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8話 吸血少女とテンプレ冒険者

お待たせして大変申し訳ありません

ウマ娘にどハマりしてしまいまして……

ある程度、落ち着いてきた?ので、ここから執筆を再開していきます


本当に申し訳ないm(_ _)m


 8話 吸血少女とテンプレ冒険者



 私たち三人の登録が完了しますと、受付嬢さんは纏められた紙の束取り出して、その内容を確認し始めます。

 どうやら、その紙には特殊マニュアル的な事が書かれているようです。



「……えーっと、皆さんの登録が完了しましたので、各案内に移りますね」


「お願いします」


「まず、登録料からです。最初に新規登録は500アリス、再登録は5万アリスと案内しましたが、シエラさんの場合は特例奴隷措置が取られていた為、登録料は発生しません。なので、お二人の新規登録料の1000アリスをお願いします」


「あれ、それだけで良いのですか……?」



 私がそうして首を傾げますと、受付嬢さんは頷いてその理由を説明してくれます。



「はい。特例奴隷措置なので、シエラさんに対してこの国から色々と補助があるんです。例えば今回は、彼女が奴隷雇用をして冒険者活動を再開する場合は再登録料は不問になる、とかですね」


「なるほど」


「ただ、冒険者ランクに関しては上げ直しになってしまいます。シエラさんの最終ランク履歴はDランクだったので、新規登録と同じく一番下のEランクからですね」


「あ、そうなんですか……」


「これは冒険者を守る為の規則なので、流石に覆す訳にはいか無いと言いますか……すみません。依頼履歴を見るに、シエラさんが優秀な冒険者だった事は間違い無いのですが、ブランクがあるのでご了承下さい」


「いえ、別に不満があるという訳ではありませんよ。意外としっかりした制度があるのだと、驚いてしまって……安全の為にというのは分かっていますから。シエラさんも大丈夫ですよね?」


「勿論です」



 それに、折角ランクをDランクまで上げたシエラさんには申し訳無いですが、全員で一から上げていった方が統一感があって良いですからね。

 異論なんてありませんよ。


 私は【アイテムボックス】から銅貨一枚……1000アリスを取り出して、受付嬢さんに手渡しました。

 すると、受付嬢さんは金額に間違いがない事を確認し、集金袋?のような小袋にお金を入れてから、お話の続きを口にします。



「では次は、ギルドの規約についてですが……どうされますか?シエラさんがご存知だと思われますので、スキップも出来ますが……?」



 私がシエラさんに視線を向けると、彼女はぶんぶんと首を横に振ってそれを否定しました。

 どうやら、受付嬢さんの説明はキチンと聞いておきなさい、との事のようです。


 まぁ、説明を聞かずに全てシエラさん頼みにしてしまって、彼女の分からない事や、忘れてしまった事があっては大変ですからね。

 当然でしょう。



「いえ、説明をお願いします」


「分かりました。もし分からない事があれば、その都度聞いて下さい」


「はい、お願いします」


「ではまず、冒険者の大原則からですが————」



 ——と、受付嬢さんの説明が始まったのですが、私がお話の端々で質問をしてしまった所為で長くなってしまったので、要点だけを纏めます。





・冒険者ギルドは各国に存在するが完全な独立機関である為、各国の戦争、紛争に参加するのは冒険者各位の判断に一任される



 ゼウス様が私に冒険者になる事を、お勧めされた理由の一つです。

 正直なお話、この規約が無ければ高明な冒険者たちが戦争に利用されて世界が荒れる事、間違い無いでしょうし、魔王退治などのお話ではなくなってしまうでしょうからね。

 私も冒険者ギルドに所属していれば、国からの強制力は働き難くなるという事です。


 とは言え、冒険者たちに治外法権のようなものは無く、住んでいる国の法律は当然守らなければいけませんし、犯罪などを犯せばその国の法によって裁かれます。

 あくまでも、冒険者という戦力・・を、魔物という人間共通の敵以外に向けない為の措置な訳ですね。





・冒険者ギルドはランク制度が採用されており、ランクは下からE、D、C、B、A、Sとなる。また、依頼は個人の場合は自分のランクまでの物しか受注出来ず、パーティーを組んでいる場合はメンバーの平均したランクか、ギルドで登録したパーティーランクの1つ上までなら受ける事が可能となる



 これは偏に、経験の浅い新人冒険者を守る為の規約ですね。

 極端な例ですが、創作生物でお馴染みのドラゴンの討伐依頼を、経験もスキルレベルも低い新人冒険者が受注してしまうと、討伐も出来ずに無駄な死人が出てしまうだけ……という事です。

 命懸けのお仕事という事もあって、セーフティを設けている訳ですね。


 ……まぁ、Sランクの冒険者にもなるとそのドラゴンですら、欠伸の片手間に討伐出来るらしいですけどね。

 本当に人間なのでしょうか……?





・ランクを上げるには、自分と同じランクの依頼を規定回数、失敗しないで連続成功させる必要があり、自分のランク未満の依頼を何度成功させてもランクは上がらない



 これも先程のランク制度と同じ理由で制定されており、冒険者を守る為の規約です。

 また極端な例ですが、街中のお使いのような依頼だけを熟して高ランクに上がる事が出来てしまうと、いざ難しい依頼を受注した時に死んでしまう可能性が高くなってしまいますから、仕方が無い規約と言わざるを得ません。


 また、ランクの高い冒険者たちが、新人の低ランク冒険者たちの仕事を奪う事を防ぐ、という理由もあります。

 寧ろ、こちらがメインの理由でしょうね。





・冒険者であれば、ギルドカードを提示すれば街へ入る際の税金は免除されるが、国境を越える場合は通常通り入国税を支払う必要がある



 これは冒険者というお仕事がその性質上、街の外で行われる事が多いので、ある種の救済措置をとっているという事です。

 魔物の討伐依頼を受注する度に、入街税金を払わないといけなくなると、新人冒険者なんかは収入よりも出費の方が多くなってしまう可能性もありますからね。

 これでは誰も冒険者になろうとは思わないでしょうし、そうなって困るのは国ですから、それくらいは目を瞑る事にしたそうです。

 まぁ、魔物の素材などによる経済効果だけでも大黒字らしいですし……。


 それと、国を跨ぐ時のお金を払わないといけない理由は、各国に散らばっている冒険者たちの人数バランスを保つ為だそうです。

 国にいる騎士団だけでは魔物の討伐が到底追い付かないらしいので、これも当然の対応との事です。





Sランク・・・・を除き・・・、強制依頼には参加しなければならない



 この規約を破ると、最悪の場合はギルドから永久追放……冒険者資格を剥奪の上に再取得不可という厳罰の上に、罰金まで課せられるそうです。

 非常に重たい罰ですが、実はこの強制依頼が発行される事は極稀な事でして、その大抵が魔物が大量発生してこのままでは街が危険な状態だという時にしか発行されないそうなのです。

 普段は自由気ままに生活をしているのだから、緊急時にはしっかりと働け……という事なのでしょう。


 ちなみに、最高戦力である筈のSランク冒険者たちが除外されている理由は、彼ら彼女らが自重という言葉を忘れて・・・しまった・・・・残念な方たちだから……だそうです。

 何でもその昔に、強制招集して討伐依頼を完遂させたところ、その討伐対象が居た辺り一帯がとても生物が生息出来るような場所では無くなってしまった程に、活躍?したとか……。

 ぶっちゃけ、その後の復興作業の方が大変だったらしいです。

 それ以来、Sランク冒険者(人間の皮を被った化物)はその辺で大人しくしててね、と決められた規約が上記のものだそうです。


 ……とは言え、Sランク冒険者の人数自体が13人ととても少ないので、実質的には殆ど関係の無い規約らしいのですがね。





・冒険者同士の揉め事に関して、ギルドは基本的に無干渉



 まぁ、お仕事の性質上、性格の荒い方が多いですからね。

 小さな争い事は日常茶飯事らしく、キリが無いので一々仲裁していられないそうです。

 とは言え、法律に関わりそうな大きな揉め事はギルドが全権を持って間に入るらしいので、完全に放置という訳では無いようです。

 言ってしまえば、ギルドの手を煩わせるなよ!という規約なのでしょう。





・ギルドを通していない依頼の責任は、ギルドは負わない



 これはまぁ……当然と言いますか、それ以外に言葉が無いと言いますか……依頼の斡旋所であるギルドを通していない時点で、ただの個人取引ですからね。

 責任の負いようがありません。全て自己責任でしょう。





 ——とまぁ、大雑把にはこのような感じでしょうか?


 受付嬢さん曰く、このお仕事は基本的に自己責任だという事を覚えてさえいれば、大体は大丈夫らしいです。

 何でも、冒険者になるような方たちの多くが、頭脳労働が苦手らしいので、最低限それだけを覚えておけ……と指導する事になったとか。

 ……正直、それで大丈夫なのか?と心配になりますよね。色々な意味で……。



 十数分と続いた私との問答に一区切りついた事で、受付嬢さんは一度だけ長く息を吐きました。



「ふぅ……他に質問はありますか?」


「……いえ、もう大丈夫です。長々とありがとうございました」


「いえいえ、私も久しぶりに真面まともな説明が出来て楽しかったですから、気にしないで下さい。実は登録時の説明って、何処からそんな自信が湧いてくるのか分からない、碌に話を聞かない新人の方ばかりで面倒なんですよ。……本当に、どうして素人同然の新人が粋がっていられるんですかねぇ?」


「えぇっと……そう言っていただけると良かった?です」



 ……この受付嬢さん、意外と毒舌なのでしょうか?

 何とも反応に困りますね。


 若干微妙な空気になりかけましたが、受付嬢さんは小さく咳払いをして、お話を纏めます。



「んんっ!……えーでは、これで冒険者登録と注意事項の説明は終わりです、お疲れ様でした。皆さんの活躍を期待しています」


「ありがとうございました。……あぁそれと、登録とは関係の無い事ですみませんが、お勧めの宿屋さんをお聞きしても良いですか?」



 私の質問に受付嬢さんは不思議そうに首を傾げました。

 そして、直ぐにその理由に考え付いたらしく、私に確認をしてきます。



「宿屋ですか……?あれ?もしかして、トレーネさんはこの街に来たばかりなんですか?」


「はい、実はそうなんです」


「あ〜確かに、冒険者になる為にこの街に移住するっていう人は多いですからね。それでお勧めの宿屋ですかぁ……ん〜〜そうですねぇ、では『南国鳥のさえずり亭』はどうですか?金額も安めですし、ご飯も美味しいですから、お勧めですよ」


「では、そこにしようと思います」


「じゃあ、簡単に地図を書いておきますね…………はい、これで多分大丈夫だと思います」


「ありがとうございます」


「いえいえ、期待の新人冒険者ですからね、これくらい問題ないですよ。……次は、装備をして依頼を受注しに来てくださいね」


「勿論です。今日はありがとうございました」



 ……なんだかんだで変な騒ぎになる事も無く、無事に冒険者登録が終わりましたね。

 お二人の注目のされようでは、酔っ払いが絡んでくるなどの問題が起こるかもしれないと警戒していましたが、どうやらそれは杞憂に終わりそうで——



「よぉ〜!姉ちゃんたち、待ちな!」



 ——と、それは、私たちが受付嬢さんから地図を貰い、ギルドから出ようとした瞬間に起こりました。


 むさ苦しいという表現がぴったりな三名の男性たちに不意に声を投げ掛けられ、私たちの前を立ち塞ぐようにして囲まれてしまったのです。

 その男性たちはニタニタと下卑た笑みを浮かべながら私たちを見ており、見るからに下心に塗れている事が分かります。



 …………問題が起こらなくて良かったと、思っていた矢先にコレですか。

 もう少し、タイミングというものを考えて貰えませんかね?


 私がうんざりと眉根をしかめていても、男性たちは気が付いていないのか、そもそも気にしていないのか、構わずにお話を続けます。



「話は聞いたぜ、新人なんだろ?俺のパーティーに入れてやるよ。そうすりゃ親切に、色々と、教えてやるぜぇ?」


「そうだぜ、ベッドの中まで全部俺たちに任せときな!」


「ランクも上げてやるし、気持ち良くしてやるからよ〜〜!」


「ぎゃはははは!」

「げっはははは!」

「ぐはははは!」


「…………はい?」



 ん、んんん…………???

 ちょ、ちょっと待って下さい。これは所謂、アレなのですよね?『ナンパ』と言われる類の行いなのですよね……?

 余りにも酷いお誘いの仕方で、意図が直ぐに理解出来ませんでしたよ。


 と言いますか、このお誘いの仕方で喜ぶ女性がいると思っているのでしょうか?少なくとも、私は不快感しかありませんね。

 まさか、世の女性冒険者はこのお誘いが好みだとでもいうのでしょうか?『ワイルドで格好良いわ』とのように。

 ……感性が特殊過ぎませんか?



 そんな余りにも酷い台詞に困惑をしている私や、ゲラゲラと下品に笑う男性たちという、中々に混沌とした状況の中、女性特有の甲高い声がギルド内に響きます。



「ギルド内で新人いびりなんて止めなさい!それも女性冒険者を狙って行うなんて、それでも冒険者ですか!恥を知りなさいっ!!!」


「あぁ!?うるせぇぞカルネ!これは冒険者同士の話だろうが!ギルドが首を突っ込むんじゃねえよ!」


「そいう訳にはいかないでしょうが!明らかにマナーに反した行いですよ!」


「だからギルドの規約・・・・・・には何も反しちゃいねぇだろ!黙ってやがれ!」


「くっ……!」



 そうしてお二人が大声で怒鳴りあっていると、当然と言う他に無く、皆さんの注目を更に集めてしまったようです。

 私たちがギルド内に入って少し静かになったとはいえ、まだザワザワとお話の声がする程度には騒がしかった筈のギルド内はシンっ……とした静けさに包まれ、皆さんが私たちの動向を注視します。


 ある人は面白そうに、ある人は心配そうに、ある人は面倒臭そうに、ある人は胡乱うろんげに……と、其々の見方は違うようですが、私が何かを言わなければ、周りが何か反応をする事は無さそうでした。

 言ってしまえば、他の冒険者たちは私の取る行動を見て、新人冒険者である私の実力を見極めようとしている訳です。

 助けるつもりなど更々無いようですね。



 さて……この状況はどう対応すると正解なのでしょうかね?

 まずは普通に退いてもらえるか聞いた方が良いのでしょうか?ですが、見るからに言う事を聞いてもらえる相手ではなさそうですしねぇ……。

 うーん…………。


 私は悩みながらも駄目元で、男性たちに尋ねてみました。



「はぁ……邪魔なので退いてもらえませんか?」


「おいおいおい、先輩が優しく誘ってやってんだぞ?いいから、さっさと黙って付いて来い!」


「……」


「お前らだって売り慣れてんだろ?俺らが相手してやるよ!」


「…………」


「あのデカイ女は俺が貰うぞ!楽しみだなぁっ……!」


「………………」



 私は男性たちが言葉を発するにつれて、自分の表情が失われていくのを知覚します。


 ……言葉がまるで通じませんね。見た目がゴリラっぽい人間のチンパンジーと会話している気分になりますよ。

 先程は、まさかこういった口説き文句が女性冒険者では人気なのか?と変な勘ぐりをしましたが、有り得ませんね。

 この方達が最低な部類の男性たちであるだけのようです。



 そんな胸中に、私はチラリと受付嬢さん……確か、この男性がカルネさんと言っていましたね。彼女へ視線を向けました。

 すると、彼女はその視線の意味をどう受け取ったのか、一度頷いてからボクシングのファイティングポーズをって、パンチをする仕草など、私に対して何かを伝えようと、ボディランゲージをし始めます。


 ……これは、私に何を伝えたいのでしょう?

 『実力行使をしてもギルドは介入しないから、思いっきりやってしまいなさい!』という事でも良いのでしょうかね……?

 少し物騒に解釈し過ぎている気もしますが、カルネさんの表情やパンチの仕草はそうにしか見えないのですよね……。


 ……まぁ、話し合いも出来ない様子ですし、このまま穏便に事を済ませてしまっては、私たちの冒険者活動にも悪影響が出てしまいそうなので、少々暴力的な解決になってもやむを得ないでしょう。

 それに、男性たちが自ら『ギルドは関係無い。口出しをするな』と口にしていましたし、先程教えていただいた規約的にも問題はありませんしね。


 ……ええ、仕方がありません。

 目立たないように活動する予定でしたが、変更して少々派手に・・・見せつける事にしましょう。

 何せ、これだけの騒ぎが起こってしまっては目立たないも何もありませんので……。

 寧ろ、この状況を利用して、これ以上変なナンパが増えないように釘を刺しておくべきだと考えます。


 …………お二人の見た目の良さならば、今後も同じような事が間違い無く起こるでしょうからね。



 そうして、私が黙ったまま考えに耽っている事を、男性たちは恫喝に怯えてしまっていると勘違いしているのでしょう。

 最初に声をかけてきた男性が味を占めたように、ニタニタと意地の悪い笑みを浮かべながら声を荒げて近付いてきます。



「おい!さっさとしやがれっ!」



 そして、その勢いのまま私の肩を掴もうと手を伸ばします————が、



「触らないでください」


『……!?』



 私は肩を掴まれる寸前に、無意識に抑えている魔力を、逆に意識的に辺りに撒き散らして、男性たちを威圧しました。


 発散された魔力は一瞬でギルド内を濃密に満たし、まるで深海に沈んでしまったかのような息苦しさを、この場に居る人たちに錯覚させます。



「あなた方のお誘いを受けるなんてあり得無いでしょう。そのむさ苦しい見た目を直し、もっと口説き文句を勉強してから出直してください。——まぁ、それでも即答でお断りするでしょうがね。では、ご理解いただいた上で、道を開けて下さい。そこ立たれていては邪魔なので」


「…………」

「…………」

「…………」


「聞こえませんでしたか?道を開けてください、と言っているのですが……?」


「…………あぁん?」



 私が苛立ちに任せて、追い討ちをかけるように放出する魔力と語気を更に強めると、男性は半ば呆けていた表情を苛立たしげに歪めて、睨み付けてきました。

 しかもそれだけではなく、私の行為に対抗するように魔力や殺気のような気迫まで発してきます。

 流石に黙ったままではいられない、という様子ですね。


 ちなみに、この魔力をただ放出する行為は、魔力量や魔力の質が大きく劣る相手を威圧する威嚇行為でして、冒険者同士の間では所謂『格の違い』を見せつける行いの一種、だと周知されています。

 ありきたりに言い換えてしまえば、喧嘩の売り買いをしているような訳ですが……まぁ、まさか、この場で魔法を放ったり、男性に掴み掛かる訳にもいきませんからね。

 私の魔力量と質を考えるに、これが最善の手段でしょう。



 そうして、お互いに一歩も引かないまま睨み合いを続ける事、数秒……この喧嘩の行く末は誰の目からも、あっさりとその優劣が決着しました。


 ————その小さな抵抗すら許さない、私の完勝という形で。



「…………ちっ」



 私の魔力が全てを呑み込むようにギルド内を満たして男性達を威圧する中、男性は苦し紛れなのか、ただの苛立ちからなのか、憎々しげに表情を歪めて舌打ちをしました。

 そしてそのまま、呆気に取られている連れの男性お二人を連れてギルドを後にします。



「……おい、行くぞ」


「お、おぉ……」

「あぁ……」


「………………」



 私は【索敵】スキルを使用して、男性達が外で待ち伏せなどをしていない事を確認すると、長く息を吐きました。



「ふぅ…………」



 急に現れて酷いナンパをしてきたかと思うと、断られて逆上し、喧嘩の売り買いに発展までして、立場が悪くなると帰って……全くもって、嵐のような方達でしたね。

 結果的に私の魔力適正が『SSS』かつ、スキルの【魔力量増大】や【魔力量超増大】のスキルレベルが10だったので、事なきを得ましたが……そうでなかったらと考えると、恐ろしいですよ。


 一難が去ってようやく一息を吐けた事で、私はギルド内に充満させていた魔力の放出を止めて霧散させます。

 そして、未だに静まり返ったままのギルド内を見渡して口を開きました。



「えーと……この度はお騒がせしてしまい、すみませんでした」


『…………』


「これからも新人冒険者としてお世話になりますので、皆さんよろしくお願いいたします」


『……………………』



 …………はい、反応がありません。完全に無視されていますね。

 これでは、静まり返った中で私一人だけがお話をするという酷い有様ですよ。

 まぁ、私たちが悪い訳では無いとは言え、面倒事の渦中にいた者たちですし、居心地が悪くなってしまうと言いますか、このような腫れ物扱いになってしまうのも仕方がない事でしょう。

 私が逆の立場であっても、積極的に関わろうとは思えませんし……。


 ……これはこの場から早く退散した方が良さそうですね。


 私は呆けているお二人に素早く近付き、こそっと耳打ちをします。



「シエラさん……!オトハさん……!」


「————ぇっ!?あ……はい。何でしょう?」

「——っ!?は、はい」


「早くここを出ましょう。仕方がなかったとはいえ、流石に居心地が悪いですから」


「あ、あぁ……確かに……。はい、分かりました」

「わ、わかりましたっ」



 私はお二人が頷いた事を確認すると、再びギルド内を見渡してから軽く頭を下げました。

 そして口を開くや否や、ギルドを早足に後にします。



『……………………』


「……こほん。えー、それでは私たちは失礼しますね」


「……失礼します」

「し、失礼しますっ」


『……………………』



 ……結局、最後の挨拶ですら反応がありませんでしたね。

 全く、あの男性たちの所為で、これから先も変な目で見られる事になってしまいそうですよ。

 明日もそれ以降もギルドに行かなければならないのに、です。

 本当に迷惑な事をしてくれました。


 はぁ……。







〜三人が去った後のギルド〜



 トレーネたち三人が去った後、暫くは沈黙が続いていたギルド内に少しずつ喧騒が戻ってくる。

 その話題の中心が誰かと言えば……いや、それは言うまでも無いだろう。



「お、おい、おい……さっきの……一体どういう事なんだよ?」


「知らねぇよ。ただ、あのゲルドたち・・・・・・・が手も足も出なかったってだけでも、ヤベェ奴だって分かんだろ……」


「……一応聞くが、ゲルドの野郎が鈍ったって事は——」


「無ぇだろうな。素行が悪過ぎて依頼失敗……ってぇ話は聞くが、実力不足なんて話は聞いた事が無ぇよ。ランクこそEランクの最低評価だが、実力だけならBランクって話もマジだって」


「やっぱそうだよな……」


「つーか、ゲルドの野郎共がどうのってのを抜きにしても、あの威圧感はヤベェだろ。上級冒険者(Bランク以上)並の実力があるのは間違い無ぇぜ?お前、あの超絶美人の銀髪が何もんか知ってっか?」


「いや、知ってたら既に話してるって……」


「ま、そりゃそうだよな……。何にせよ、今居ない奴らには注意喚起が必要だな」


「だな。銀髪の子本人は若干引くレベルで美人、連れの二人は可愛い狐人族ちゃんと、オッパイのでかいヒューマンっぽい美女の集まりなんて、絡んで下さいって言ってるようなものだしな。馬鹿は揃ってやっちまうよ」


「——で、絡んだら最後、ゲルドの野郎共の二の舞。ギルド内の宴会が一転、お通夜に早変わりだぜ?」


「勘弁してくれ。今日はギルマスが居ないらしいからまだ良かったが、居たらただの地獄だぞ」


「それは俺も勘弁して欲しいっつうか……下手すりゃあ死人が出るんじゃねぇか?」


「…………誰がだよ」


「ギルマスの折檻に巻き込まれた俺ら」


「……マジで洒落になってないから止めようぜ。あの騒ぎにキレるギルマスが簡単に想像出来るって……。まだ死にたくない……」


「んなもん俺だって御免だっつーの。だぁから、馬鹿共にはしっかり教育・・すんぞって話だろうが」


「それはそうなんだが……はぁ…………。次から次にヤバい新人が増えやがる。ホント勘弁してくれよ」


「そこは流石に冒険者の街って事じゃねぇか?俺らも怠けてねぇで、研鑽しろってこった」


「仰る通りで」


「……ま、それもこれもコイツ(小麦色に輝く炭酸水)を飲んでからだけどな」


「それも仰るとーりで」


「…………はっはっはっはっは!」

「…………がっはっはっはっは!」



 ちなみに、この男たちが後にCランクからBランクへ昇格する精鋭冒険者だったり、この男たちのお陰で新たな犠牲者?が殆ど発生しなかったりと、こっそり大活躍するのだが……。

 そのエピソードはまたの機会という事で。


Cランクのオッさんたちの活躍に乞うご期待!

※今のところ、これ以上の登場予定はありません※


ご覧いただいてありがとうございました

ブクマ、評価、感想、とても励みになります

完結を目指して頑張りますm(_ _)m



変更点1※異世界の国の名前

今更ですが適当すぎんか?と思ったので……

ユーラシア王国→メレフナホン王国


変更点2※異世界の街の名前

同じく適当すぎんか?案件です……

エイジア→アヴァンテル

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