第二千百二十七話・新年を迎えて
Side:三好家の清洲留守居役
穏やかな正月だ。
されど……、目の前にある酒や馳走に思わず良いのかと案じてしまう。
「さすがに正月は、いずこも変わらぬと思うたのだがな……」
織田弾正様より頂いた硝子の盃に金色酒が注がれるのを見て、ふと思う。これを飲むのが贅沢だと思うておったわしが甘かったということを。
さすがに硝子の盃は民では手に入らぬとのことだが、尾張では民であっても祝い酒として正月に金色酒を飲む者がそれなりに多いとか。久遠家がもたらした金色酒は、尾張ではなによりの縁起物となっておるのだ。
まあ、金色酒の値が驚くほど安く民でも飲めることは知っておったが、他国に高く売るより領内に安く売ることも本来ならばあるはずのないことなのだが。
「織田家中も六角家の留守居役殿も、このくらいの正月を迎えておるとのことでございます」
長年仕えてくれておる家臣も、理解はしても未だによいのかと思うところがある。左様な顔をしておるな。
贅沢をしろとの異な仰せに戸惑うたが、そこは役目だ。三好の面目を損なわぬようにした。清洲には六角の屋敷もあるからな。あちらがいかにしておるか内々に問うたのだ。
上様の下で政をするに際し、六角とは上手くやっておるからの。かような時に話をするくらいならお叱りを受けまい。正直、あちらも最初は戸惑うたと教えてくれた。
斯波や織田、久遠と同じとはいかぬまでも、織田家中には守護や守護代家がそれなりにおる。その者らの留守居役と同じくらいの体裁は整えねばならぬ。
まあ、六角の留守居役殿いわく、清洲などは民の暮らしも豊か故、あまり質素にすると御家が貧しいのかと勘繰られるとのこと。
幾年か前、甲斐武田家が臣従する前に那古野の学校にて学ぶために屋敷を構えたが、その暮らしぶりがあまりに質素だったために国元も厳しいのだとの噂が広がったことがあったそうだ。実際、武田家は余裕がなかったようだがな。
「鯨、椎茸、かずのこ、昆布。いずれもわし程度ではお目に掛かれぬほどの品だな。……これは知らぬな?」
膳に並ぶ料理を見ておると、見知らぬものがいくつかある。金色の餡のようなものだ。
「ああ、これは久遠家の栗きんとん、なる料理だそうでございます。八屋という店に頼んでおくとよいと六角屋敷の料理番に教えを受けまして。尾張では皆、これを求めるのだとか」
栗金団? 都でも同じ名の菓子があったが。これはまるで黄金のような見た目だ。
これはいいな。どれ、さっそくいただくか。
「おお、甘いの。なんと美味しものか」
久遠家は料理まで金色か。しかも栗は日ノ本でも縁起物。これは皆が求めるのも無理はない。
中の栗は甘くわしが知る栗と違うな。栗にまとう餡も食うたことがないものだ。なんとも雅な甘さといえばよいのか? 栗と餡の味がしっかりと甘さの中に残っておるわ。
「いずれの料理も美味いの。尾張に来て以降、料理の味が変わった気がする。料理番は同じであろう?」
見知らぬ縁起物に気分も良くなり他の料理に箸を付けるが、その味に以前から気になっていたことを家臣に問うてみた。
「はっ、料理番の話では尾張は塩からして違うとのこと。そのおかげで味が違うのかと……」
塩だと? 塩すら畿内は劣るのか? それはあまりに情けない話ではないか。尾張というより久遠に劣るというべきかもしれぬが。
「まあ、よい。今日は皆で新年を祝おうぞ」
公卿公家や坊主があれこれと小うるさいことを言うてくることもなく、穏やかで豊かな国。ここは極楽のような国だな。
畿内など関わりたくないというのも分かるというもの。己の力で豊かになれるならば、貧しく煩わしい身分ある者など邪魔なだけ。
我らも見習わねばならぬのぉ。
Side:久遠一馬
新年を迎えた。ウチは相変わらず賑やかだけど。子供たちとロボ一家が元気過ぎるんだ。
よくよく考えると女性と子供の割合が多いので、必然的にそうなるのだろう。まあ、オレは格式ある宴とか好きじゃないし、こういう賑やかな場が一番いいけどね。
「そうか、よく頑張ったな」
「はい!」
ここ数年は成人した孤児の子たちもいるので、そんな子たちと昨年のことを話しつつ一緒にお酒を少し飲むのが楽しみのひとつだ。
まあ、十代半ばの子がほとんどなので、お酒もお祝い程度に飲む形で酔うほど飲まないようにしているけど。これは健康に長生きするためにとケティが推奨していることだ。
ただね、十年も子供たちを見ていると、大人になり酒を酌み交わすということは感慨深いものがある。
「ちーち、ちーち」
「ああ、だっこか? おいで」
無論、その間にもフリーダムな子供たちが、入れ替わり立ち替わりオレのところにくるけどね。
ああ、今年は少し意外な客人がいる。
「十郎、凄かろう?」
「はい、宗滴様」
真柄さんの奥さんと息子さんだ。正月くらいは一緒に過ごさせてやりたいと宗滴さんが呼んだらしい。少なくとも春先までは尾張に滞在するそうだ。表向きは宗滴さんの小姓となるらしい。
親父さんの家正さんとはなんどか文のやり取りをしている。真柄さんが世話になったことへのお礼などだ。
斯波家と織田家が変わったこともあり、世の中が変わったこともある。越前もまた史実との乖離がいろいろとある。真柄家なんかは尾張とウチに関わる立場となったことで、義景さんから尾張とのつなぎ役として期待されている。
ただ、奥さんと息子さんは戸惑っているね。ウチの日常に権威とか格式とか皆無だから。まあ、宗滴さんが上手くフォローするだろうけど。
「みんな、お歌を披露するよ!」
盛り上がってくると余興も始まる。恒例となった孤児院の子供たちの合唱が始まるみたいだ。
おお、今年は大武丸たちも参加するのか!? これは知らなかったなぁ。
ある程度、合わせて歌える年齢の子たちはみんな参加するらしい。大武丸たちも大きくなったからなぁ。
楽しげに歌う子供たちの笑顔がいい。みんなが歌ってくれる元の世界の歌は、本当に故郷を思い出させるものだ。
懐かしくて、普段あまり思い出さないことを思い出してしまう。
「クーン」
子供たちがオレの周りからいなくなったことで、ロボとブランカがいつの間にか寄り添うようにいた。二匹もまた聞こえてくる子供たち歌が心地いいようで伏せて聞いている。
「楽しそうね~、私も一緒に混ぜて!」
「はい! 喜んで!!」
ああ、聞いているだけで我慢出来なくなったのだろう。ラクーアが飛び入り参加すると、他の妻たちも楽器で演奏をすることになった。
真柄さんの奥さんと子供は目を丸くして見ている。まあ、それもいいだろう。庶民の宴なんていつの時代も同じだろうし。ウチはもと庶民だからね。変に気取るつもりはない。
みんなで歌い、楽器を演奏したり、踊ったり。
変わったようで変わらない、ウチの宴だ。
楽しいなぁ。みんなの笑顔を見ているだけで幸せだ。こういうのは子供たちにも受け継いでほしいと思う。
どんなに時が過ぎても、世代を重ねても、楽しむ時はみんなで楽しむ。そんな自然な形だけは残してほしい。
今年最後の更新になります。
一年間、ありがとうございました。
皆様、よいお年をお迎えください。














