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11 平和会議

ルルムムが俺の事をストリーに言いつけ、アツシはガーブルに罪をなすり付けて、ガーブルは後でストリーにボコボコにされそうだ。

何故か頬に付いたキスマークはストリーのものでは無く、それはルルムムのもので、ルルムムはアツシの事を好きだと言う。

しかしそれはフェイクで、アツシの事を不幸にしようと狙っていた。

買い物途中にチンピラ達に絡まれたが二人に敵うわけもなくボコボコにされた……

 三日目の朝、俺は部屋に待機していた。

 会議なんて俺にはよく分からないし、この部屋に居ればいいやと思っていたのだが、ストリーが呼びに来た。

 そして何だかよく分からない話を聞かされている。


「ん? 何だって?」


 俺はストリーに聞き返すのだが。


「もしお前が捕まったなら、お前と一緒に死んでやると言っているんだ」


 その言葉は何を言ってるのか分からなかった。


「? 何で俺が捕まる事になるんだ?」


 俺は首を捻りながら、もう一度ストリーに聞き返した。


「だから言ってるだろ。この和平に反対する奴が妨害しに来た場合、人質にされるおそれがある。もし捕まったなら一緒に死んでやると言ってる」


 つまりストリーは、俺が捕まって人質になると言っているのだろう。


「いや死ぬより助けろよ! この世界には人命優先って言葉は無いのか!」


 俺はもちろん、そんな事になりたくない。


「優先される命は女王様の命で、お前の命じゃない。例え人質に取られても、私達は躊躇ためらわわずお前ごと賊の命を絶つだろう。心配するな、きっと生まれ変わった時には……」


 ストリーは悲しそうな目で俺を見ている。

 確かに、転移があるなら転生だってあってもおかしくないが、決して積極的に死にたい訳ではない。


「待て待て待て、俺が捕まるみたいな話になってるが、どうにか出来ないのかよ」


 だから俺は、どうにか助かる道があるんじゃないかとストリーに聞き返した。


「それはアツシがずっとこの部屋に居た場合の話だ。まあ人質に取られるよりは殺される方が可能性としては髙いな。だから一緒に来るんだ」


 ストリーが言うには、この部屋に引きこもっていたら死ぬということだ。

 つまり会議に参加するしかないのだろう。

 しかしストリーは、ただ足を引っ張るだけなのに、何故俺をそんな所に連れて来たんだ……。


「……うう、分かったよ、行けばいいんだろ」


「分かってくれて嬉しいぞ。では行こうアツシ!」


 俺はストリーに連れられて、会議室へと向かった。

 そして女王様と兵士達と一緒に入った会議室の中。


「それで何故俺がこんな場所に……」

 

 テーブルを挟んで向かいには、帝国の代表の方々がずらりと並んでいる。

 そして何故か俺は女王様の隣に居た。


「護る対象は一緒に居た方が護り易いからな。アツシは私が護ってやるから安心していろ」


 ストリーに護られるのは良いんだが、男としての自信が無くなっていきそうだ。

 テーブルをはさんだ向う側の奴等が、俺の事をチラチラと見て来る。

 魔族の偉い奴だとでも思われているのだろうか?


 ならそれなりにポーズでも決めてみよう。

 俺はサイドチェストと呼ばれる、ボディービルダーのポーズを取ってみた。

 そのポーズは腕と胸を強調するポーズなのだが、筋肉がほとんどない俺がやっても、それっぽくした顔が目立ってしまうだけだった。


「如何したアツシ、腹でも痛いのか?」


 ストリーは俺を横目で見て、声を掛けて来た。


「違うよストリー、護衛として向うにプレッシャーをだなぁ」


 今度はまた別のポーズをとろうとする俺だが。


「いいから大人しくしていろ、交渉の邪魔になる」


 ストリーに怒られてしまった。

 ここはしょうがないし、言われた通りにしていよう。

 そして交渉が開始された。

 向う側の代表は、太って顎鬚を蓄えた男で、名前をカールソンというようだ。

 そのカールソンは、前に魔族の護衛を付けて旅をしたらしい。

 その事がきっかけで、魔族との和平を考えて此処までこぎつけたんだと。

 中々立派な人物なのだろう。


「あのぉ、エルさんを連れて来て欲しいって言ったのですが、彼女は何処に?」


 カールソンが言ってるのは、べノムの所に遊びに来ていたあのエルのことだろう。

 あまり話した事が……全く喋った所を見た事が無いが、この男と知り合いだったのだろうか?


「彼女は用事があって、残念ながら来れませんでした。この交渉が無事に成立したのなら、きっと何時でも会いに行ける様になりますよ?」


 女王様の発言でパッと顔を緩めるカールソン。

 もしかしてエルと付き合ってたり?

 それなら俺の発言する余地もありそうだ。


「それではカールソンさん、貴方達は私達と和平をお望みの様ですが、具体的には何を期待されているのでしょうか? 軍事面での手助けでしょうか? それとも魔法の技術でしょうか?」


 女王様は交渉を始めたようだ。

 たぶん、無条件での和平はないと考えているのだろう。


「確かに帝国は軍事面で不安があります。魔法の技術など開示していただけるのなら嬉しいのですが、それ以上に帝国の人々は、何時貴方達に攻め込まれるかと内心怯えているのです」


 カールソンは帝国の代表として口を開いた。

 家族を殺された奴が恨むのは当然なんだけど、一度負けて軍を根絶やしにされたから、どうやったって帝国に勝ち目は無いはずだ。

 一年程度訓練した新兵が、激戦を潜り抜けた歴戦の兵士達に敵うはずがない。

 しかもこちらは、一騎当千のつわものがうじゃうじゃ存在しているのだ。


「今も恨んでいる人は沢山います。この状態が続いて行けば、何れ王国に攻めろと言う人が出て来るでしょう。万が一にでも王国に攻める事になったのなら、帝国は今度こそ滅びてしまいます。それならばいっそ、恨みを忘れて仲良くした方が得なのじゃないかと説いて来たのですよ」


 カールソンは言葉を続けた。

 何となく、俺が居た日本と同じ感じがする。

 日本は戦争に負けたけど、アメリカと仲良くしたんだよな?

 そんでなんやかんやあって発展して行ったんだったか?

 歴史の授業は得意じゃなかったからなぁ。

 詳しくは知らないんだよな。


「では此方の条件を言いましょう。王国への旅行者の受け入れは無しです。それで戦争が起きてしまいましたからね。慎重に判断しました。それと商人の出入りも禁止、私達が帝国に買い付けに行きます。王国の品物も此方が届けましょう」


 女王様は、こちら側の条件を言っている。

 輸送も輸入も全部取り仕切るって事は、売りたい物は売るけど、買う数や値段も自分で決めちゃうとか?

 輸送コストもあるが王国側が凄く有利じゃないのか?

 でも王国で売れなきゃやっぱり赤字だろうか?


「輸送は其方が全面的に請け負うと? 此方は輸送費も危険もないのですが宜しいのですか?」


 カールソンは、女王様の真意を知ろうとしている。


「ええ、妙な人達が王国に入って来るよりは良いですから。それに貴方の所の兵では、道中何度も魔物達と戦うのは難しいでしょう?」


 女王様はそれに答えた。

 この世界には飛行機も無ければ車も無い。

 魔物が居る中を進むのは大変だ。

 それは俺も理解している。


「確かにそうですね。人命には代えられませんから。しかしそれだと此方の売りたい物が売れないのでは? 貴方達に此方に来て買うとなると、其方だけが儲かる仕組みになるのではないですか? それでは困るのですよ」


 カールソンも、自分達が不利な条件なんではと疑っている。


「それでは事前に売りたい品物のリストと、品物を一品ずつ渡してください。国民全員に聞いて周りますので、その分だけ買わせてもらいます。売れない物を運ぶ必要はないですからね」


 女王様は、カールソンに提案をしている。


 そうか、事前にアンケートでも取って欲しい数を調べればいいのか。

 そうすれば王国側は無駄な出費が無くなるからな。


 それでも帝国は不利だな。

 商売は客とのやり取りで買わせるなんて方法もあるからなぁ。

 帝国側は品物のみで勝負しなくちゃならない。

 実は俺も店の人と話をしていたら、絶対買わないと思っていた服を買った経験がある。

 勿論その日に返品しに行ったが。


 まあ帝国側は受けるんじゃないか?

 これを拒否して王国までの危険な旅をするとも思えないし。


「ふむ、まあ仕方ありませんね。ではその提案をうけ……」


 カールソンは、そのやり取りに決着をつけようとするが。


「待てぇ! 大人しく聞いておれば何だこれは! 王国側にされるがままではないか! 俺はこんな茶番は認めんぞ!」


 その発言は、帝国側の護衛に付いた一人の兵士だった。

 全身鎧に身を包んだガタイの良い男で、顔を見るとまだ結構若そうだ。

 もう腰の剣を引き抜いている。

 この男が反対派だろう。


「たかだか荷運び程度で帝国の権利を奪う気か! カールソン、お前が此処で死ね! 交渉すらまともに出来ない者は帝国には必要無い!」


 名前も知らない男の言葉に、俺は黙っていられなかった。

 帝国までの道中がどれ程危険だったのか、俺はその目で見て来たからだ。


「たかだか荷運びって言ったのかお前! 旅がどれだけ危険なのか知らねぇのかよ! 俺なんて目を潰されたんだぞ。道中どれ程魔物が居たと思ってんだ! 軽く考えてるなら自分一人で行ってみろや!」


 俺はその男に言い返した。


「ふん! 王国側はこんなガキを寄越すとは、余程人材不足と見える。魔物程度で何を怖がっているのか。やはり王国など恐るるに足りぬ。この場で全員殺してやろう!」


 もしかしてこの男、弱い魔物としか戦った事が無いんじゃないか?

 俺達が戦った魔物達を見たら泣いて逃げ出すんじゃないだろうか?


「行くぞお前達、皆殺しにしてしまえ!」


 男の命令で、帝国側の護衛の全員が剣を抜き、カールソン達帝国側の役員達までも殺そうとしている。

 王国側は誰も動かない。

 ストリーすらも……。


「ま、待てよ!」


 俺は声を発してそれを止めようと動くが、全然間に合わない。


「死ねええええ!」


 そして男の剣が、カールソンに振り下ろされたはずだった。

 ……だが、誰の悲鳴も聞こえない。

 大勢居る敵の剣は、全て根本から切断されている。

 カールソンには剣の柄の風圧が届いただけだった。


「な、何だこの使えない剣は! 何処の不良品だ!」


 敵は誰一人気付いてすらいないが、これはきっと女王様がやったのだろう。

 ストリー達が誰一人慌てなかったのはその所為だ。

 でも音すらしないと、相手に此方の力を理解させる事も出来ないんじゃ?


「女王様、此処は派手にいかないと、相手は此方の力を理解してくれませんよ」


 そう思った俺は、女王様に進言する。


「あらそうですか? じゃあ少し派手に行きましょうか」


 女王様は気さくに答え、俺の考えに賛同してくれた。


「お前等! 今から女王様が攻撃するからな! 逃げるなら今の内だぞ! 自分がどれだけ弱かったか後悔しろよ!」


 ガーブルが得意げに声を発している。


「では……」


 女王様が指をパチンと鳴らすと、部屋の中に爆風が巻き起こる。

 王国の兵達以外のものが、風により切り刻まれてゆく。

 壁も、テーブルも、鎧も、服も、それは帝国側の役員までも巻き込み、帝国の全員が裸で立ち尽くしている。


「これはおまけです」


 ヒュルっと風が吹いたと思ったら、今度は敵兵だけの体毛が綺麗に剃り落とされた。


「ねぇ見てストリー、つるつるで可愛いわよ」


 女王様がストリーに話しかけている。


「ちょっ、ちょっと私にはそういうのは……」


 ストリーは手で顔を隠しながら、隙間からそれを見つめ、チラチラと俺の一部を見比べている。

 俺としては是非とも止めて欲しいんだが。


「だ、大丈夫だよアツシ、少しぐらい小さくたって私は気にしないから!」


 俺の視線に気づき、ストリーはそんな事を言っている。

 こんな時に何比較してるんだお前はと言いたい。

 それに俺は、日本人として普通だ……たぶん……。


 まあ俺のことはどうでもいい。

 裸にされた敵は、たった一人を残して残し逃げ出して行く。

 残ったのは号令を掛けていたあの男だ。


「お前達さえ居なければ、俺の兄は死なずにすんだんだ! 絶対殺してやる!」


 武器も無く、裸の体のままで、その男は女王様に向かって行く。

 ガーブルが動こうとしたが、それを女王様は止めた。

 女王様が軽く手をふって放った爆風が、男の体を吹き飛ばす。

 そして、壁に叩きつけられた男の首をつかみ、地面に叩きつけた。


「そんな事を言うのならば、お前達さえ居なければ私達の体はこんな事にはならなかった! あの人もあんな事にはならなかった! 私の友達も大勢死んだ、苦しんでいるのがお前だけだと思うなよ!  私もまだ許せていないんだからな!」


 怒り任せに言い放ったそれは、女王様の本音だろうか?

 それでも国民の為に和平を進めるなんて、俺には出来ない事だ。


「うるさあああああああい! はなせええええええ! 殺してやるううううううう!」


 地面に押し付けられた男は泣き叫び、そして兵士達に連れて行かれた。

 その運命はおそらく死刑だろう。

 他国の王や、自分の国の代表を殺そうとして、タダで済むはずはないからな。

 帝国の議員達も、着替えて来ると言い残し、この部屋から出て行ってしまった。


「あの、女王様……議員まで裸にする事はなかったんじゃないですか?」


 俺は女王様に聞いてみるが。


「いいのよ、あの人達だって責任はあったのだから」


 どうやらワザとやったらしい。

 何だか軽い口調で俺の問い答え、スッキリとした笑顔を見せた。


タナカアツシ(異界から来た男)       ストリー(ガーブルの娘)

イモータル  (王国、女王)        カールソン(帝国の会議での代表)


次回→続き予定

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