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戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。  作者: 横蛍・戦国要塞、10巻まで発売中です!
永禄四年(1558年)

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第二千百十四話・格差の勝者

Side:三好家の者


 尾張に屋敷を構えることなり、わしが留守居役を承った。


「留守居役はそなたか。尾張は他国とは違う。京の都と同じと思うなよ」


 領国に戻られる民部大夫様に到着の挨拶をすると、険しき顔でそう教えを受けた。無論、承知のこと。日の出の勢いがある尾張なのだ。三好家の恥になるようなことだけは避けねばならぬ。


「はっ、三好家の名を穢さぬよう務めまする」


「兄上のことだ。すでに命じておると思うが、念のためわしからも言うておくぞ。この国は皆が豊かだ。民から武衛様に至るまでな。特に織田と久遠は別格だ。そなたが思う以上にここでの暮らしは豊かなものになる。いや、豊かに暮らさねばならぬ」


 殿からは尾張の暮らしに合わせるようにと命を受けた。費えは望むだけ出すとな。わしは贅沢などする気がないので戸惑うたが、質素倹約に励むというのはあまりしておらぬ国だとか。


 ただ、それでも豊かに暮らさねばならぬとは異な仰せだ。


「京の都の武衛陣の留守居役を存じておろう? あれを真似ると思えばいい。着物も上物の絹で多めに仕立てておけ。清洲では宴や茶会に招かれることも多かろう。金色酒や清酒も遠慮なく飲むくらいでいい。ここでは民ですら金色酒や清酒を飲み、菓子を食う」


 武衛陣の留守居役。京の都で、もっとも豊かに暮らしておると噂されるところのひとつだ。十年ほど前、仏の弾正忠殿が織田を束ねるまでは公家衆と共に野山を駆けておったというのに。


 あれを真似ろと? さすがにやりすぎでは? 三好家において、わしより目上の方々より贅沢は出来ぬぞ。


「ここでは武士はそのくらい当然なのだ。兄上にはわしからも申し上げておく故、遠慮せず尾張の暮らしに合わせて贅沢をしろ」


 なんとも返答に困るわ。わしはそこまでの身分ではないというのに。


「役得よな。許されるならわしが代わりたいわ。まあ、すぐに理解するはずだ」


 役得と言えるほどなのか? 本国より豊かに暮らすなどしてよいのか?


 まあ、よく分からぬが、様子を見つつ周りの武士と合わせればよいのであろう。察しろということであろうからな。


 武芸は得意ではないが、左様なことは得意なのだ。なんとかなろう。




Side:久遠一馬


 年の瀬だというのに、寺社奉行が忙しい。


 仁科三社と伊勢神宮の一件から、織田家における寺社に対してのスタンスを理解したからだろう。神宮であっても不要だと示した事実は大きい。なんだかんだと許されて存続することは出来るのだろうと甘く見ていた者たちが相応にいたんだ。


 後ろめたいことがあるところが隠蔽したり申し出て謝罪したりと、細かな動きが多い。


 あとは北畠関連の改革が一気に進んだこともあり、そちらに関しても急いで対応している。予測して準備はしていたけど。具体的には、すでに文官や武官が現地に行って助言を始めているんだ。


 物流に関してはすでに流通量を増やし、神宮騒動の影響を最小限に抑えている。言い方が適切でないだろうが、寺社の騒動があっても日常が変わらないと示すことが寺社に対して一番ダメージを与えられるだろう。


 願わくは本分に戻り、人々と共に歩んでほしい。


「殿、三好家の留守居役が到着したようでございます」


「ああ、そうか。必要そうなものを贈ろうか」


 三好家の留守居役か。驚いているだろうなぁ。清洲だと生活水準が違うから、屋敷を構えると戸惑う人が多いんだよね。


 武田家が屋敷を構えた頃はなかったけど、今では織田家で暮らしについて教えている。必ずやれとは言わないが、標準的な暮らしや体裁を維持するのはどうしているか。教えないと困るところが多かったんだ。


 身分や格、俸禄にもよるが、彼の場合は三好家名代となる立場なので相応の暮らしと体裁を維持することが望まれる。少なくとも織田家重臣と同等の暮らしが望まれるからなぁ。


 実のところ織田家中でも、清洲留守居役は一番暮らしが変わるんだ。


 正直、武士や坊主だけが贅沢しているわけではない。領内、とりわけ尾張と近隣である美濃・伊勢・三河は総じて生活水準が高い。


 嗜好品でいえば、金色酒・麦酒・清酒なんかは領民にも広く親しまれている。さらに砂糖の普及と価格安定により、慶事には菓子を食うこともある。これだけでも他国との違いは誰が見ても大きい。


 清酒に関しては、美濃、三河でも製造する村を設けた。こちらはウチと信光さんの共同出資による増産になる。清酒以外にも需要の増えている味醂みりんを製造していて、大きな利益になっているんだ。


 ウチが技術提供と販売を担当していて、信光さんが土地の選定や管理を担当している。こういう手法教えたつもりなかったんだけど。信光さん、ウチの妻たちと個別に親しいからいつの間にか学んでいたらしい。


 信光さんは弟である信実さんや信次さんにも仕事と利益と分けつつ、事業家のようなことを着々としているんだよね。


 今では醤油と味噌製造もやっているし。手法は美濃と三河の酒造り村と同じ。共同事業だ。


 まあ、実際に差配して管理しているのは息子の信成さんだけど。


 おかげでウチも尾張での製造業で利益が出ているんだよね。もし仮にウチの海外領が駄目になってもここで生きていけるだろう。そういう見えない配慮が信光さんにはある。


 実際、オレと信秀さんに次ぐお金持ちになっているけど。そこの抜け目のなさも個人的に好きなんだよね。


 家禄・役職の禄で言うなら、二ヵ国待遇の今川家が一番あるんだけど。あそこは抱える家臣も多いしね。自由に出来るお金という意味では信光さんのほうが上だ。




◆◆

 永禄四年、十二月。三好長慶は尾張国清洲に屋敷を構えている。


 これは同年秋に武芸大会観覧に訪れた際に、薬師の方こと久遠ケティの診察を受けて長期療養をしていた十河一存に織田家が貸し与えた屋敷を、そのまま三好家で借り受けることを頼んだためであった。


 名目は病気治療の際に使う屋敷がほしいというもので、実際に一存はかさと当時呼ばれ不治の病であった梅毒が尾張での治療にて完治したと思われる。


 ただ、屋敷の件は病気治療以外にも当時すでに日ノ本の政治と経済の中心となりつつあった尾張に拠点を構え、斯波家と織田家との関係強化を狙ったものでもあった。


 細川京兆家の家臣という立場と足利家相伴衆という立場もあり、織田家同様に本来の家の格が低いことで苦労が多かった長慶だが、尾張と堂々と関係強化する名目として病気治療を用いていた。


 同時代では織田や久遠が目立ち、その功が大きく評価されているが、古来より日ノ本の中心であった畿内にて、尾張勢と協調しつつ勢力を伸ばしていた長慶を評価する声もまた大きい。


 もし久遠が日ノ本に来なければ、彼が天下人となって日ノ本をまとめていたかもしれない。そう評価する歴史学者もいる。


 


メインでの活動はカクヨムです。

もし、私を助けていただける方は、そちらも、よろしくお願いします。

カクヨムにて『オリジナル版戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。』と『改・戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。』があります。

『オリジナル版』は、2430話まで、先行配信しております。

『改』は言葉、書き方、長期連載による齟齬などを微修正したものに、オマケ程度の加筆があるものです。

なお、『書籍版』の加筆修正とは別物であり、書籍版の内容とは違います。



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