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戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。  作者: 横蛍・戦国要塞、10巻まで発売中です!
天文17年(1548年)

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第八十五話・マグロとシビ

side:六角定頼


「そうか。それほど織田弾正忠は評判か」


「はっ」


「そういえば尾張の商人が麦を買っておったな」


 尾張に南蛮船が来るようになったと聞いたのは、いつのことだったか。堺と間違えたか、嵐にでもあったかと思うたのだがな。


 まさか南蛮船の商人を召し抱えるとは。驚きを通り越して呆れるほどだ。


 弾正忠は商いの利をよく理解しておるのだろう。ワシは楽市に目を付け、奴は南蛮船に目を付けた。会えば話が合うかもしれんな。


「御屋形様、伊勢に手を出されると困りませぬか?」


「出さぬであろう。美濃と三河で争っておるのだ。敵を増やすほど馬鹿ではあるまい」


 織田の尾張とは北伊勢で接しておるし、美濃の大垣も近江に近い。油断はできぬが、少しばかり領地を広げ過ぎておる。現状では問題はあるまい。


「しかし噂の南蛮船は、伊勢の水軍衆を無視しているとか」


「敵対まではしておるまい。そもそも伊勢湾の真ん中を走るだけで、伊勢の水軍衆に銭を払わねばならぬのか?」


 伊勢の水軍衆は、津島の商人が物を優先的に売ることで矛を収めた。噂の金色酒も伊勢の商人が、畿内に持ち込んでおるからな。


 まあ本音は南蛮船には勝てぬと言えぬので、矛を収める理由を探しておったとも言えるだろうがな。


「攻めるとなれば市江島の服部であろう? あそこは当家の預かり知らぬところ。好きにすれば良い」


 ワシと織田とで少々懸案となりそうなのは、市江島の服部だろう。尾張と伊勢の国境だからな。


 尤も服部の坊主は、ワシに臣従もせぬからな。滅ぼうが知ったことではない。


 あまり願証寺を刺激してほしくはないが、奴らのために織田と敵対する気はない。それに織田も三河で一向衆と対峙しておる。無理はするまい。


「それにしても流行り風邪とはいえ、見事な対策をしたようですな」


「うむ。見習うところはあろう」


 織田で気になったは流行り病の対策だ。寺社に病人を集めて、祈祷と食事と薬で流行り病を退けたと聞く。


 見事だ。近江ではそのままでは真似できぬが、見習うところはあるな。




side:織田信秀


「朝廷か」


「はっ。大和守家も無く、残るは伊勢守家のみ。ちょうど良き頃合いかと」


 白粉おしろいに澄み酒と続き、鏡と硝子の杯と来たか。


 本当に次から次へと、よく新しき売り物を見つけるな。


 確かにこの硝子の杯はいい。金色酒の色が美しく見える。鏡も驚くほどよくうつると、女どもが騒いでおったな。


「確かに頃合いか」


「一馬殿の立場と島のこともありますれば。いずれ騒がれる前に朝廷に献上して、よしみを通じておくべきかと思いまする」


「確かに騒ぐ者は出そうではあるな。尤も騒いでも何もできんとは思うが。今のうちに手を打つべきか」


 現状では上手くいっておる。されど明日はどうなるか分からぬ。上手くいっておる時に、朝廷に誼を通じておくことは必要か。困ったときだけ銭を献上しても相手にしてもらえまい。


 一馬がどこまで考えておるか知らぬが、あやつの島と船は喉から手が出るほど欲しがる者も大勢いよう。


 あやつの欠点は、甘さと危機感の無さだからな。周りの者はそうでもないようだが、畿内や幕府の厄介さは知らぬであろう。


 尤も正確な場所はワシでも知らぬのに、他の者が一馬の島に攻め込めるとは思わんが。とはいえ騒がれて、織田からの離反工作をされても困る。


 それに織田弾正忠家も過渡期にある。大和守家を滅ぼしたのは変わらぬのだ。いずれ蝮のように言われるやもしれぬ。


 やはり朝廷と誼を通じることが必要か。


「今回はあまり銭をかけずに、鏡と酒などの貴重な品々と絹織物を献上するくらいでよろしいかと。毎回銭で官位を買うと思われてもよろしくありませぬ」


「良かろう。任せる」


  噂に聞くところによると、朝廷は相変わらず困窮しておるらしいからな。


 いっそ定期的に献上品や献金をするべきか。


 幕府の争いに巻き込まれるのは御免だが、今川との戦で幕府が首を突っ込まぬとも限らぬな。


 朝廷を上手く使う方がいいやもしれぬ。


 駄目でも一馬の物品が話題となり売れれば、元は取れるしな。やって損はあるまい。




side:久遠一馬


 春の暖かい日射しはいいね。


 風はまだ少し肌寒いけど、縁側で横になりエルの膝枕で耳掃除をしてもらってると、心地いい眠気が押し寄せてくる。


 ロボも何故かオレの胸元で丸くなってるから、温かくてちょうどいいし。


 信長さんは本日はお勉強らしく来てない。やはりウチは十日に一度は休みを作ろう。休みがないなんてブラック武家は嫌だ。


「動くと危ないですよ」


「ん……」


 女性の膝枕っていいもんなんだね。着物越しに感じる温もりに、微かに香る女の匂い。ふと見上げると、大きな双子の山が……。いっそ切った張ったの世界からさよならしたくなる。


 でもバカ殿一直線になりそうだな。オレだと。


「そうだ、桜が咲いたら花見でも行こうか。みんな呼んでさ」


「いいですね」


 春と言えばお花見だよね。確か秀吉が花見したはずだし、この時代にも花見の風習はあるはず。桜か梅かは知らんけど。染井吉野はまだだよなぁ。でも、桜同士の交雑による突然変異種だからな。勝手に持ち込んじゃおうか。


 ああ、眠くなってきたな……。




「へぇ、マグロか」


「途中で釣れたんだって」


 膝枕で昼寝してたら島からの船が、マグロを釣ってきたと起こされた。キハダマグロらしい。


「まぐろ? ですか?」


「ウチの島の辺りで捕れる魚なんだよ。美味いよ」


「でもこれ、しびですよ?」


 オレ達は久々にマグロだって喜んでたら、家臣に奇妙な顔をされた。どうもマグロはシビと呼ばれて縁起が悪いと、武士には嫌われるらしい。


「大丈夫。オレたちはよく食べたから。みんなは無理に食べなくてもいいよ」


 ケティはさっそくマグロを解体して、ヅケにしたり刺身にしたり調理してる。エルも手伝いだしたしオレも手伝おう。


 長ネギがまだあったはずだから、ねぎま鍋もいいね。


「なんだ? それは?」


「若。しびですよ、しび」


「ほう。それがしびか」


 嬉しそうに調理するオレたちを不思議そうに見つめる家臣のみんなだけど、我に返ったのか調理を手伝ってくれた。


 そしてもうすぐ完成だという時に、やってきたのは信長さんだった。勉強終わったのかな?


 信長さんはマグロを初めて見るのか。小姓の皆さんは知ってる人も居るらしいけど。まあ、いいとこのお坊ちゃんだからね。信長さんは。


「美味いのか?」


「ええ。ウチの島ではよく食べたんですよ」


「よし、オレも食おう」


「若!?」


「魚であることに変わりはあるまい。第一かずたちは何ともないではないか」


 なんだろう。周りはシビという迷信を恐れるような、ゲテモノでも見るような感じだけど。信長さんは即決で食べると言う。


 食い意地が張ってるのか、迷信を信じてないのか。どっちだろうね。




「美味いではないか!!」


 最初に信長さんが食べたのはお刺身だ。多分中トロの部分かな。昔のグルメ漫画のように、そんな大袈裟に言わんでも。


「お前たちも食ってみろ。驚くぞ」


 割と抵抗感がないのは元農家の家臣だね。慶次? うん。真っ先に食べて、どんぶり飯を早くもお代わりしてるよ。


 信長さんに促された小姓さんとかウチの家臣は、半分恐る恐る食べ始めた。


「本当にうめえ!」


「なんでだ!?」


 順応性は高いんだろうね。一口食べて味を理解すると、みんなガツガツ食べてるよ。


 刺身にマグロの握り寿司に、竜田揚げとねぎま鍋。ステーキ風の焼き物もある。本当に美味しいな。


 新鮮だしマグロの味を、そのまま味わえる。


 でもこれ冷蔵とか冷凍技術がないから、普通ならこんなに美味しく食べられないんだろうね。赤身の魚はすぐ悪くなるし寄生虫の問題もある。


 島からの定期船は、離水航行すると片道数時間で着くからなぁ。未来技術で瞬間冷凍して、寄生虫も赤身魚の身焼けも解決。あとは常温解凍しながらちょいと熟成して、尾張に着けば食べ頃だ。


 温かいご飯にヅケの身を乗せて出汁をかけると、醤油に漬け込まれたマグロの味と出汁が合わさり、これまた美味い! さらさらと入るから、いくらでも食べられそうだね。


 ああ、ジュリアのやつがお酒持ってきたから、いつの間にか宴会になっちゃったし。


 マグロ余ったらオイル漬けにしようと思ったけど、余らないな。こりゃ。




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書籍版戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。

第十巻まで発売中です。

― 新着の感想 ―
[一言] 江戸時代ですら東京湾や相模、駿河湾までクジラが捕れたからマグロくらいは相当沿岸にいたかもしれないですね。 黒潮次第ですがw
[良い点] マグロが美味しそう [気になる点] いつか一般庶民にもマグロ丼が食べられるときが来るといいな。 [一言] わさびとか栽培したら面白そう。
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