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戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。  作者: 横蛍・戦国要塞、10巻まで発売中です!
天文17年(1548年)

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第二百七十七話・とある職人の朝

Side:佐治為景


 今日は久遠家の船と合同で、操船と陣形の訓練だ。久遠家との合同訓練は、我らが曲がりなりにも久遠船を手に入れて以来、変わらず続けておる。


 しかも、関東から帰国してしばらくした頃には、南蛮船を一隻借り受けることになったのには驚いた。


 関東に行った南蛮船のうち、小さき方の船だ。久遠殿はキャラベル船と呼ぶと言っておった。さすがに大砲は降ろしたが、船自体はまだ新しく、久遠家の武と財の新たな力と成るべく生まれた船ではあろうが、我ら佐治の元に参って、船神様の気性が荒れぬ事を願うばかりだ。いつの日か立派な戦船と為さんとは思うが、操船の訓練をするには大砲はないほうが気を使わずに済んでいい。


 残念ながら、大砲や弾薬を積んだ状態での操船訓練は、我らにはまだまだ危険すぎる。もちろん我らとていつかはと、皆が思っておろう。


 なにより本物の南蛮船に乗れることに皆が喜び、やる気を出しておる。遠くないうちに我が水軍は南蛮式の久遠船が主力となることであろう。


「大湊を味方にすると違うな」


「そうでございますな。あれほどの材木がすぐに届くとは……」


 それと関東から戻り久遠船を新造するために材木を仕入れることにしたが、懸念は材木の手配先だ。新造の久遠船に使うにはそれなりの材木でなくばならぬ。


 船も久遠殿と相談して四隻は確と造ることにして、材木は大湊で船大工をしておった善三殿と元会合衆の湊屋殿の口利きで大湊から買うことにしたが、早くも材木の一陣が届いた。


 常ならばこれほど早く届くなどあり得ぬが、久遠家の名はすでに大湊でも別格らしい。


 改造船は隠す必要もなくなったので津島と熱田から大湊への荷を運ぶために使うことにしたが、速いうえに多少の向かい風程度ならば運べるので役に立っておる。


 それに黒く塗った船は久遠家と当家にしかない故、周りの水軍に対する威圧にもなっておる。


 実のところ、改造船はそれほど抜きん出ておるわけではないが、南蛮船と似ておるというだけで周りの水軍は恐れておるからな。


「殿、北畠が少し気にしておるという噂ですが、大丈夫でございましょうか?」


仔細しさいあるまい。あそこは伊勢の南だ。北には六角がおる。まさか水軍だけで織田と戦など考えてはおるまい」


 ただ関東での戦が伝わるとようやく伊勢の武家も織田を気にし始めた。


 伊勢の内海を織田に支配されるのはさすがに面白うないのだろう。特に北畠は南伊勢と志摩の水軍を傘下に収めておるからな。もし水軍だけでいかにかなると思うなら、面白うことになる。だが遅い。


 わしも清洲の殿と久遠殿には知らせたが、大湊は公界であり北畠に明確には臣従しておるわけではない。大湊との関わりさえ維持できるならば北畠は脅威にはならぬので、当分は様子見らしい。


 まあ北畠は名門で御所様などと呼ばれるらしいが伊勢すら統一できぬ程度だ。美濃と和睦して敵が減った以上はあまり気にする相手ではないのかもしれぬが。


「堺の商人もあまりいい噂を聞きませんでございますな」


「連中め。己たちが冷遇されるなどとは考えもしなかったのであろう」


 懸念はまだある。以前から少数は来ておったが、いよいよ堺の商人が本腰を入れて尾張に来るようになった。


 今まで来なかったのは、久遠殿が堺に出向くのを待っておったのであろう。堺より東でより大きな商いをするには、常ならば相手から堺に出向くものだからな。


 無駄に誇りが高い連中だ。商いを有利にするためにも、自ら出向くなどしたくないのが本音であろう。


 ただ、久遠殿は堺の商人とは会っておらぬと聞く。そもそも久遠殿は堺を好まぬようだからな。堺に一度も行ったことがあらぬというほどだ。


 気のいい御仁だが、意外に人の好き嫌いは激しい。もちろん畿内を無視するという久遠殿の策があるのは言うまでもないが。


 堺が悪銭を鋳造しておるのは有名だ。しかも、連中は立場を利用して悪銭を取り引き相手に押し付けるのだからたちが悪い。


「久遠様の良銭の価値は(たこ)うございますからな。その分、伊勢でも堺の悪銭は価値が下がっております」


 連中が尾張に本腰を入れだしたのは久遠殿の良質な渡来銭が目的であろう。良質な銭が伊勢大湊から畿内に流れて堺の悪銭の価値が下がっておるのだ。


 伊勢より東の商人が尾張に集まるのも、良銭の価値も理由にあろうからな。


 清洲の殿は悪銭の歩合を定めるとのこと。しかも大湊などと示し合わせて定めるというのだから驚きだ。


 さて、堺の問題はいかになることやら。




Side:工業村の職人


 今日も尾張たたらは元気だな。朝は毎度まいど、尾張たたらから立ち昇る煙を見ねえと朝が来た気がしねえ。


 嫁もいねえし、朝飯は近所の飯屋で済ますのが日課だ。


「おやじ、いつもの」


「へい、すぐにお持ちします」


 ここに来てからというもの、日々米の飯が食えるようになった。朝は玄米で夜は白米を食う。もとは久遠様のお屋敷での習慣だとか。


 飯屋の主も久遠様に仕えているようだしな。それにしても日々米の飯を食べるってまるで殿様だよな。


 ここ工業村は織田のお殿様のご領地だが、差配されているのは久遠様だ。下手な武士よりいい暮らしをしても許されているのは久遠様のご意向らしい。


 米も酒も安いし、オレたちは見栄を張る必要もねえから銭も掛からねえ。


 オレの仕事? ああ、その銭を作ってるよ。工業村の中でもみんな知っているが、知らねえふりをするのが久遠様のご意向で村の掟になっている。村に移る時にじかの差配を任されておられる滝川様から直々に言い渡されたしな。外の連中には鋳物師として働いていることになっている。


 まあ、報酬が高いのは口止め料も含まれてるんだろうな。現に中の話を外に漏らしていた奴はいつの間にか姿を見なくなった。


 いくら貰ったのか知らねえが、愚かなことをしたもんだ。どこかでお抱えの職人になっても、ここの暮らしよりいいとこなんてねえのに。それともあの世ってのはもっといい暮らしができんのかねぇ。


「おまちどうさま」


「これこれ」


 朝は玄米に味噌汁、焼き魚に漬物。それとこの玉子焼き。これがねえと始まらねえ。


 ふんわりと柔らかくて、出汁ってのが利いた玉子焼きなんだと。ここと清洲の八屋でしか食えねえらしい。


 焼き魚は日替わりだが、前日に獲れた新鮮な魚で美味い。なんでも締め方が特別なんだとか。


 今日は脂の乗ったさばだ。程よい塩加減がいいな。飯がすすむ。少し脂っぽいが、漬物が丁度よくさっぱりしていて、より美味く感じる。


 お楽しみは玉子焼きだ。箸でふわりと切れる玉子焼きを頬張ると、この世のもんと思えねえ味が広がる。


 ああ、美味い。本当にここに来てよかった。


 味噌汁の具は豆腐だ。これもお坊様くらいしか食えなかったものなんだと。柔らかくてほんのりと味がする豆腐は、ここ工業村でも人気だ。


 まあ味噌汁の味自体が違うんだけどな。玉子焼きと同じ出汁ってのが入ってるらしい。


 味が薄くもねえ、塩辛くもねえ。何とも言えねえ味だな。しかし、慣れるとこれがねえと物足りねえとなるほどだ。


 食後は麦湯だ。熱い麦湯で一息ついたら仕事だ。


 工業村の中でも更に奥にある仕事場で昼まで仕事をしたら休憩して、そん(あと)は夕方まで更に仕事だ。


 夏場なんかは暑くて大変だが、塩飴っていう甘塩っぱくて固い飴が配られる。菓子に見えるが薬らしくて、必ず食うように言われてる。美味いからいいけどよ。


 ここは湯もお代は要らねえし、お坊様の言う極楽の様なとこなんだがなぁ。ケチが付くのはおれに嫁がいねえことだ。


 久遠様なんて百人じゃきかねえ、奥方様がいるのによ。


 ここは女が遊女じゃなきゃ、多くねえからなぁ。


「おやじ。銭、置くぜ」


「まいど」


 ここのおやじでもいいから、誰か嫁を世話してくれねえかな。


 飯屋のおやじに愚痴っても、しかたねえか。




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