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戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。  作者: 横蛍・戦国要塞、10巻まで発売中です!
天文17年(1548年)

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第七十二話・水野氏訪問

side・佐治為景さじためかげ


「随分と気前のいいお方でございましたな」


「うむ。少し予想外であったな」


 三郎様と久遠殿の一行が緒川おがわ城に向かうのを見送り、一息ついたワシは家中の主だった者を集めた。


 動滑車と言うたか。あれがあれば船の操船が変わるやもしれぬと頼んだはいいが、まさか銭も取らず気前よくくれるとは些か予想外であった。


「しかし海苔を育て、山に木を植えるとは……」


「山の木は無いよりはあった方が良かろう。せっかくやり方を教えてくれるのだ。やって損にはなるまい」


「だが、このままでは我らは久遠殿の傘下にされるのでは?」


「ならば向こうから利益になる話をくれたのに蹴るのか? 久遠殿の力を考えれば干されるぞ?」


 家中の反応は悪くはない。しかし一抹の不安を口にする者も中には居る。


 元々織田家への臣従は、我らの意思と言うよりは水野殿の決断に引きずられた面が大きい。急な変化に不安になる者が出るのは仕方なきことか。


 織田家中でさえ誰がどこまで理解しておるか、ワシにも分からぬ。だが久遠殿の力は恐らく、家中でもすでに抜きん出ておるはずだ。


 それにあの洗練された船を見ればその力が分かる。日ノ本に久遠殿と互角に渡り合える水軍など存在しないであろう。そう易々と敵に回していいお方ではない。


「同じ織田家中なのだ。協力していくしかあるまい。我らに久遠殿の真似はできぬが、久遠殿ならば我らの真似はできる」


「そうですな。それにあまり心配しなくてもいいのでは? 三河では百姓に賦役をさせて、飯を食わせておるとのこと。我らにもそれほど厳しくすることはあるまい」


 そもそも我らが久遠殿に勝るのは船の数くらいであろう。だがそれも沿岸から離れられぬ船ばかりだ。


 ワシは正直傘下に入れと言われるなら、それでもいいと思うておる。


 いつかあの南蛮船で大海原を走り、久遠殿と共に明や南蛮に行けるならば、それもまたいいと思う。


「皆の者。せっかく久遠殿が儲かる話をくれたのだ。断ることはせぬ。逆に久遠殿に我らの力を見せつけてやれば良いのだ」


「確かに。そうですな」


「どのみち我らは海には強くても陸では戦えぬ。陸から攻められたら終わりだからな」


 よし。家中に反対はないな。


 織田家と久遠殿の商いは、我らの大きな利になるのだ。手をこまねいておっては、誰かに持っていかれる。


 大野に佐治水軍ありというところを、織田家と久遠殿に見せつけねばならぬ。


 そうと決まればやることは山ほどあるな!




side・久遠一馬


 佐治さんのところで一泊したオレたちは、陸路で水野さんの緒川城を目指していた。


 水野さんの緒川城は尾張の知多半島の付け根にあり、三河との国境も近い地域だ。


 知多半島の現状は佐治さんのように、水野さんに臣従してない人も居るが、ほぼ水野さんが領有してると言ってもいいだろう。


 ただここで問題なのは、婚姻や和睦で傘下に収めた国人も居て必ずしも一枚岩でないことか。それは織田家にも言えることだけど、独立意識の強い武士を束ねるのは簡単じゃない。


 水野家当主の水野信元さんは、史実においては桶狭間の時も信長さんの味方をした人であるし、後に武田への内通を疑われ処刑された人でもある。


 処刑については諸説あってはっきりしない。ただ後に水野家が刈谷城に戻ってるところを見ると、内通はなかった気はするけど。


「それにしても道が悪いですね」


「この辺りは、村もありませんので。どこもこんなものでございますよ」


 そんなわけで緒川城を目指してるけど、オレたちと信長さんが連れてきた護衛に加えて、佐治さんが付けてくれた道案内兼護衛の兵で、二百人近くの集団になった。


 あまりに道が悪いのでつい愚痴ったら案内役の人がこの辺りのことを教えてくれた。


 知多半島ははっきり言えば、田んぼもない荒れ地と禿げ山が目立つ。これはやっぱりなんとかしないと、尾張の改革が進んだ時に知多半島だけ貧しくなっちゃうな。


 というか元の世界では、これは獣道という部類に入る気がする。もはや道とは呼べないような気が……。


 馬一つで移動する馬借が繁盛するはずだよ。できれば道の整備もしたいところだけど、当分は無理だな。




「ようこそおいでくださいました」


 やっと緒川城に着いたよ。ここまで来れば普通に田んぼもあるんだね。


 水野家の織田臣従は最近だけど、同盟関係は当主の信元さんが家督を継いでからあったので関係は良好だ。


 水野さんとは知多半島について意見を交換して、佐治さんと同じく大型の網を貸すことにする。


 ただ、無償援助では、面目がつぶれるし、逆に後で見返りを要求されるのではと疑われるから、一定量は久遠家に売ることなどの条件が必要かな。


 養殖関係は佐治さんの方が、上手くいってからでも遅くはないだろう。こちらでも植林について提案して、おねがいしておこう。


「やはり三河は大変か」


「はっ。最近では松平領から逃げてくる者も居ります。中には盗みや村を襲う者も居りまして、気が抜けませぬ」


 漁業の件と植林については概ね快諾してくれた。あと佐治さんにも話したことだけど、魚を捕りすぎないことや魚によって産卵期の休漁も提案している。


 山の木は無いよりはあった方がいいというのが、この時代でも認識としてあるらしい。ただやり方が分からなかったり、食べるので精一杯だったりと、そこまで余裕がないのが本音みたいだね。


 ウチでやり方を教えて、食べられるように手を貸すならやる気はあるみたい。


 知多半島の件はとりあえずはいいとして、水野さんの懸念はやっぱり三河だった。


「さて、どうしたものか」


「以前と比べれば治めやすくなりました。贅沢な悩みかもしれませぬが、川一つ挟んだこちらに来れば食えると噂になっておるようでして」


 三河の織田領は現状で赤字だけど順調だ。しかし、順調に発展していけば新たな問題が出てくるのは、元の世界も戦国時代も変わらないか。特に隣近所だけ発展していけば、周りが不満に思うのは当然のことだ。


 経済難民の問題は未来でも頭の痛い問題の一つだからな。元の世界の日本は、島国だからまだ遠い世界の話だったけど、今の三河は地続きだからな。簡単に国境を越えてくる。


「かず、エル、何か策はないか?」


「長い目でみれば受け入れた方が得になります。ありきたりですが、戦で荒れて放置された田畑を復興させるべきでしょう」


「他にはないか」


「男性は銭で雇い兵にするという方法もあります。平時は開墾や国境の警備をさせておけば、最近増えている村の襲撃を防げるでしょう。現地の男性を兵として雇えば地の利もありますし」


 信長さんに策を求められたけど、正直画期的な策はないんだよね。


 これが本当の外国からの難民なら、追い返すのが一番なんだろうけど。将来的に三河より東に進むなら、今は少し無理をしても受け入れるべきか。清洲の時と同じ対応で行くしかないだろう。


「どちらにしても銭がかかるな。親父に言うておく」


「はっ。よろしくお願いいたしまする」


 水野さんもそんなに余力があるほどじゃない。やるなら織田家でやらないとできないし効果も出ないだろうね。率先して臣従してくれたんだから、子分の面倒はちゃんと見ないとね。


 でも、これはオレたちだけで決められる問題じゃないから、持ち帰って信秀さんとも検討しないと。


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書籍版戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。

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