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戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。  作者: 横蛍・戦国要塞、10巻まで発売中です!
天文18年(1549年)

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第二百九十八話・揺れる美濃

Side:工業村の鍛冶職人


 久遠様はとんでもなく優しいお方だ。病にかかれば祈るしかできねぇ者に薬と食べ物を与えてくださる。


 しかも流行り病の時だけじゃねぇ。病院とか言う診療所に行けばいつでもただで診てくださるし、動けねぇと頼めば出向いてくださるんだ。


 ここ工業村の中の者も、親戚や知人が助けられたってやつが多い。


 そのせいだろう。オレたちが本来は他の者には教えねぇ身内だけの技を皆で持ち寄ってるのは。もちろん、村の外の者に伝えるのは許さぬ掟にしているが。


 オレたちだってあの薬や粥の値ぐらいは知っている。織田様や久遠様がいかに裕福でも、限度ってもんがあるのはオレたちにもわかる。


 それなのに、ここで作ってる大量の鉄は大半がそのまま川舟で運ばれていっちまう。理由は簡単だ。オレたちが不甲斐ねぇからだ。


 あれをここで加工出来れば、どれだけの利を得て、尾張の益になるか想像も出来ねぇほどだ。


 ここに集められた時、オレたちは決めたんだ。あれを余す事なく加工してみせるってな。


 そうすりゃあ二度と皆が飢えねぇで、飯が食えて薬も飲めるようになるかも知れねぇんだ。そのためなら身内だけの技のひとつやふたつくれてやる。


 旋盤だったか。あれはすげぇ。あれさえあれば、それが出来るかも知れねぇんだ。だからこそオレたちは分業してあれを作ることにした。


 ひとりであれを作れば、いつ出来るかもわからん。皆で技を持ち寄っていればどうしても得手不得手も出てくるし、力量にも差があるのがわかるんだ。


 先日久遠様が訪ねてくださった時は、珍しく驚いた顔をされてた。


 やっぱ分業にしたのは驚いてくれたらしい。誰も顔には出さなかったが、正直嬉しかったな。


「これはなんで棒きれの上を走るんだ? 穴でも掘れば棒きれは要らんだろう」


「いや、穴は駄目だ。土が入って直ぐに埋まっちまう」


 ただ、やっぱ久遠様には驚かされる。棒の上に荷車を走らせる図面を持ってこられた。


 その荷車自体も要所を鉄で作るってんだから驚きだ。皆で分からねぇことや思いついたことを出し合い、やり方を決める。最後は久遠様と一番付き合いが長い清兵衛が決めるが、大体は皆の思いが一つになる。


「まずは、大八車を作ってる職人と、使ってるやつに話を聞きに行かねえとな。オレたちは荷車なんて作ったことがねえからな」


 大八車はここ工業村にもある。たたらの連中が使ってるはずだ。前に壊れやすいとぼやいてた奴がいたからな。


 作ってる職人と、仕事に使ってるやつらの話を聞かねぇと話にならん。


「藤吉郎。お前、ちょっと大八車使ってるやつに話を聞いてこい。これで差し入れでもすればすぐに聞けるだろう」


「はい! 親方!」


 作ってる職人はオレたちが聞きに行かねぇと話にならねぇが、使ってるやつらから話を聞くだけならば若い奴でも大丈夫だろう。


 清兵衛は藤吉郎に行かせるらしい。藤吉郎は細かいことに気が利くし、話が上手い。清兵衛の甥っ子らしいが、いい奴を呼んだよ。


 とりあえず旋盤の作り増しは遅らせられねぇ。さすがに何でもかんでも鉄で作る必要はねぇだろうし、話を聞いてから試しの段取りするのがいいだろうな。


「しかし、余所だと鉄は貴重で、刀とか鉄砲を作るのに……」


「そんなもん、外の連中に任せちまえ。そもそも久遠様の鉄砲はどの鉄砲でも同じ部品が使えるんだ。それを解決しねぇと気が済まん!」


 この尾張には堺や雑賀の鉄砲と久遠様の鉄砲がある。形が違うから見分けは簡単だが、問題は久遠様の鉄砲がどの鉄砲でも同じ大きさの部品で出来てることだ。


 近頃、尾張には余所から来た職人も増えてるし、連中は鉄砲も作っているが、久遠様の鉄砲と比べるとかなり見劣りする。堺や雑賀の鉄砲も同じだ。もちろん鉄砲としては使えるが、久遠様の鉄砲と比べれば粗悪そのものだ。


 まあ、農具ひとつ取っても久遠様は鉄を贅沢に使うものを望まれる。もったいねぇと思うが、仕事に使うならそっちのほうがいいんだよなぁ。


 同じ形にそろえるなんて、ここに来るまで考えたこともねぇ。だが使う身になってみればそれに越したことはねぇ。部品が一つ壊れただけで、新しいのをつくるなんて無駄以外の何物でもねぇからな。


 旋盤もそれを意識して作っている。壊れた時は部品だけ換えればすぐに修理できる様にしてある。


 あの日々大量に出来る鉄を加工するにはそのくらいしないと無理なんだ。


 なんとかまた久遠様を驚かせたいもんだ。




Side:久遠一馬


 この日、織田領内と大湊及び伊勢の自治都市は、悪銭の交換比率を定める布告を同日発表した。


 対象は一定額以上の商いを行う商人に限定していて、ほぼ堺を狙い撃ちにした形になる。一部の近江や美濃・駿河の商人も影響はあるだろうが、露骨に悪銭と良銭の交換をする堺以外は大きな影響はないだろう。


 六角が少し気になるが、三好が本格的に細川に反旗を翻したこともあり、それどころではないだろうね。


「蝮から面白き書状が来たぞ。読んでみろ」


 織田領内は事前に説明しているし、大口の取り引き以外は今まで通りにするように言ってるから、混乱はないみたい。規定額以下の取り引きでも、短期に繰り返すなどで、悪意ありと認められると処罰する事も付け加えた。『商人は網目を潜ってこそ』なんて考えがあるらしいから、イタチごっこと分かっていても、最初の網は一応掛けたんだ。


 この日オレとエルは清洲に呼ばれて来たんだけど、信秀さんから一通の書状を見せられて少し驚いた。これって……。


「へえ。確かに面白いですね」


 内容は土岐頼芸と斎藤義龍に不穏な動きあり、織田と斎藤の婚姻を妨害しようとしているという内容だ。


「事実だと思うか?」


「概ねは事実かと。先日もご報告しましたが、忍び衆の報告とほぼ一致しております」


 忍び衆の報告では義龍は自分が土岐頼芸の子だと周囲に言い始めていて、斎藤家内の反道三の者と連絡を取りあっていることは掴んできた。


 露見したわけは多数派工作をし始めたからだ。当然道三にも露見したのだろう。


「蝮はいささか旗色が悪いらしいな。エル、そなたの言うた通りになったな。守りに入った蝮に反発する者が多いらしい」


 少し驚いたのは道三が織田に支援を頼んできたことか。信秀さんはエルが以前に守りに入った道三が上手くいくのかと疑問を口にしたことを覚えていたらしく、その通りになったと笑っている。


 まあ、史実の道三ほど不利ではない。反道三には賛同するが反織田には賛同しないという者が少なからずいるんだ。現状では尾張のしかも守護代家でもない織田弾正忠家の下などに付きたくないという者が中心となっている。


 正直、道三は領主としては人気がない。信頼されていないし、国人衆にも領民にも厳しいからね。それでも美濃の守護代家、斎藤の当主だ。


「はい。ですが無謀ですね。私ならばこの時点で織田を敵には回しません」


「そうだな。織田への敵意を隠さぬおかげで西美濃の大半は日和見だ。東美濃の遠山家も動かんだろう」


 なんというか義龍は下手を打ったね。エルと信秀さんは反道三派の戦略の失敗を口にした。


 史実では土岐家の旧勢力などが鳩合きゅうごうして義龍に味方したが、この世界では大垣を中心に織田がいる。反織田で道三を倒してそのまま織田と戦うつもりかもしれないが、大垣を中心とした織田の勢力はそう簡単には崩れないだろう。このままでは鳩合ではなく、烏合うごうになるし…。


 国人衆さえ味方に付ければと考えているんだろうが、なんのために織田が領民に報酬を払って賦役をしていたと考えているんだ。


「支援なさるんですか?」


「そうだな。してもいいと思うておる。あの守護はつかえまい? 正室は確か六角家の者。今は西が騒がしいからいいが、あまり好きに泳がせると六角が介入してくるぞ」


 出来れば今しばらくは頼芸には守護でいてほしいんだがなぁ。ただ思った以上に駄目で道三以上に評判が悪い。土岐家には仕えたいが頼芸には仕えたくない、という者が結構いるらしい。


 信秀さんも何にも出来ないからと放置していたが、問題は土岐家と六角家が縁戚であることなんだよね。これ以上騒がれて六角家に介入されることを懸念しているみたいだ。


 というか和睦して半年も経たずに騒ぐってどんだけ堪え性がないんだ?


 少し気になるのは不破の関の場所を抑えている不破さんと西美濃三人衆だろうか。


 不破さんは最優先で調略をしていて感触は悪くない。正月の新年会にも本人ではないが、一族の者が来ている。


 他の西美濃三人衆もそうだが、現時点では土岐家の家臣という体裁は崩していない。とはいえ彼らも本人ではないが、一族の者や重臣が新年会には来ている。織田を無視したり、むやみに敵対することは得策ではない程度には考えているのだろう。


 斎藤家とも和睦したし、土岐家や斎藤家にも挨拶には行ったらしいが。


 ただ今回の主導権は道三にある。信秀さんはお手並み拝見といったところみたいだし、どうなるんだろうか。


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