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戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。  作者: 横蛍・戦国要塞、10巻まで発売中です!
天文16年(1547年)

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第十五話・井戸と漁業のお話

side・久遠一馬


 季節は秋になっていた。牧場の方は輪栽式農業をしてみることになり縄張りまで済ませたが、農繁期になったので工事は始まってない。


 南蛮吹きと銭の鋳造と高炉の方は耐火煉瓦を作る土を探してるところで、まずは耐火煉瓦を作らなきゃならないみたいだ。


 高炉には動力として水車を充てる予定だけど、場所の選定はエルと政秀さんにお任せしてる。オレと信長さんが口を出せる問題じゃないんだよね。


 エルとしては牧場から近い川辺に作り、ついでに牧場に水を運ぶ水路の建設も進めてるらしい。牧場の方は水田までは計画してないから、井戸でも十分なんだけどね。


 今後のモデルケースになれば、というところだろう。




「一馬殿。これはまた大きな網ですな」


「実は大橋様にお願いがありまして」


 この日、津島はウチの船が来港したことで賑わっていた。


 ガレオン船から荷物を降ろすには、別の船に移してから陸揚げする必要があり、人手を必要とするので人足の仕事として人気らしい。


 今回の船では、砂糖と蜂蜜と胡椒に、生糸と漁業用の大型の網を幾つか運んできた。


 蜂蜜は宇宙要塞で製造した人工蜂蜜だけど、味や成分は天然物との違いはない。オレの生きた時代でもリアルでは蜂蜜の人工製造はできなかったけど、ゲームの中だと普通に初期からできたんだよね。


 蜂蜜は日本国内でも取れるし、胡椒は貴重だけどそれなりに知られてる物だ。あまり新しい物ばっかりで騒がれるよりは、すでにある物で高値で売れる物の方がいいからさ。


 別にオレが港に顔を出す必要ないんだけどね。船が来たと知ったら信長さんが行くって言うから、付いてきたら大橋さんに出くわした。


「これで小さないわしとか捕ってほしいんですよ」


「別に構いませんが。わざわざこのような網を使わずとも、捕れますが?」


「実は鰯はダシにしてもいいですし、田畑の肥料にもなるんです。使い道がいろいろあるので、作ってほしいんですよ。作り方は教えますから」


 ちょうどいいから船から降ろした大型の網を、大橋さんに渡しておこう。


 煮干しと魚肥はそんなに難しくないから、津島で作ってもらいたい。


 実は熱田の方にも同じ網を届けて頼む予定だ。あちらは政秀さんを通して頼む手筈になってる。


「分かりました。とりあえずやってみましょう」


「お願いします。秘密ですけど、それがあれば綿が作れるんです」


「……それはまた。とんでもない話」


「来年には試しに作ってみたいんですよね」


「かず。そういう話は、もっと周りに人の居ない場所でしろ」


 絹はともかく魚肥があれば綿花が育てられるはず。って、あれ? 大橋さんには頭を抱えられて、信長さんには呆れたように注意された。


 別に大丈夫でしょ? 綿花って確か三河に伝わったとか資料が未来にあったらしいけど、この時代に野生化して残ってても誰も知らないだろうし。


 どのみち津島と熱田の商人から選んだ人たちに、生糸の染織と織物の技術を教えてやってもらう予定なんで、そのうち織物関係は騒がれるんだけどね。


 これも人選は政秀さんにお任せしてる。オレたちだと誰がいいか分からないしさ。いろいろ仕事が増えて苦労をかけてるけど、上手く人を使いながらやってるみたい。


 政秀さんは文化人としても優れていたって言うし。最近ではオレたちの計画の実現のために、戦国時代の現実的な側面からアドバイスをくれるばかりか、実務的に動いてくれてるスーパーお爺ちゃんだ。


 あの人が居ないと、オレたちの計画はもっと苦労していただろう。


 お酒と美味しい物でも贈っておこう。そうだ、ワインでも贈ってあげよう。お酒好きみたいだし。




「かず。これとこれは何だ?」


「水を楽に汲む物ですよ」


 港での話を終えたオレと信長さんは、津島の屋敷に戻ってきたけど、そこではちょうど届いたばかりの、手押しポンプを井戸に取り付ける準備をしていた。


 好奇心旺盛な信長さんはすぐにそれに興味を持ったみたい。


 信長さんが興味を持った物はいろいろある。細かいものだとフライパンとかダッチオーブンとかに興味を持ったし、家の台所に作った薪のオーブンにもかなり興味を持っていた。


 オーブンはこの時代の日本には多分ないけど、ヨーロッパだと珍しくない。仕組みも別に難しくないから、台所の改築を頼んだ職人さんに頼んで作ってもらったんだ。


 結果はかまどの技術で、オーブンを作ったような物になったけど、使う分には問題なく使えてる。


 かまどオーブンは那古野の屋敷ばかりか、信長さんも欲しいと言ったんで那古野城にも作ることになって、職人さんは大忙しらしい。


「これがか?」


「いや、お風呂造ったのはいいんですけど、水汲むの大変なんで。南蛮にはあるらしいですよ。オレも詳しくないですけど」


 見た感じだと分からないよね。半信半疑な信長さんの前で擬装ロボットが、お風呂用にと掘った井戸に手押しポンプを取り付けていく。


「おお!?」


「凄い」


「水が溢れてくる!?」


「南蛮の妖術か!?」


 設置した手押しポンプに呼び水を入れて使ってみせると、信長さんとお供の皆さんが驚いてる。


 仕組みは紀元前にあったとか言われてる物だし、イスラム圏では数世紀前から普及してるらしい物だけど。日本で普及するの随分後なんだよね。


 あとそこ、妖術じゃないから。変な噂になる前に説明しないと駄目だな。


「……という仕組みになります。皆様分かりましたか?」


「分かったような。分からないような」


「要は鉄砲のような南蛮の技術なのであろう?」


「そうですね。怪しげな妖術ではありません」


 説明はしましたよ。エルが。オレ? オレには詳しい仕組みまでは無理だったんだよ。


 割と正確に理解したのは信長さん一人で、後は南蛮の技術なんだというのが精一杯みたい。


「これはいいな。城にも欲しい。それに高いところに水を汲み上げるのに使えよう」


「後で設置しに参りますよ。予備も含めて持ってきたので」


 信長さんはさっそく欲しがったから、後で那古野城に設置しに行こう。こうなるのは予想済みだから、手押しポンプの一式は多めに運んだんだ。




「やはり日ノ本は遅れてるのだな」


「どうしたんです。突然」


「鉄砲に南蛮船にこのポンプ。どれも南蛮から来た物ではないか。他にもいろいろあるのであろう?」


「まあ。中にはオレたちの生まれた島で考えた物も、いろいろありますけどね。知識の元は南蛮か明ですよ」


「戦ばかりしていては駄目だということか」


 信長さんは自ら手押しポンプで水を汲み上げては、水が流れるのを見ながら真剣な表情で日ノ本の現状を口にした。


 正直それほど圧倒的に遅れてるわけでもないんだけどね。東の果てにあるだけに、情報が伝わりにくいというのはあるだろう。


「まあ、物は考えようですよ。南蛮ゆかりの技術はウチにはありますから。織田家はそれで力を付ければ、日ノ本を統一するのも不可能ではないでしょう」


「南蛮は日ノ本には攻めてこぬのか?」


「遠いですからね。現状だとあまり心配は要らないかと。先のことは分かりませんけど」


「であるか」


「当面はあんまり敵は増やしたくないですしね。船で南蛮人の利益をちょっとずつ奪いながら、力を貯めて技術を身に付けるべきですよ」


 南蛮ゆかりの技術に感心してた信長さんだけど、同時に怖くもなったのかもしれない。遥か遠くから来る南蛮人が。


 信長さんが生きてる間はその心配はないけど、油断してると史実の江戸幕府のように大変なことになっちゃうかも。


 手押しポンプで便利だって喜ぶだけじゃなく、先の未来まで考えられるのは、本当にこの時代だと先を行きすぎる天才なのかもしれない。


 原因にはオレたちもありそうだけどね。




――――――――――――――――――

 織田統一記にはこの日のことも少しだが書かれている。


 南蛮から伝わったと言われる手押しポンプを一馬が持ち込んだことと、それを見て信長が感心したと記されている。


 さらに、信長にその才を見込まれ側近になった堀秀政が、信長自身から昔話として聞かされた話も堀家に伝わっている。


 秀政自身はその内容に大層驚いたと言われる。


 堀家の記録には、信長と一馬が、まだ仕官して間もない頃から天下統一ばかりかその先まで考え話していたとあり、後世で議論を呼んだ。


 ちなみに津島の久遠屋敷跡には日本で最初の手押しポンプ井戸の跡が残っており、昭和に入ってから井戸が復元されている。



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