7話 吸血少女と残念でマヌケな天才?
お待たせしてますm(_ _)m
後、続けて申し訳ないのですが
とても長いです……
7話 吸血少女と残念でマヌケな天才?
オトハさんの服の穴空けを待つ事、十数分程……。
かなりの数の服を穴空けしなければならなかった筈ですが、残りの服の袋詰めまで終わらせたナーデルさんたちに連れられて、オトハさんが戻ってきました。
随分と早いですね。
「お待たせいたしました。ご用意させていただきました商品は、品目毎に分けて詰めさせていただきましたので、ご確認下さい」
「————はい、大丈夫です」
「かしこまりました。それではお会計とさせていただきます」
私がテーブルの上に出された袋を確認し終わると、ナーデルさんは伝票らしき紙を取り出して金額を読み上げ始めます。
「こちらの商品の合計金額、368万4780アリスのところを——」
「——っ!?」
「〜〜っ!?」
「——勉強させていただきまして、300万アリスとさせていただきます。こちらにお願いいたします」
「…………」
「…………」
「有難いですが、そんなに沢山の割引をしてしまっても大丈夫なのですか?」
「勿論でございます。今後とも、エルビセ服飾店をどうぞご贔屓下さい」
「そうですか……では、お言葉に甘えさせてもらいますね」
「………………」
「………………」
私は【アイテムボックス】からお金を取り出して受け皿に載せ、袋詰めにされた商品を【アイテムボックス】へと収納します。
それにしても、デジラさんといい、ナーデルさんといい、この世界の商人さんはサービス精神が旺盛なのですかね?割引きばかりしていただいて、利益があるのか少し心配になりますよ……。
やはり、値切りが普通に行われている事もあり、原価を抑える工夫が沢山されているという事でしょうか?
商魂逞しいですね。
ちなみに、私がそうして支払いを済ませている間、シエラさんとオトハさんはナーデルさんの値引きに驚いたのか、目をカッと見開いて私を見たままフリーズしてしまいました。
……いえ、何故私に視線を向けられたのでしょうか?普通はナーデルさんに対してではないのですかね?
少し怖いですし、意味が分かりませんよ。
「——はい、こちら300万アリス、確かにお預かりいたしました。商品購入の領収書は如何いたしましょうか?」
「あ、それは大丈夫です」
「かしこまりました。この度は当店のご利用、誠にありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそお世話になりました。これからはお世話になる事も多くなると思いますので、よろしくお願いしますね」
「勿論でございます!この度はお二方のコーディネートをさせていただきましたが、次回以降は!是非とも!トレーネ様の!お召し物の!お見立ても!させて!いただければと!思います!!!んぅふぅふぅふぅ……」
「…………あの、顔が近いのですが……」
「あら、これは大変失礼いたしました」
私は思わず、妙に鼻息を荒げて近づいてくるナーデルさんから、そっと距離をとりました。
……いえ、まぁ、あんなテンションで急に詰め寄られれば、誰だって引いてしまいますよ。
仕事熱心と言いますか、オシャレに対する熱意が強過ぎると言いますか……。
妙に残念な感じのするお姉さんです。
そして、一度咳払いをして気持ちを整えてから、今だに放心しているお二人の背中を軽く叩きます。
「こほん……私の服がどうなるかは分かりませんが、その時はお願いします。…………あの、お二人もボーッとしてないで行きましょう」
「……え?あ、そうですね。ナーデル様、この度はお世話になりました」
「ぇぁ?…………あ、はい!ありがとうございましたっ!」
「はい。またのご来店、心よりお待ちしております」
そうして、ナーデルさんたちに見送られるようにしてお店を後にした私たちは、時間的にも丁度良いという事で、お昼ご飯を食べるべく、フラフラと大通りの食堂を見てまわりました。
……出来れば美味しくて、庶民的なお店が良いですよね。
仕方がない事とは言え、先程から高級店ばかりに行ってますから、実は緊張で気疲れしているのですよ。前世では経験した事の無いお店ばかりでしたからね……。
食事くらいは気楽に摂りたい訳です。
丁度良いお店が見つかると嬉しいのですが……。
————————
少女たち昼食中
————————
「……ふぅ、少し食べ過ぎてしまいました。お二人共、よくあんなに沢山食べられますねぇ……それもお肉ばかり…………」
「……すみません、久しぶりに豪勢な食事をさせていただいたものですから、つい食べ過ぎてしまいました。申し訳ございません」
「ご、ごっごごごごごめんなさいっ!」
「え?……あ、いえいえ、怒っている訳では全くありませんよ。良い食べっぷりで、見ている私まで気分が良くなりましたしね。ただ、その細い身体のどこに、あの大量のお肉が入っているのか不思議になっただけでして……お肉だけで600gはありましたよね?」
「……そうでしたかね?」
「そ、そんなに食べてましたか?」
「気が付いていなかったのですか……流石に健啖家ですねぇ。…………あ、お肉のお話は止めましょう。私から振っておいて悪いですが、気持ち悪くなりそうです」
「……食事の後に食べ物の話はキツイ、という方は多いですよね」
「……???」
「寧ろ、お二人は何故平気なのですかね?」
——と、私たちはそんな風に食休めを兼ねつつ、のんびりと大通りのお店を十数分ほど見て回りました。
そして、そろそろお腹が落ち着いてきた頃合いをみて、冒険者ギルドへと向かいます。
「——さて、そろそろ冒険者ギルドに向かいましょうか。お二人もお腹の調子は大丈夫ですかね?」
「はい」
「はい!」
「胃もたれとか、そういう事も無いんですね……。本当にどういう胃袋をされているのでしょうかねぇ……?」
「……まぁ、私は冒険者として活動していましたし、胃は丈夫なので」
「わ、私はっ…………考えた事が無かったです」
「えぇ……。羨ましいと思うべきか、驚くべきか……」
そんな間の抜けた会話をしながら歩いている内に、街に入った最初に確認してあった事もあってか、私たちはギルドまで迷う事なく直ぐに辿り着く事が出来ました。
ちなみに、私が外を歩く間に被るようにしていたフードはもう被っていません。
と言いますのも、私が目立たないようにフードをしていようが、着飾ったお二人が注目を集めてしまう為に、意味が無くなってしまったのです。
いえ、それどころか、美女、美少女を引き連れた怪しいローブ姿の女という、悪い意味で注目を集めてしまう有様でした。
不審者にしか見えませんし、当然でしょうね。
…………寧ろ、私は何故、最初に気が付かなかったのでしょうか?
私は改めて冒険者ギルドの前に立つと、一息吐いて気合いを入れました。
「ふぅ……では開けますね」
そして、西部劇に出てくるようなスイングドアを開けてギルドの中へと入り、中を見渡してみますと——
そこにはガヤガヤと騒がしい居酒屋さんと、静かで黙々と仕事をするお役所を一緒にしてしまったような謎の空間が広がっていました。
……いえ、私自身もよく分からない例えを持ち出したと思うのですが、私の語彙力ではそれ以外の表現が出来ないのです。
先ずパッと見た感じですが、外観通りに中も非常に広々と造られていまして、二階が吹き抜けになっている為、非常に開放感があります。
そして一階の半分程と、二階の大半が飲食スペースという名前の『酒場』になっており、男女問わず非常に……非常に喧騒としています。
恐らくは、依頼を終えて一杯飲んでいたり、決起会のように飲んでいたり、ただ単に飲んだくれていたりしているのでしょう。
中に入った瞬間から、お酒臭さが私たちを迎え入れてくれました。
ええ、全く嬉しくありません。
反対に、お仕事をされているのでしょうギルド職員の方や、依頼を受注されている方、依頼されている一般の方たちは、待機椅子に座っていたり並んでいたりと、日本の区役所さながらの雰囲気を醸し出しています。
特に、意外にも依頼を報告しようとしている冒険者と思しき方々が、酒場で騒ぐ方達を羨ましそうに眺めながら静かに待つ様は、見ていて変な面白さを感じさせますね。
恐らく、この達筆な字でデカデカと書かれた『報告所で騒ぐな。順番は守れ。この二つを守れない奴はシバキ倒す。カミラ』という注意書きが原因なのでしょう。
注意書き一つで屈強な冒険者たちを黙らせる程に、カミラさんという方は随分と物騒で怖い方らしいです。お会いしたいとは思えません。
……まぁ、この冒険者ギルド自体、七割五分が騒がしい酒場のようなものなのですから、一部だけが静かになったところで、余り意味は無いように感じます。普通に騒がしいですし……。
何か他の理由でもあるのでしょうかね?
それとこれは【闇夜に映る眼】で分かった事ですが、一応のご近所への気遣いなのか、この建物には『防音』や『防臭』などの効果を持つ魔法が付与されています。
その為、この大騒ぎの音や、お酒臭さがギルド外に出ないようにされているのです。
……この無法地帯のような騒ぎを外に出さない為に必要な事だというのは理解出来ますが、これほど大きな建物に魔法を付与させるという高等技術をこのような事に使わざるを得ないというのは、何だか目眩がしてきそうです。
恐ろしい、技術の無駄遣いを垣間見た気がします……。
「……早速、登録を済ませてしまいましょう。登録は……総合受付でやってもらえるようですね。並びましょうか」
「分かりました」
「はい」
私たちは案内板を見て、幾つかある受付の内、総合受付と表記された受付の列に、私を先頭にして並びました。
この受付は名前の通り、冒険者ギルド内に於ける色々な処理を引き受けてくれる受付……ではありません。
実は、依頼受注受付や、依頼発注受付、素材買取受付などの、通常の業務とは関係の薄い業務を担当してくれる受付の事だったりします。
まぁ、名前通りに何でも受付してしまっては、役割分担させている意味がありませんからね。言ってしまえば、雑用受付のようなものです。
そうして、暫くの間静かに並んでいる内に、私は騒がしかったギルド内が徐々にザワザワと内緒話をする程度の声量まで、静かになっていく事に気が付きました。
加えて、チラチラとした視線が私たちに向けられる事から、この騒ぎ?の原因が私たちにある事まで分かります。
……いえ、そんな濁した言い方をしなくても、どう考えてもお二人の見た目の良さが理由でしょう。
実際、ここに来る途中でも、服装をキチンと着飾ったお二人は注目されていましたからね。
ギルド内でも、注目を集めてしまっても不思議ではありません。
私は周りの目を気にしつつ、すぐ後ろに並ぶお二人に耳打ちして小声で話しかけます。
「あの……お二人共、くれぐれもナンパや変質者には気を付けて下さいね?」
「え……?あ、はい……?え?いえ、すみません、それはどういう意味でしょうか?」
「……???」
「いえ、言葉の通りですよ?ここへ来るまでもそうでしたが、お二人がキチンとした服装に着替えられてから、何かと視線を向けられる事が多くなりましたからね。それが悪い訳ではありませんが、変な騒ぎになってしまうと面倒かもしれませんので、一応注告を……という訳です」
「えっ……?あ、あー、なるほど、分かりました。気をつけます」
「き、気をつけますっ……?」
「はい、お願いします。……あ、もう少しで私たちの順番が来そうですね。列に戻ります」
私はお二人が頷いた事を確認してから、正面に向き直りました。
そして、今のお話を一人省みます。
…………後の祭りと言いますか、冷静になって考えてみますと、今のお話はお二人からすれば余計なお世話だったかもしれませんね。
と言いますのも、私はこの身体に転生したお陰で急に容姿が良くなりましたが、お二人は違います。
オトハさんは当然、シエラさんも転生されていますが、この世界で産まれて育っている訳で、容姿が急激に変わったなんて事はありえないのです。
ええ、お二人共産まれた頃から、さぞ可愛いかった事でしょう。
……まぁつまり、注目を浴びる事にも慣れているでしょうし、ナンパの類のあしらい方も熟知されているであろうという事です。
そう考えますと、先程のお二人の反応がイマイチだった事も、大通りやギルド内で注目されても全く動揺していない事も、簡単に説明が出来ますよね……。
今更な事を一々注告する面倒な奴、と思われていたらどうしましょうか……。少し……いえ、かなり凹みますね……。
はぁ……慣れない事を警戒する余り、完全に失敗しました。
今のお話、無かった事に出来ませんかねぇ……。
「あの……シエラさん、今のご主人様のお話ってどういう事なんですか?私、よく分からなくて……」
「んー多分だけど……今とか、大通りを歩いてた時とか、色んな人にチラチラ視線を向けられてるよね?その原因が私とオトハさんの容姿が良いからだ……って、ご主人様は勘違いしてるっぽいんだよね。だから、気を付けてって事じゃない?」
「え……?視線を集めてるのって、ご主人様ですよね?」
「うん、間違いなくね」
「もしかして……ご主人様はご自身の容姿の良さをご存知無いって事ですか?」
「いや……ある程度は分かってると思うよ?大通りを歩いてた時、始めはフードを被ってたでしょ?多分、ご主人様なりに考える部分があって、そうしてたんだと思う。食堂に着いてからは何故か被ってないけど……」
「……あ、確かにそうです」
「なんて言うか、自己認識が甘いんじゃない?周りよりちょっと美人くらいにしか考えてないっていうか……私たちの方が綺麗だったり、可愛いとか思ってそうな感じ?」
「ご、ご主人様より綺麗で可愛い……そ、そんなの、あり得ませんよ…………」
「うん、私もそう思う。……っていうか、ご主人様より容姿が良い人って存在しないでしょ。完成された美の化身?……美の女神様っていうかさ?」
「美の女神様…………凄くしっくりきます。それにご主人様の服も素敵なので、より一層神々しくなって……なんて言うか、凄いです」
「だよねぇ……見た目のオーラみたいなのが全然違うよね。そりゃ、デジラ様もナーデル様も、丁重に接して繋がりを作っておこうって考えるよ。宣伝とかにもなるかもしれないし、そもそもやんごとなき出の人にしか見えないしさ?……まぁ、ご主人様は全く分かってなさそうだったけど」
「……私には不相応過ぎる素敵な服で、買っていただけてとっても嬉しかったですが、金額を聞いた時はビックリし過ぎて心臓が止まるかと思いました……」
「あーあれは確かにビックリしたよね……。しかも、それを簡単に支払っちゃうんだから、もう意味が分からないっていうか……。ご主人様の言う『変な騒ぎ』は、確実にご主人様が原因で起きそうなんだよね……」
「……否定出来ないです」
「はぁ……」
「はぁ……」
——と、そんな内緒話が後ろでコソコソとされている事などいざ知らず、私が先程の会話の反省をして内心で頭を抱えながら待って内に、私たちの順番が回ってきました。
……どうやら、受付担当の方は茶色い髪をした20代くらいの女性の方ですね。
見た感じは、落ち着いた雰囲気の街娘といった感じでしょうか?或いは丸の内OLですかね?そんな感じの方です。
屈強な冒険者の方たちを相手にお話をする訳ですし、受付の方も強面な男性だと思っていましたが、違いましたね。
……実は少しだけホッとしています。
私たちが『こちらでお伺いします!』という案内に従ってカウンターへ向かいますと、受付嬢さんは笑顔で用件を聞いてきます。
「お待たせしました、本日は————依頼のご発注でしょうか?でしたら申し訳ありませんが、窓口が別なんですが……」
「いえ、今日は私たちの冒険者登録に伺いました」
「えっ——!?と、登録ですかっ!?」
私がゆるりと首を振って用件を口にすると、受付の女性は目をカッと見開いて驚きました。
受付嬢さんからすると、余程予想外な答えだったようです。
私はそんな反応に首を傾げながら頷き返して、並び間違えてないか確認します。
「……?はい、そうです。……えっと、登録は総合受付でしたよね?」
「はい、それは間違い無いんですが……本当に冒険者登録なんですか?依頼発注ではなく……?」
「ええ、そうですよ」
「そ、そう……ですか…………。あの、失礼ですが、登録を考え直したり、止めたりはしませんか?この仕事は常に危険が付き纏いますし、その方が貴女方にとって良いのではないかと思うんですが……」
「……???いえ、危険がある事は承知ですし、登録を止める事はありませんけど……何か可笑しな事でもありましたかね?一応、冒険者登録は犯罪者でなければ、誰でも出来るとお聞きしたのですが、私たちでは登録が出来ないのですか?」
「い、いえ、そういう訳ではありませんが…………」
受付嬢さんは歯切れ悪く、何か言い淀むように苦笑いを浮かべました。
……???これは一体、どういう事なのでしょうか?何故、こうまでも登録を遠回しに拒否されているのでしょう?
お話をしている感じでは、受付嬢さんがお仕事が面倒だから言っている感じでは無く、私たちを心配?されているようではあるのですが……。
門番さんにも、ここでギルドカードを作って身分証にしたら良いと言われましたし、私たちがここで冒険者登録をする事に、何も可笑しな事は無い筈なのですけどね……。
何故心配されるのかが分かりません。
そして、このままではお話が進まないと観念?したのか、受付嬢さんは一度大きな溜め息を吐いてから再度口を開きます。
「えー、冒険者という職業は腕っ節の強さや、信頼が重要視されている、という事はご理解されていますか?」
「そうですね。お仕事の内容的にも荒事が多いようですし、そうなるのは当然だと思います」
「では、ご自身の見た目がそれに、その……そぐわないものである。という事は……?」
「まぁ、それも分かりますよ。どうあっても、筋骨隆々などとは表現出来ない身体ですしね。ですが、ステータスという概念がある以上、外見の差などあって無いようなものだと思うのですがね……」
具体例を挙げますと、持っているスキルやスキルレベル次第では『2mの筋肉ダルマのような男性』よりも『10歳くらいの少女』の方が力持ちという、摩訶不思議な現象が起こり得る世界なのです。
日本ではあり得ませんよね。
……まぁ、今のは極端な例なので、それが当たり前とまでは言いませんが、それが起こり得るという事です。
——が、私が怪訝に首を傾げると、受付嬢さんは首を横に振ってそうではないと訂正しました。
「そういう意味では無く……いえ、それもありますが、それ以前の問題です」
「……?」
「着ている服と言いますか、装備の事ですよ」
「そう……び……?…………あ」
「流石にその格好のまま冒険者は出来ないと言いますか、許可する訳にはいかないと言いますか……ただの冷やかしであれば、早めにお帰りになられた方が貴女方の身の為ですので」
私は受付嬢さんの説明を聞き、辺りを見渡して、ようやく私たちの冒険者登録に対して彼女が否定的だったのか分かりました。
と言いますのも、周りの冒険者の方たちは戦士であれば金属鎧や革鎧、剣などの……魔法使いであればローブや魔杖と呼ばれる杖などの……戦闘を行う為の装備をしています。
当然ですよね?
敵を倒す為の武器や、身を守る為の防具も無しに、命を賭けた依頼を熟そうなんて、余程の実力者か自殺志願者しかいないのですから。
が!しかし、今の私たちの格好は?と言いますと——
私はフード付きの外套を着ているとは言え普通に見える服装。
シエラさんは扇情的ですが街中で見かける服装。
オトハさんも非常に可愛らしく街中で見る服装。
——と、何をどう解釈しても、これから戦闘行為をするような格好では無い訳です。
これでは受付嬢さんが私たちの事を、冒険者登録に来た冷やかしではないか?と、懐疑的に思ってしまっても仕方がありません。
例えるなら、就職の面接にスーツではなく、ジャージを着て行っているようなものなのですから……。
ええ、面接官も笑顔で不採用にするでしょうね。
私は苦笑いを浮かべて、説明という名前の言い訳を口にします。
「すみません。今日のところは登録だけで、依頼を受けるつもりは無かったので失念していました」
「あ、そうだったんですか?普通は登録後に簡単な依頼を受けるのでてっきり……」
「ええ……どうしましょう?装備を整えてから出直した方が良いのでしょうか?私としては二度手間になるので、この場で登録してもらいたいのですが……」
「……つまり、冷やかしではない。という事で良いのですか?」
「勿論です」
「そう……ですね、冷やかしで無ければ断る理由はありませんか」
「ありがとうございます」
「色々と失礼しました」
「いえ、装備の事を忘れていた私が悪いので……」
本当に私が悪いですからね。
何も言えませんよ。
ちなみに、お二人の服は先程購入した紛れも無い普通の服ですが、私の物は違ったりします。
と言いますのも、私が着ている服(下着や外套も全て)には『耐衝撃』『耐斬撃』『耐魔法』『適正温度』『自動修復』『防汚』etc……といった効果が付与されているのですよ。
正直なところ、下手な金属鎧よりもずっと頑強なくらいです。
流石は、ゼウス様特製の服と言うべきですかね?
この世界の価値観と常識を粉々に粉砕するような逸品です。
まぁ、面倒なので、ここでその事を説明する事はしませんけどね。
そうして誤解?が解けた事で、受付嬢さんはお話を切り替えるように、咳払いをしました。
「こほん、それでは改めてまして……今回は冒険者登録との事でしたが、皆さん新規の登録でよろしかったでしょうか?」
「いえ、新規は私と狐人族の方の二人でして、もう一人は再登録です」
「了解しました。そうしますと……新規登録は500アリス、再登録は5万アリスの登録料が発生するのですがお金は——大丈夫ですよね?」
私たちの服装を見て、受付嬢さんは念の為に、といった様子で首を傾げます。
まぁ、見るからにお高そうな服を着ていますし、そういう反応になるのも頷けますよね。
「ええ、大丈夫です」
「では、登録用の魔道具を持ってきますので、少々お待ち下さい」
受付嬢さんはそう言って、カウンターの奥へと下がっていきます。
そして、私たちが二、三分程静かに待っていると、50cm四方程の薄い金属板?のような魔道具を二つ持って帰ってきました。
その内の一つには掌のマークが描かれていて、静電気防止パッドのように見えます。
……金属製っぽい素材なので、静電気の防止は出来ませんけどね。
「お待たせしました。では、この魔道具を使って登録と、戦闘能力の測定を行いますね」
「登録をするに、能力測定が必要なのですか?」
「はい。何度も言いますが、この職業は腕っ節が物を言いますからね。戦闘能力の極端に低い方や、成長の見込みが薄い方なんかの登録を未然に防ぐ為に必要な事なんです。……死んでしまってからでは遅いですから」
「……愚問でしたね。失礼しました」
私は受付嬢さんに軽く頭を下げました。
……さて、早速困った事になりましたね。
私はバグの入り込んでしまったかのようなステータスを誤魔化す為に、この冒険者ギルドに登録しに来た訳ですが、そこでステータスの高さが露見してしまっては意味がありません。
かと言いまして、この能力測定をパスしない事には冒険者登録も出来ないのですから、早くも打つ手が無くなってしまって八方塞がり……ではなく、こういった時の為にきちんと対策はしてあったりします。
それは——
「えーっと、では私からで良いですか?」
「はい、お願いします。魔道具に描かれている手形に合わせて、掌を重ねて下さい」
「分かりました」
私は言われた通り、魔道具の上に手を置きます。
すると魔道具が薄く光り、一体どういう原理なのかは分かりませんが、私の目の前にホログラム投影されたように、A4サイズほどの半透明な板?らしき物が現れました。
そこには、種族スキルを除いた私のステータスが記載されています。
名前:トレーネ
種族:吸血種
年齢:17
身体能力:E
魔力適正:C
所持スキル
剣術:3
魔力量増大:3
炎系魔法:3
水系魔法:3
風系魔法:3
光系魔法:2
アイテムボックス:3
備考:奴隷契約(主)
……どうやら上手く出来ていますね。
私の本当のステータスは身体能力が限界の『S』であったり、魔力適正は限界突破などという『SSS』であったり、スキルレベルに至っては全て『最大の10』であったり……と、意味不明な事になっているのですが、今表示されているステータスは『とても優秀な新人冒険者』程度に抑えられています。
どうやって抑えているのかと言いますと、【偽装】というスキルを使っているのです。
このスキルは名前の通り、自分や他人のステータスなどを偽装……表面上だけ別物に書き換える事が出来る、というものです。
分かり難いかもしれませんが、イメージ的には身分詐称が簡単に出来るスキル、という感じでしょうかね?
ゼウス様が冒険者登録をして生活をしていけば、あまり目立たなくなると判断された一因です。
とは言いましても、実は【看破】のスキルがあればこの偽装工作は簡単に見破る事が出来まして、スキルを持っていなくても【看破】が付与された魔道具を使う事でも見破る事が出来るのです。
実際、私が街に入る時に触った丸い水晶のような魔道具もそうでしたし、今触っている金属板のような魔道具も同じです。
では何故、私の本当のステータスが表示されず、偽装されたものが表示されているかと言いますと……。
【看破】スキルや魔道具で【偽装】スキルでの隠蔽工作を見破るには、【看破】のスキルレベルが、その【偽装】スキルのスキルレベルよりも上でなければできないからです。
こういった登録申請時の為に使われる検査魔道具には大体、スキルレベル7相当の高レベルな【看破】が付与されていますが、私の【偽装】スキルはレベル10なので見破る事が出来なかった訳ですね。
それと、スキルレベルが同じの場合は、魔力量や魔力適正が高い方がスキルの効果が優先されます。
なので、私の【偽装】スキルを見破る事は、実質不可能のようなものなのです。
流石?はバグステータスですね。完璧な対策です。
ちなみに、日本では身分詐称は詐欺罪にもなりうる行為ですが、ここメレフナホン王国どころか、どの国であってもそういった取り締まりの法律は無かったりします。
恐らくですが、スキルや魔道具で比較的簡単に見破る事が出来るからでしょうかね?
……いえ、寧ろ、スキルレベル7相当の魔道具を使っても見破る事が出来なければ何をしても無駄だ、という諦めのような達観とも受け取れますか。
実際、スキルレベル8に至った人外が暴れ回ってしまっては、国を挙げて抑えなければならないくらいですし……。
日本のイメージに例えるなら、核弾頭ミサイルが手足を生やして生活しているような存在……が、スキルレベル8以上のスキルを持つ者たちなのです。
……同じ人間の枠に収めても良いのか悩みものですね。
受付嬢さんは、そんな私の偽装されたステータスを見て、驚いたように感嘆の声を漏らしました。
新人冒険者にしては、高めに設定されたステータスの為、まさかこれが偽装されたステータスだとは気が付いていないようです。
「これは……!」
「どうかしましたか?何かおかしな部分がありましたかね……?」
「い、いえ、失礼しました。思っていた以上に高いステータスでしたので、つい驚いてしまって……こほん。えーでは改めて、お名前が——トレーネさんですね」
「はい」
「戦闘能力は何も問題ありませんので、このまま登録も完了させてしまいますね。…………はい、登録完了です。魔道具から手を離して下さい」
「分かりました」
私が言われた通りに手を離しますと、投影?されていた偽ステータスが消えて、もう一つの金属板が薄く発光します。
すると、一体何処から出現したのか分からない、運転免許証サイズのカード?のような物がその上に置かれていました。
これがギルドカードなのでしょう。
「カードを取って、記載内容に間違いが無いか確認をして下さい。確認が終わりましたら、私の方でも確認と控えを取るので、一度お渡しく下さい。……あ、当然、ここで知り得た情報を横流しする事は無いので安心して下さいね」
「分かりました。…………はい、大丈夫です」
「ではお預かりしますね」
私はチラッとギルドカードを見て、受付嬢さんに手渡しました。
まぁ、何も変わった事が書かれていませんでしたからね。
そして、数秒ほどで控えの記入が終わったのか、受付嬢さんは顔を上げてギルドカードを返してくれます。
「はい、ありがとうございました。ギルドカードをお返しします」
「ありがとうございます」
「しかし、将来有望な新人と言いますか、規格外な新人と言いますか……4属性も魔法が扱えて、スキルレベルも十分に高いとなると、一人前の冒険者でも滅多にいませんよ?」
「そうなのですか?正直、そんな実感は無いのですが……」
「ご自身では気付かないものなんですかね?ぶっちゃけ、見た目を理由に登録を断っていたら、私の首が危ういレベルでしたよ……?」
「…………その節は大変失礼いたしました」
「ふふふっ」
いえ、それは笑って済ませても良い事なのですかね?
私は申し訳ない気持ちで一杯なのですが……。
と、そんな私の気持ちを知ってか知らずか、受付嬢さんは気を取り直してとばかりに、小さく咳払いをしてお話を元に戻しました。
「——んんっ!すみません、余計な事を聞きました。後はお二人の登録でしたね」
「そう……ですね。はい、お願いします」
「……これはお二人にも、とても期待が出来そうですねぇ」
「いえ、申し訳ありませんが、私はその期待には答えられないかと思います。あれはあくまでもご主人様が変わっているだけであって、私は極々普通の領域を出ませんので……」
「わ、私はも、もっともっと弱いです……でも、精一杯頑張りますっ」
「そう言われると、益々期待してしまうものですが……まぁ良いでしょう。では早速登録していきましょうか」
受付嬢さんの言う通りに、お二人も同じように能力測定と冒険者登録をしていきました。
……何でしょう、このモヤっとして釈然としない気持ちは……。
騒ぎにならないようにステータスを偽装している筈なのに、こうも規格外な人間扱いされてしまうとは心外です。
特にシエラさんの言い方では私が変人のように聞こえてしまいますよ……。
失礼しちゃいます。
会話の後に即一人反省会っていうのは、コミュ障あるあるだと思います
改稿を通り超えて、普通に書き下ろしている感じなんですよねぇ
今回だと、3倍くらいに文字数が増えてますし……
これも何回言った事か……orz
過去の私へ
もうちょい真面に文章を纏めて書いていて下さい
変更点1※異世界の国の名前
今更ですが適当すぎんか?と思ったので……
ユーラシア王国→メレフナホン王国
変更点2※異世界の街の名前
同じく適当すぎんか?案件です……
エイジア→アヴァンテル




