。俺は、ありがとうございます。と返事をし受け取り、皆が朝食を摂りつつある食堂の席を見渡し、空席のテーブルに座った。


「イテテ。参ったな。サオとお酒を飲むときは覚悟しないとな。」


 もらった水を少し飲むだけで、口の中に鈍い痛みが広がる。口の中が少し切れてるみたいだ。

 頭に被さる重りのような二日酔いの頭重感と重なり、今日は朝から肉体的と精神的なダメージが大きかった。口の中にできた傷には覚えがあった。起き掛けに何故か同じベッドに寝ていたサオが驚きのあまり身を離そうともがき、運悪く振った肘とグーパンチでボフっと殴られたのだ。


「でも、何で同じベッドに寝てたんだ?」


 俺にとって一生解決しそうにない謎をつぶやき。胃もたれから食欲がわかない為、朝の食事は一回くらい食べなくても良いなと思っていた。


「タモト殿、朝から申し訳ないが少しよろしいかな?」

「ぁ、村長さん。おはようございます。どうぞ、全然かまいません。」


 別の席で朝食でも食べていたのだろう、食事が終わった後、俺を見かけて話しかけた様だった。椅子をどうぞと言って、村長は同じ席にゆっくりと腰掛けた。何はともあれ名前を覚えてもらっているのは嬉しいものだった。まだ他の会った事もない村人の方が多く名前などまだ数人しか知らない。


「朝に会えてちょうど良かった。今日にでも皆に話そうかと思っていたんだが、今後の村の建て直しの件なんじゃが。先日の災害とゴブリンの件で、それぞれ家々での片付けや川の流れの改修など問題が山積みでの。手空きの者が早々居ないのだよ。それで、もし良ければ依頼ということでタモト殿にお願いしたいことがあってな」

「ええ。構いません。力仕事はあまり自信がないですが。出来る事があれば手伝います。」

「そう言ってもらえると、こちらも頼みやすい。決してタモト殿が手が空いてそうだからと言う理由では無いからの。金銭依頼関係では無いし、手紙を届けて欲しいだけじゃて。」


 村長は簡単に説明してくれたが、内容は、明日には雇った冒険者達が隣町に戻るらしい。それに同伴して、所定のギルドに依頼の手紙を届けて欲しいとの事だった。もちろん、一人だけで同伴するわけでは無いと言う事で安心させてくれた。今回使用した治療ポーションの補充のために薬品知識のあるユキア。帰途の警備のために自警団から数名を選ぶらしいが、まだ人選は自警団長に任せているらしい。要するに、村の復興依頼にギルドへのメッセンジャーになってくれという依頼だった。


「ところでタモト殿は、しばらくは村に住んでいただけると考えて良かったのですかな?」

「ええ、まだ知らないことも多いですし、まだどこかの町に移り住む事は考えてません。今はユリアさんの家で治療の手伝いをさせてもらっていますが、いつまでもお世話になるわけにもいきませんし」

「ふむふむ、そうだの。……うん、その件についてはタモト殿とおいおい決めないといけませんな。今後、何かしらの村からの仕事をお願いしてもよろしいですかな?」

「はい、ぜひ!お願いします。出来れば、お金が要らないような寝るところもあれば良いのですが。」

「そうじゃの。なら好都合じゃて。しばらくは、宿屋にお世話になれるように言っておこう。じゃあ、また手紙は明日にでも渡しますのでな。ホッホッホッ。」


 何が好都合なのかはわからなかったが。村長は上機嫌で席を立ち、去っていった。俺にとってもしばらくの根無し草の不安は解消されそうだった。宿屋にしばらく泊まれるそうだし、その後は、村長が自警団とかどこかに仕事をくれるのだろうと勝手に思っていた。

 しかし、俺はその時点で、メッセンジャーであれば帰る冒険者やユキアでも出来るだろうという事や村に留まる事を確認されたことなど、本来、力仕事が必要な時期にわざわざ自分に手紙の配達依頼をする村長の秘められた想いがあったことに気がつかなかったのだ。

 俺の運命を左右する話がこの時点で決定した事を、今は知る事さえ出来なかった。

 村長との話も終わり、俺は女将さんへコップを返却すると同時に、どこかで湯浴みが出来そうにないか聞いてみることにした。


「それなら、宿屋の裏手を使って良いよ。水はけもいいし、桶も置いてあるはずさ。でも、全裸はやめときなよ。宿には若い娘っ子もいるからね。アハハハハ。」

「ありがとうございます。お借りします」


 詳しい場所を聞き、どうも井戸水を汲む裏手の少し横にあるらしい。客用の桶が干してあるとの事ですぐわかるはずだと言う事だった。俺は早速、着替えの服を取りに自室へ戻るため階段を上っていった。


 ガチャ


 自室の扉を開けると、ユキアはまだ寝ている様子だ。まだ、夜更かししてお酒を飲んでいた大半の人が寝ているみたいだ。食堂に居た人たちも、お酒に強かった者や村長のようにホドホドにお酒を飲んだ者だったのだろう。

 ふとベッドに備え付けの机をみると、水の妖精であるミレイが、コップにつかりながら寝ている。実を言うと寝ている姿を始めてみた。いつもは姿を消しているか、水に浸かりながら話はしていたが、昨日はお酒のコップに風呂みたいに浸っていたのだ。

 同じく話す呂律が回っていないのも、妖精でも酔うのだと爆笑したのを覚えている。いまはクタッとコップにもたれ掛かり文字通り寝ていた。誰がコップを用意してくれたのか、きっとユキアなのかなと思ってしまう。


「よし、サッパリするか。」


 ユキアを起こさないように、ゆっくり扉を閉め。準備した着替えを持ち階段を降りようとしたとき、向かいの廊下から双子が駆けてくるのが見えた。


「お兄ちゃん、どこかに行くの?」


 ダリアが俺の手に持つ着替えを気にしながら、聞いてきた。


「ああ、おはようダリア、ダル。サッパリしようと湯浴みをね」

「えー良いなあ。最近は拭くだけだったし、しばらく宿で暮らすって言われてて。俺も入りたい。ダリアはどうする?」

「えーっとぉ。サオおねえちゃんが湯浴みするって言うから、私たち部屋を出てきたから私はおねえちゃんと一緒にお願いする。それに湯浴みは裸になるから、お兄ちゃんは……」


 少し恥ずかしそうに見上げてくるダリア。ダルは男の子だから問題ないのだろう。しかし、女の子のダリアはさすがに男性に肌を見せるのは恥ずかしいだろうなと思う。


「うん、わかった。じゃあダルは一緒に行こうか。着替えを持ってきておいで。サオにもよろしく言っておいて」

「わかったー。お兄ちゃん、待っててね」

「サオおねえちゃんに、伝えてくる」


 そう言うと双子は来た廊下を同じく駆けて戻っていった。さほど待つことはないだろうと、このまま廊下で待つことにする。


「おはよう、タモトさん。あの双子は朝からも元気だな」


 ふと、声を掛けられたのはスレンダーな豹を思わせる女性サニーだった。昨日のお酒によった姿からは想像できない、落ち着いた雰囲気から二日酔いの気配は見えない。


「おはよう、サニーさん。食事ですか?」

「あぁ、さすがに食欲は無いからね。水をもらいにいくところさ」


 サニーのさっぱりとした物言いは、嫌味も無く気持ちがいい。その点がダルとダリアには気に入られ、同年代のサオとはよく話をしているのを見かける。


「ですよね」

「さすがに飲みすぎてね。いやあ、サオの変わりようは笑えたな」


 苦笑しながら、久しぶりにサニーもお酒をたくさん飲んだという。俺にとっては、サニーのほうは大丈夫だったのか?結構怪しかったぞと思いたくもなるが。

 あのニコニコ笑顔なサニーもまたアリだなと思ってしまった。ギャップ萌えってやつか。


「じゃあ、またね」


 双子が戻ってくる前に、食堂へ下りていくサニーの後姿は、二日酔いなど全然見つからなかった。


「お兄ちゃん、お待たせ」

「うん、ダル行こうか。ダリアは部屋に残ったのかな」

「うん!サオ姉ちゃんが、「わかった」って言ってた」


 俺とダルは階段を降り宿屋の裏口から、周りを見渡すとすぐ外に出て、宿の角を曲がった右側に桶が立てかけられている棚を見つけた。地面には木がすのこ状に水はけが良くしてあり、これなら大丈夫そうだ。


「あれ、兄ちゃん湯は?」

「ふふ、ダルは運がいいな。魔法で湯浴みするんだよ」

「ええ!マジ!すげぇ」


 そう言うや、ぽんぽんと服を脱いでいくダル。こういう行動の勢いの良さはダルのかわいいところだ。でも、全裸は子供はオッケーか?もう脱いでしまったからしょうがない。俺はさすがに全裸はまずいなと思い下の下着だけになる。


「よし、準備はいいか?」

「いつでもオッケー!来ぉーぃ」


 ダル君そんなに構えなくても大丈夫だよ。きっと、前からドバーッと湯が来るのを待ってるのか。野球少年よろしく前傾姿勢で構えるダル。期待を裏切る様で悪いが、俺は笑いながら両手をかざし魔法を唱える。


『魔力よ!ウォーターシャワー!』


 数滴だった水滴が、次第に雨のような勢いになりダルに降り注ぐ。


「オオオオ!!すげえぇ~!」


 フフフ、初披露がダルで良かった。これほど興奮して喜んでもらえると疲れや頭の頭重感も吹き飛ぶ。ダルの魔法が切れる前に、俺の分の魔法を唱え二人で文字通りシャワーを浴びる。


「俺も魔法使いて~」


 などと叫び、シャワーを満喫するダル。うーんどちらかというと、ダリアに才能がありそうだと思っていた俺は何も言わず、ダルも秘められた能力があるんじゃないかとさえ思える。何せ双子なのだ、魔力を決定するのが何かは俺は知らないが、可能性はあるんじゃないかと思える。

 2回目のシャワーの魔法をダルに行っているとき、ふと女性の声が聞こえた。


「ダル。どこに居る?ダルー」


声からして、サオだとわかる。宿屋の裏扉からダルを呼んでいるのだろう。


「なにー?サオ姉ちゃん」

「桶が裏手に干してあるって聞いたんだけど、ダリアと湯浴みで借りようと思って」

「こっちこっち、裏に出て右~」

「そっちね」


 声が聞こえたかと思うと、桶棚の向こうからサオが曲がってきたのがわかる。ちょっと、今はまずいんじゃないか。俺下着だけど裸なんですが。


「あ、ダル。……タカさん?えっ、キャアアア!」


 俺も内心「キャアア」だったが、つくづくサオの悲鳴に縁がある朝となったのだ。



 忘れたころにやって来る、その者たちは隣の町で破格の値段で緊急募集された冒険者たちであった。キイア村に到着したのはゴブリンとの総力戦の翌日、村に到着した面々は村の中央に向かうにつれて村人の笑顔と再会した商売の賑わいに面食らっていた。宿屋に通された面々は、村長から説明を受けていた。


「いやぁ申し訳ない。急いできてもらったというのに、一足遅かったようじゃ」

「何があったんですかい?全然ゴブリンに襲われている村には見えねえが」

「嘘偽りは無いのだが、昨日ゴブリンの襲撃にあっての、運よく撃退できたんじゃよ」

「へぇ~そりゃあまた、自警団があるって言ってたが優秀なのが居るんだな」

「まあ、そんなこともあって、もうゴブリンの脅威はないんじゃ。もちろん全額は無理じゃが、詫びの意味も含め礼金を出そう」

「いや、こっちとしては仕事もしてないのに金をもらえるとあっては面目ない話だがな。まあ、2・3日は村にお世話になると思うから何でも言ってくれや」

「ああ、ひとつ頼みたいことは決まっておる。もし、街に帰るのが決まったらお願いされてくれんかの、なぁに戻るついでに村人を護衛してもらいたいだけじゃて」

「そんなんだったら、全然かまわねえよ」


 よろしく頼みますよ。と依頼の謝罪と追加依頼を快く受け冒険者の面々は与えられた宿屋の部屋に上がっていく。やることの無くなった冒険者達は急ぎ駆けつけた疲労を取る意味も含めて休むことにしたようだった。

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