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戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。  作者: 横蛍・戦国要塞、10巻まで発売中です!
永禄四年(1558年)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

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第二千百一話・不信

書籍版、戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。

9巻発売中です。

書籍版限定の書下ろしエピソードを随所に入れていて、より広い世界観となるようにか書きました。

どうか、よろしくお願いいたします。

Side:慶光院清順


 返す言葉がありませんでした。私もまた現状を甘く見ていたのかもしれません。神宮は今まで上手くやっていたのだからと。


 朝廷への不信、寺社への不信。事は神宮だけではなかった。


「いかが致しましょう」


 共に参った者たちもここまでとは思わなかったのでしょう。戸惑うております。皆、神宮と私の立場ならば現状を変えられると信じていた。いえ、慢心していた。


 いずれの宗派も開祖は民を思い世のために寺社を残した。古よりある神宮は少し違いますが。されど、今の世で民を思い祈る者がいかほどおりましょうか。


 それを見抜かれている。


 もう、私の言葉も届かない。開祖となった方々のお言葉なら届いたかもしれませんが。


「主立った者たちに詫びるしかありませんね」


 すぐに上手くいくとは思えない。とはいえ、主な者たちに神宮の過ちを認め詫びていかねば、いずれ訪れる許しの時すらないかもしれない。


「何故、かようなことに……」


「祈る前に人としての務めを果たすべし。内匠頭殿の言葉だと聞き及んでいます。神宮はまことに人としての勤めを果たしていたのでしょうか?」


 織田の民と比べ、己らの暮らしがもっといいはずと贅沢を始めた神宮を、内匠頭殿は人知れず呆れていたのでしょう。苦言を呈する者もおらず、労をせずとも手に入る織田からの寄進を是とした。


 あの時点で私たちは間違っていたのかもしれません。


 ともあれ、今は頭を下げるしかない。この命でいいなら差し出しますが、久遠に命を以て償うというのは通じない。


 生きて償え。久遠の家訓に従い生きるしかない。許しを請うのならば。




Side:久遠一馬


 織田家も戸惑っている。その一言に尽きるのかもしれない。


 批判の声が多く聞かれるものの、歴史ある神宮を重んじる故になにかしらの妥協をしてもいいのではという者もそれなりにいる。そういう意味では意見は概ね二極化しつつあった。


 経済的なつながりを絶たない。これ、そんな双方が妥協した案なんだよね。このまま独自に頑張ってくれれば、再び関係改善の糸口も掴めただろう。


 ところがおかしな動きをして騒ぎを大きくした。


 そんなこの日、具教さんが尾張にやって来た。晴具さん、具教さん、義統さん、義信君、信秀さん、信長さんと、オレとエルで急遽相談することになった。


 エルがみんなにお茶を入れて、清洲城の侍女さんたちがチョコレートケーキを運び終えると、あとは完全な密室にした。


 ケーキなのは偶然だ。今日は清洲城にセルフィーユが来ているから、彼女が城の皆さんのおやつに作ったのだろう。


「ああ、ケイキなど久方ぶりだ」


 少し重苦しい空気だが、具教さんがケーキに喜ぶと場が和む。


「申し訳ございませぬ。わざわざお越しいただくとは……」


「ここに来ると美味いものが食えるからな。こちらとしてもありがたい」


 北畠、家の格式は上だし斯波家と対等だから、本来は頻繁にこちらに来ること自体がよくないんだよね。信秀さんがその件について謝罪するものの、具教さんは気にしていない。


 というか、こちらから出した使者が到着する前に出立して、蟹江に到着してすぐに晴具さんと合流して清洲まで来てしまったんだ。


 形式は公式の場だけでいいという感じか。具教さんは前々からそうだったけどね。


「伊勢はいかがですか?」


「そなたと父上が神宮を見捨てたと騒ぎになっておる。仏の弾正忠の逆鱗に触れたというのもあったな」


 ああ、噂に尾ひれがついて広まっちゃったか。こうなるから騒がないでほしかったのに。というか、信濃に向かった使者が晴具さんのところに先に嘆願に行ったんじゃなかったか?


「会うておらぬからの。用向きがあるなら倅に言えというてな」


 尾ひれというか一部真実が混じっていたか。見捨てたとは言えないが、門前払いしたとは。そりゃ慌てるわ。オレでも慌てるかもしれない。


「いかがなさる? 正直、この件は北畠次第なのじゃが……」


 本当に怒っているんだなと少し驚きつつ、義統さんや信秀さんたちと顔を見合わせ、義統さんから本題に入った。


 こちらとしては晴具さんが仲介して和解ってのが、ギリギリの妥協ラインなんだ。和解の内容次第なところもあるが。


 朝廷に対して、兵を挙げてもオレたちと共に戦うと言い切った晴具さんの仲介なら許せるというのが現状になる。


 蟹江に移り住んで以降、学校に行くこともあるし、尾張の暮らしに馴染んでいることも理由だ。共に生きる。これを自ら示していることで、正直、朝廷などよりも晴具さんの仲介を望む声が多い。


 義輝さんという選択肢もなくはないが、尾張において信頼という意味では晴具さんのほうが上だ。


「おかしなものじゃの。南伊勢でくすぶっておったわしが、神宮の行く末を決めねばならぬとは」


 確かに、あまり機嫌がよくないらしいね。不快そうな顔を見せた。


 ただ、くすぶるというのは旧来の領地制でのことだからなぁ。はっきりいうと政治力とか外交力より、戦で物事が動いていた時代の話だ。


 正直、晴具さんは文治統治と中央集権との相性がいい。足利家との婚礼を進める今、その力は義統さんより上かもしれない。


「わしもウルザらの面目を軽んじたのを今すぐ許せと言えぬわ。北畠と久遠に懸念など残せぬ。わしや倅と内匠頭ならよかろう。されど、かような時に味方しておかねば、後の世であらぬ疑いをもたれる」


 現状での仲介はしないか。まあ、先を考えるとそうなるよなぁ。


 具教さんも異論はないというか、困った顔をしている。こっちでいくつか可能性を示して検討してもらうしかないか?


「こちらとしては神宮にも独立してほしいんですけど、難しいですか?」


「神宮にこの状況で独り立ち出来る者などおるか? そなたとわしが突き放せば、尾張や伊勢の者は誰も相手に致さぬようになるぞ。それに朝廷が介入するやもしれぬ。神宮の祭主は京の都におる藤波じゃ。神宮伝奏の中山もおるな。さらに熊野は近衛に縁がある。これ以上騒げば、かの者らも動かざるを得なくなる。あと公方様のところの神宮方頭人を務める摂津も捨て置けまい」


 藤波と中山は公卿家だったはず。それと神宮方頭人は足利政権の神宮担当になる。当主は摂津晴門さん。義輝さんの乳母が先代の摂津元造さんの養女だったことから、義輝さんの義理の伯父になるはず。


 さすがは神宮というところか、朝廷と足利家の双方に伝手がある。巻き込むと大騒動になるなぁ。


 ただ、それでもオレは引けない。権威という形にないものに今のオレが引けば、今後も同じように引けと求められるだろう。


 しかし仁科三社の時もそうだったが、独立拒否って、元の世界の引きこもりみたいだな。自分たちで領地を運営して独自に生きる強さはどこに行ったんだろう?


 はっきりいうと、生産性のない神宮に出すお金でやりたいことがいくらでもあるんだ。インフラや農地の整備とか。


 寺社に関しては、配慮もあって変われるように面倒を見ているけど、それを当たり前とするばかりか、時が経つと扱いが悪いと文句をいう者がいる。さらに寺領を奪ったのだから当然だ。もっと配慮をしろと言い始めた人も少なくない。


 最初はみんなありがたいと言っていたんだけどね。喉元過ぎれば熱さを忘れる。俸禄を当たり前のものとし、自分たちが望む扱いがないと不満をこぼす。


 織田家を中心に、なるべくみんなで世の中を作り上げたいとの考えから尾張の寺社なども加わって共存しようと努力した結果だ。


 結局、寺社と坊主を武士の上に置くという既存の価値観を変えないと上手くいかないところが割とある。


 領地返還と独立。その裏にはそんな傲慢な寺社の度重なる問題があった。


 宗教そのものを要らないとは言わないが、権威権力と一線を置いて身の丈にあった祈りの場になってほしい。偉いのは神仏であって人ではない。これはこの時代で変えないと駄目なひとつかもしれない。難しいだろうけどね。


 本当、宗教とは人間の光と影を如実に如実に表していると思う。


 これからも神宮への配慮を続けていくべきなのか。オレとエルたちでも絶対的な答えが出ない。元の世界の歴史ではない。リアルな現実として。


 正直、一度、潰してもいいのではないか。そう思うところもゼロではないんだ。


 





メインでの活動はカクヨムです。

もし、私を助けていただける方は、そちらも、どうかどうか、よろしくお願いします。

カクヨムにて『オリジナル版戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。』と『改・戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。』があります。

『オリジナル版』は、2375話まで、先行配信しております。

『改』は言葉、書き方、長期連載による齟齬などを微修正したものに、オマケ程度の加筆があるものです。

なお、『書籍版』の加筆修正とは別物であり、書籍版の内容とは違います。



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書籍版戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。

第十巻まで発売中です。

― 新着の感想 ―
[一言] 喉元すぎれば〜〜 は本当にどこにでもあるからなぁ……日々精進する精神がないと無理だわ
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