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戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。  作者: 横蛍・戦国要塞、10巻まで発売中です!
天文16年(1547年)

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第二十六話・歴史と熊と泥棒と

side・平手政秀


「権六殿。奥方はよくなられたか?」


「いえ、それは……。某も手を尽くしているのですが」


 この日ワシは少し思うところがあり、権六殿の屋敷を訪ねていた。


 先年、殿が仲立ちをして権六殿が迎えた細君じゃが、体調が夏頃から優れぬ様子で、医者に見せたり祈祷を頼んだり手を尽くすも、一向に良くならぬと聞く。


「やはりか。実はの、一馬殿の奥方が医者でな。南蛮ゆかりの医術を使うらしいのだ。権六殿さえ良ければ、診察してもらってはどうかと思っての」


「南蛮の医術でござるか」


「いろいろ噂があるが、悪い者たちではない。文化や風習が違う国に来て、馴染もうとしておる。返事は急がずともよい。もし頼むならば、某がお節介をしたことにして話をしよう」


 ワシに医術は分からぬが、一馬殿と奥方たちはワシらが習う学問や武芸とは違う、南蛮ゆかりの学問や武芸を習った者たちじゃ。恐らく医術も相応に使えるはず。


 若と一馬殿は馬が合うようだが、あまりに馬が合いすぎて他者が入り込めぬのも困る。


 殿も心配されておったが、家中の者と若や一馬殿が馴染むにはワシのような者が仲立ちせねばならんだろう。


 権六殿は謀などを好まず武芸に励む気持ちが良い若者じゃ。


 若や一馬殿とは違う生き方をしておるが、少々頑固故にきっかけさえあれば若たちの力となろう。




side・久遠一馬


 稲刈りもだいぶ進み、田んぼには稲を干す姿が見える。


 それにしても歴史の齟齬というか、現実は興味深い。


 今日オレは政秀さんとケティと一益さんと、政秀さんとオレたちの護衛やお供の人たちの計十人ほどで、愛知郡の下社村というところに来ていた。


 古渡城より更に東に行った場所にあり、内陸部なので海は見えない。この時代の典型的な農村と言えば、失礼になるんだろうか。


「平手様、ようおいでくだされた。久遠殿もわざわざ御足労願い申し訳ござらん」


 下社村にある下社城。まあこの時代は天守がないし、イメージ的には館というか砦というか。


 そこに到着したオレたちを出迎えたのは、むさい熊……じゃなくて髭を生やした二十歳前後の男。名を柴田権六勝家という。


 ご存知、史実の織田四天王の一人。


 元々勝家さんは、信長さんの弟である信行さんの家老だったけど、二度目の謀叛の際に信長さんに味方して以降は織田家に忠実だったはず。


 戦に強く内政もできて、織田家の重鎮になった人。ただ悲しいかな史実の信長さんが亡くなった後は、天下取りを目指した秀吉に敗れたのは有名だ。


 あまり革新的ではない、保守的な武将のイメージがある。


「初めまして。久遠一馬です。まだ慣れぬので無礼な振る舞いもあるかもしれませんが」


 いずれ会うだろうと思っていたけど、まさかこんな形で会うことになるとは。


 切っ掛けは先日の衛生指導だ。あのあと政秀さんから、良ければ家中で病に悩む者を診てくれないかと頼まれたんだ。


 ケティがやりたいと言ったので応診に来たんだけど、まさか勝家さんだったとは。


「患者はどなた様で?」


「某の妻でござる」


 ちょっと待って。今、何と言った? 妻? 勝家さんって妻が居たの!?


「じゃあ、私は待ってますね。ケティ頼むよ」


「任せて」


 考えてみればおかしくないか。勝家さんほどの人が、史実の晩年まで独身だったわけないよね。普通に誰かが奥さんを世話して当然か。


 相手が女性なら診察はケティに任せるべきだろう。


 女中さんに案内されて診察に行くケティを見送り、勝家さんと少し話をする。


 あまり口数が多くないけど、そこは政秀さんが上手くオレと勝家さんに話を振ってる。こういう人って貴重だよね。


「奧方様の病は労咳」


「やはり労咳であったか」


 ケティは割りと早く十分ほどで戻ってきた。勝家さんに病名を告げるが、その内容に勝家さんの表情が険しくなる。


 労咳って結核か。この時代だと不治の病なんだよね。そのせいだろう。


「これは私の一族の秘伝の薬。ちゃんと飲ませれば長くても三年ほどで治る」


「……労咳が治るのでござるか?」


「うん。他の病気を併発とかしなければ治る。薬の飲み方は必ず守って。あと月に一度は診察に来るから」


 結核の治療は二十世紀半ばまでないからなぁ。政秀さんや勝家さんに一益さんとか、ケティの言葉にポカーンとしてる。


 ナノマシン使えばすぐに治せるだろうに、わざわざ投薬治療にするのか。確かに下手にナノマシン使うと、神様にでもされかねないしなぁ。


「体調が悪くなったら、必ず知らせて」


「あいわかった。それで薬代は、いかほどなのだ?」


「完治してからでいい」


 そのままケティは勝家さんと勝家さんの家の人に、薬の飲み方とか食事の指導をしていく。


 正直勝家さんたちは半信半疑だ。政秀さんの手前疑う素振りは見せないけど、長い投薬治療が必要だと言われたし半分疑ってる気もする。


「ケティ殿。しかしそれでは……」


「私たちは生きていくのに困ってないから、それでいい」


 当然ケティも気付いてるんだろう。薬代は完治後の後払いで良いと言い出した。


 別に要らないんだけど、そう言うのも変だよね。貧しい農家じゃあるまいし。馬鹿にしてると取られても困るからさ。


「権六殿。当面は奥方殿の様子を見ることで良かろう。同じ織田家中なのだ。急ぐ必要もあるまい」


 勝家さんはケティの対応に心底困った表情をしていたので、政秀さんが間に入り最終的には、当面の間は様子を見ることで落ち着いた。


 にわかには信じられないが疑ってると受け取られると、間に入った政秀さんのメンツを潰すことになるので、それは避けたいのだろう。


「それにしても労咳が治るとは……」


「ちゃんと信じて薬を飲んでくれたら治る」


「それは大丈夫でござろう。権六殿はその辺りは真面目な男ですからな」


 下社城を後にして那古野の屋敷に帰るオレたちだけど、政秀さんでさえ半信半疑みたいだね。


 ふと思ったけど政秀さん。もしかしてオレたちが織田家中に溶け込めるようにと、気を利かせてくれたんじゃあ?


 なんかケティの診察を待ってる時に、そんな雰囲気を感じた。


 もしそうだとしたら、本当かけがえのない人だね。




「貴様ら! 何をしておるか!!」


 オレやケティに政秀さんは馬に乗り、一益さんとか他のお供の皆さんの歩くスピードに合わせてのんびり進んでいたけど。


 前方に見えた田んぼで干してある稲を、両手に担いでいる薄汚い集団が見えたら、政秀さんが突如馬を走らせてその者たちを一喝した。


「うるせえ! ジジイはひっこんでろ!」


 政秀さんのお供の人たちは急に走り出した政秀さんを追いかけて、政秀さんを守るように槍を構えて刀を抜く。


「米泥棒なの?」


「そのようで。加勢して参ります」


 どうやって見極めたのか分からないけど、一益さんも政秀さんのお供に続き駆けていき十人ほどの泥棒たちと対峙する。


「見てるだけってのも良くないよね?」


「良くないと思う」


「弓持ってきて正解だったか。途中で鹿とか猪が居たら狩ろうと思って持ってきたんだけど」


「私も手伝う」


 この時代に来て初めての戦いに、オレは少し乗り遅れた感じがあるけど。幸いにして弓を持ってきてたんだよね。


 弓の使い方に関しては、当然ながらオレやケティは知らなかったけど、睡眠学習と訓練で使えるようになってる。


 ギャラクシー・オブ・プラネットでは覚えることが多かったから、睡眠学習は普通にあったんだよね。


 時代劇とは違うリアルな緊張感が漂う中、オレとケティは警告の意味を込めて泥棒たちの目の前に弓を射った。


「チッ! ずらかるぞ!」


「逃すな! 斬り捨てよ!」


 泥棒たちも刀は持ってるけど弓は持ってないらしく、オレとケティの矢が目の前に突き刺さると早くも逃げようとする。


 だけど政秀さんは逃がすつもりはないようで、斬り捨てろって命令が。


 仕方ないんだろうな。この時代に来て、信長さんに獣狩りとか鷹狩りに連れていってもらったから、獣なら射ったことがある。


 だけど人は初めてだ。


 先に射ったのはケティだった。逃げ足の早い者から弓で狙い確実に当ててる。


 オレも射たなきゃダメだな。この時代で生きていくんだから。ケティとかエルとかはもちろんだけど、オレを信じてくれてる人たちを守るために。


 犯罪者より身内や被害者を守らないと。


 そんなことを考えながら射ったオレの矢は、確実に米泥棒を射ち抜いた。オレはこの時初めて、自分が武士になったんだなと実感した気がした。



柴田勝家の妻に関しては、本物語のオリジナルです。


史実に柴田勝家がこの時代に妻が居たとは記録はないので。



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書籍版戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。

第十巻まで発売中です。

― 新着の感想 ―
[一言] 労咳(結核)は現代日本の医学レベルなら末期でもない限り3か月の入院と薬の投与で治りますが、SF世界から来たケイティの薬なら数回の投与で治りそうw
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