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プロローグ2 普通の女子高生とヴァンパイアの少女

 プロローグ2 普通の女子高生とヴァンパイアの少女



「人違い……ですか?」



 私は全く予想していなかった返答に疑問符を浮かべます。


 先程の説明の流れですと『実はお主がその選ばれた勇者なのじゃ』と言われると思っていたのですが違うのですね。

 しかしそうしますと、私は誰と間違えられたのでしょうかね?

 もしも、勇者さんと間違えられたのであれば色々と大問題なのでは……?要は私が勇者さんの代わりに戦争に参加しなければいけない訳ですよね?

 ……あぁいえ、それは私が勇者として召喚されるとしても同じですか。

 どちらにしても大問題ですね。



「あの……私は何方どなたと間違えられたのでしょうか?まさか勇者さんと間違えられたのですか……?幾ら、世界の格の違いで相対的に強くなるとはいえ……元が私ですよ?今まで喧嘩もした事が無い私が代わりに召喚されたとしても役には立たないと思うのですが……」


「あぁ、それは大丈夫じゃろ。勇者として召喚される者は他におるからの」


「そうでしたか……それは良かったで——え?ちょ、ちょっと待って下さい。では私は何方と間違えられたのでしょうか?勇者さんは他にいるんですよね?」


「うむ。お主は『勇者召喚に巻き込まれる不運な少年B』と間違えられたのじゃよ。言ってしまえば脇役じゃな。まぁ脇役じゃし、居っても居らなんでも変わらんじゃろう」


「脇役……」



 私は思わず苦笑いを溢してしまいました。


 戦争へ強制参加しなくても良さそうな事は良いのですが……余りにも直接的に言い過ぎではありませんかね?

 居ても居なくても変わりないって……。

 流石にその本来巻き込まれる筈だった少年Bさんに同情しますよ……。


 私は一度咳払いをして、気持ちを切り替えてからゼウス様に向き直ります。



「まぁ、そうですね……私がここに居る理由は分かりました。そうすると、私はこれからどうすれば良いでしょうか?私は私で、勇者さんとは違う何かをしなければいけないのですか……?」


「いや、切り替えが早過ぎるじゃろ……。まぁ待つんじゃ、話はまだ終わっておらん。寧ろ、ここからが本題なんじゃ」


「ここからが本題……ですか。失礼しました、続きをお願いします」


「う、うむ……それはそうなんじゃが……」


「……?」



 ゼウス様はどうにも歯切れが悪く、中々続きを口にしてくれません。

 そうして、ゼウス様は口を開いたり閉じたりを繰り返して数秒……意を決したように咳払いをしてから続きを口にしました。


 と言いますか、ゼウス様が続きが有ると仰った筈なんですが……そこまで話し難い事なのでしょうか……?

 ……なんだか聞くのが少し怖くなってきました。



「ご、ごほん!順を追って説明していくが良いかの?」


「……お願いします」


「うむ、まずは世界から世界への移動……転移や転生についてからじゃな。先にも言うたが、世界というものは其々が同時に存在しており、異なるものじゃ。故に、移動の際にはそれら世界を隔てる『あまの隔壁』を超えねばならんのじゃよ」


「天の隔壁……」


「世界同士の過干渉を防ぐ為のものじゃな。そして格の高い世界……まぁ、上位世界とでも呼ぶかの。その上位世界から下位世界への移動は問題無く超えられるんじゃが、その逆は出来んのじゃ」


「……それは先程お話にあった、上位世界の召喚された人間は現地人よりも潜在能力で勝る。という事が関係しているのですか?」


「細かい事は天界規約に抵触するので言えんがその通りじゃな。……くだるはやすのぼるはかたい、とでも言おうかの」


「……?ですが、今回はそれは関係ない……と言いますか、問題ありませんよね?アイリッシュよりも地球の方が世界の格が高い訳ですし……」



 そうです。先程までのお話の通りであれば何も問題は無いのです……が、ゼウス様の顔色は良くありません。

 ゼウス様は眉間を揉み解すように指を当てて、深く息を吐きながら頷きます。



「そうじゃ。上位世界から下位世界へ渡る分には問題が無い……筈じゃったんじゃがの……その例外をお主が作ってしもうた」


「例外……?私がですか……?」


「うむ。……実はじゃな、お主は天の隔壁を超えておる最中に……死んでしもうたんじゃ」


「……はい?」



 私は何度目か分からない疑問を頭に浮かべて首を傾げました。

 そんな少し混乱している私に、ゼウス様は腰をピタッと90度に曲げて頭を下げて謝ります。



「本当に申し訳ない!人違いの召喚を防ぐどころか、死なせてしまうなど!弁明の余地も無いわい!」


「……」



 ……少し整理してみましょう。

 まず、私は勇者召喚に巻き込まれるはずだった少年Bの代わりに巻き込まれてしまった。

 ……いえ、正確には手違いで私にすり替わってしまった、ですか。

 そして私はその召喚中の負荷に耐えきる事が出来ず、途中で死んでしまったと。


 要は、ゼウス様は私が真っ当に天に召される事が出来なかったので、ここまで申し訳無さそうに謝罪されているのですか……。



「…………ふふふっ」


「……!?」



 私は思わず笑ってしまいました。


 どんなに苦むのかと思えば、これが私の最後ですか。

 勇者召喚に人違いで巻き込まれて死んでしまうなんて……それも勇者さんではなく、巻き込まれる筈だった少年Bさんの代わりに巻き込まれたのですよ?

 ……いえ、正確には巻き込まれてすらいませんか。私は召喚される前に死んでしまった訳ですし。


 言ってしまえば、物語が始まる前に退場してしまい、脇役にもなれない哀れなピエロですよ?

 そんなシュールすぎる人生の最後なんて、笑う以外にどう反応すればいいのでしょうか?

 ダメです。ツボに入ってしまいました。



 ゼウス様は急に笑い出した私の事を、気がおかしくなったとでも思ったのでしょう。

 変な人を見る目と、心配そうな目と、残念な人を見る目を足して割ったような目でこちらを見てきます。


 ……そのような目で私を見る前に、是非とも鏡を見て頂きたいものですね。

 真っ黄色な格好をしたファンシーなおじいちゃんが映っている筈ですから、少しは自分を見つめ直す事が出来るというものでしょう。


 ……こうして言葉にしますと、随分と酷いものですね。



「いえ、すみません。自分の最後がこんなにもあっけなくシュールだと思うと可笑しくて……」


「自分の死を聞かされて、笑って済ませれるお主は相当だと思うがの」



 笑いを堪えながらそう答えた私に、ゼウス様は呆れたように引き攣った笑みを浮かべました。


 まぁ、私は持病でいつ死ぬか分からない身でしたので元々気持ちの整理は着いていましたからね。

 この空間で目が覚めた時も、ここは死後の世界か何かだと思いましたし……。


 それに、こんな私をここまで育ててくれて愛してくれた両親や、唯一できた親友の雪ちゃんには申し訳ないですが、自分では満足できるほど生きたと思っています。

 お医者様に『余命一年』を宣告されてから四年・・も生きられたのです。一種の奇跡でしょう。


 ……いえ、もしかすると私は今この時のために、今まで生かされていたのかもしれませんね。

 もしそうだとすれば、お蔭様で掛け替えの無い親友に巡り合うことが出来ましたし、感謝こそしても恨み言を言うつもりはありません。



「私は満足した、と言える程には生きたつもりですからね」


「……達観しとるのぉ」


「まぁ、時間だけは沢山ありましたからね。気持ちの整理だって出来ますよ」



 と……ここまで話をして、私はお話が逸れてしまっている事に気が付きました。

 私は一度小さく咳払いをしてから、脱線したお話を戻します。



「こほん……私が死んでしまった、というお話は分かりました。すると、私はこれからどうなるのでしょうか……?先ほどのお話の流れからして、アイリッシュに行くのですか?……あ、いえ、寧ろ死んでしまったので行けないというお話ですかね?」


「いや、お主はアイリッシュに行くしか無いのじゃ……。すまんが、ニホンでは既に死んでしまった扱いになっておるからの……ニホンには戻せん」



 まぁ、そうでしょうね。

 理由がどうであれ、死んでしまったのであれば戻れないという事は容易に予測出来ます。

 日本に戻るということは死者が蘇るという事ですからね。騒ぎの規模を考えて普通に無理でしょう。

 若しくは、時間を巻き戻せるのであればお話は変わってきますが、持病は持ったままでしょうし、そう遠くない内にまた死んでしまいそうです。

 ……さすがに2度目の死は嫌ですね。


 と、ここで私はふと疑問が頭を過り、思わず口から溢します。



「あの……ゼウス様、日本にいた私の体はどうなっているのでしょうか?」


「ニホンにある体とな……?」


「はい。アイリッシュに行くという事は先ほどのお話にあった勇者召喚に巻き込まれた、という結果になるのですよね?すると、移動は身体ごとアイリッシュに移動するのでしょうが、私は既に死んでしまっています。召喚がどういったものなのか知りませんが、それは死体であっても呼び寄せるものなのですか?もしそうであれば病院から死体が消えても問題でしょうし、向こうも死体が送られても困るだけなのではありませんかね?あ、いえ、そもそも私がこの場にいる事自体が問題になってしまうのでは……?」



 矢継ぎ早に告げられた質問に、ゼウス様は慌てる事もなく納得が出来たとばかりに頷いて答えてくれました。



「……そういう事か。すまんの、言葉が足らんかった。今もお主の身体はニホンにあるままじゃから変な心配は必要無い……と言うよりは、この場には肉体は存在出来んのでな。精神体のみこの場に居ると言うたらええかの……?」


「そう言われますと……確かここは天界の様な・・場所でしたね。なるほど、特別な場所だから肉体は存在出来ないという事でしょうか」


「……まぁ、そういう事じゃな。それと、お主がアイリッシュに渡る事と勇者召喚の儀式は完全に別件扱いじゃ。お主が召喚途中に死んだ事で儀式との因果は切れておるのでな。故にお主の召喚先はわしがどうにかする事になるし、お主が向こうで勇者の真似事をせねばならん事も無い。説明が遅れたが……要は何も問題は無い、という事じゃ」



 私はゼウス様の説明を聞いてホッと息を吐きました。


 流石に自分の遺体だけ向こうに送られるのは嫌ですからね。

 みんなに死に顔くらい見せてあげたいですし、何より向こうの倫理観が分からない事も怖いです。

 いくら死んだ後で私の意識が無いとはいえ、自分の体を変な風に扱われるのは見たく無いですし、想像したくも無いので……。


 それと、向こうで勇者さんたちと一緒に魔王を倒せ。なんて事も無いというのは嬉しいですね。

 自分本位な考えだとは思いますが、流石に死んでまで戦争に強制参加しなければならない。というのは嫌でしたからね。



「分かりました。私はアイリッシュに転移……いえ、死んでいるので転生が正しいのでしょうか……?そうするとして、体はどうなるのですか?自分の肉体が使えないとなると、別の肉体に私の意識を移す事になるのでしょうか?それとも、意識も何もかもリセットして赤ちゃんからスタートですか?」


「なんでそんなに冷静でいられるんじゃ…………」



 ゼウス様は呆れ気味にため息を吐きますが、私は別段冷静という訳ではありません。


 一度死んでしまった事は私ではどうする事も出来ない上に、覚悟も出来ていた事だったので受け入れる事が出来ましたが、今ある意識まで無くなってしまう事は違います。

 上手く言えませんが……そうですね、もう一度死ねと言われているような気分なのです。だからこうして聞いているというのに……。

 ゼウス様は奥さんが多いと神話では有名ですが、女心が分からないのですかね?


 私は急かす様に質問を重ねます。



「別に冷静では無いですよ。それで……どちらなのでしょうか?」


「うむ、まぁどちらでも対応可能じゃ。ただし、精神を移し変える場合は少し制限がつくがの」



 良かったです……どうやら2度目の死は免れられそうですね。


 しかし、安心したのも束の間でした。

 私はゼウス様の言葉を反芻し、制限・・という言葉が混ざっている事に気が付いたのです。

 私は慌ててその事について尋ねます。



「すみません、制限とはなんでしょうか?」


「うむ、幾つかあるの。まず肉体の限界値じゃが、これはお主の魂の強さによって決まる。……細かく説明すると非常に面倒じゃから省略するぞ?」


「……その部分が重要なところでは無いのですか?」


「いや、説明せんでも問題は無かろうて。世界の格の違いによる恩恵が無くなり、身体能力などが現地人と同じ様な扱いになるんじゃ。……要はお主の世界にある娯楽小説の『おれつえー』とやらが出来ん可能性が高い訳じゃから、普通に暮らせという事じゃな」


「今一、要領を得ませんが……分かりました。お話を続けて下さい」


「うむ。そしてこれが肝心なんじゃが……向こうに転生する際に同じ種族には転生出来んのじゃよ。つまり、チキュウで言う人間……アイリッシュで言うところのヒューマン・・・・・には転生が出来んという事じゃ」


「——え?」



 私はゼウス様のあまりの告白に自分の耳を疑いました。


 私の聞き間違いでは無いですかね?ゼウス様は今、人間・・には転生出来ないと言いましたか……?

 ……これが所謂上げて落とす、というものですか。

 ゼウス様はとんでもない爆弾を落としますね。

 人間・・に転生出来ないということはつまりあれですか?ハエや畜生になれと?人間の意識を持ったまま?

 ……拷問ですか?



「それは……私に雌豚になって鳴けという事ですか?」


「いやいやいや!?まだ説明の途中じゃて!話は終わっておらん!……と言うか言い方に悪意がこもっておらんか!?」


「……?人間・・以外ならそういう事ではありませんか?」


「それが違うんじゃよ。さっきも言うたがヒューマン・・・・・には転生出来んのじゃ。良いか?人間・・に転生出来んのでは無く、あくまでもヒューマン・・・・・には転生出来んという事じゃぞ?」


「あの……申し訳ありません。『人間』も『humanヒューマン』も意味は同じではありませんか……?」



 そんな私の疑問に、ゼウス様は大きな溜め息を吐いてから答えてくれました。


「説明を聞かんからじゃろうて……」


「あ……すみません、気がはやりました」


「まぁ気持ちは分からんでもないが……今度こそ説明するぞ?」


「はい、お願いします」


「うむ。まず、アイリッシュにはチキュウには無い種族・・という概念が有るんじゃ」


「種族ですか……」


「ピンとこんかの?」


「そうですね……何となくニュアンスは伝わってきます」


「うーむ、なるほどの」



 ゼウス様は一度唸るように声を上げると、二、三度頷きます。



「では実例を挙げるかの。犬や猫などの動物の一部を持つ持つ者たちを獣人、耳が長く魔法の扱いに長けておる自然を愛する者たちをエルフ、ずんぐりとした体型ではあるが手先が器用で鍛治師が多いドワーフ、お主らの思い描く天使のような見た目の有翼種フリューゲル——など、パッと見は人間にしか見えん存在であるが、各人何かしらの外見的、身体的な特徴を持っておる者たちを区別する為に存在しておるんじゃ。そしてそれら種族を総じて『人間』と呼んでおるんじゃよ」


「……という事は種族を地球で例えるなら、人種のようなものでしょうか?」


「そうじゃな、それが一番近いかの……?」


「なるほど、理解出来ました」



 つまり、先ほどゼウス様が仰りたかった事は『地球で例えるなら人間に転生出来ない』ではなくて『地球で例えるなら日本人には転生出来ない』という事なのでしょう。


 あぁ……ホッとしました、本当に焦りましたよ。私はてっきり畜生になるしかないのかと思ってしまいましたね……。

 動物が嫌いという訳では全く無いのですが、自分が人間としての意識を持ったまま動物として生活するのはお話が別だと思います。


 私がホッと息を吐いている事で、ゼウス様も伝えたかった事が正しく伝わったと判断したのでしょう。少し苦笑いを浮かべながら続きを口にします。



「何やら一人で納得しておるようじゃが……まぁ良かろう。わしが言いたい事は、じゃ。お主はヒューマンには転生出来ぬが、先ほど言った別種族……デミヒューマン・・・・・・・ならば転生出来ると言いたいんじゃよ」


「はい、分かりました。お騒がせしてすみません」



 私がそう言って頭を下げると、ゼウス様は面倒臭そうに手を振ってお話の続きを促しました。



「それで、どうするんじゃ……?まぁ答えは決まっておるじゃろうが……」


「ははは……まぁそうですね」


「あ、そうじゃ。一応言うておかねばならんが、ごく一部の国ではデミヒューマンに対する差別や迫害があったりするんじゃ」


「そうなのですか……?」


「ヒューマンとデミヒューマンを比べると、単体ではデミヒューマンの方が何かしらに優れた点を持っておるが、全体の数はヒューマンの方が圧倒的に多いのでな。そういう事もあるんじゃろうて。あぁ、お主を送り出す予定の国……メレフナホン王国ではそんな事は無いので安心せい」



 差別や迫害ですか……まぁ人間ですからね、それくらいはあるでしょう。

 アイリッシュや地球に限らず、大多数を占める側の者は特異な存在を受け入れ難いのだろうと想像もた易いですし……。

 その相手が自分たちよりも優れているのであれば尚更ですね。



「分かりました。それでは意識を持ったままの転生でお願いします」


「あい分かった。種族はどうするんじゃ?わしのオススメは……そうじゃのう……吸血種ヴァンパイアがええかのぉ。魔法適性が高く色んな魔法が使えて、長寿で——」


「ではそれでお願いします」


「——はっ!?いやいやいや!適当過ぎるじゃろう!」


「いえいえ、適当ではありませんよ?人間として普通に暮らせるのであれば、特に希望は無いというだけです。敢えて言わせて頂きますと、適当なのです。又は適切でしょうか?」


「それを世間一般では適当じゃと言うんじゃがなっ!?」



 ゼウス様の悲痛?な叫び声が辺りに響きました。


 ……少々言葉遊びが過ぎましたかね?

 ですが今のは私の本心でもありますし、弁明?のしようがありません。……どうしましょうか?


 そうして私が曖昧に笑っていると、ゼウス様は諦めたように大きく息を吐きながら眉間を揉み解します。



「はぁ……お主がそう言うならそうするかのぉ…………」


「面倒をかけてすみません」


「いや良いんじゃよ。よくよく考えれば、お主は種族に関して深い知識がある訳では無いんじゃから選びようが無いしの……で、じゃ。肉体は吸血種ヴァンパイアにするとして、スキル・・・はどうするんじゃ?」


「スキル、ですか?……それは特技のようなものでしょうか……?」


「特技……まぁ概ねそのようなものじゃ。お主はゲームをしたことはあるか?」


「少しならありますよ」


「それなら話が早い。スキルはゲームで言うところの……言うところの………スキルじゃ!」


「あの、例えられてない気が……」



 私が呆れの視線を向けると、ゼウス様は少しバツが悪そうに視線を逸らしながら口を尖らせました。

 所謂いわゆるアヒル口です。


 しかし、真黄色なスーツに身を包んだおじいちゃんのアヒル口ですか……。

 何でしょう、この非常に残念な感じは……。



「まぁなんじゃ、アレじゃよ、アレ。例えば『剣術』というスキルを持っておったら、剣の扱いが上手くなるとかそう言う事じゃ」


「何と雑な説明……いえ、仰りたい事は分かりますけどね?何と言いますか、変な引っ掛かりが……」


「こういうのは何となくでも伝われば良いんじゃよ。それでどうするんじゃ?自分でえら——べんの……あい分かった。わしが何とかしよう」


「すみません、お願いします」



 正直、スキルの一覧を渡されてここから選ぶのじゃ!なんて言われても選べる気がしませんからね……。

 字面で大まかな意味はわかりそうですが、時間が掛かりそうです。


 しかし、これから私はアイリッシュに転生する事になりましたが……私は向こうで何をしたら良いのでしょうか?

 幸いな事に魔王さんとの戦争には参加しなくても良い……と言いますか、普通に暮らすしか出来ないそうですからね……。日本にいた時には出来なかった事に挑戦でもしてみましょうか?

 例えば……何でしょう……お友達作り、とかですかね……?


 ………………い、いえ、私には雪ちゃんという親友がいましたからね。お友達がいなかった訳ではありませんし、他の事に挑戦しましょう。


 私が転生後にどうするかを考えていると、ゼウス様はこめかみを指でグリグリとしながらスキルの取得をされています。



「ではこれらのスキルをとって……スキルレベルを上げて………」


「……」



 ……すみません、丸投げしてしまって…………。

 ですが私が自分でやってしまっても、結局は相談に乗ってしまいより面倒な事になると思うんですよね……。

 確実に、一つ二つの質問では終わりませんし……。


 そうして私がゼウス様の様子を眺めていると、ゼウス様は急に神妙な顔つきでこちらを見てきました。

 どうしたのでしょうか?



「……お主、チキュウで一体どんな偉業を成したのじゃ……?この魂は普通ではないぞ?」


「……はい?偉業なんて大それた事は何もしていませんよ?と言いますか、入院生活が長い事を除けば普通・・の女子高生ですよ……?」


「いやいやいや!そんな訳が無かろう!これだけ気高く、力強く、聡明で、慈愛に溢れた魂なんぞ見た事が無いぞ!?」


「そんなに真正面から褒められてしまいますと、何だか照れますね……。しかし、私は本当に普通・・に女子高生として生活していただけなのですが……」



 私は照れ隠しに苦笑いを浮かべて首を傾げますが、ゼウス様は納得出来ずにいるのでしょう。

 ジトーっと訝しげな視線を私に向けながら、詰問してきました。



「ほぉ……?それなら、試しにお主が入院中にしておった事を言うてみぃ」


「はぁ、そうですか……?本当に何もしていないんですけどね……。入院中にしていた事と言えば……暇つぶし、でしょうか?」


「暇つぶしとな?」


「はい、暇つぶしです。例えば……そうですね……」



 私は顎に手を当てて、最近の内にしていた事を思い返していきます。



「暇すぎてネットに思考実験を纏めた論文をアップしたり、暇すぎて自作のAI、AIあいちゃんを公表したり、暇すぎてどこでもトビラの設計図を作ってみたり……とかですね」



 自分で言っておいて何ですが、本当に普通ですね……。

 しかし、ゼウス様は私の言葉を鵜呑みにしたくないのか、訝しげな視線を下げる事はありません。



「…………それらをした結果はどうなったんじゃ?」


「結果ですか……?確か……論文は実験成果は何も無い筈ですがノーベル物理学賞?を受賞したそうです。AIあいちゃんは何やらAIの人権?を確立する事になったそうですね。それと、どこでもトビラは何処かのメーカーさん?か研究機関?が試験開発に成功したと聞きました。……あれ?開発に着手したというお話でしたかね?」



 確かにゼウス様の仰るような結果だけを聞くと、私が偉業を成したように聞こえますよね。

 ですが、それは違うのです。


 普通に考えてみて下さい。

 論文は実験成果も何も無い中で価値を見出した方が凄い訳ですし、AIの人権に関してはAIあいちゃんが頑張った結果です。

 どこでもトビラに関して言えば、私は開発に携わっていないのですから関係の持ちようがありません。

 ……ね?私は全く関係ありませんよね?



「ぅわ………………」



 と、私が懇切丁寧にお話をしていると、ゼウス様は失礼な事に小さく変な呻き声を上げて白目を剥いていました。

 しかもそれだけではなく、鼻水まで垂らすという高等技術まで同時にやってのけているのです。


 本当に器用な神様と言いますか、面白い神様ですね。

 興味が尽きる事がなさそ——あ、鼻水が口に入りました。汚いですね。


 ゼウス様は慌てたようにペッペッと口元を拭っていました。



変更点※異世界の国の名前の変更

今更ながら適当過ぎんか?と疑問に思ったので……

ユーラシア王国→メレフナホン王国

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