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戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。  作者: 横蛍・戦国要塞、10巻まで発売中です!
永禄四年(1558年)

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第二千百十一話・過ぎる時の価値

Side:神宮領の領民


 お宮様と織田様が上手くいっておらぬらしい。なんでも久遠様の面目を潰したそうだ。


「神様仏様より頼りになるお方なんだがなぁ」


 神様仏様はおらたちのことなど見向きもされぬ。助けてくださっているのは織田様と久遠様だ。お宮様にとっては違うんだろうな。


「近隣の村でも逃げ出した奴がいる」


 織田様と争うと生きていけねえ。あらゆる品が高くなり手に入らなくなる。近頃は宮川でやっている尾張賦役で飯と銭が貰えるが、あれも止めるのではと騒ぎとなっておる。


 去年の秋、宮川で大水が起きた時に北畠様に逆らった者たちが、同じようにあらゆる品が高くなり生きていけなくなったことで離散したからな。


 おらの村でも田んぼが少ない奴がすでに逃げ出した。朝起きたらもぬけの殻だったんだ。


「お宮様のことは身分あるお方が考えればええ」


 村の主立った皆は、北畠様に助けを求めるべく嘆願をするか話し合っている。おらたちは家族や祖先が幸せになるなら祈るが、お宮様のことは正直、行ったこともねえからよく分からねえ。


「ここだけの話、お寺様は他にもあるからな」


 お宮様が駄目でも他に祈ればいいのでは? そう言うた村の衆もいる。おらたちはお宮様の前にこの冬をいかに越すかを考えねばならねえ。


 困ったことになったもんだ。




Side:ケティ


 病院には連日多くの患者が訪れる。助けられる者もいれば、助けられなかった者もいる。少し気がかりなのは治療を終える前に戻った神宮の者たちだ。


 ただ、私からこの件で医療を再開したいと嘆願することはない。


 個人としては心配もするが、私たちとて助けられる人に限りがある。身分ある者よりは目の前の患者たちを診るので精いっぱいという事実がある。


 私にとって患者ではあったが、言い換えるとそれだけでしかない。市井の民も神宮の者も同じ患者。


 もし神宮が世のため人のために祈り生きる者たちならば、違ったのかもしれないけど。彼らは今の世を良くしようと共に生きる同志ではなかった。


 伝統と権威と神宮を守る者。言い換えると為政者側の立場になる。無論、それが悪いとは言わない。今の世はそんな世の中だから。


 ただし、同じ患者なら私は力なき者や弱き者を救いたい。それだけのこと。


 権威ある者は責任と覚悟も必要だと思う。多くの人の上に立つ寺社を預かる者ならなおさら。


「やれやれ、これでは信仰も冷めますな。皆、己のことばかり」


 ちょうどそんな神宮の高位神職から届いた書状に曲直瀬殿が呆れた顔をした。銭ならばいくらでも出すから密かに薬を寄越してほしいというものだ。


 一度身分を隠して診察に訪れて以降、定期的に薬を飲んでいた人になる。薬がなくなり体調が思わしくないのだろう。


 神宮内の者からは、そんな書状が私や曲直瀬殿のところにいくつも届いている。


「それが日ノ本の権威ある寺社だと思ってる」


 本当に民を思う寺社など一握りしかいない。そんな民を思う寺社ですら、己の権威と体裁を整えた後で考えてやるという感じだ。


 そういう意味では神宮は民から奪うほどあこぎなことをしていないだけ、まだ善良な寺社と言える。


 悲しいことだけど現実を生きる医師として、私は患者に優先順位を付けないといけない。命の価値は皆同じ。出来るだけ多くの人を救えるように。


 特定の権威、身分にだけ配慮をして救うことは本来好きじゃない。




Side:久遠一馬


 北畠と六角はライバルのようなものかもしれない。ここ最近の動きを見て、そう思った。


 所領の放棄は六角に先を越されたが、警備兵の運用は北畠が随分前からやっている。さらに領内の諸勢力における改革の理解度は北畠が上なんだ。


 六角は家中を改革で統一出来たわけじゃない。また領内の寺社も態度をはっきりさせていないところが多い。例外は甲賀だろう。あそこは織田とウチの影響が強いので改革でほぼ一致して頑張っている。


 清洲では北畠の改革の本格化に関してバックアップするべく準備を進めているが、オレは尾張に戻ったウルザとヒルザと一緒に家中の皆さんのところに謝罪と挨拶回りをしている。


「致し方なかろうな。寺社の件は他の領国からも揉め事の報告が多い。世の安寧のためにあると思うておった寺社が、実は違ったと知って騒ぎになることは珍しゅうないのだ」


 筆頭家老の佐久間さんは騒がせた謝罪をすると困ったように笑みを見せつつ、他の事例を交えて実情を口にした。


「そなたらの面目を潰すなど許さぬという者は武官衆にも多いぞ。最早、当人の意思ひとつでいかんともならぬ」


 偶然出くわした信光さんが何故か同席しているが、ほんと血の気が多い武官の皆さんが怒っているんだよね。今回は信光さんが抑えてくれたけど。


 寺社の問題で面倒なのは、真面目で信心深い人ほど寺社の堕落と身勝手に厳しいんだ。実情を察していたり、内心では寺社を疑っていたりするような人は冷静だけど。


「申し訳ございません」


「それがいかんのだ。軽々しく謝るな。少なくともわしや大学には要らぬ。一馬、そなたの悪い癖だぞ。引いてはならぬ時もある。由緒あるとはいえ、久遠が仁科三社如きに引くなどあってはならぬわ」


 信光さんに真面目に叱られてしまった。もしかして謝罪行脚をしていると聞きつけて、オレたちを探していたのかもしれない。


「寺社の憂いをなくすためには必要なこと。それは皆理解しておる。あまりご案じ召されるな」


 正直、信光さんに叱られたのは初めてかもしれない。驚いていると、佐久間さんが少し苦笑いを見せつつフォローしてくれた。


 皆さんも理解している。武士もまた寺社を堕落させた一因であると。織田家では、だからこそ寺社を正道に戻すべしという論調が増えている。


 信賞必罰。これを寺社に行う者がいる。これはまあ、今に始まったことではなく、そういう価値観は以前からあったものだ。織田家では名実ともにそれを実行出来る力が備わってきたことで、現実のものとして寺社を正そうという機運も高まった。


「あれもこれもと、背負い込むな。そもそも許さぬというのは守護様のご裁定だ。何人たりとも覆せぬ」


 ふと史実の豊臣政権の末期を思い出した。諸説あるが、内部での権力争いが乱れをもたらして豊臣政権崩壊を招いたのは事実だろう。


 それと比較するわけではないが、信光さんや佐久間さんも変わったなと思う。


 同じ政権内でちゃんと意思疎通をして争わず物事を進める。これがいかに難しいか、オレは知っている。


 十年、オレたちが来てからの年月が歴史に与えた影響は計り知れないのかもしれない。





メインでの活動はカクヨムです。

もし、私を助けていただける方は、そちらもよろしくお願いします。

カクヨムにて『オリジナル版戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。』と『改・戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。』があります。

『オリジナル版』は、2423話まで、先行配信しております。

『改』は言葉、書き方、長期連載による齟齬などを微修正したものに、オマケ程度の加筆があるものです。

なお、『書籍版』の加筆修正とは別物であり、書籍版の内容とは違います。



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書籍版戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。

第十巻まで発売中です。

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話し合いは大事……いや本当にそうおもう
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