17話 吸血少女と苦酸っぱい初討伐
今月2回目の投稿です
今年中にもう1話くらいは投稿したい…
頑張ります
17話 吸血少女と苦酸っぱい初討伐
エマちゃんと朝食を摂って軽い食休みまで済ませた私たちは、冒険者ギルドにて幾つかの依頼を受注して、私が昨日転生した森の中へ探検に出ました。
その際に、エンリさんのお説教から逃げるエマちゃんにほっこりしたり、依頼を受けようと冒険者ギルドに入りますと再び変な注目を集めて居心地は最悪だったり、街を出る途中に昨日この街へ入る際に対応して下さった門番さんに軽く挨拶をしたり……と色々ありましたが、まぁお話が大きく逸れてしまいますので置いておきましょう。
さて、私たちが受注した依頼ですが、それは『常設依頼』と呼ばれている依頼でして、駆け出し冒険者用に設けられた特定の依頼主が存在しない比較的簡単な依頼の事を指します。
もう少し具体的に説明しますと、通常の依頼——これからは『通常依頼』と言います——は一般の方々や商人、貴族などの依頼主が何かしらの問題を解決して貰おうとギルドに依頼をしていますが、この『常設依頼』は各冒険者ギルドが設営されている各々の街町や村に合わせて必要且つ安全度の比較的高めなものが依頼として常時公開、更新されているのです。
ギルドによって『常設依頼』の内容が異なる訳ですね。
その為、受注という表現をしますが、基本的にはホワイトボードのような掲示板に張り出されている依頼をギルドカードに登録するだけで、依頼の失敗が無い事が大きな特徴です。
そして、ここアヴァンテルの冒険者ギルドで受注出来る常設依頼は——
依頼:ゴブリンの討伐
難度:E
内容:アヴァンテル周辺にある森(ノウムの森外縁部周辺)に生息するゴブリンを5体討伐せよ
報酬:3000アリス
備考:重複達成有り
依頼:レッサーヴァルトウルフの討伐
難度:E
内容:アヴァンテル周辺にある森(ノウムの森外縁部周辺)に生息するレッサーヴァルトウルフを3体討伐せよ
報酬:3000アリス
備考:重複達成有り
依頼:コボルトの討伐
難度:E
内容:アヴァンテル周辺にある森(ノウムの森外縁部周辺)に生息するコボルトを3体討伐せよ
報酬:3000アリス
備考:重複達成有り
依頼:生命草の採取
難度:E
内容:アヴァンテル周辺の森(ノウムの森外縁部周辺)に群生する生命草(薬草)を3束納品せよ
報酬:1000アリス
備考:生命草は50本で1束、重複達成有り
——以上の4つです。
流石に冒険者の街と呼ばれるだけあって、街の外に出る討伐の依頼が主要になっています。片道一時間はかかるとはいえ街の近くに魔物が生息する森があるので、必然的に魔物が溢れたりしないように管理をしている訳ですね。
それと、いきなり戦闘が必要な依頼を新人冒険者たちに受注させても良いのか?と思われる方も多いと思いますが、シエラさん曰く、冒険者登録時に本当にど新人だと判断された場合は、まず最初に冒険者ギルド所属の教官たちに戦闘訓練を受けてからでないと依頼が受注出来ないとの事でした。
私たちは元冒険者のシエラさんが居ますし、訓練の必要は無いと判断されたようです。
ちなみに、討伐した魔物をどのようにして確認しているのかと言いますと、討伐した魔物の種類と数が冒険者ギルドのギルドカードに勝手に登録されていくので、特に何か特別な事をする必要は無かったりします。
当然、討伐した魔物を冒険者ギルドの買取カウンターへ持っていけば魔物の状態などを加味しながら素材の買取も行って貰えますが、常設依頼で討伐するような魔物は殆ど買取そのものが拒否されていますので、今回は本当にやる事が何もありません。
まぁ、ゴブリンの素材なんて使える部分が全く無い上に無駄に数が多いのですから、それも仕方がありませんよね。買い取るだけ赤字ですし……。
強いて言えば、レッサーヴァルトウルフの毛皮はごく安い金額ですが買取をして貰えますが、自分たちで毛皮の剥ぎ取りをしなければ収支がマイナスになってしまう程度のものなので、余程お金に困っている新人冒険者でなければそれもしない事が多いとか……。
私たちは……最早言葉にするまでもありませんね。そもそも、毛皮の剥ぎ取り方を私は知りませんので。
他にも、ギルドカードには所謂キャッシュカードのような機能も付いており、ギルドにお金を預けておいて色々な支部で引き出す事も可能だったりします。身分証としての利用だけではなく、非常に便利な物ですよね。
どのような原理でそれらが可能になっているのかについては……まぁ、そのお話だけで一時間は掛かってしまうでしょうし、様々な魔法付与がされているからに留めておきましょう。
そもそも、それが分かったからといって解剖の真似事をすると、取り返しがつかなくなってしまいますし……。
私たちは道中で談笑しながら歩いて、何事も無くノウムの森の入り口までやってきました。
そして、森の中へ入ろうというところで一度立ち止まり、森の中での動きなどを確認します。
軽く辺りを見回してみますと、他にも数パーティーが同じように森へ入る準備をしているようですし、風物詩のようなもののようですね。
「それじゃ確認だけど、森の中では当然索敵が重要になるからみんな警戒は怠らないようにね。特にレッサーヴァルトウルフは動きが素早いから要注意!足元だって悪いしさ」
「分かりましたっ!索敵は得意なので大丈夫です」
「そうですね……では私も【索敵】スキルで常に警戒しておきましょう。それと、近づいてくる事が分かったら直ぐに報告、そのまま討伐でよろしいですか?」
「討伐するかは状況次第で判断だね。まぁ、よっぽどの事がないと撤退にはならないから、基本的には討伐の方向だね。ぶっちゃけ、常設依頼でこの戦力ってちょ〜過剰だし」
「了解ですっ」
「分かりました」
「それと陣形は——どうしよっか?多少この辺の地理を知ってる私が先頭で、二人が後ろに回る感じの三角形で良いかな?」
「良いと思いますよ。私もオトハさんも魔法の方が得意ですし、シエラさんをフォローする方向性でいきましょうか」
「私もそれが良いと思います」
「それと、折角全員が前衛も後衛も出来るバランス型なんだし、慣れてきたら立ち位置とか役割を変えてやってみよっか。色々出来きて困る事なんて無いんだからさ……っていうか、リーダーはトレーネちゃんなんだから、トレーネちゃんが仕切ってよー」
「…………はい?えぇっと、あの、私がリーダー……ですか?シエラさんではなく?」
私が首を傾げて尋ねますと、シエラさんも、オトハさんまでも、呆れたように盛大に息を吐いて首を横に振りました。
……いえ、私も少しは投げやりな格好になってしまって良く無いとは思いましたよ?思いましたが、そこまで呆れなくても良いじゃないですか。
正直、オトハさんにまでそのような反応をされるとは思いませんでしたよ……。
「いやいや、私たちのリーダーは色んな意味で、あらゆる意味で、一切合切まとめて、トレーネちゃんしかあり得ないからね?」
「私もそう思います……」
「うっ……その、すみません。次からは出来るだけ私からお話しします」
「ふ〜〜ん?……まっ、私も助言的な事はいっぱい話すし、トレーネちゃんばっかり気張る必要もあんまり無いんだけど、コレだけはハッキリさせないと駄目だから一応ね!」
「私もっ、お手伝いなら出来ますっ!」
「シエラさん、オトハさん……分かりました、頑張ります」
「よしっ!それじゃあ頑張ろー!」
「おー!」
「お〜!!」
「えっ?お、おー」
シエラさんの謎な掛け声に合わせて、私たちは右拳を空に突き上げて気合?を入れます。
一名ほど気恥ずかしさからか、戸惑いからか、若干空気に乗り切れていない気がしますが、きっと気のせいでしょう。
中途半端に肘が曲がって自信が無さそうに右拳を突き上げているヴァンパイアなんてきっといないのです。ええ、きっといないのです。
——とまぁそんな冗談はさておき、私たちはシエラさんを先頭にノウムの森の探索を開始しました。
私が転生してから街へ向かう時もそうでしたが、実はこのノウムの森には結構な数の魔物が生息しています。この森の規模がかなり大きいという事もありますが、それ以上に魔物が発生しやすい理由があるからですね。
その理由は、魔物の発生の仕方と、森という閉塞的な空間である為に『魔素』の濃度が高くなり易い事が関係しています。
一つずつ、まずは『魔素』についてから説明しましょう。
『魔素』とは読んで字の如く、魔法の素、魔力の素でありまして、大気中に散布されているエネルギー源の一種の事です。
私たち、このアイリッシュに生きる生物たちは一部の例外を除いて、この大気中の『魔素』を体内に取り込んで変換する事で、消費した自身の魔力を回復させている訳ですね。
そして、この『魔素』には場所によって濃淡が存在し、基本的には空気の通りが良い場所ほど薄く、通りが悪いほど濃くなっていきます。
つまり、このノウムの森も例に漏れず『魔素』の濃度が高くなり易い場所であるという事が一つ言えるのです。
更に二つ目、肝心の魔物の発生条件についてです。
魔物は『魔素』の濃度が一定以上に高まった際に突如として生まれ、繁殖行為によって数が増える事はありません。動物と魔物の違いはこの一言に尽きますね。
そして、その濃度の高さと範囲の大きさによって生まれる魔物の強さが変化し、地域毎によって生まれる魔物の種類が変わる場合があるのです。
何でしょう……ご当地魔物とでも言いましょうかね?ノウムの森ですと、レッサーヴァルトウルフがそれに該当します。
それと、ついでに今回の依頼で討伐予定の魔物についてもお話ししておきましょうか。
まずはゴブリンから。
ゴブリンは数多く存在する魔物の中でも最弱でありながら、最も生態数の多い魔物だと言われています。その為、どの街町や村でも新人冒険者の戦闘経験を積ませるべく、常設依頼としてゴブリンの討伐が存在する事が非常に多かったりします。
外見は120cm程の小さな子供程度の大きさをしており、濁った緑色の肌に、非常に醜い顔をしている事が特徴でしょうか?シエラさん曰く、異世界創作物では鉄板の姿そのものだそうです。
また、人型をしていますが知能は非常に低いです。
一応、数体の群れを作って行動したり、武器を作成したり所持したりとしますが、烏合の衆だったり、木の枝に石を蔓などで巻いただけの玩具のような物だったりと、何かとお粗末な魔物なのです。
とは言いましても、私たち冒険者も命懸けのお仕事をしているので油断も容赦もしませんけどね。
次はコボルトについてですね。
実は、コボルトもゴブリンとそう大差はありません。強さも下から二番目を熾烈に争うほどには弱く、大きさも120〜130cmほど、力も知恵も無いので、ゴブリンと同じく新人冒険者の戦闘訓練用の依頼が常設されているほどです。
逆にゴブリンと違う点を挙げますと、コボルトの外見は茶色い人面犬のような小人でして、人によっては微妙に愛嬌も感じる事も有るとか無いとか……100人の内99人が醜いと表現するゴブリンとは雲泥の差ですね。
また、コボルトは何処にでも発生する魔物の中では比較的閉塞空間に発生し易い特徴がありまして、森や洞窟などが近くにある街町や村でよく討伐依頼が出されています。ここアヴァンテルもそうですしね。
そして最後、ご当地魔物のレッサーヴァルトウルフですね。
今更ながらご当地魔物という言葉の響きが酷い気もしますがそれはさておき、この魔物を言葉で表しますと、小さい狼の一言で片付いてしまいます。……はい、他に特筆して語る事の無い魔物なのですよ。
詳しく解説をするのならば、大きさは体高が30cmほど、体重が5kgほどの小型犬サイズでして、毛の色はグレー多く、黒との斑模様になっている事もあります。まぁ、普通の狼ですよね。
一応、狼らしく動きは素早く、鋭い牙で急所に噛み付かれたものならば普通に死んでしまう危険はありますが、防具を貫通して致命傷を負わせられるほどの大きさは無い為、余程酷い格好で討伐をしようとしなければ危険も少なくなります。
結局のところ、ゴブリンやコボルトと比較しますと強い部類の魔物ですが、新人冒険者に向けて出されている常設依頼のレベルに収まっているので脅威そのものは低い……になる訳です。
……ね?小さな狼以外にお話しする事もありませんよね?
ちなみにこれは余談ですが、アヴァンテル唯一の採取系常設依頼になっている生命草も、魔物と同じく『魔素』から生まれる植物だったりします。
その上、新人冒険者たちが根こそぎ採取してしまっても、翌日にはキッチリ生え揃っている繁殖率の高さまで兼ね備えたスーパー植物だったりもするのです。
……若干ホラーに感じますよね。
では、そんな生命草を採取した後に何に使われるのか?と言いますと、ポーションと呼ばれる魔法薬の作成に使用されます。
ゲームなどに詳しい方は既に思い至っているかと思いますが、ポーションとは怪我などを即座に治癒してくれる薬液の事でして、打ち身に使って良し、切り傷に使って良しと、大概の外傷に振り掛けるだけで効果を発揮する、地球では考えられないような万能薬なのです。
また、ポーションには効力によって階級分けされていまして下から、下級、中級、上級、特級、聖神級の5段階に分けられています。
それぞれの効力のざっくりとした目安は——
下級……小さな切り傷や打撲、不全骨折(骨のひび割れ)などの治療が可能
中級……大きい傷や広範囲の打撲、閉鎖骨折(普通の骨折)などの治療が可能
上級……流血が多く深い傷や開放骨折(骨が露出して流血もする骨折)、内臓の損傷などの治療が可能
特級……致命傷になり得る深い傷や粉砕骨折(骨が粉々に砕ける骨折)、大抵の怪我の治療が可能
聖神級……死んでなければ大丈夫
——このような感じですかね。聖神級の説明が酷く雑に見えますが、全て事実なので仕方が無いでしょう。…………恐らく。
そして、当然と言えば当然なのですが、このポーションは冒険者たちの間では必須品の一つに数えられていまして、たとえ回復魔法を使う事が出来るメンバーがパーティー内に居たとしても、各自で用意しておくほど重用されています。
まぁ、即座に怪我を治す事が出来る訳ですしね。
その為、冒険者の集う街とまで言われるここアヴァンテルでのポーション使用量は凄まじく、特に下級と中級の素材になる生命草は幾らあっても困らないとか……。
常設依頼として張り出されているのも納得ですね。
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少女たち探索中
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そうして陣形を組んで警戒しながらノウムの森を探索していると、程なくして【索敵】スキルに幾つかの反応がありました。
どれも規模は小さく動きも鈍いので恐らくゴブリンでしょう。
私はお二人にそっと声を掛けて判断を迫ります。
「お二人とも敵です」
「っ!」
「お、きたね。どの辺か分かる?」
「ここから右前方約300mに反応3つ推定ゴブリン、その奥右前方約600mに反応4つ推定ゴブリン、真左約350mに反応2つ推定ゴブリン、前方やや左約500m反応3つ推定ゴブリン……以上です。どの部隊も動きは緩慢な上、他の反応はありませんので、他冒険者と戦闘中という事は無さそうです。また、感知範囲にレッサーヴァルトウルフもありませんので、増援、遊撃の可能性はごく低いでしょうね。左から回って討伐していくと良いと思いますが……お二人はどう思われますか?」
「わーお、範囲も精度もえっっっぐい。こんなの相手からしたら堪んないねー?」
「まぁ、スキルレベルが最大ですからね」
「いやーそれ以上に頭の中の情報処理能力が異常に高いだけな気がするけど……ん〜〜ま、今はいっか。目の前の事に集中しよ」
何故か呆れ顔で溜め息を吐くシエラさんでしたがそれも一瞬の事、一息吐くとパッと表情を変えて思案顔に先程の私の情報を頭の中で反芻させ始めました。
「ん、そうだね。基本的にトレーネちゃんの意見通りで問題無いと思うよ。強いて補足するなら、挟撃されるのが最悪のパターンだからイメージ的には前にだけ敵を作っていく感じでいこっか。だから左の部隊の更に左側に回り込んでいこう」
「私もっ、それが良いと思います」
「それじゃあ、オトハちゃんは私と一緒に目視で警戒、トレーネちゃんはスキルで警戒して新しく何か感知したら直ぐに報告って事で!」
「了解ですっ!」
「分かりました」
簡単に打ち合わせをした私たちは、左へと進路を変えて大きく膨らむように進行を再開しました。
ここまでの道のりもそうでしたが、森と呼称する割には人の出入りが多いからか、私たちが探索している範囲が浅瀬だからか、地面そのものは意外にも踏み固められており、枯れ葉こそ邪魔に感じるものの想像ほど歩き難いという事はありませんでした。
強いて難点を挙げるのであれば、枯れ葉で足を滑らせないように気を付ける事と、当然足元からガサガサと音がするので奇襲を仕掛ける事は難しい事でしょうか?
まぁ、奇襲を仕掛けられないのは魔物も同じなので、私たちだけが一方的に不利な状況という事はありませんけどね。
そうして、私たちが隊列を組んだまま進行していますと、10分と掛からずに目標のゴブリンを視界に収めました。
距離にして約6、70mでしょうかね?ゴブリンたちが私たちに気が付いた様子はなく、フラフラと進行方向を変えながら宛ても無さそうに歩いています。
「お、見つけた。数は2体……うん、索敵の通りだねー。周りに他の魔物がいたりする?」
「いえ、現時点で半径300m以内に魔物らしき反応はありません。やはり、増援の可能性はごく低いと考えて良いでしょうね」
「おっけー、じゃあ速攻で距離詰めて倒そっか。ゴブリン程度からそこまで作戦練ったりとかは要らないだろうけど、初戦闘だし連携の雰囲気体験会みたいな感じでいい?」
「そうですね、連携の練習も兼ねて討伐していきましょう。先々で必ず必要になるでしょうから、簡単な事から始めた方が良いですね」
「はいっ」
「じゃあ……ざっくり距離を詰めて、その後にトレーネちゃんが魔法で牽制して、私とオトハちゃんが前衛まで詰める感じで良いかな?あとは流れで!」
「大丈夫ですっ」
「魔法は声に出すので、牽制で体勢が崩れたところを一気に詰めて下さい。3、2、1……行きます!」
私の合図を皮切りに、私たちは一斉にゴブリンたちに向かって駆け出しました。
「…………?——ギャギャッ!?」
「…………グギャッ!」
足場が落ち葉だらけな事もあってガサガサと大きな足音が鳴ってしまい、ゴブリンたちには直ぐに気が付かれてしまいました。
しかし、それでも残り40mほどまで距離を詰める事は出来まして、ここまで来てしまえば既にお二人の間合い内。魔力で身体強化をしてしまえば一息に接近出来る距離です。
私はゴブリンたちが振り向いた瞬間に魔法を発動させます。
「……っ!【ウィンドカッター】!」
「——ふッ!」
「——はぁっ!」
私が赤い色をした風の刃を二つ放つと、シエラさんとオトハさんはその刃を追従するようにゴブリンたちとの距離を一息に距離を詰めきりました。
ゴブリンたちの反応は見るからに鈍く、このまま魔法が直撃する事は確実でしょうし、お二人もその事は察しているようです。追撃の為の位置取りも完璧の一言に尽きます。
そして、風の刃がゴブリンたちに直撃して——
「ギャッ——ッ!」
「グギャァッ——!!」
『あっ……』
「あ…………」
呆気なく、その体を真っ二つに断ち切ってしまいました。
…………いえまぁ、最弱の魔物相手ですからね。
幾ら【風系魔法】の中で最初級にあたる【ウィンドカッター】と言えども、魔法に関するステータスが天元突破している私が使用したのですから、こうなる事を想像しておくべきでした。
意識的に弱く魔法を使おうとしていればお話は変わっていたかもしれませんがそういう訳ではありませんでしたし……まぁ過ぎたお話になってしまいましたね。
私は一つ小さな溜め息を溢しました。
とは言え、討伐そのものは問題無く達成出来ていますし、反省というほどの事でもない為、気持ちを切り替えて小走りにお二人の元まで近寄ります。
そして、そこまで声を張らなくともお二人と会話が出来るであろう距離まで近付いたその時でした。
「お二人共すみません、魔法が強過ぎる可能性を忘れてい————んッッッッッッ!?」
「トレーネちゃん!?」
「トレーネ様っ!?」
私は突然喉元まで込み上げてきた不快感と嫌悪感に襲われて鳥肌が立ち、思わずその場に蹲りました。
お二人が心配をして駆け寄って声を掛けてくれますが全く耳に入りません。
私は口元を押さえて必死に耐える事しか出来ず、しかしながら残酷な事に不快感は悪化する一方……。
じっとりとした気持ちの悪い汗が滲み、更には眩暈がする程までどんどん悪化していき……私の奮闘は虚しく、数秒も保たずに決壊してしまいます。
「……っ!?————う、ぅぇッッッッッッッ!!」
『あ………………』
ポツリと溢れたお二人の反応が全てを物語っているでしょう。私たちの間に非常に気不味い雰囲気が漂います。
具体的に何が起こってしまったのかは……私もうら若き10代の女の子なものですから、少女の意地的にも、女子力の沽券的にも、乙女の尊厳的にも、言葉にして認める事は非常に難しいですね。
ですが、強いて……強いて、何かを、シエラさん風に曖昧に言葉にするのであれば……
虹色の滝を口からナイアガラ
……でしょうかね。
何故でしょう、涙まで滲んできました。
ヒロインとしての格の違いを見せつけていくぅ!
評価pt、ブクマ、そもそもの閲覧、本当にありがとうございます
私のモチベーションの源です
もしまだブクマしてないよ、評価pt入れてないよ、という方がいらっしゃれば下からお願いします
私が小躍りして喜びます
亀より遅い更新ですが、気長にお付き合いいただけると嬉しいです




