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2話 吸血少女とぱーふぇくとぷらん

すみません、少し期間が開きました

タグの百合要素ですがまだです(白目


2話 吸血少女とぱーふぇくとぷらん



 私は門番さんに連れられるままに、検問所近くにある小屋の様な建物へと案内されました。

 門番さんがそのまま小屋の扉を開けて中へ入って行くので、私も後に続きます。

 そして小屋の中へ入った瞬間に、その小屋に掛けられた魔法・・の精密さに目を見開きました。


 パッと見は部屋の中央に設置されたテーブルと、占い師が使っているようなイメージの水晶の形をした魔道具二つだけが置かれただけの、本当に簡素な物置のような小屋でしかありません。

 ですが、それはあくまでも見かけだけのまやかしに過ぎず、実体は全くの別物なのです。

 と言いますのも、この部屋にはテーブル上の魔道具の他に、部屋・・自体に・・・逮捕用・・・の魔法・・・が組み・・・込まれ・・・ている・・・のです。


 恐らくですが、この魔法は門番さんに対して攻撃的な行動を取るなどの、犯罪性の高い行動を取ろうとする事が発動のトリガーになっているのでしょう。

 犯罪者かもしれない者の相手をする訳ですから、門番さんを守る為にも当然の対策と言えるでしょうが、抽象的な行動にも関わらず誤動作しないように、且つ強力な魔法を隠蔽した上で自立発動させるとは凄い技術です。


 ……え?何故そんな事が分かるのか?……ですか?

 それは種族スキル【闇夜に映る眼トゥルーアイズ】と、スキル【超感覚スーパーセンス】の効果によるものです。

 またスキルの効果なのか……と思われるでしょうが、この世界ではこういった『スキル』や『魔法』を中心に回っているので仕方がありません。


 ——と、スキルについて話を戻します。

 部屋に魔法が組み込まれている事を看破した方が【闇夜に映る眼トゥルーアイズ】の効果でして、魔法に関係したり由来したりする事柄を視覚情報として捉える事が出来る訳です。

 簡単なイメージで言いますと、火を扱う魔法を発動しようとすれば赤く光って見える。みたいなものですね。

 このスキルもスキルレベルが高いほど効力が大きくなり、より鮮明に、色々な物からも、情報を読み取れるようになります。

 私のスキルレベルは最大の10なので当然——って、このくだりはもう良いですね。


 そして、部屋に組み込まれた魔法の発動トリガーを突き止めた【超感覚スーパーセンス】ですが、こちらのスキルについてはもうお話ししたと思いますし省略しましょう。

 何となく、トリガーはそうなんだろうな……と、感じただけですしね。


 ちなみに、先ほどからお話に出ている『魔道具』とは魔法を込めた道具や、魔力を込める事で効力を発揮する特殊な道具の総称の事です。

 一番メジャーな魔道具と言いますと、スキル【アイテムボックス】の効果を付与させた『リングボックス』と呼ばれる物でしょうかね?

 そして、この部屋に置いてある水晶のような物も、スキルの【看破】が付与された魔道具です。

 言葉通り、犯罪経歴を看破する訳ですね。



 私が予想外にハイテク……ではなく、ハイマジカル(略すとハイマジでしょうか?)な小屋に驚いて目をしばたかせていると、門番さんはちょいちょいと手を招いて私を呼びます。



「じゃあ、早速この魔道具の上に手を置いてみてくれ。それで犯罪歴が有るかどうか分かるから」


「分かりました」



 私は気持ちを切り替えて、門番さんに言われた通りに魔道具の上に手を置きました。


 あ、冷んやりしていて気持ちいいですね。あれです。夏の暑い日に触る、少し冷たい金属のような心地よさです。

 …………すみません。どうでも良い例えでした。


 そうして私が手を置いた事で、魔道具が直ぐに作動したのでしょう。水晶が薄い青色の光を発光しました。

 その反応を見て門番さんは笑顔で頷きます。



「よし、大丈夫なようだな。街への入行を許可する」


「ありがとうございます」


「それと、一般仮身分証の発行をしなければならないんだが……金はあるか?200アリスだ。もし無ければ、後日支払い手続きをする事で支払いを後にする事も出来るぞ?」


「いえ、お金は多少は有るので大丈夫ですよ」



 私はそう言いながらスキル【アイテムボックス】を使用して、お金を取り出しました。

 それを見た門番さんも検問所でお話しした事を思い出したらしく、納得顔で頷きます。



「……そうだったな、餞別に金は貰っていたんだったか……。色々とインパクトが強過ぎて忘れてしまっていた」


「これくらいは良くあるお話だと思うのですがねぇ……」


「ははは……」



 私が呟くようにそう言葉を溢すと、門番さんは苦笑いを浮かべて一般仮身分証を発行してくれました。

 見た目は電車の切符のようですね。

 そこには門番さんの手書きで、最低限の情報が書かれています。



ーーーーーーーーーー

名前:トレーネ

犯罪歴:無し

ーーーーーーーーーー



 ……はい。実にシンプルです。

 まぁ、これはあくまでも仮の身分証ですからね。

 後できちんとした物を発行しなければいけませんし、凝った物にするだけ無駄という事でしょう。



「あー、一応言っておくが無くすなよ?もし、街中で憲兵に身分証の提示を求められた時に、それを出せなかったら色々と面倒な事になるからな」


「流石にそれは大丈夫ですよ。私も小さな子供という訳ではありませんし……」



 私は小さく苦笑いを浮かべつつ、手にした仮身分証を【アイテムボックス】内にいそいそと収納しました。

 ……別に無くしてしまいそうだと、不安に思った訳ではありませんよ?あくまでも念には念を入れて早く仕舞っておいた、という事です。


 そんな私を見て、門番さんも何か納得出来る要素があったらしく頷きます。

 どうやら、私が【アイテムボックス】を使ったのは実演の為だと思われたようです。



「確かに【アイテムボックス】が有れば問題無いか……あぁ、それと、その身分証はあくまでも仮の身分証だからギルドで正規の物を発行するんだぞ。……確か、冒険者になるんだったよな?」


「ええ、そうです」


「なら、冒険者ギルドに行って冒険者登録をしてもらうといい。その時に貰えるギルドカードが身分証になるからな。場所はここから大通りに入って直ぐの所にあって、右手側に無駄にデカい建物が有るんだが、それがそうだ。冒険者ギルドを示す剣と盾のシンボルも有るから一目で分かるだろう。簡単な物だが、これが地図だ」


「わざわざありがとうございます。助かりました」


「なあに、これも仕事だからな。構わんさ。……あぁ、そうだった、まだ言って無かったな——」



 門番さんは意味深に言葉を止めると、小屋の扉を開けて外へと出ました。

 そして私の方へと振り返り、両手を広げながらニカっと人好きのする笑みを浮かべて続きを口にします。



「ようこそ!冒険者の集う街アヴァンテルへ!」



 ……門番さんのこの行動は何なのでしょう?

 恐らく、初めてこの街を訪れる者にやっている『お約束』というヤツなのは分かりますが……必要な事なのですかね?私には分かりません。


 と言いますか、そもそもこれはどう反応するのが正解なのでしょうか?お礼を返す事が正解なのですかね?それとも単に親指を立てて、サムズアップをすると良いのでしょうか?

 分かりません……いっその事、両方やってしまいましょうか。



「えっと……ありがとうございます。それでついでと言いますか、聞きたい事がもう一つあるのですが、よろしいでしょうか?」


「…………そこは手を振って立ち去る空気だっただろう」



 私の『お礼を言った後に首を傾げながら質問をして、最後にサムズアップする』というなんとも妙竹林みょうちくりんな反応を見ると、門番さんは浮かべていた気持ちの良い笑みを苦笑いに変えて、首を横に振りました。

 どうやら私の反応は門番さんの想定していた反応とは違ったようです。


 ……いえ、私は決して空気が読めていなかった訳ではないのですよ。

 敢えて……そうです。敢えて、こういう反応をしただけなのです。

 別にどう反応して良いのか分からずに意味の分からない反応を返してしまった訳ではありませんし、前世の頃から雪ちゃんに『微妙に空気が読めない微妙に残念な子』と言われていた訳でもありません。

 …………ありませんからね?


 そんな私の複雑な心内はいざ知らず、門番さんは苦笑いを収めると、首を傾げて話を広げます。



「まぁ良いか……で、聞きたい事があるんだったな?俺の分かる事なら答えられるぞ」


「……ご親切にありがとうございます。それではお聞きするのですが、この街に奴隷商・・・のお店はありますか?有ればその場所を教えて貰いたいのです」


「奴隷商……?確かにこの街にも有るが……どうしてそんな場所を聞くんだ?」



 門番さんはそう言って不思議そうに首を傾げました。


 ……まぁ、それもそうでしょう。

 冒険者として活動する、と言っていた者が奴隷商のお店の場所を聞くのですから……。冒険はどうしたんだ?と疑問に思われても仕方ありません。

 ですが、私とて理由も無くお店の場所を聞いた訳では無いのです。

 私が奴隷商の場所を聞いた理由……それは、先程の師匠が云々〜の件を含めて、ゼウス様と一緒に『ぱーふぇくとぷらん』なる行動計画を考えたからです。

 


 そもそもの前提としまして、この世界には『奴隷』が存在します。

 奴隷と聞きますと、如何にも過酷な労働環境で人としての尊厳も何もない様な酷い扱いを受けている人たち……というイメージを浮かべてしまいますが、ここメレフナホン王国と呼ばれる国では違うようです。


 と言いますのも、この国の奴隷はあくまでも政策の一環で存在する身分の名称の事でして、決して差別的な意味を持った言葉ではないのです。

 イメージ的には、自分の力だけでは如何しようもなくなった方たちの最後の救済システムという感じでしょうか?


 具体例を挙げますと、借金を返す為の身売りや、軽犯罪を犯してしまった時の強制社会奉仕……などですね。

 国を介さない非道な商売を規制する為に、敢えて国が主導して制度を作っているようです。

 その為、奴隷を購入……厳密には契約購入と言いますが、それをするにも、販売するにも奴隷法と呼ばれる法律が厳格に定められています。


 例えば、奴隷の主人には奴隷の衣食住の責任が生まれ、奴隷が身分の解放……つまり平民へと戻る事を望む場合は、奴隷の契約購入時の1.5倍の金額を主人に支払う事で自身の身分を買い戻す事を認めばければならない、奴隷商を行うには国の許可証が必要、などが代表的ですね。

 ですが、一方で奴隷を取り締まる為の法律もあります。


 まぁ当然と言えば当然ですよね。

 身売り前と身売り後で、身売り後の方が圧倒的に自由な生活が出来てしまっては強制社会奉仕にはなりませんから。

 こちらの代表的な法律は、契約内容に逸脱しない命令であれば奴隷側は命令を遵守しなければならない、でしょうかね。

 度の過ぎた命令を取り締まる事とは相反しており、難しい部分だとは思いますが、奴隷の契約購入時には魔法による契約を交わすので、ある程度は魔法的な処理で対応が出来るそうです。

 ……何と言いますか、想像のし難い便利さですよね。


 ちなみに、重い犯罪……例えば殺人や国家転覆罪などに手を染めてしまった、盗賊と呼ばれる方たちは別です。

 問答無用で奴隷に身分を落とされ、鉱山などの過酷な労働環境下で無期限の強制労働となります。日本で言うところの無期懲役ですね。

 それか、有無を言わさぬ斬首刑です。

 まぁ、王政が主流な世界で国家転覆を目論む……なんて事をしてしまえば当然とも言えますね。



 ——と、奴隷について大まかな説明をした訳ですが、私がそんな奴隷と行動する事のメリットは非常に多いです。


 私の種族はヴァンパイアという種族でして、生きる為に血液を摂取しなければならない衝動……吸血衝動と呼ばれる本能的な部分があるのですが、その問題が解決します。

 何せ、奴隷から少し血を分けてもらえばいいですからね。見ず知らずの通りすがりの方に『少し血液を分けて下さい』と、お願いするよりも確実です。

 ……と言いますか、普通は分けてもらえませんよね。


 そして、私は冒険者として活動する予定ですが、その仲間を確実に手に入れる事が出来るという事も大きなメリットでしょう。

 冒険者として活動するのであれば、仲間がいた方が絶対に良いのですからね。どうしても、一人では出来る事に限界がありますし……。


 それに、パーティーメンバーが奴隷ならば裏切る事や、報酬で揉める事も無く丁度良く、冒険者の間でも奴隷をパーティーメンバーとして加える事は多いそうなのです。私にとっても都合が良いという事ですね。

 何故、冒険者として活動する予定なのか?というお話は——後にしておきましょうか。少しお話が逸れてしまいますから。


 そういう訳で、ゼウス様と考えた『ぱーふぇくとぷらん』とは奴隷を一人か二人程契約購入して、一緒に冒険者活動をしようという行動計画なのです。

 奴隷の購入・・と言いますとイメージが悪いですが、要はお金を払ってお友達を作っている様なものです。実際、私はお友達が増える、ぐらいの感覚ですし。

 そう言い表せばイメージが良く…………いえ、悪くなってますね。


 何ですか、お金を払ってお友達になってもらうって……そのお友達料金が切れたら、もうお友達ではないという事ですか?

 それってただ、財布扱いされているd————いえ、やめておきましょう。これ以上先の事を考えるのは怖すぎます。

 切っ掛けは悪くとも、きちんとした人間関係を構築すれば良いお話なのです。ええそうです。

 …………頑張りましょう。



 私は突然降って湧いて来た嫌な考えを振り切るように頭を振ってから、ゼウス様についてなど余計な部分のお話を除いて、簡潔に門番さんの問い掛けに答えました。

 すると、門番さんは納得が出来た部分があったのか、間の伸びた声を上げながら何度も頷きます。



「ほぉ……お前さん吸血種ヴァンパイアなのか。話には聞いた事があるが、実際に会うのは初だな……。しかしまぁ、吸血種ヴァンパイアなら奴隷に協力してもらう必要があるのも納得か……。その上で冒険者の仲間集めにもなる……一石二鳥ってやつだな」


「まぁ私たちにとっては死活問題ですからねぇ……ご納得頂けましたか?」


「ん……?あー、いや、すまん。興味本位で聞いただけで、別に検問官としての仕事とは関係無いんだ。踏み込んだ事を聞いてしまって申し訳ない」



 そう言って門番さんは律儀に頭を下げました。

 お話の流れから変な疑いを掛けられているのかと思いましたが、そういう訳ではなかったのですね。安心しました。



「いえいえ、そこまでされるような事でもありませんよ。実際、不自然な質問といえばその通りですしね。……それで、お店の場所は教えて頂けますか?」


「ああ、勿論だ。店の名前は『デジラ奴隷商、アヴァンテル店』と言って、冒険者ギルドと同じ大通りにあるんだが、冒険者ギルドよりも奥側にある。だから冒険者ギルドを通り過ぎてそのまま真っ直ぐに進むと店が見えてくるだろう。周りの建物とは少し違う見た目をしているし、デカい看板に店の名前がデカデカと書かれているから、気が付かずに通り過ぎてしまう事もない筈だ」


「ありがとうございます。それでは早速行ってみようと思います」


「おう、そうすると良い。だが……金は有るんだよな?さっき多少の金は有ると言っていたが、奴隷を扱える商会はどこも大商会だから契約購入には結構な額が必要になるぞ?」


「それは大丈夫ですよ。師匠から餞別を頂いてますからね。……それと、多少のお金という言い方は師匠が言っていたのをそのまま口にしただけですよ。正直なお話、私と師匠では金銭感覚にかなりの差があるようです」


「いや、お前さんの師匠は何もんだよ……。奴隷を契約購入出来る程の金を多少の額の餞別って……一体、どんな大富豪だ?」


「さぁ……?秘密の多い方でしたし、私にも良く分かりません。……あぁ、ですが、師匠は変わり者だという事は言い切っても良いでしょうね」



 何せ、初対面の初めましてな状態から、いきなり『ダッツ!』をしてくる神様おじいちゃんですからね。

 その上、服装まで完璧に着こなしているとくれば尚更でしょう。


 そんな私のぞんざいな物言いがツボに入ったのか、門番さんは一瞬目を丸くさせて驚いたかと思うと、大声を上げて笑いだしました。



「はっはっは!話を聞いただけだが、確かにそんな感じはするな!はっはっはっはっっは!——はぁあいやぁ、笑わせてもらったな。いや、会った事も無い相手の事を笑うのは笑うのは悪いか?師匠さんに会ったら笑い過ぎて悪かったと伝えておいてくれ」


「良いですよ、覚えていたら伝えておきますね。……もうお話ししなければならない事はありませんか?」


「ああ、もう行っても大丈夫だ」


「では失礼します。ありがとうございました」


「おう!頑張れよー!」



 門番さんに手を振られて見送られる中、私は教えて頂いた大通りの方へと歩みを進めます。


 しかし、随分と物腰の柔らかく、親切な門番さんでしたね。これも、このズバ抜けて整った容姿の効果——な筈はありませんね。

 この街へ入る前からずっとフードを目深に被っているので顔は見えないでしょうし、それはあり得ませんね……何が理由でしょう?

 ……確か師匠が云々〜といった、ゼウス様と一緒に考えた特別検問所を利用する為の理由をお話ししている時に、同情の視線を向けられていましたから……やはりそれが理由なのでしょうか?

 要は嘘で同情を買ったと………………?



「…………門番さんが特別・・心優しい方だった、そういう事にしておきましょう。何か、罪悪感と言いますか、やるせない気持ちになりましたし……」



 私は小さく声に出す事で、変な流れになった考えを打ち切りました。

 そうして暫くの間、頂いた地図を見ながら道なりを歩いていると、大通りへと出ました。

 すると、そこには今までに見た事のない光景が広がっており、その喧騒さの相まって私の心をときめかします。



「……っ、これは素敵ですねぇ。流石は異世界と言うべきか……それに、街並みも綺麗ですねぇ」



 パッと見た街並みは何処となく京都に似ているのでしょうかね?大通りと呼ばれるこの大きな通り道が真っ直ぐに伸びているにも関わらず、端が全く見えません。

 俯瞰ふかんで見た訳ではありませんが、途中の曲がり道を少し覗いて見た感じ、恐らく碁盤の目のように十字に道が伸びていそうですね。

 それでいて道幅は日本では考えられない程に広く、所狭しと色々なお店や家?が並んでいるのです。壮観と言わずにはいられないでしょう。

 ですがそれ以上に、この広々とした大通りを賑やかせている人たちが、私を異世界に来たのだと実感させてくれます。


 ヒューマンと呼ばれる普通の人間は当然としまして——


 例えば、猫や犬などの多様な種類の動物の耳と尻尾を持つ獣人。

 例えば、身長が140cm程と小さいですが筋骨隆々として髭がもっさりしているドワーフ。

 例えば、すらっとした風貌で整った容姿と尖った耳を持っているエルフ。

 例えば、背中から純白の翼を生やした天使にしか見えない有翼種フリューゲル

 例えば、角や鱗、尻尾などドラゴンを連想させる部位が格好良い竜人種。


 ——と、地球では考えられ無いような亜人種デミヒューマンの方々が道を行き来し、店先で商談をしているのです。

 種族という垣根を越えて生き生きと談笑している姿にあてられてしまうのも、当然と言って良いでしょう。



「時間による街の移り変わりをここで眺めているのも面白そうですね。——あ、いえ、この格好でそんな事をしていると不審者にしか見えませんか。…………先に行きますか」



 そうして私は若干の名残惜しさを飲み込んで、新しい期待感と共に大通りを歩きます。

 すると、門番さんが言っていた通り、大通りに入って直ぐの所に他の建物とは一回りも二回りも大きな建物が建っていました。


 シンボルマークである剣と盾の紋章もありますし、ここが冒険者ギルドでしょう。

 ……本当に無駄に大きな建物ですね。

 流石は『冒険者の集う街』と言うべきなのでしょうか?



「人の出入りも多いですね……やはり建物の大きさ相応という事ですか。……まぁ、また後で来ましょう。二度手間は嫌ですし」



 私は冒険者ギルドを横目に通り過ぎて、大通りの更に奥へと足を運んで行きます。


 ここで、行動計画の『ぱーふぇくとぷらん』にも採用されている、冒険者についても少しお話ししておきましょう。



 一言に『冒険者』と言いますと、この世界では荒事や身辺調査、希少品の採集、犬猫などのペット捜索に至るまで、法に触れ無い限りは何でも熟す便利屋さんの様なお仕事、又はそのお仕事をしている人の事を指します。

 その冒険者の方たちは個人個人が勝手に名乗ってお仕事をしている訳ではなく、『冒険者ギルド』と呼ばれる職業補助組合できちんと職業登録をして活動されています。

 登録自体は犯罪者でもない限り、誰でも・・・登録が出来る事が大きな職業特徴の一つでして、登録をした時に貰えるギルドカードと呼ばれる物がその証明となっています。

 先ほど門番さんとのお話に出てきた身分証の事ですね。


 そして、ギルドにて冒険者登録をする事で、ギルドに託された依頼を受注する事が出来るようになり、その依頼を完了させる事で報酬という名のお給料が貰えるのです。

 依頼によっては前金などもありますが、基本的には成功報酬である事が大半ですね。


 しかし、その分……と言いますか命に関わるお仕事でもありますから、報酬は依頼保証の為にギルドからマージンを抜かれているとはいえ、高額である事が多いです。

 その為、先ほどの誰でも登録が出来る事も相まって、一攫千金を目指して冒険者を目指す方が男女問わずに一定数いるそうなのです。


 まぁ確かに、一気に億万長者もあり得ると言われますと、夢のあるお仕事だと言えなくもないでしょうか?実際、冒険者の言葉通りに浪漫を追って世界各地を冒険して周る方も居るそうですしね。

 パッと聞いた限りでは日雇いのアルバイトのようなお仕事ですが、この世界ではかなり力の入った人気のお仕事だという訳です。

 それでいて冒険者という人気な職業が飽和状態にならないのは、魔物と呼ばれる外敵が闊歩する世界だからなのでしょう。

 ゼウス様が態々、物騒な世界だと仰るのも頷けますよね。


 ちなみに、職業補助組合として冒険者ギルドを挙げましたが、他にも『魔導ギルド』や『商業ギルド』の二つがあります。

 これら二つは名前通りの組織でして、魔導ギルドは日夜研究に励んで新しい魔法技術の開発や、魔道具の作成、開発に注力されている魔法使いの方たちをサポートする組合です。

 何でも研究者気質な方が多い所為か、魔導ギルドの職員の方はかなり大変だとか……。

 マッドサイエンティストならぬ、マッドマジカリストですね。


 そしてもう一つの商業ギルドは、日本で例えるところのお役所と銀行を足したような組織です。

 例えば、各商会が納めるべき税金を管理したり、個人商店の出店許可を出したり、職業斡旋をしたり、個人資産の預かりをしたり、資金の貸し付けを行ったりなど、本当に様々な役割を果たしており、三つあるギルドの中で最も多くの業務を預かっていると言っても過言では無いでしょう。


 その為か、商業ギルドには冒険者ギルド、魔導ギルドとは大きく違う点があります。

 それはこの二つのギルドが国に属さない完全な独立機関であるのに対して、商業ギルドは各国に籍を置いた所属機関且つ、世界各国間の外貨為替相場を管理する独立機関でもあるという事です。

 まぁ、税金を集めたり、土地の使用許可証など、独立した組織では出来ないような事が沢山ある反面、外国為替という第三者視点で公平に判断しなければならない業務もあるのです。

 当然と言えば、当然でしょうね。



 ——とまぁ、そんな荒事のスペシャリストが就くお仕事に、私も就職しようというのが『ぱーふぇくとぷらん』なのです。


 それでは、そんな荒事の極地のようなお仕事に態々就職するという事は、実はそういう事が得意なのか?と、お思いの方も居るでしょう。

 ……全くそんな事はありません。寧ろ、前世の間に喧嘩すらした記憶が無く、のんびりと平和な毎日を送ってきた記憶しかありませんよ。


 では何故?と疑問が浮かんできますが、それにはきちんとした理由があります。

 それは私のステータス……スキルや魔法、身体能力や魔力量などの能力の高さを誤魔化すためです。


 と言いますのも、実は私のステータスはバグでも入り込んだのか?と疑ってしまう程に高騰しきってしまっていて、ゼウス様曰く『国が有する組織に所属してしまうと、骨の髄まで利用されてポイじゃろうな』との事でして……。

 他にも、魔道ギルドに登録すればその魔力値の高さからモルモットにされるだろう……ですとか、商業ギルドに登録すれば低賃金で馬車馬の如く扱き使われるだろう……など、空恐ろしい事ばかり言われたのですよ。


 ……正直、かなりおっかない世界ですよね。

 まぁ、魔王軍と戦争をしているので当然と言えば、そうなのですが……ファンタジーな世界も現実になってしまうと、夢も何もあったものではありません。


 ともあれ、そんな私でも冒険者ギルドという独立機関に所属しておけば、国からの強制招集などを突っぱねる事ができ、自由に過ごす事が出来るようになる訳です。

 それにSランクという最高クラスの冒険者になれば、周りから干渉される事も無くなるという事なので、そこを目指すと良いとも言われました。

 なれるかどうかは置いていても目指す目標にするのは良いと思います。

 自由気ままに生活が出来るというのは、とても魅力的ですしね。


 ……まぁ長々とお話ししましたが、これがゼウス様と『ぱーふぇくとぷらん』なる行動計画を立てた理由です。

 ただ……そうせざるを得なかったとしても、荒事がメインのお仕事にはやはり不安が残るのですよね。

 要練習なのは確実としまして、奴隷の方にどこまでフォローしてもらうべきか……。



 そうして、色々な事を考えながら大通りを歩いていると、一際変わった建物が視界に入ってきました。

 その建物は周りの建物が木造建築なのに対し、一つだけ石造りになっているのです。


 ただ、石と言いましてもその辺に転がっているような石ではなく、大理石のようなツヤツヤとした綺麗な石なので、かなり清潔感があります。

 それによくよく目を凝らして見ますと、建物に石を繋げた継ぎ目のようなものが見られません。これも魔法を使って建築をしているからなのでしょうかね?



「ここが奴隷商ですか……確かに分かり易い見た目をしていますね」



 お店の入り口上に大きな文字で書かれた『デジラ奴隷商、アヴァンテル店』の看板を見て、私は一人でに頷きました。

 そうしてお店の正面に立ちますと、入り口横にも小さな立て看板が立て掛けられている事に気が付きます。


 そこには『家事手伝いに、冒険者見習いに、恋人の代わりに、一人居ると嬉しい奴隷は如何ですか?新たなライフスタイルをお届け!』という、何とも胡散臭いキャッチコピーが猫?か何かの動物らしきイラストと一緒に書かれていました。


 何でしょう、この使い古されていそうなキャッチコピーは…………。

 ゼウス様が吸血種ヴァンパイアの体質について簡単な説明をして下さった時にお話に出てきた【日中散歩デイウォーク】のキャッチコピー?と比べても、そう大差が無いほど酷いですね。


 ちなみに、スキル【日中散歩デイウォーク】とは、吸血種ヴァンパイアなら誰しもが必ず・・持っている種族スキルでして、効力は単純に日光に対する耐性です。


 創作物に登場するようなヴァンパイアらしく、日光に当たると灰に……とまでは言いませんが、極端に体調が悪くなってしまいますからね。吸血種ヴァンパイアには必須のスキルでしょう。

 症状を例えるなら……そうですね、インフルエンザとノロウイルス、貧血を同時に引き起こしてしまったかのような体調になるそうです。


 ……普通に生死を彷徨いそうなほど危険ですね。

 逆に、私がこうして普通にお日様の下を歩いていられるのは、スキルレベルが10に至って日光に対する完全耐性を会得しているからという事です。



 あぁそれとこれはどうでもいい?事ですが、ゼウス様が仰っていた【日中散歩デイウォーク】のキャッチコピーは……


『コレが有ればヘッチャラさ!吸血種ヴァンパイアの体調を護る、日中散歩デイウォーク(`・ω・´)』


 でした。

 ……本当にどうでもいいお話になってしまいましたね。



 私は目深に被っていたフードを取って、一度深呼吸をしてからお店の中へと入って行きます。


 フードを被ったままでは完全に不審者でしたからね。強盗か何かと間違われないようにしておかなければ駄目でしょう。

 しかし……外観と同じく、お店の中もとても綺麗ですね。

 ここはただの受付口なのか、小さなカウンター?のようなものが有るだけで簡素としていますが、床や壁が半鏡面のように磨き上げられていますよ。


 そうして私がお店の中を物珍しげに眺めていると、燕尾服と呼ばれる執事が着ているような服を着こなした一人の男性がカウンターの奥から出て来ます。

 奥から出て来ている訳ですし、彼はこのお店の店員さんなのでしょう。


 そしてそのまま、店員さんは柔和な笑みを浮かべながら、声を掛けてきました。



「当館へのご来館、誠にありがとうございます。失礼ですが、本日のアポイントメントはございますか?」


「…………」



 しかし、私は失礼だと理解は出来ていても、咄嗟に言葉が出てきませんでした。

 何故なら——


 その男性は頭を綺麗に丸め、右目を辺りを縦に斬り付けられた様な跡の縫い傷を残した、強面なお兄さんだったのです。

 ついでに眉も無く、勝手なイメージですが、マフィアか何かのボスを連想とさせます。


 私は全く予想していなかった事態に、一瞬だけ頭がフリーズしてしまいました。


おまけ:この世界の貨幣


鉄貨:10アリス

大鉄貨:100アリス

銅貨:1000アリス

大銅貨:1万アリス

銀貨:10万アリス

大銀貨:100万アリス

金貨:1000万アリス

白金貨:1億アリス

大白金貨:10億アリス

黒金貨:100億アリス


10アリス=1円くらいのイメージです

…とんだ円高ですね



変更点1※異世界の国の名前

今更ですが適当すぎんか?と思ったので……

ユーラシア王国→メレフナホン王国


変更点2※異世界の街の名前

同じく適当すぎんか?案件です……

エイジア→アヴァンテル

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