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戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。  作者: 横蛍・戦国要塞、10巻まで発売中です!
永禄五年(1559年)

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第二千百四十九話・価値観の違い

Side:夏


 近江での日々は、そこまで忙しいというわけではありません。やり過ぎてもいけませんし、口を出し過ぎてもいけません。


 そういう意味では、私たちは少し暇なくらいのほうがいい。


 そんな私たちのもとを訪ねてきたのは吉岡殿でした。警護衆に関する報告と、課題を口にしつつ助言を求められました。


 かつて将軍家指南役だったとはいえ、先代と今の上様が近江に逃亡した際に同行しなかったことで政権内での立場や発言権はあまりありません。


 ですが、警護衆創設にあたり吉岡殿は、斯波家や織田家と意思疎通が出来つつ任せられる人材。しかも織田家臣ではない人が欲しかった時に、新介殿の推挙で彼が選ばれたという事情もあります。


 後ろ盾は織田と久遠になるのですよね。奉行衆からその事実を教えられてきたというところのようです。


「ここで務める様になって、上様の権勢が思った以上にあると理解すると勘違いするのも分かるのよね」


 春が苦笑いを浮かべています。近江の現状は他国が見たら羨むほどいいですからね。そう、私たちが尾張にきた頃のように。


 御所造営と東との街道整備により、この地は生まれ変わろうとしているのを誰もが感じ取れるのですわ。


「夏、任せていい?」


「ええ、私のほうで動きましょう」


 家柄や血筋をあまり邪険にするのは良くないものの、この時代の政権は守護以下武士の自尊心と独立心が強すぎます。史実では江戸時代以降、太平の世になることで武士も変わったのですけど。この時代ではそこまで将軍の力が強くありません。


「某はいかがすればよいのでございましょう」


「今までと同じで構いません。吉岡殿が束ねられるようにこちらで動きますので。なにかあれば、我が殿の名を使ってください」


 吉岡殿がさすがに驚いた顔をしました。司令は足利政権の実力者として見られていますからね。正直、後ろ盾として欲する人はひとりやふたりではありませんから。


「されど……」


「明日からの鍛練に私も顔を出します。近頃は顔を出していませんでしたが、今少し指南も必要ですし。ご案じなされずとも吉岡殿が困るようには致しません」


 しかし、創設して間もないというのに権力争いとは……。それが人というものであり、まだ形が定まっていないからこそ動くというのも正しいのでしょうが。


 家柄、人柄、人脈、実力。様々なものを考慮すると、警護衆は吉岡殿に任せるのが最適なのです。足利政権の悪癖ともいえる、政権内の争いで戦など絶対にさせないようにしなくては。




Side:久遠一馬


 田畑に作物が植えられるとホッとする。尾張は本当、別の世界のように穏やかだ。


「殿、少しよろしゅうございましょうか?」


 屋敷で忍び衆の報告を確認していると、湊屋さんがやって来た。用件は伊勢神宮のことらしい。


「大人しくしているって報告があるけど……」


 今までに対立した寺社、三河本證寺、伊勢無量寿院などと比べると神宮は大人しい。兵糧や武具を集めて戦支度なんてしていないし、いい意味でも悪い意味でも俗世と乖離した行動をしている。


「大湊、宇治、山田との関わりが悪うなっております」


 その件か。商人や町衆にも意地がある。特に宇治山田は、織田との関係が悪化した時や北畠家が宇治山田に兵を上げた時、神宮が守ってくれなかったことを根に持っているんだよね。


 昨年末には、主にウチの商品と尾張産の贅沢品を自主的に売らないと決めた。それが今でも続いていて、神宮が不満を募らせていると。


「己らの配下と思うておりましょう。従わねば相応に不満を持ちまする」


 一緒に仕事している太田さんは冷静だなぁ。理屈としてはそうなんだけど、守ってくれない人に従いたい人はいない。ウチが突き放したことで、これ幸いにと商人たちに復讐されているんだよね。


 北畠家の改革で南伊勢一帯も変わり始め、門前町のはずの宇治山田も景気はいい。ところがその恩恵が神宮だけに届かない。一月と二月は我慢していたみたいだけど、春になっても商人たちの態度が変わらないことにしびれを切らしつつある人が神宮にはいると。


「大御所様を怒らせたいのだろうか」


 神宮が尾張に対して低姿勢なのは、一重に強いからだ。それもあって尾張商人などには強く出ないが、宇治山田と大湊は古くから従う地域なだけに、自分たちの手足のように思っているんだよね。


 間違っていないんだけど、その町は北畠家の支配下で、経済政策は頼まれて織田家で管理している。ひとつ間違うと、具教さんと晴具さんの逆鱗に触れることになるんだが。


 ちらりと資清さんを見ると、困った顔でため息を漏らした。


「商人を軽んじておるだけでございましょう。端の者の命など、左様なもの」


 うーん。寺社だけじゃないんだよね。武士も同じで、慣例と代々受け継ぐ家職で組織が形成されている時代なだけに、各々で勝手なことをする。意思統一をするとか指導力を発揮することすら難しい。


「神宮の要求は贅沢品の販売か」


 無論、神宮も総意としてそんな危ないことをしているわけじゃない。お酒、甘味、香辛料、希少食材、絹織物や綿織物などなど、手に入らない物が多すぎて一部の者が旧知の商人に対して騒いでいるだけだ。


 ただ、困ったことにそういった要求が余計に神宮への信頼を失わせている。体裁を整えるという名目で贅沢をして、余ったものを施し与えるような寺社は尾張や伊勢でははっきり言うと人気がない。


 腹の中でどう思おうとも、口には出さない。その程度の知恵がみんな回る。


 人と人との繋がりが失われると困ると神宮だって知っているはずなのに。一度覚えた贅沢はそれだけ忘れられないのか。


 織田家中にも、伊勢志摩出身の武士たちにはかつて神宮に仕えていた者やその末裔が多い。織田に臣従するまではその形を形式として残していたところもいたので、神宮と織田の関わりが変わるに伴い、織田家から独立して神宮に戻ってもいいと根回しがされた。


 織田は両属とか認めていないので、織田家家臣として生きるなら中途半端に神宮に加担すると罰を与えなくてはならなくなるしさ。


 場合によっては旧領の返還もあり得るとのことだったが、結局、誰一人神宮に戻らなかった。


 これ、経済封鎖でもすれば神宮の存続が危うくなることで戻る人も出たんだろうけどね。現状だとそこまでの危機感が誰にもないんだ。


 一度、離れたしがらみや縁の多くは、元の形に戻らないだろう。新しく出来たしがらみや縁、暮らしが優先される。


 史実の豊臣恩顧大名などいい例だ。神宮は地域への影響力が一気に落ちる。贅沢品の問題で騒いでいる状況じゃないんだけどなぁ。


 当人たちはまだ気づいていないと見るべきか。


 神宮でも関係改善のためにと、地道に根回しをして謝罪する文を送っている人とかいるのに。足を引っ張る人もいる。


 もう贅沢品も販売していいと思うんだけど、こっちから売れと命じると許したように見えるので良くない。神宮はもう縁もない他所の寺社だから、新しく相手の利になる形で動くことは難しいんだ。


 織田家中だと、今でも実効支配していた地域の返還をして寄進の停止をしたいっていうのが総意だ。神宮から交渉の使者が来るものの、向こうが求めるのは許しと和解で、こちらは完全独立なので話がまったくかみ合っていない。


 ただ、こちらとしては具教さんと相談して、商人を守るように動かないといけない。まったく困ったもんだね。




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書籍版戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。

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