第三百七話・一馬最大の危機!?
Side:久遠一馬
美濃に居座った土岐家の家臣が少し面倒なことになってる。土岐家が去った揖斐北方城を占拠してそのまま領有しようとしてるのは元主戦派だ。彼らは土岐家の再興を口にしているようで、どうも六角の後ろ盾を得て独自勢力として生き残りたいらしい。
和睦派は織田に臣従したいようだが、人口調査と検地と分国法には難色を示している。一方の美濃大垣周辺の国人衆は反発らしい反発はほぼない。
彼らは武芸大会や新年会で織田の力を理解していることと、基本的な臣従条件が尾張と同じことで多少の不満や戸惑いはあっても道三よりはマシと割り切っているようだ。
この時代だと本国・本領と属国・属領では露骨に扱いが違うことも珍しくはない。戦に負けると重税を掛けるなんて可愛いもので、酷いところだと男も女も奴隷として売り払われるなんて珍しくないからね。甲斐の武田なんかがいい例だ。
ほかの国人衆は、まあ様子見が多いかな。織田と斎藤の関係がどうなるのかを見極めたいんだろうとエルが言ってた。
揖斐北方城への遠征の準備は既に始まっている。兵糧は値崩れした美濃で確保して大垣や織田方の国人衆のところに保管するようで、矢弾なんかは大垣に送るみたいだ。
尾張からの出兵は六百人ほどになりそう。効率の問題から少数でいいんだけど、志願者が多いみたい。みんなどんだけ戦がしたいんだ。
尾張からの援軍は、志願者と軍監目付役などの管理者だけになる。ウチからは益氏さんと望月家や忍び衆から志願者があったので、三十名ほどの派兵になる。
今回の遠征では、益氏さんに木砲を持たせることにしたんだ。金色野砲は陸上運搬を考慮したものだが、重量もそれなりにあるからね。基本使い捨ての木砲が候補に挙がった。そもそも揖斐北方城攻めに金色野砲はオーバースペックだし。
信秀さんとも相談して、今回も織田家からの報酬と引き換えに、乱取りの禁止の戦にする予定だ。戦後統治が楽になるのは清洲や市江島で実証済みだしね。また、今回の出陣は補給と軍規遵守のテストも兼ねている。
信秀さんが出陣しない他国での戦で、どこまで乱取り禁止や軍規が守られるか。それと荷駄隊についても従来の国人衆主体の領民動員による輸送から、専門の部隊を置くことで調整をしている。
「大分、港になってきたね」
「そうですね。重量物の搬出入も考慮に入れておりますので、ガレオン船が直接接岸しても問題はないかと」
さて今日はエルと蟹江港の建設地に来ている。臨時の港が一部完成したとの知らせを受けたためだ。
オレたちが来てるからか、周りの工事関係者が緊張してるのがわかる。水深を確保した港に浮き桟橋を設置して船の接岸係留が可能となったんだ。もちろんこの時代では大型船の括りになる南蛮船、特にガレオン船が接岸係留出来る桟橋は尾張では初となる。
岸壁は一部だがローマン・コンクリート製だ。埋め立ては長島や伊勢の人にも頼んだが、ローマン・コンクリートは工業村の職人を呼んだ。まあ土台とかは岩なんかを利用したみたいだけど。みんなよく頑張ったなぁ。
「やったぞ!!」
「やったー!!」
オレとエルが桟橋を歩いて試しに呼んだキャラベル船に乗ると、関係者たちは喜びの声を上げた。大変だったんだろうな。経験がないことだったろうし。抱き合って喜ぶ人たちに見てるほうが嬉しくなる。
無論まだ港の部分に関しても埋め立ては終わっていない。港の隣には造船所として乾ドックの建設も予定してるが、こちらもまだまだだ。
とはいえ船が使えるようになると工事の進捗は今まで以上に進むだろう。今のままでも和船なら岸壁への着岸も出来るしね。ともあれ、南蛮船の桟橋での接岸が出来た。次のステップは岸壁での着岸を目指そう。
「津島と熱田の屋敷からお酒を貰ってきて。今日はみんなにお酒を振舞おう」
「はっ、すぐに!」
うん。頑張ったみんなには褒美を出さないと。銭の褒美は後日にするにしても、お酒くらいはお付きとして連れてきた家臣に頼んで、すぐに持ってきてもらおう。
夜にはみんなで宴会でもしてほしい。
那古野に戻ると政秀さんと信長さんの婚礼の儀の打ち合わせをする。ウチでの結婚式とは違い信長さんの結婚式は仕来りとか色々煩いみたい。
ただ、料理はエルたちが頼まれていて、ケーキは絶対に欲しいとのリクエストが信長さんから来ている。いいんだろうか? 信長さんは甘党だからな。ケティから食べすぎだと注意されなければ良いんだが。
というか、この時代の結婚式は三日ほどかかるらしい。眠くなったらどうしよう。お祝いする気持ちはあるが、感性がこの時代の人とは違うからなぁ。
「殿、お茶などいかがでございますか?」
「うん。もらおうかな」
細かい打ち合わせは政秀さんとエルにお任せだ。オレにはよくわからん。やることがないんでロボとブランカと一緒に庭を散歩してたら、千代女さんがお茶を点ててくれた。
そういえば千代女さんの結婚もそろそろ考えないとなぁ。一時期よりは数が減ったが、千代女さんと滝川家のお清ちゃんには甲賀や織田家中からの縁談が今でも時々くる。ただ本人たちが他家に嫁に出るのを望んでないらしいので断っているんだよね。
問題はふたりが対外的にオレのお妾さん扱いされてることだ。結構な身分の家からも縁談が来ても断ってるからね。勝手に理由を考えて誤解が広がってるらしい。
誤解を受ける理由は彼女たちの生活にもある。伊勢や関東に行ったときには侍女として同行していたし、ふたりともよく働くから禄もそれなりに出している。そんなに贅沢はしてないが生活が裕福なのは見ればわかる。他家から見れば、普通の侍女の待遇とは明らかに違うのだろう。
裕福な生活=妾だと思う人が多いみたい。困るよね。ふたりもお嫁さんに行きたいだろうし。ただ、下手に誤解だと、正しい境遇をこちらから広めると、また縁談が山のようにくるだろう。
というか今の千代女さんの禄以上の嫁ぎ先とか考えると、地味に候補が少なくなる。やっぱり家中が一番いいんだけどなぁ。
「慶次とかみんなにお嫁さん候補を探してあげないとなぁ」
まあ、結婚は男衆も必要なんだけどね。慶次に一益さんに益氏さんとかみんなまだ独身だ。
「……私の嫁ぎ先が決まったのでございますか?」
さすがにオレから千代女さんに好きな人がいるのかとは無神経になるから訊かないが、慶次とか一益さんのことを愚痴るように口にしたら、お茶を点てていた千代女さんの表情が固まった。
うん? 慶次たちにも千代女さんにも自由に相手を決めていいと言ってるんだが。ただ出会いのきっかけがあまりないようなんで、合コンというか若い家中の未婚の男女の食事会でも考えているだけなんだが。
「えっ!?」
ちょっと、千代女さん今にも泣きそうなんだけど!? なんでだ?
こんな時に限ってエルたちが誰もいない。まるでオレが泣かせてるみたいじゃないか。ロボとブランカ、出番だ! ご機嫌を取って来るんだ! って、肝心な時に揃ってお昼寝しないでよ!?
「いや、嫁ぎ先は自分で好きな人見つけていいって言ったよね。勝手に決めないよ」
「本当でございましょうか?」
「うん。なんかあったの?」
「織田の大殿様のご猶子となられ、久遠家でも織田のご家中との縁組をするのではとの噂がありましたので……」
仕方ないから優しく訳を聞くが、また根も葉もない噂か。
「そんな話ないよ。正直さ、嫌いなんだよね。そういうの。本人の望まない婚姻とか。大殿も若様も理解してくれてる。ウチでは家の都合で縁組はさせないから」
元の世界の人間としてのオレの一番のこだわりだろう。この時代に合わせて生きるつもりだが、やっぱり政略結婚とかウチじゃさせたくない。
現実を見てないとか子供っぽいと言われるかもしれないが。これはオレのわがままを通させてもらうつもりだ。
「そうでございますか……」
よかった。あからさまにホッとした表情で笑ってくれた。泣かれたらどうしようかと思ったよ。
だれか好きな人でもいるんだろうか? エルにあとで聞いてみるか。よほどの身分違いでないなら、最悪ウチの養女として嫁に行ってもいいし。














