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戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。  作者: 横蛍・戦国要塞、10巻まで発売中です!
永禄五年(1559年)

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第二千百七十九話・信濃への旅

Side:久遠一馬


 暦は五月に入り梅雨の真っ只中だけど、オレたちは尾張を離れ信濃に向かっている。


 すでに周りは見渡す限りの山だ。なんというか、場所によっては街道というより登山だね。まあ、今回はそういうのも含めての旅だ。


 一緒にいるのは、前回美濃に行った義信君と信長さんとオレたちになる。


 名目は信濃で産休に入ったウルザの様子を見に行くというものであるが、視察と旅行を兼ねている。


 美濃訪問の評判が良かったんだよね。


「うわぁ。おおきな木ですね!」


 途中休憩にと立ち寄った寺社の御神木をお市ちゃんが見上げている。実は今回、お市ちゃんも一緒なんだ。ウルザの様子を見に行きたいと同行を願い出て信秀さんが認めた。


 道中大変だと心配したんだけどね。船旅には慣れているし、幼子というほどでもないからと許可したらしい。


 よくよく考えてみると、彼女はオレたちを除くと織田一族で一番旅慣れているといえばその通りだったからね。


 一方、義信君と信長さんは地元の者たちの挨拶を受けている。


「うむ、大儀である」


 ご機嫌な様子のふたりに地元の人たちも安堵しつつ嬉しそうだ。


「なにか困り事などないか?」


「はっ、今のところは。なにかあれば清洲に上申致しておりまする」


 信長さんも為政者になったんだなと実感する。休憩のたびに地元の人たちの話を聞いているんだ。


 元の世界でもそうだが、一部の力ある人が差配することで情報や報告が正確に上がらないなんてことは織田家でもある。


 もっとも織田家では忍び衆もいて商人や寺社からも情報が入るので、そういうのはすぐに発見して改善しているけど。


 オレとエルは寺社の人に最近の様子を聞いている。


「昔はこれほど賑わう街道ではございませなんだ」


 武士や領民とは違った視点を持つのが寺社であり、迷信の類で困らせることもあるが、彼らの視点からの情報もまた有用なんだ。


 ここもそうだけど、小さな寺社なんかは地域の中核として改革の拠点になっているんだよね。近隣の村の者に無償で文字の読み書きを教え、医療活動もしている。


 話を聞くと、ここだと農地整理の調整役もした実績があるところだった。どうりで近隣と比べて規則正しい田んぼがあると思ったよ。


 信濃と尾張間の街道は美濃経由と三河経由で主にふたつあるが、どちらも過去と比較すると行き交う人の数は右肩上がりだ。


 ウチが伝えた炭窯で焼いた炭や、山の幸を尾張に売ることで暮らしが安定している。


 街道に関しても一昔前と全然違う。歩きやすいという報告がある。街道を広げ下草を刈り、休憩場所を用意するなど、出来ることは常にしているんだ。


 ほんと尾張から離れた田舎でも改革が進んでいるのは嬉しいね。




Side:滝川資清


 殿が信濃へと行かれ、わしが清洲城にて名代として役目を務めておる。


 未だに殿には及ばぬ身なれど、残られているお方様がたや皆の助けもあり続けることが出来ておる。


 正直、商務奉行と織田家中のことならば、わしでも代わりが務まるが、天下のことになると手に余ることも多い。


 ただ、殿は本来、皆でよく考えて決めることを重んじる。あまり御身を頼る者が増えるのを良しとしておらぬからな。


「八郎殿、八風と千種の街道でございますが……」


 今またやって来た者の報告に思案する。


 保内商人らが街道を明け渡した。それは構わぬが、賊が多いということで山狩りが必要であり、荒れたままになりつつあるところもあって、早急に整えねばならぬとの報告だ。


 山狩りにしても賦役にしても銭と飯がいる。また銭が掛かる。実のところ、保内商人らは織田家にとってあまり利となる者らではない。六角や叡山の利にはなるがな。


 この件、正確には商務の役目ではない。だが、織田家においては、大事となるような懸案は久遠の了承を得るという慣例があるのだ。


「相分かった。各奉行殿にはこちらからも根回ししておきまする」


「良しなにお願い致します」


 まあ、この件はお方様のご裁定を仰ぐほどではない。両街道を早急に整えて使えるようにすることは、すでに殿の了承を得ておる。


 いかに東海道が使いやすいとはいえ、使えなくなることも考えておかねばならぬからな。


「八郎殿、近江より使者が来たとのこと。大殿より同席せよとの命でございます」


「了解致した。すぐにゆく」


 ちょうど来たな。両街道の件であろう。これで一気に伊勢と近江の間が楽になる。なんとも喜ばしきことだ。




Side:セルフィーユ


 ケティがお酒の飲み過ぎを諫めたことで、北畠ではどの程度ならば飲んでもいいのかと戸惑っているみたい。


 ちょうどいいから、食糧事情の指南と食生活の指南もすることにした。


 お酒の量はもとより、塩分や取るべき野菜などのこと。無論、この時代に司令の時代の栄養学をそのまま指南しても使えない。


 ただ、何事もほどほどにするということは教えておいて損はないわ。


「お酒、塩、甘いものは、取り過ぎるとよくありません。卒中や消渇しょうかちになります」


 脳卒中や消渇とも呼ばれる糖尿病など、生活習慣である程度防げるものもあるわ。織田家でもそうだったけど、私たちの影響で豊かになった者の中には、好きなものだけ食べる者もいたりする。


 こういう指導は早いほうがいい。


「なんとも難しゅうございますな」


「過ぎたるものは毒になる。そうお心得くだされば結構かと。あまり好き嫌いせずに様々なものを食べるのが一番ですね」


 当主が自ら来ている者もいれば、家人や料理番が来ているところもある。


 あれこれと制約されることに少し面倒そうな顔をする者もいる。ただ、それでも生きたいと思うならある程度でも守ってほしい。


 まあ、正直、常に鍛練をして田畑で働くようなこの時代らしい武士と、文治をするような身分の者では食生活の内容も変わる。


 北畠家も上層部だと鍛練することは当然でも、一日中働いているわけじゃないから。


 あとは玄米の推奨をしておきましょうか。この時代だと、本当に玄米が健康に一番いいのよね。


 もやしと二十日大根は数年前に北畠領にも教えていて定着しているし、冬場の野菜なども他国と比べると悪くない。


 現状だとそこまで問題はないのよね。予防的な指導はしても。




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