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戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。  作者: 横蛍・戦国要塞、10巻まで発売中です!
永禄五年(1559年)

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第二千百三十一話・大評定

Side:久遠一馬


 新年会が終わると大評定だ。これに関しては、松の内が明けてからがいいのではという意見がある。もちろんこの件も検討しているんだけどね。領民は三が日を過ぎる頃になると普通に働いているんだ。


 賦役とか病院はそこまで休めないしね。世の中が動くと行政だけ休んでも仕事が溜まるだけだという事実がある。


 まあ、それを考慮して十日に一度は必ず休むような形にしていて、目標としては五日に一度休むことを目指している。


 ケティたちの指導もあり、過労は戒めているので今のところ大丈夫だけど。気を抜くと働き過ぎが当然となるからなぁ。


 さて、大評定に関してだが、各奉行や領国代官の配下による昨年一年間の説明など毎年恒例の流れとなりつつある。


 すでに説明が続いている中、苦労しているのは寺社奉行配下だ。奥羽での騒動、信濃で騒動、神宮と熊野による内政干渉。特に厄介な寺社を織田家で一方的に面倒見ろという寺社側の動きは今も波紋を広げつつある。


 寺社の権威と立場、これは寺社の側も捨てていないからね。総論では逆らいませんと言いつつ、細かい不満は山ほど持っているし騒ぐ。


 上手く付き合う人もいるが、実は織田家中の武士たち、思った以上に寺社に対する見切りが早いんだ。


 自分の領地にあって代々庇護し守っていた寺社であっても、所領を手放したことで寄進を止める人が割と多い。織田家も元寺社領の実入り分として俸禄は出すが、個別に寄進とかしていないし、慣例として祝い事や祭りの際にあった寄進が止まったことで揉めることが多発している。


 はっきり言うと、元国人や元土豪なども、寺社の言い分をそのまま信じていたわけじゃないということだ。領民に対する影響力や寺社という巨大な権威もあって付き合っていただけであって、メリットがないと判断すると切り捨てたというべきだろう。


 寺社に人を預けること、織田家だとまず要らないからなぁ。


 さらに、信心深い人ほど寺社に対する不満が大きいんだ。戒律破りや寺社の乱れた内情を知って激怒した人も多い。


 あと寺社同士の揉め事も増えた。人格者、人々に寄り添うと評判の人がいる寺社は遠方からでも寄進が集まり信仰する人が増える。旧来の権威を基にした寺社の序列や秩序もまた変わりつつあるからね。寄進が集まる寺社に対して、寄進が集まらない寺社が不満を以て争いとなる事例もある。


 もちろん、全体として分国法を犯すほどの争いはほとんどない。そんなことしたら信濃三社のように断固たる処置をしているし。


 ただ、権威や血縁でマウントを取るなんていいほうで、縁ある商人なども巻き込んで血の流れない泥沼の嫌がらせとか始めるところもあるんだ。


 客観的に言わせてもらうと、そういうことはすぐにうわさが広がるから、余計にそういう寺社は人が離れているんだけど。


「幾度か献策をしておるが、堕落した寺社を許すなど神仏を愚弄するも同然。許してはならぬはずだ。潰すのは難しかろうが、絶縁し、正しき寺社を守ると示すべきではないのか?」


 寺社奉行配下の説明が終わり、質疑応答に入るが、最初の人の発言に静まり返った。


 この手の過激な意見、一定の支持があるんだよね。世の中の仕組み、権力者と寺社の裏側を知るとさ。言い方は悪いが、飼い殺しで抑えることすら納得しない人がいる。熱心に寺社を支える人ほど、寺社に厳しい。


「それをすると本山が黙っておらぬ。争う覚悟がいるのだ。寺社のために戦をしろと言われるのか? 寺社との戦がいかに難しいか、分かっておると思うが……」


 説明をしていた寺社奉行配下は、寺社奉行である千秋さんと堀田さんと耳打ちするように相談して答えた。その内容に、後方にいる人たちからどよめきが起こった。


 正直、無条件で寺社を信じる人は、もう少数派だ。あとは実利を考え、どう対処するのかという話になる。一言でいえば、寺社のために戦をしたい人はほとんどいない。


 神仏に祈るし、困った時は頼るが、自分たちの命とお金をかけて神仏のために戦うなんてこの時代でもまずない。一定の教育を受けた武士ならば特に。


 ただ、個人的にこういう本音の議論は歓迎したいんだけどね。もっと活発に議論をしてほしい。なるべく大評定を形骸化させないようにさ。




Side:織田信長


 止めるべきか。オレも悩んだが、家老衆も悩んだようだ。ただ、かずらは止める気がない様子であることからそのまま流した。


 公の席にて、武士が身分を超えて堂々と寺社の善悪について意見を交わす。このこと自体、寺社の者が聞けば不快に思うだろう。


 されど、かずはこれを望んでおった。


「神仏を重んじることも世を正すことも一向に構わぬ。だがな、神仏は正しき者であっても現世で人を守ることはあるまい。故に乱世と言えるほど荒れておるのであろう。与えた禄の中ならば好きにさせておけ」


 戦を望むのかと問われ質疑をした者は黙ったが、そこに親父が口を開いた。


 皮肉なことかもしれぬが、正しき寺社が必ずしも安泰と言えることはない。領内を出れば、むしろ安泰なのは俗世にまみれて力ある寺社だ。


 神仏は寺社を守らぬ。少なくとも今の世では。死後や来世で違うのかもしれぬが、それは証の立てのしようがない。誰も見て帰った者がおらぬ死後や来世の話を信じるかどうか。そこに尽きる。


 坊主の説法ですら筋が通らぬのは、今に始まったことではない。故に少なくとも、坊主が語る都合がいいことばかり信じる者は家中の主立った者にはおらぬのだ。


 織田と領国は変わりつつある。されど、神仏への信仰は変わっておらぬ。変わったのは寺社と神仏を別だと考えておることだ。皆、正しき寺社には寄進もするし、己で祈ることもしておる。


 寺社もまた堕落したところが目立つが、自ら寺社を正しき姿に戻した者らもまた多い。寺社が自ら投資に多額の銭を出し、地元に堤を築き橋を架けるなどよくしようと励んだところもあるのだ。左様なところには寄進が集まり、寺社もまた賑わっておるからな。


 評定で内々に検討しておることだが、正しき姿に戻れぬ寺社はいずれ淘汰される。


 あとは多過ぎる寺社を穏便に統合させることが出来ればよい。


 敵は乱世の元凶なのだからな。迂闊に突くことなど出来ぬのだ。





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