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戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。  作者: 横蛍・戦国要塞、10巻まで発売中です!
天文16年(1547年)

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第十六話・信秀最大の敗北の消失

side・織田信秀


「殿。本当に美濃攻めを止めるので?」


「無理に稲葉山を攻める必要もあるまい」


 月が変わる九月には美濃攻めをする手筈がほぼ整っていたのだが、ワシが美濃攻めを止めると言うと皆が驚き戸惑っておるわ。


「理由を伺ってもよろしいでしょうか?」


「今攻めれば、美濃はまむしのもとに纏まってしまうかもしれんからな」


 状況が変われば戦も変わる。一馬がいろいろとやろうとしておるのに、無理に戦をするのは下策よ。


「しかし美濃守様が何というか」


「大垣は死守する。そのうち潮目も変わるであろう」


 家臣の大半は戸惑うておるが、五郎左衛門と清兵衛は賛成か。二人は一馬のことを知っておるからな。


 一馬の力とやろうとしておることを、見極めるまでは動けん。蝮を牽制する程度には動くがな。


 此度の戦は清洲と岩倉も出る予定であったが、向こうはどうするか。どちらにしてもこちらは動かんがな。



「殿。やはり美濃攻めを止めるのは一馬殿が理由で?」


「他にはあるまい。先年の負けを取り返したかったが、稲葉山はそう簡単には落ちん。それよりワシは、三郎と一馬が何を成すのか見たいのだ」


 家臣たちは必ずしも納得したようではないが、黙らせて評定を終えた。


 五郎左衛門と清兵衛を別に呼んだが二人も理解はしているが、驚きはあるようだな。


「見よ。この美しき金色酒を。これ一つですら、どれほどの価値があるか。そなたらならば分かるであろう?」


 一馬は蜂蜜酒と呼んでいたが、元々は南蛮にある蜂蜜から造る酒らしい。


 じきに尾張の内外に売り出すと言うので、ワシはこれを金色酒とするように命じた。あの男は有能だが、少し素直過ぎるのが欠点だな。


 名など何でもよいが、蜂蜜酒と言うてしまえば他でも造り始めるかも知れぬからな。いつかは広がるであろうが、少しでも遅らせたい。


「確かに。今は動かず見守るのがよろしいかと」


「一馬は言うていた。数年で織田弾正忠家の力を数倍にしたいと。清兵衛、どう思う?」


「不可能ではございませぬ。というより数倍以上になるやもしれぬと、某は思いまする」


 銅から金と銀も出たというし、一馬は鉄を作る施設も一緒に作る気なのだ。戦などせずに、そちらに人と銭を使いたい。


 それに今川も手強い。仮に蝮に勝ち美濃を手に入れても、朝倉や六角と相対するのは少し厳しい故な。


 今は美濃を一つに纏めぬようにしながら時を稼ぎたいのだ。




side・久遠一馬


「美濃攻めが無くなった?」


「はい。史実の加納口の戦いになるはずの戦です。歴史では天文十三年と天文十六年の二説ありましたが、どうやら天文十三年にも戦はあったようなので、戦は二度あったのが本来の歴史のようです」


「なんかいろいろヤバくない? なんで戦しないの?」


「恐らく私たちの影響です。現状では無理に戦をしないで、状況を見守るつもりなのだと思われます」


 織田弾正忠家の領地では美濃攻めの噂で持ちきりだった。


 信秀さん最大の敗北とも言える加納口の戦いになる戦のはずが、突如戦を止めると言い出したらしい。


 歴史変わっちゃうじゃん!


「うーん」


「冷静な判断だと思います。調べたところ美濃は土岐氏と、後の斎藤道三との対立などで混乱してます。攻めるには好機ですが。私たちを信じるならば、いたずらに戦線を拡大する時期ではありませんから」


「美濃との同盟が無くなるとヤバくないか?」


「美濃との同盟は別の理由で進めるべきでしょう。大垣城の扱いが難しいですが、斎藤氏も尾張との和睦と同盟は欲してるはずですから」


 オレたちって意外に信頼されてるのか? ただ、この戦の敗北は、濃姫と信長さんの結婚に繋がるはずなんだよな。




「意外に広いね」


「大雑把な勢力図ですが、東は三河安祥城に西は美濃の大垣城まであります。しかし清洲は名目上の主家ですが、力関係は逆転しておりますので潜在的な敵対勢力となりえます」


 その後、オレはエルから改めて現在の情勢の話を聞いていた。


 はっきり言えば現在の織田弾正忠家は、複雑怪奇とでも言いたくなるほどややこしい。


 尾張の名目上のナンバーワンには守護の斯波義統さんって人が居て、守護代という名目上のナンバーツーは尾張の北半分の岩倉織田家が居て、南半分に清洲織田家が居る。


 織田弾正忠家はナンバーツーの部下でしかなく、ナンバースリーとも言えない地位にある。あくまでも名目上だが。


 実質的な実力は弾正忠家が尾張のナンバーワンとも言えるけど、信秀さん自身は旧来の秩序や在り方を否定まではしてない。


 特に清洲織田家は目の上のたんこぶみたいな存在だけど、滅ぼしたりしてないしね。


 史実では信秀さんが遺した織田弾正忠家は信長さんの力になったけど、負の遺産もまあ結構あった。


 信秀さんには臣従していた人たちが、信長さんにはそっぽ向いたからね。まあ原因は史実の信長さんにもあったと思うけど。


「正直なところ美濃や三河よりも、尾張を先に固めたいところです。この時代は特に珍しくありませんが、尾張も主従関係は元より命令系統も曖昧ですから。ですが戦国大名として戦っていくならば、少なくとも領国内に敵対勢力を抱えたままというのは、よろしくありません」


 三河安祥城は今川に負けて失って、大垣城も確か道三に取り返されるんだよね。大垣城は今一つ詳しい情報がないけど。


 史実の信長さんはそれに加えて、織田弾正忠家の家臣筋にまで反旗を翻されたのだから、よくまあ天下目前まで行ったよね。


「やっぱり経済面から、やるしかないかな?」


「そうですね。津島と大橋様は味方でしょう。後は熱田を味方に引き込み、那古野と津島と熱田を固めるのがいいかと」


 現状だと信長さんは清洲三奉行家の後継者でしかないから、身内相手に戦うわけにもいかない。それよりオレ達が中心となり力を付けてもらう方が早いね。


 そもそも信秀さんが史実同様に亡くなるかなんて、分からないわけだし。オレたちの医療技術があれば、よほど突然死でない限りは死期は変わるはず。


 経済面から尾張を支配して技術革新で力を付けていけば、史実ほど悲惨な状況にはならないだろう。


 史実の信長さんが家督を継いだ直後の兵の数は八百というから、ほとんどが日和見してたんだろうね。そりゃ家臣に厳しくもなるし冷たくもなるわ。


 信じたところで、いつ裏切られるか分からないんだもんね。


「あの人たちには衛生指導も必要」


「ああ、そうか。戦にも酒造りにも衛生指導は必要か」


 まあ先の心配ばかりしても仕方ないか。今はやれること一つ一つやっていかないと。


 信長さんに従う悪ガキの皆さんを、酒造りとか牧場とかで使うのはいいんだけど、基礎的な教育はしたいよね。


 ケティは衛生指導をする気みたいだし、大橋さんと津島の人たちも話聞いてくれるかな?


 ただ信長さんや悪ガキの皆さんと、他の織田弾正忠家の家臣の皆さんとの間にあんまり壁を作ると、史実の二の舞になるしなぁ。


 味方にできる人は味方にした方が無難だよね。史実の信長さんよりはソフト路線で行くように、さりげなく軌道修正してもらわないと。


 加納口の戦いが無くなった影響は、とりあえず考えないようにしよう。




本作品は歴史を意図的に独自解釈してます。

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書籍版戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。

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