5 水の有る町
砂漠の手前の町サンドラ、そこは……
サンドラの町。
その町は見るからに干からびていた。
何人も路上に倒れこみ、息をしていない者まで居る。
王国の魔法は世界に広がり、水の魔法を使える者も増えたはずです。
だけどここの町には誰一人来なかったのでしょう。
わざわざ住みずらい土地には来たくないから。
それとも他に何か……。
「おいお前達、み、水と食べ物を寄越せ。早くしろ! 早くしろ!」
そこに居たのは小さな少年だった。
ガリガリに痩せ細り、胸のアバラが浮き出ている。
明らかに栄養や水分が足りていない。
その少年の手にはナイフを持っていて、背中には赤ん坊を背負っている。
背負っている赤ん坊もぐったりしていた。
何とか息はある様で、口が少し動いている。
私はその子の元へ歩き出す。
「ほ、本当に刺すからな。本当にだぞ! う、うわああああああああああ!」
少年は私にナイフを向けて、突き刺そうと走って来る。
相手が少年だといって、武器を向けたからには手加減してあげません。
私は少年のナイフを素手で掴み奪うと、ポイっと地面に投げ捨てた。
首元を掴み上げ無理やり跪かせると、少年は声も出す事が出来ずにいる。
そのまま私は、赤ん坊に水を飲ませてあげました。
赤ん坊は関係ありませんからね。
「ねぇ、お姉さん達にごめんなさいは無いのー?」
「そうですね、謝らないのならこのまま殺してしまいましょうか?」
「ご、ごめんなさい。ごめんなさい! 助けて、殺さないで……」
素直にあやまる少年から私は手を放した。
その少年は立ち上がって逃げようとしている。
「まだ駄目よ。そこで動かないでねー……大人しくそこに座りなさい」
フレーレさんの表情裏腹の殺気を込めた言葉に、少年は怯えた様に言う事を聞いた。
「じゃあ口を開けてー」
「ひっ……」
「早くしなさい!」
レアスさんの脅しに従い、少年は口を開けた。
私は少年の口に、無理やりパンを押入れた。
「さあ食べなさい」
ふふふ、どうです?
乾いた口にパンはキツイでしょう。
私達を襲った罰です。
存分に味わいなさい!
それでも少年はパンを貪り、あっと言う間に食べ尽くした。
水を差しだすと、少年は水筒の水を全て飲み干してしまった。
「貴方、水と食料を与えられて何か言う事はないのですか?」
「あ、ありがとう! ……ございます」
少年は素直に頭を下げた。
レアスさんが怖かったのかも知れませんが。
「宜しい。今回は許して差し上げます。二度目は有りませんからね」
「はい……」
反省して貰った所で、この子の事情を聴きましょうか。
「何でこんな事になっているのー? ただの水不足なの?」
私が聞く前に、フレーレさんが聞いてくれた。
「違うんだ、水は有るんだ。でも外から変な奴等がやって来て、湖の水場を占拠して、そいつが作った魔法の水を買えと言って来たんだ。でもそれはとても値段が高くて、何時までも買える物じゃなかったんだ。お金が無くなった人達はこの町を去って、そのまま死んじゃったり色々さ。あいつ等さえ居なければ、俺達のお母さんだって助かったんだ!」
私が思っていたのとは違った理由だった。
魔法を使うとなると、王国の民が関わっている可能性が高い。
もしも私利私欲でそんな事をしているなら許す事は出来ませんね。
少年はビーニーと名乗り、その案内で水場へと赴いた。
そこは湖の様になっていて、近くに見張りの小屋があった。
あの小屋の中に居るのが水場を占拠している奴等だと言う。
このまま殲滅するべきでしょうか?
いや、一応話は聞いてみよましょう。
「居るのは分かってるのよー、出て来なさーい! 出て来ないと扉が無くなるわよー」
フレーレさんが小屋のドアを叩いた。
「何だよ煩いな。またあの町の奴か? うげ、フレーレ……」
小屋の中には五人の男達が居たらしい。
フレーレさんの名前を知ってるって事は、やはり元王国の人間なんでしょう。
私も何となく見た事がある気がする。
「貴方達は元王国の人間よねー? 何で悪さしてるのかしらー?」
「チィ、相手がお前達なら俺達は敵わねぇよ。今直ぐ降参するぜ。だがな、俺達が悪事を働いてると思ったら大間違いだ。むしろあの村の奴等を助けてやってるのさ」
ピーニーの話とは違うようで、こちらにも事情があるのでしょう。
「一体どういう事なのですか? ハッキリ言って貰わないと分かりませんわよ」
「この湖を見て見ろよ。澄んで綺麗だろ? だがな、この水は毒だ。飲んだが最後、直ぐに水に水分を吸われてカラカラに干からびちまうのさ」
水が水分を吸う?
訳が分からないことを言っている。
「そうだな、酒を飲んだらそれ以上に水分が無くなるのと一緒さ。ここの水はそれ以上ってだけだ。一回で死ねるほどにな」
「嘘だ! お前達が居なければ母さんは死ななかったんだ! 俺が飲んで証明してやる!」
ピーニーは男の言葉を否定するが。
「そこまで言うのなら止めないが、先にあれを見てから飲んでみるんだな」
男が湖の周囲を指さす。
そこには無数の動物の死骸が横たわっている。
「ほら、小鳥が水を求めて飛んできたぞ」
男の言った通り、飛んできたその小鳥は水を飲んだ。
そして満足して空に飛んで行った。
「見ていろ、あの大きさなら直ぐだ」
何事もなく飛んでいた鳥は、一瞬後には地面に落ちていた。
地面に落ちた時にはカラカラに乾いて、ミイラの様になっている。
彼が言った言葉は嘘では無かったみたいですね。
しかしどんな原因が?
「じゃあ貴方達が高額で水を売ってるっていうのは何?」
「あのなぁ、俺達だって生きなきゃならないんだ。水が売れるなら売るわ。それともタダ働きでもしろって言うのか? 水だって永久に出せるわけじゃないんだぞ」
魔力が切れれば水は出せない。
高く売れる所に売るのは商売の基本かもしれません。
これなら、この人達が悪者だった方が簡単だった。
ただ私の直観が警告している。
この問題は今直ぐ解決しなければならないと。
考えればそうだ。
この水の問題はここだけの話ではないのかもしれない。
もしこれが世界中に広がって飲める水がなくなったら、人間だけじゃなく動物さえも生きていけなくなります。
魔法で水を生み出せると言っても限度があるのです。
でも、如何すれば?
「方法なら有るかもしれない。ただし、その水を飲んで死んでも責任は持てない。俺達は飲む勇気が無かった。失敗すれば死ぬからな。あんた達はどうする?」
男達は私達の目の前でそれを始めた。
方法は水を煮沸して消毒する単純な物と、そして石と砂などで作った、ろ過装置。
二つを組み合わせ、出来た水それを渡された。
これを飲めば答えが分かる。
命のチップと引き換えに。
勝てれば大勢の命を救い、負けたなら自分の命が無くなる。
勝率は低い。
手を伸ばしてはみるものの、私達はそれを飲めなかった。
動物に飲ませるれば……言おうとして止めた。
それをするのに罪悪感があったから。
「こうなったのは何時からなの?」
フレーレさんが男に聞いている。
「さあね、俺達が来る前にはそうなってたぜ。仲間の一人が水を飲んで死んだからな」
やはり原因を取り除くしかないでしょう。
こうなった原因がどこかにあるはずです。
まず私達は、湖の周りを調査することになった。
湖周りを見渡し、その周りを歩くと、無数の動物の死体が散乱している。
他には目ぼしい物も見つからず、やはり原因は湖の中なのでしょう。
「……行って……みる」
「危険ではないのですか?!」
「エルちゃん大丈夫なの?」
「……ん!」
私は頷き、一人で湖に潜ってみる事にした。
たぶん飲み込まなければ大丈夫なはずです。
全身に炎を纏い、水の侵入を阻害した。
そのまま湖にとび込んでも、水の中は虫も魚も見当たらない。
何かないのだろうか?
湖の中を探すと、私は赤い光を目撃した。
何でしょうか?
私はそれを見つけるも、息が続かず湖から上がるしかなかった。
もう一度と息を吸い込み、湖に飛び込んだ。
先ほどの場所を探すと赤く光る宝石の様な物が水中で浮かんでいる。
これが原因?
よく分からなかったけど、私は取り合えず斬ってみる事にした。
水中で炎の剣を取り出し、その宝石を切断した。
「……?!」
それを行った瞬間、私は突然何かに押され、湖から空へと飛ばされてしまう。
湖から現れたのは、巨大で透明なゼリー状の物体でした。
その体が透明だったため、水の中では見つける事が出来なかったのでしょう。
「なる程、これが原因という訳ですか。見つけたからには一瞬で終わらせてあげましょう! 食らいなさい! ブラッディアス・アッシュ!」
レアスさんの魔法が炸裂する。
ゼリーの頭上に黒い物体が現れ、巨大なゼリーを吸い寄せる。
黒い物体にゼリーが触れると、その体液が吸われて行く。
しかし湖に残った触手から、湖の水分を吸い上げ、それに耐えている。
湖の水も半分以上が消費され、もうゼリーが完全に隠れる事は出来なくなっていた。
「クッ、耐えましたか! しかし二発目は如何でしょうね!」
レアスさんが二発目の準備に入るのですが。
「待ってよ! 水がなくなっちゃうよ!」
ビーニー少年がレアスさんを止めようとしている。
それでもレアスさんは止まらない。
「飲めない水など有るだけ無駄! ならば無くなった方が町の人の為です! 本当に生きたければ町を捨てなさい。この私達が連れて行ってあげますわ! さあ決めなさい、町と共に死ぬか。親から貰った命を守り、生残るのか」
「分からないよぉ、町にはお母さんのお墓があるんだもん」
「帰ってこれば良いじゃありませんか。きっとお母さんは怒ったりしませんよ」
「本当に?」
「ええ、わたくしが保証してあげますわ!」
「じ、じゃあ、お姉ちゃん……僕達を助けて!」
「その願い、承りましたわ!」
レアスさんは優雅にスカートを摘まみ上げ、必殺の魔法を発動させる。
暗黒よ常闇よ……この世に生きる万物よ……死と絶望を解き放て……。
「さあ闇に帰りなさい! ディアッボリック・ダーク!」
先ほどよりも強烈な闇がゼリーの周りに幾つも現れた。
その闇同士が引かれ合い、ゼリーの周りに集まって行く。
闇は巨大なゼリーを吸い上げ、その頭が縮んでいるが、再びそれに耐えようと、湖の水を飲み干す。
そして全ての水が無くなり、もうゼリーには耐える手段はないでしょう。
尚も魔法の効果は続き、耐えきれなくなったゼリーが完全に消失した。
この湖が復活するのは何時になるだろう。
少なくとも今年中では無理でしょう。
「お姉ちゃん、大きく成ったら僕お姉ちゃんと結婚する! それまで待っててね!」
ビーニーはレアスさんを気に入り告白しているが、レアスさんは悩まずに答えた。
「嫌ですわよ、貴方は趣味じゃありません。キッパリ諦めてください」
「あああああああああん! お、お姉ちゃんが虐めるうううう!」
ビーニー、はレアスさんに断られ泣いてしまった。
もう少し言い方ってものがありませんか?
「レアスちゃん、こんな時は将来に希望を持たせるべきじゃないかしらー?」
「仕方ありませんわねぇ。ではこうしましょう。将来貴方が良い男で、お金持ちになって、それで私より強く成ったら考えてあげましょう」
それ無理ですよね、レアスさんより強くなるって所で、ほぼ不可能ですよね。
「分かった、僕お金持ちになる。頑張るから待っててね」
「さて、待つかどうかは分かりませんね。気が向いたら思い出しますね」
またビーニーは泣きそうになっている。
もう良いから行きますよ。
小屋の男達と別れて町に戻ると、事情を説明して町の皆を説得しました。
それでも町に残りたちと言う人達も居たのですが、キメラを町に誘導したら私達に付いて来ると言ってくれました。
めでたしですかね?
ベリー・エル(王国、兵士) フルール・フレーレ(王国、兵士)
グラスシャール・ボ・レアス(王国、兵士) ビーニー(赤ん坊を連れた男の子)
次回→続き、100本目だからって特に何もしない






