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戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。  作者: 横蛍・戦国要塞、10巻まで発売中です!
永禄五年(1559年)

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第二千百五十三話・近江にて

Side:とある織田家家臣


 観音寺城下にある仮の御所にて、造営中の御所と詰城、支城、町の普請について評定を終えると、参席しておった者らがそれぞれの役目に戻っていく。


 諸国から集まった者らで行う天下普請が、これほど厄介だとはな。背を伸ばして、固まったように重い体を少し解きほぐす。


 田畑を耕し、戦に出陣していた頃が懐かしい。まさか公方様の御所に関わることになろうとはな。


 守護様と大殿がおられる尾張とは違う。ここはわしにとって縁もゆかりもない近江。それだけ気を使わねばならぬし、面倒事も多い。


「聞かれましたか? 元奉公衆が夜月殿に無礼を働いたこと」


 役目に戻るかと立ち上がると馴染みある六角家家臣が声をかけてきた。


「ああ、聞いてございます。昔はようあったこと。近頃はあまりおらぬようになりましたがな」


 無礼を働いた奉公衆をいかにするのかと噂になっておるらしい。ただ、織田家家臣からすると、珍しきことではない。


「大口を叩くに相応しき者ならば名を上げる。そうでなくば大恥を晒す。それだけでございましょう」


 確とした覚悟と力量があれば、むしろ気に入られることもある。そもそも内匠頭殿は己が考えを口にした者を好む傾向があるほどだ。夜月殿はいかがなのか知らぬが、その場で罰を与えなんだということはそれで終いであろう。


「ふむ、なるほど。されど、かの者は管領殿が警護衆を潰すために寄越したと噂もございますが?」


 若狭管領殿の謀? 考えすぎであろう。仮にそうであったとしても無駄なこと。騒いだ者が上様に疎まれるだけだ。


「某に聞かれても困るが……、その気になれば尾張・伊勢・近江の者で上様はお守り出来よう。あとは某如きには分からぬこと」


 奉行衆や六角は暇なのであろうか? 左様な噂をしておるとは。




Side:尾張の大工


 諸国から集まった大工があちこちで屋敷を建てている。御所は細かいところ以外は出来上がっていることで、大半の大工は周囲の屋敷を造っているんだ。


 余所のやつらと比べて劣ると思われたくないと、いずこの者らも励んでいる。


 まあ、わしらと他国の奴らは働き方からして違うんで、少し違うんだけどな。


「おーい、飯だぞ」


 余所の者らは今も働いておるが、わしらは午の刻になると半刻ほど飯と休息となる。これは薬師様がお決めになられた賦役や大工の掟だ。


 畿内から来ている奴らは、おかしなことをしていると見ているみたいだがな。


「余所に来ると尾張のありがたみが分かるなぁ」


 握り飯を頬張ると、隣の男のつぶやきが聞こえた。言いたいことはよく分かる。ここは守護様や織田様の治める地じゃねえ。金色酒なんて高いうえに、混ぜ物がしてあって不味いのだってある。


 それでも我慢して買うて飲んでいたら、職人が金色酒を飲むなど何事だと六角様のご家中にお叱りを受けたことがある。近江じゃ職人は金色酒を飲むのが駄目なんだそうだ。そんなこと言っているから、職人が織田様の領国に逃げてくるんだと分からねえのかな。


 まあ、顔馴染みの織田家家臣が近江にいたので挨拶を兼ねて少し愚痴ったら、すぐに伊勢商人が直に酒やら食い物やらを運んできて売ってくれるようになったからいいけどよ。


 多少の手間賃を払っても近江で買うより安いし、文句を言われることもねえ。


「わしらも好きで来ているわけじゃねえからなぁ」


「ああ、早く終わらせて帰ろう」


 公方様の御所というからわざわざ来たが、ここじゃ扱いが悪くて嫌になる。金色酒だけじゃねえ。なんかすると端の役人に職人の分際でと小言を言われる。


 実は六角様や奉行衆の偉い方々はなにも言わねえんだけどな。久遠様の奥方様がここにはいるから、わしらにあれこれと勝手に命じては困ると言うてくだされたみたいでな。


 ただ、端の奴らはそれでも黙っていねえ。


 諸国から集まった職人衆や六角様のご家中の武士たちは、よほどわしらが面白うないみたいだな。妬みそねみ、まさかわしらがされる立場になるとは思いもせなんだわ。




Side:久遠一馬


 近江からの報告書が評定で議題となった。


 大工などの職人衆を織田家として派遣しているんだけど、道具、技術、方法など違うことや待遇の違いで一緒に仕事をすると揉めるんだそうだ。


 織田家から派遣している職人衆は、近江に出向中の織田家家臣が面倒を見ているからそこまで不満は上がっていないが、六角に従う武士や他国の職人が待遇の違いに不満を持っているんだとか。


 前にこの時代では見かけない道具を欲しいっていうから売っていいと許可は出したんだけど。それだけだと収まらなかったみたいだね。


「六角もこのくらいは己で動いてほしいのだがな。上まで報告が上がっておらぬのか?」


「上がっておろうが、端の者を従えることほど難しきことはない。あちらは正しくは家臣でないものも多い」


 評定衆の皆さんは少し面倒そうな顔をした。職人や商人を軽んじる人はこの場にはいない。今日は珍しくウチの家臣である元鍛冶屋の清兵衛さんがいるしね。織田家職人衆筆頭として同席しているんだ。


 職人組合の筆頭でもあるから、今日のように議題によっては同席することがある。


「こう言うてはお叱りを受けるかもしれませぬが、職人には義理はあっても忠義というものはもとよりございませぬ。ただ、領内の者は義理が他国の忠義に勝ることも珍しゅうないだけで」


 そんな清兵衛さんの言葉に、評定衆の皆さんが苦笑いを浮かべた。


「同盟相手なのであろう? 今以上の配慮は要るまい。臣下を従えられぬというならばこちらの職人を戻せばいいのではあるまいか?」


「公方様の御所を造っておるのだ。六角の不手際だけで戻すわけにいかぬ」


 やはり織田家家臣には配慮疲れがある。かなり鬱憤が溜まっているなと感じる。こちらのやり方を否定して、己らの合わせろという畿内とそれに連なる勢力に嫌気が差しているのは相変わらずだ。


 まあ、現地でも軋轢があるのは理解していて、尾張から派遣している職人衆は勝手にしてもいいとやっているようだけどね。雰囲気の悪さにこちらの職人が嫌になってきている。


 言い方が悪いけど、職人もまた所属する勢力のひも付きだし、それぞれで面目もあるし上下関係を示したい人が相応にいる。


 寺社とか畿内から派遣された者たちが待遇の違いに面白くないのも当然なんだけど。


 正直、こうなるのが分かっていたから、オレたちは畿内や他から人を呼んで厚遇してお願いするということをあまりしなかった。


 育てたほうが楽だったしね。


 この問題、解決する良策っていうのがあまりない。地道にやっていくしか。六角との軋轢は困るんだけどなぁ。




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