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戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。  作者: 横蛍・戦国要塞、10巻まで発売中です!
天文16年(1547年)

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第五十話・自爆しそうな人達とクルージング

side・坂井大膳


「信じられんな。どこにそんな銭と米があるのだ?」


「それは分かりませぬな」


「信秀の銭と兵糧を使わせるのは成功したが、これでは人が離れていくばかりぞ。それにあの関所はなんなのだ! まるで砦でも造っておるようではないか!!」


「信秀は流民が止まらぬので、関所を大きくすると言うている」


「ぬけぬけと。流民を受け入れておるのに、何故関所が必要なのだ!」


 どうも上手くいかぬな。病にかかり邪魔な子供と老人を追放したまでは良かったはずだ。清洲の町の病人は幾分減ったのだからな。


 だが信秀があんな役立たずの病人を、受け入れて治療するとは。おかげで信秀は慈悲深い仏のような殿様だと、評判になってしまったではないか。


 それに大工や鍛冶などの職人は、ごっそりと集団ごと引き抜かれておる状況だわ。


 しかも年寄りの病人に、米の入った粥や薬を毎日与えるとは何の冗談だ?


「守護代様のご容態は?」


「だいぶ良くなったようだ」


 それに引き換えこちらは守護代様が流行り病にかかり、祈祷の礼やら薬やらと銭がかかるばかり。


「坂井殿。なんとかならぬのか? このままでは信秀に食われてしまうぞ!」


「美濃の斎藤家も駿河の今川家も色よい返事はない。両家とも信秀から薬を買うておるようでな」


 しかし今は誰も動く気はないらしい。唯一反応が良かったのは松平だが、今川が動かぬのでは役にたたぬ。


 信秀め。それほど商いが好きならば、商人にでもなればいいものを。


「ちょっと待て! それでは信秀が攻めてきても、我らには味方が居ないではないか!!」


 うつけが、分かりきったことで騒ぐな。前々から信秀と争って味方になる者など、居ないのが分からんかったのか?


 それでもこちらは主家なのだ。守護もこちらの手の内にある現状では、軽々しく手を出せぬはずだ。


「策はある。しかし重要なのは、戦になった場合に勝てるかだ」


 それでもこちらは、間者を那古野に送り込んでおるのだ。やり方次第で策はある。無論のこと信秀や久遠とやらは無理だな。うつけ殿でさえ手は出せん。


 だが連中が抱えておる流行り病の患者程度ならば、不可能ではない。毒でも盛って悪評を流せば、混乱するかもしれぬ。


 問題は戦になった場合に勝てるかと、落としどころをどうするかだ。


「ふん! 信秀に清洲は攻められまい。謀叛人になるのだぞ!?」


 清洲には信秀に頭を下げたくない者が多い。というかそんな者しか残っておらん。それ故に今まではやってこられた。


 しかし本当にこやつらが、どこまで信秀と戦う気があるのかは疑問が残るな。


 さて、どうする? このままでは遅かれ早かれ清洲は、信秀に押し潰されてしまう。


 動くならば今しかないのは確かなのだが。




side・久遠一馬


「足元に気を付けてください」


 季節はすっかり冬となったこの日。織田弾正忠家御一行様をガレオン船に乗せる日となった。


 元は以前信光さんが言い出したことだけど、信秀さんや家中の皆さんを誘ったら、意外に参加希望者が多くてビックリした。一度では大変なので今日はまず、織田一族と重臣の皆さんを船に乗せることにした。


「想像以上にでかいな」


「これが噂の南蛮船か。おお! これが大砲か!」


 正確には南蛮船風の船なんだけど。動力とかオートバランサーとか装備してるから。


 安宅船とか廻船とは全く違う別物だからね。みんな不思議そうに見たり触ったりしてる。人気なのはやはり大砲か。


 端から見てると自衛隊の艦船を見学してる、未来の日本人と行動は大差ないね。


「じゃあ、出港しようか」


 今日は津島近海を少し走らせてみる予定だ。いかりを巻き上げて帆を張り、風を受けて船は動き出す。


 今は向かい風で風を切り上げるので、あまり速度は出ない。とはいえ和船とは違う大きさの船にみんな興奮気味だ。大きな帆に風を受けて進む様子は爽快でいい。


 ただし問題は、冬なのでちょっと寒いことか。


「おお! これは凄い! 違う! 何もかも違うぞ!」


 ところで知らないおっさんが、さっきから人一倍興奮しながらあちこち見てるけど誰?


「一馬。知多にある大野城の佐治さじ為景殿だ」


「ああ、佐治水軍の」


「水野の件もあるから誘ったのだが……」


 オレが不思議そうにしてるのを察してくれたのか、信秀さんが興奮してるおっさんのこと教えてくれた。まさか佐治水軍の人だったのか。


 人のこと言えないけど武士らしくないね。


「おお、失礼致した。某は佐治為景。久遠殿には是非お会いしたく、思うておりました!」


「どうも。久遠一馬です。お噂はかねがね伺っておりました」


「これは商船ですか? 戦船ですか?」


「遠洋航海の商船です。武装は最低限ですかね」


「よろしければ中も拝見したいのですが……」


「ええ。どうぞ」


 佐治さんって、あれだね。船バカだね。フランクでいい人だよ。


 史実だと辛うじて名前がある程度の人だ。確か信長さんの妹と結婚するはずの人の親父か。一応信秀さんに許可をもらい、極秘のオーバーテクノロジー以外は見せることにした。


 佐治水軍って尾張どころか伊勢湾の制海権の鍵を握るらしいし、史実でも信長さんや秀吉が気にしていたはず。現に信秀さんもだいぶ気にしてるみたいだからね。


「我々の船とは根本的に違う。違いすぎる」


「日ノ本には遠くにいく船は、ありませんからね」


 佐治さんは案内したガレオン船に衝撃を受けたみたい。本当に根本的な造船技術から、使用目的も違うんだよね。例えば竜骨とか。


 正直ガレオン船だと距離を空けて大砲を撃つならいいだろうけど、瀬戸内海辺りで大量の安宅船とか関船と戦するには少し厳しいだろうな。


 ヨーロッパみたいに大砲を大量に積んで、撃ちまくるなら可能性はあるか?


 佐治さんには是非とも頑張ってもらいたいもんだ。


 その後は、津島から離れたら大砲を撃って見せて帰還だ。お偉いさんばかりだから、あまり無茶はできないしね。


 釣りでもと思ったけど、冬の海風は冷たいので止めておこう。




――――――――――――――――――

 織田統一記には天文16年、冬。織田信秀は初めて南蛮船に乗ったと記されている。


 信長を筆頭に当時の織田一族や重臣も同行したようだ。


 信長自身は船に乗るのは二度目と思われるが、実際に動いている船に乗ったのはこの日が初めてのようだ。


 当時の日本の安宅船などとは全く違う南蛮船に搭乗した者はみな驚いたと伝わっていて、特に大砲を試射した時の驚きは凄まじいものだったとも記されている。


 なお、この南蛮船に搭乗したメンバーには水野信元や佐治為景の名があり、正確な時期は不明だが知多半島の水野氏と佐治氏が信秀に臣従する直前だと思われる。


 織田弾正忠家の一族や重臣に加えて、臣従間近の知多半島の水野氏や佐治氏が居ることから、この南蛮船の件は信秀による家中の引き締めと、水野氏及び佐治氏を臣従させる目的があったと言われている。


 献策したのは一馬ともその妻であるとも言われているが、異説として信秀の弟の信光が南蛮船に乗りたいと言い出し、信秀以下一族や重臣がたまたま集まっただけという説もある。


 ちなみに同時期には織田統一記及び、久遠ケティの侍女による診療日記にて、風邪かインフルエンザと思われる流行り病が蔓延しており、織田家が対応に追われていた時期と一致する。


 他には日本初の高炉と西洋式牧場の建設時期とも重なる。


 上記のような時期なだけに、信秀としては確かな目的があったという説が最近の主流である。





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