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戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。  作者: 横蛍・戦国要塞、10巻まで発売中です!
天文17年(1548年)

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第九十五話・敦盛の意味するところ

side:久遠一馬


 花見とは言うが、やはり宴会になるのはこの時代も変わらないみたいだね。


 花を見ながら和歌をとか言われても、困るからいいんだけどさ。


 おっ、この味噌田楽、美味しいな。 味噌を砂糖とか味醂で味付けしたっぽい。信秀さんのところの料理番の人。ウチに料理を教わりに何回も来てたしね。未来の味付けを習得したのかも。


 この時代の料理って塩分高めで塩からいんだけど、出汁とか砂糖にみりんを加えると塩分控え目にしても大丈夫みたい。


 信長さんも史実だと、塩からい味付け好きだって言われてるけど。ウチでは塩分控え目の料理を、普通に美味しいって食べてるしね。甘い物好きの方が問題かも。


「あれは敦盛ですか?」


「ああ。そういえばお前、そっち方面はさっぱりであったな」


「元々しがない商人ですからね」


 宴会も進むと誰か知らん人が敦盛を謡いながら舞い始めた。


 史実の信長さんが好んだとされるこの敦盛。どうやらこの時代の信長さんも好きらしい。


 内容が源平合戦の頃の物語だと知ったのは、こっちに来てからだったな。元の世界でも田舎者でインドア派だったオレは、能楽や歌舞伎どころか舞台やコンサートも見たことがない。


 地元の祭でよく知らん演歌歌手が歌ってるのは、何度か通りかかる程度に聞いたことあるが。


 元の世界では敦盛とは信長さんが好み、謡ったとされる有名な一節以外は、ほとんど誰も知らない歴史の中の遺産でしかない。


 内容が哀しく世をはかなむ物であるのは、少し意外だった。戦国時代とはいえ必ずしも、裏切り裏切られる世を望んでるわけではないのだろう。


 いつの間にか賑やかな宴会は、静かな敦盛観賞に変化している。


 僅かな期間で散りゆく桜の前で見る敦盛は、命が短くいつ死ぬか分からぬ武士の心を揺さぶるのかもしれない。




side:織田信秀


 公家の真似事など興味はなかったが、こうして桜を見ながら酒を飲むのも悪くはないな。


 尤も花見の目的は三郎や一馬と、家中の者たちが話す機会を設けることだ。そちらも上手くいけばいいが。


 以前から懸念しておったことではあるが、三郎や一馬の考えることをほとんど誰も理解しておらぬことは問題だ。


 皮肉なことだが一馬が目立てば目立つほど、周りは一馬を理解できなくなる。


 それもそうだろう。一馬は狭い領地などたいして重要視しておらぬ。自らの領地を守り、あわよくば奪い増やすことしか考えぬ武士に、理解できるはずはないのだ。


 力があれば問題ない。ワシも少し前まではそう考えておった。


 だがそれではいつか足をすくわれるのではと、最近になり思うようになった。


 織田弾正忠家は最早、尾張の一勢力ではない。この先織田弾正忠家が更に大きくなるには、家中を纏めることも必要であろう。


 そのためには織田弾正忠家は、もっと家中で集まる機会を設けることが必要だ。ワシの力を家中に示して、その意思を理解させる。


 そして三郎と一馬は、もっと家中に理解される必要がある。そう簡単なことではないが、やらねばなるまい。


 何事も始める前までが重要なのだ。尾張統一とその先の戦が始まる前に、家中をより一つにせねばならぬ。




side:平手政秀


「主上はあの鏡にことの外、御心を動かされたぞ。公卿衆も誰もが見たことがないと騒ぎしほどよ」


「それはようございました」


「何か望みはあるか?」


「特にございませぬ。朝廷と主上に於かれましては以前にも格別の御配慮を頂きました故に」


 翌日、さっそく山科やましな卿は内裏だいりに参内して献上品を主上に献上してくれた。


 これで今回の役目も無事に終えることができたわい。特に問題があるとは思わなんだが、ホッとするの。


「うむ。そうでござるか。ところであれはまだ手に入るのか?」


「必ずとは申せませぬが、恐らくは」


「ちと面白き噂を聞いた。織田殿は南蛮人を臣下としたと。真か?」


「その噂は少し違いまする。正確には南蛮船を持つ者を、臣下としております。確かにその者の臣下や妻は南蛮人が居りますが、家臣としたのは、日ノ本から近い離島の商人でございます」


 一仕事終えてもホッとして居られぬか。やはり一馬殿の噂は京の都にも届いておったか。


 良からぬ噂になる前に、今回の上京を急いで正解であったな。


「なるほど。なればこそ南蛮の珍しき品が手に入ると」


「はっ」


「騒ぎし輩が出でそうな話ではあるの」


「良しなにお願い致しまする」


「公方は今は近江におる。如何するつもりじゃ?」


「酒と食べ物を少々贈ろうかと考えておりまする。某は生憎と行けませぬが」


「それが良かろう。程々が一番でござるよ」


 どうやら山科卿は、こちらの上京の意図を理解してくれたようだ。 今のところ畿内に関わる気はないので、そっとしておいて欲しいのが一番の願いだからの。


 近江に逃げておる公方には個別に酒と食べ物を、少しばかり贈る手筈を整えておる。予定にはなかったが、堺で金色酒が話題となっておる以上は、無視するわけにもいくまい。


「ここだけの話じゃがの。管領の細川には気を付けよ。あの者のせいで都が荒れたと言うても過言ではない」


「はっ、肝に銘じておきまする」


「畿内に参らぬ限りは、そう巻き込まれはせぬと思うがの。それにしても尾張は平和そうで羨ましいの」


「宜しければ、またいつでもお越しくだされ。主も心待ちにしておりまする」


 最後に山科卿が小声で口にしたのは、幕府管領の細川殿の名であった。


 事実上の京の都の支配者にて、ここしばらくの畿内の争いに必ずと言っていいほど関わっておる御方だ。


 ワシも会ったことはないが、あまり誉められた御方ではないようじゃの。今回もわざわざ会わんでいいように、本人が京の都に居ない時に来たのだが。


 エル殿が山科卿と同じく、細川殿のことを気にしておったから念のためであったが、京の都に来て理解したわ。


 幕府は滅茶苦茶だ。やはり朝廷との誼を強めるべきであろうな。







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