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14話 吸血少女と狐少女の過去

皆さん大変お久しぶりです

そして、明けましておめでとうございます!

(投稿時2023.5.23)


???と混乱されているかと思いますが、何と2023年初投稿です^^;

 14話 吸血少女と狐少女の過去



「………………えーでは、シエラさんの特殊性癖は一旦忘れまして——」


「ちょちょちょっ!?冗談だってば、冗談!!——って言うか、また急に梯子外すの!?こんなに酷い天丼ってあるぅっ!?!?」


「あっ、良かった……冗談なんですか……」


「こんなに酷い冗談も中々ありませんよ……脊髄反射で会話されてるのですか?反応出来ませんって……」


「脊髄反射式会話術って……え、私そんなに頭空っぽに見えてる?」


「はい」


「即答なんだ…………て言うか、オトハちゃんには冗談に聞こえなかったんだ……ヤバい奴に思われてたんだ……」


「す、すみません……」


「いや、どう考えても私が悪いし……うん、色々溜まってた鬱憤を吐き出せて、ちょっとテンションが上がり過ぎてました。もう少し落ち着きます」


「是非、そうして下さい」



 そうして、微妙な空気から一連のお話にオチという名の一段落が着いたところで、私たちはそれぞれ一呼吸、二呼吸と大きく息を吐きました。

 そんな風にお互いが苦笑いを浮かべたところで、私は気を取り直してもう一度口を開きます。



「えぇっと…………一応お聞きしますが、シエラさんからのお話はもうありませんよね?」


「ないないない、流石にもう無いよ。私だって話す事は話してからボケてるし……ていうか、さっきも終わりだって言ったじゃん?」


「その後の冗談が余りにも——あぁ、いえ、掘り返していてはお話がまた戻ってしまいますね。……こほん、えーそれでは後はオトハさんのお話ですが…………」


「あ、は、はい……」



 私とシエラさんの視線が集まり、緊張が高まったのでしょう。

 オトハさんはゴクリッ!と生唾を飲み込んで頷きました。


 まぁ、そうなりますよね。

 要はオトハさんが奴隷として売られてしまった経緯を話せ、と言っている訳ですし……よくよく考えなくともかなり酷な事を言っていますね。

 ……先程の聞き方は軽率でしたかね?

 と言いますか、あんなにも軽くお話ししてしまうシエラさんが如何に特殊な方なのかという事ですよ……。


 私は微妙な空気になる前にと、焦って口を開いてしまいます。



「あ、あぁっと、その、すみません……不躾な物言いでした。今更かもしれませんが、オトハさんがお話しされたくなければ、深く追求したりはしませんよ?」


「え……?あっ、い、いえっ、別に話したくないとか、そういう事じゃないんです」


「……本当ですか?無理されていたりはしませんよね?」


「ほ、本当ですっ!トレーネ様とシエラさんには知ってて欲しいんです!た、ただ、その……トレーネ様やシエラさんみたいに凄い話は何も無いので、ちょっと話しにくいと言いますか……聞いててもつまらないですし……」


「………………」

「………………」



 私もシエラさんも揃って言葉を失いました。


 私はシエラさんほど突拍子のないお話をした覚えは——いえ、異世界から転生したというだけで、十二分に頭のネジが飛んでいそうなお話ですね。

 色々とあり得ない事が起こり過ぎて、感覚が麻痺してしまっている気がします。

 と言いますか、シエラさんも一緒に黙っているという事は、ご自身にもその自覚があったわけですか……。

 失礼かもしれませんが少し安心しました。


 そんな風に私とシエラさんが黙ってしまえば、当然オトハさんは不審に思われますよね。

 オトハさんは私たちの間で交互に視線を彷徨わせます。



「え、えっと……???あの、トレーネ様?シエラさん?どうされたんですか?」


「いえ、すみません。自分の経緯に少々呆れてしまいまして……何でもありません。オトハさんがよろしいのであれば、続けて下さいください」


「う、うん……そうだね、何でもないかな。色々と冷静になり過ぎちゃったよ……」


「……???わ、分かりました」



 オトハさんは不思議そうに首を傾げた後、背筋を伸ばすようにして少しだけ佇まいを直しました。



「えっと……その、私は落ちこぼれだったんです。私の生まれはヒサギの里っていう、犬人族、猫人族、鳥人族、狼人族、熊人族、兎人族、狐人族の七部族が集まった、獣人たちの都市ではこの国で一番大きな里なんです。それで、私は……いえ、私たち・・はその狐人族の族長の娘でした。こう言うのもなんですけど、里での暮らしはそれなりに裕福なものだったと思います。でも、あの日を境に全部変わっちゃいました……」


「…………」

「…………」



 まるで絵本の読み聞かせのように語るオトハさん。

 その瞳はどこか寂しげで、当時の記憶がよみがえっているのだろうという事は想像に難くありません。



「私たちの部族では創造神様とは別に精霊様を信仰する教えがあって、10歳になると精霊様と契約を交わす儀式があるんです。当然、私と……私の・・双子・・の妹・・の『ナミネ』も儀式をしました」

「その時に、ナミネは6属性の基本属性全部の精霊様と契約が出来たんです。それも高位精霊のっ!今まで誰だってそんな事出来なかったのに、ナミネは出来て、凄くて、私も喜びました。そして、私の番になって…………」

「…………私はどの精霊様とも契約出来なかったんです。儀式を司っていた司祭様もこんな事は初めてだって驚いていました」

「ハハハ……皮肉ですよね。双子の姉妹揃って初めての出来事だっていうのに、こんなにも違うんですから」


「オトハさん……」

「オトハちゃん……」


「あっ、いや、もう昔の事ですし、とっくに気持ちの整理もついてるし、気にしてる事なんて全く無いんです。だから、トレーネ様とシエラさんが心配してくれるのは嬉しいんですけど大丈夫です」


「そう……ですか」

「ん……そっか」


「ナミネはこんなに情けない私でも慕ってくれる良い子で……儀式の日を境に色んな人たちが私を疎んだり、露骨に差別したりするようになりましたけど、ナミネは私の味方になってくれて……本当に、本当に自慢の妹なんです。…………まぁ、双子だからあんまり妹って感じはしないんですけどね」



 そう言葉にして笑みを浮かべるオトハさんからは先程までの寂しさは感じられず、本心からナミネさんの事を快く思っているのだと伝わってきます。



「それに、落ちこぼれだった私が儀式の日から一年も里で暮らせたのは叔父さんのおかげでもあって……二人がいたおかげで今の私がいるんです」


「そうですか……良かった、と言わせて下さい」



 ……えぇ、本当に良かったです。

 オトハさんの境遇を考えますと、もし少しでも、ナミネさんが、叔父さんが、この二人がオトハさんの支えにならなかったとしたら……果たして、私はオトハさんと出会う事が出来たのだろうか?と思ってしまいます。

 先ほどお友達になったばかりどころか、今日お会いしたばかりの関係ではありますが、オトハさんとシエラさんには既に友情と呼んでも良い感情がありますし、こうしてお話を伺えば感傷も抱きますからね。


 オトハさんも一通り話し終わったらしくホッと一息吐いていましたが、私やシエラさんの雰囲気から場の空気を察したようで苦笑いを浮かべました。



「ははは……すみません、しんみりしちゃいました。でも、その……やっぱり、トレーネ様とシエラさんには出来れば知ってて欲しかったんです」


「そう言って貰えて……お話しして貰えて、私は嬉しいですよ。オトハさん」


「そうそう!それに奴隷になっちゃった話なんて、普通は面白い事なんてあり得ないんだし、気にするような事じゃ無いって!」


「そうですね、シエラさんの言う通りだと思いますよ。……まぁ、シエラさんがそれを口にするのか?という疑問は生じますが」


「いやいや、それは言わないお約束ってやつじゃ〜ん」


「ふふっ」

「あはは……」



 心外だ!とばかりにおどけるシエラさんのおかげもあって、しんみりとした雰囲気から少し明るく、私たちの間に笑みが溢れました。

 そしてその一瞬を見逃さずに、シエラさんがお話の進行を変わるようにしてパンパンと2回手を叩きます。



「はいはい、もうしんみりするのはやめようね〜。お姉さん、テンションの上げ下げで風邪ひいちゃうから」


「…………言いたい事は分からなくもありませんね」


「わ、私も、明るい方が良いですっ」


「だよねー?って事で、オトハちゃんに聞きたい事とかってある?私は無い!」


「何でも答えますっ」


「そう言われましても——あぁ、一つありますね」


「な、何でしょうかっ!?」



 数瞬、考えを巡らせてから譫言うわごとのようにそう呟いた私に、いち早くオトハさんが反応を示しました。心なしか、クリクリとした臙脂色えんじいろの眼を輝かせて、何か期待しているように見えます。

 …………まぁ、シエラさんにはお聞きして、オトハさんへは何も聞かないとなれば、変に角が立ちそうですよね。


 私はオトハさんの勢いに若干押されつつも口を開きます。



「えぇっと……オトハさんのお話に直接の関係があるかは微妙なのですが……あの、失礼ですが先ほどのお話では、オトハさんは精霊と契約が出来なかったから奴隷になってしまったのですよね?」


「はい……ハッキリと『お前のような役立たずはいらん!目の前から失せろ!』と父親だった人から絶縁されました」


「……すみません。嫌な事をまた思い出させてしまいました」


「あ、いえ大丈夫ですっ!あ、明るくいきましょうっっ!」



 オトハさんはそう言って両手の拳を握り、鼻息荒くお話の続きを促してきます。

 …………その仕草は可愛らしいと思いますが、シエラさんのテンションに引っ張られて、謎なハイテンションになっていませんかね?



「えぇっとその……言葉が悪くなってしまいますが、そのような理由で奴隷として子供を売ってしまっても良いものなのですか?私が記憶している限りでは、そのような行いは明確に犯罪行為であり重罪の筈なのですが……もしかして、オトハさんの住んでいた里——ヒサギの里では、適応されない法律なのでしょうか?」


『あ〜……』


「それに、デジラさんのお話では飢餓に苦しんでしまうが故の苦肉の策として、子供を奴隷にするという事でしたよね?デジラさんがオトハさんの事情を理解されていないという事も無いでしょうし、こうもお話が違っている事に違和感があると言いますか……」


『あ〜…………』



 先程までの可愛らしい様子はどこへ行ってしまったのやら、オトハさんは微妙そうな表情を浮かべて苦笑いを溢しました。

 更に、シエラさんも便乗するようにして、オトハさんの説明に補足をしていきます。



「その……デジラ様は立場上、あんな風に説明するしか無かったんだと思うんですけど、元々奴隷商に売る為の理由って殆ど必要無いようなものなんです」


「えっ……そうなのですか?」


「ん〜まぁ、そうだね。あ、でも、何でもかんでもOKって訳じゃ無いよ?ちゃんと国が調査するし、下手くそな偽装とかしてたり、明らかに不当な理由だったりとかすると普通に重罪で捕まっちゃうよ?だけど、キッチリ丁寧な隠し方してると、それは一旦は見なかった事にするからねー」


「国が主導している制度であっても、そのような不正が容認されているのですか……」


「そういう不満は分かるんだけど、これは被害者のために仕方なく……って感じなんだよね。だって考えてみてよ?国が定めた基準をわざわざ細かく偽装してまで人身売買したいって考えるような連中だよ?ぜ〜〜〜ったいに碌でもない事考えてるに違いないって」


「……それはそうですね」


「それに、こういう被害者って私の時みたいに大体子供か力の無い女性なんです。だから余計に保護する為に仕方なくだって聞きました」


「まぁとは言え、そのまま放置って訳じゃ無いんだけどね。やり過ぎはやり過ぎで、国家反逆罪の疑いで国軍出撃すらあり得る殲滅対象になるから程々にしろよ!っていう脅しは入るらしいし、人材の流出阻止も兼ねてこの辺は国がかなり力を入れて政策してる部分だから……怖いよ〜?」


「なるほど……」



 そもそもが必要悪の様な法だからこそ、法整備の甘さも相まって多少の不正を見過ごしてでも実益の方を優先している——という事ですかね?

 どうにも、その辺りの感覚が法令遵守国家である日本で暮らしていた所為か、理解は出来るものの違和感を拭えませんね。寧ろ、それを当然の事のように受け止めているシエラさんの適応力が高過ぎる気がします。

 ……いえ、15年もこの世界で過ごしていればそれも必然ですか。



「お二人ともありがとうございます。お陰で大凡おおよそ理解出来ました」


「ん、それじゃあ、他に聞きたい事とかはもう大丈夫そ?」


「ええ、大丈夫です。元々、オトハさんのお話の仕方がお上手でしたから分かりやすかったですしね」


「えっと、ありがとうございますっ」



 そうして一通りしておきたかったお話も終わったところで、後は就寝の準備をするだけとなった訳ですが、お二人から待ったがかかりました。



「さて、それではそろそろ寝る準備でもしましょうか。一応、魔法で身体を綺麗にする事もできますが……普通にお風呂に入りたいですね。お二人は如何でしょう?」


「え……?」


「あれ?トレーネちゃん、もう寝ちゃうの?」


「今すぐという訳ではありませんが……まぁ、お風呂に入ったりした後は寝るだけですよね?明日から冒険者活動をしていく訳ですから、夜更かしもどうかと思いますし……?」


「あの、吸血はしないんですか?」


「……はい?」


「いやいやいや?私たちと奴隷契約した理由って、トレーネちゃんの吸血衝動を解決する為じゃなかったの?」


「……?————あ、あぁ、そういう事でしたか」



 お二人はどうやら、私が早速吸血をするものだとばかり考えていたようです。

 私としましては逆に余裕をおいてからにしようと考えていたので、何を言われたのか理解するのに一瞬時間がかかりましたよ。

 これは説明を忘れていた私が悪かったですね。


 ですが……そうですね?

 確かゼウス様のお話では『生体情報』の更新によって、吸血行為の忌避感が無くなるという事でしたか……。

 実際にこの身体に転生した事で、吸血という行為の忌避感が解消されて、逆にどのように感じるのかは非常に興味があります。

 この先ずっとこの体質?に付き合っていく訳ですしね。



「そうですね、本当は吸血衝動の起こるギリギリまで待つつもりでしたが……お二人がよろしければ、お試しに吸血させていただいても良いでしょうか?」


「き、緊張しますけど、大丈夫ですっ!」


「もちろん良いよー。元々そういう話だった訳だしさー」


「ありがとうございます」


「あ、でも、先にお風呂に入らせてね?一回魔法で綺麗にしてもらったけど流石に汗かいたし……。まぁ?トレーネちゃんがどぉ〜〜〜しても汗の匂いをクンクンしたり、ペロペロしたいって言うなら——」


「いえ、そんな事は言いませんよ。何故急にそのようなお話になるのですか……と言いますか、後者は完全にただの変態ですからね?」


「え〜?ホントに違うの〜〜???オトハちゃんはどう思う?」


「あ、はははは……」


「……完全に困ってるじゃないですか」



 本当に、シエラさんの発想の飛躍の仕方が分かりません。


次回の更新は早く出来そうです

頑張ります




評価pt、ブクマ、そもそもの閲覧、本当にありがとうございます

私のモチベーションの源です

もしまだブクマしてないよ、評価pt入れてないよ、という方がいらっしゃれば下からお願いします

私が小躍りして喜びます


亀より遅い更新ですが、気長にお付き合いいただけると嬉しいです

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