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戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。  作者: 横蛍・戦国要塞、10巻まで発売中です!
天文18年(1549年)

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第三百三話・親子

Side:久遠一馬


 一月も末になった。信秀さんのところには早くも土岐頼芸から二度目の催促が来たらしいが、斎藤家に嫌疑なしと認めたので美濃攻めはしないと追い返したらしい。催促ねぇ、どのくらい偉そうな催促だったんだろう。


「この状況で婚礼の準備を進めるとは思いませんでしたよ」


 そんな中、信長さんの正式な婚礼の儀の日取りが決まった。日程は奇しくも史実と同じ二月二十四日だ。


「斎藤家に嫌疑があらぬならば、進めるべきであろう。諸将諸衆にあの守護の無能さを知らせるいい機会だ」


 この日は信秀さんと信長さんと、ウチのこたつでお話し中だ。猶子とはいえ、いいのだろうか?


 なんかふたりの戦国大名らしさが、どんどんなくなっていく。


 でもまあ、さすがは尾張の虎だ。敵には容赦がない。頼芸は『戦だ、道三討伐だ』と騒いでいるが、信秀さんと道三は問題ないと婚礼の儀の日取りを決めちゃったんだから。さらに面目が潰れたね。


 美濃の国人衆はびっくりしてるだろう。


「蝮から文が来た。斎藤家中の謀叛人が頼芸を煽っておるらしい。嫡男の新九郎は手を引いたそうだ」


 義龍は手を引いた。エルの報告では道三と義龍の関係は思ったほど悪くない。どうもふたりの関係を険悪にしていたのは、斎藤家内部の争いと長井道利ながいみちとしの個人的な恨みらしい。


 まあ考えてみれば、この時代は公私を分けるなどという価値観はあまりない。個人の好き嫌いがそのまま世の中に影響する。オレも偉そうに人のことは言えないけどね。土岐頼芸は嫌いだし。


「そういえば、かず。随分と儲けたようだな。この騒動もお前の策だと噂だぞ」


「ええ、まあ。あれだけ米の値が乱高下していましたから。まだ乱高下してますけど。ただ、狙ったわけではないですよ」


 尾張でも戦の準備をしている国人衆もいるが、ウチがまた儲けたと噂になっていることを信長さんにからかい気味に指摘された。


 しかも、なぜか一連の事態がオレの謀のように言われている。本当に酷い風評被害だ。


 まああれから更に儲けたのは確かだけど。美濃の土岐頼芸を筆頭に反織田には大湊が兵糧や武具を売っているが、兵糧はほとんどウチが大湊に高値で売って、大湊はその兵糧をさらに高値で美濃で売った。


 大湊はウチと織田に気を使ったのと、近場から仕入れたほうが早いからウチから仕入れたのだろう。


 信秀さんも念のため大垣城と織田領の国人衆には兵糧を送っているが、勝手なことをしたら助けないとも言っている。


 戦をすればまず勝てるだろう。でも楽勝出来ると浮かれて、抜け駆けされても困るんだよね。出来れば尾張や美濃の織田領からは軍を出さずに終えたい。つまり傍観したいんだ。


「そろそろ儲けも終わりであろう。美濃守と斎藤家中の謀叛人を蝮に始末させて終わりだな」


「ウチはもう事後の準備に取り掛かってます。事態が終わったら米を一気に美濃に流して米の値を下げます。領民はそれで織田に反発はしないでしょうし、国人衆の力も一時ですが大きく下げられます」


 困ったことに尾張では戦だと盛り上がる野心剥き出しの国人衆もいるが、オレたちも信秀さんも大規模な遠征などする気はない。戦抜きで事後の美濃での影響力を確保する策はエルが立てていて、美濃国内の米の値をまた暴落させることで領民には米を与えて、国人衆が高値で買った兵糧の価値を落とすことで力を削ぐことにしている。


「美濃が落ちるか」


 信長さんは美濃獲りの王手、とまでは言わないが挽回を許さない容赦ない指し手であることに、少しなんとも言えない表情をしている。戦もろくにしないで、美濃を事実上の支配下に置けるかもしれないんだからね。道三も織田を裏切る気は今のところないみたいだし。


 道三はどちらかといえばこの先を見越して自身の力を見せたいようだけど。そういう意味では、土岐頼芸と斎藤家内部の謀叛人はいいカモに見えるよ。


 問題の発端の商人の家族は義龍に人質にされていたが、すでに尾張に向かっているらしい。当の商人もそれを聞き家族の命の保証を条件に、加担した経緯をしゃべった。今は恩赦にて商人の命を助けて大湊で働かせる方向で調整している。


「そういえば、堺の職人はいかがした?」


 事態は概ね上手くいっているが、信秀さんは思い出したように堺の職人たちのことを口にした。ウチで預かってるんだよね。


「彼らはウチで働いてますよ。職人としての腕は悪くないので。頃合いを見計らって堺に返すか、家族を呼ぶことになると思います」


 すずとチェリーが救出した職人たちは問題が解決するまでは証人として確保が必要だが、木工職人としての腕は悪くない。むしろ優秀だろう。


 ただで待たせるのもなんなんで、処遇が決まるまでウチで仕事をさせることにした。報酬を払うと言ったら喜んでいたよ。そもそも彼らは罪人だから、打ち首かとびくびくしていたくらいだし。彼らも知る限りの事の背景や経緯を話すことを条件に、司法取引的に恩赦にしたし、問題が解決したら自由放免にする予定だ。


「これはまた、面白いものを作ったな」


「彼らが作りました」


 これはと言うのは、その堺の職人たちが作ったのはかわら版だ。土岐頼芸の非道と無能っぷりを絵入りで紹介したものになる。絵は少し悪意を感じるが……。気のせいだろう。


 試し刷りしたものを信秀さんたちに見せると、ふたりは微妙な表情をした。メルティの原画では、ある人物の凶悪な人相がよく出てるけど、堺の職人が版を彫って刷った試し刷りは微妙に歪んで、醜さが上乗せされている。うん、オレは何も見てない、気のせいだ。


「こんなものを巷に流布されたら武士の沽券に関わるな」


「許可を頂けたら時期を見計らって尾張、美濃、三河、伊勢に、近江にも流したいと考えてます」


 体裁とか面目を気にするこの時代だとこれは有効だろう。これはメルティの策だが、畿内の幕府とかが土岐側の言い分だけで一方的に加担しないように真相を周知させるんだってさ。


 美濃の国人衆と領民に土岐家の真相を知らせる意味もある。いろいろ噂にはなっているが、真相を知らない人も結構いるからね。


 美濃土岐家の政治生命は今回で終わらせないと。




Side:斎藤義龍


 父と和解してわしの周りはずいぶんと変わった。まず、あれだけ姿を見せておった長井隼人佐が、まったく姿を見せなくなった。


 ほかにもわしに対して、父の苦言を述べておった者たちは皆おらぬようになった。結局父が憎いのであって、わしでなくともよかったということだろう。


 父は意外にもわしにいろいろと教えてくれるようになった。織田がすでに守護様など眼中にないことや、妹との婚礼の準備を予定通り進めておること。


 そしてなにより驚いたのは、この騒ぎで兵糧や武具を売って大儲けしておることか。斎藤家を含めて皆が戦に備える中、織田は更に力を付けておるとは。


「ふふふ。仏の弾正忠も敵には容赦ないの。敵には尾張の虎のままか。新九郎よ。これが謀というものだ」


 そんなこの日、織田から新たにきた書状を見て、父は面白そうに笑った。


 織田はこの件の終局が見えれば、美濃の米の値を一気に下げると、父に文で伝えてきた。しかも、そればかりではない。守護様を糾弾するような紙を尾張や美濃に流布致すらしい。


 米の値は大変なことになるぞ。国人衆は軒並み戦があると高い米を買い求めたのだ。それが二束三文になる。


 まさかそれが狙いか?


「領民には米が行き渡り、国人衆は力を失う。美濃は一気に織田のものになるな」


「戦など意味がないと?」


「そこまでは言わぬ。いずれにせよ、長井と守護は片付けねばならぬからな。一戦交えることにはなる。だがそれはこちらの都合だ。織田からすると結果は大差ないはずじゃ」


 戦をする前から負けるとは。勝てぬ。織田に従うことに思うところがないとは言わぬが、守護様は更に権威を失い、領民にはそっぽを向かれては勝てぬ。父はこれがわかっておったから織田との和睦を進めたのか。


「まあ、悪いことばかりではない。米の売り時さえわかればこちらも損はせぬ。信秀も配慮してくれたのであろう」


 仮に織田の策を逆手に取っても、まだ織田の有利は変わらぬだろうな。なによりあの守護様では駄目だ。


「織田はこうなることがわかって、守護様を戻したのでしょうか?」


「そうであろう。あのまま斎藤家を滅ぼしてもあの守護では後で面倒になる。うつけが騒ぐように仕向けたのであろう」


 一見守護様の願いを叶えたようで、実は踏み台にするか。


 恐ろしい。これが尾張の虎、仏の裏の顔か。






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書籍版戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。

第十巻まで発売中です。

― 新着の感想 ―
[一言] 外虎内仏(がいこうちぶつ)って四字熟語が産まれそう
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