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最強ギルドマスターの一週間建国記  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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レンレンの1日

朝がきた。


俺は首筋に触れる唇の感覚に身震いをする。


逃げる様に背中を丸めて、俺は布団の中で背後を振り返った。


背の高い、浅黒い肌のダークエルフ、セディアだ。セディアは目を閉じて、その彫刻のように美しい顔をこちらに向けている。視線を下げると、セディアの流れる黒髪が大きな胸をより強調している。


「おはよう、大将」


目を下に向けていると、いつの間にか目を覚ましたセディアが朝の挨拶をしてきた。


「ん、おはよう」


俺がセディアの顔を見返して挨拶すると、セディアは照れたようにはにかみながら俺の胸に顔をくっ付けて隠した。


「甘えん坊だな」


俺がそう口にすると、セディアが顔を隠したまま小さく笑う。


「ふふ…今日は、自分も一緒に行っちゃダメですか?」


「セディアが? 別にいいが、ミエラとシェリーは大丈夫か?」


セディアのお願いに俺が首を傾げると、セディアは顔を上げて頷いた。


「もう大分慣れたと思います。ミエラは問題なく食事、掃除などをしていますし、メイド部隊との関係も良いですね。シェリーは朝と夜がミエラの手伝いで、昼間は魔術の訓練をしていますし、もう自分が見なくても良いと思います」


そう言って、セディアは期待に目を輝かせて俺を見た。


「分かった。なら今日はセディアも連れて行こうか」


俺がそう言うと、セディアは満面の笑みを浮かべた。


と、その時、セディアの向こう側から声が聞こえてきた。


「わ、私も行きます!」


そんなことを言いながら、エレノアがセディアの肩越しに顔を出した。


「ダメ。エレノアは俺の代わりにジーアイ城の城主代行だ」


俺がそう言って笑うと、エレノアは愕然とした顔になり、セディアの二の腕に噛み付いた。


「痛い痛い痛い…!」


「その痛みは私の心の痛みです!」


「いや、噛まれた痛みだよ!」


「ガルルルル」


二人はそんなやり取りをしながら、じゃれ合っていた。


朝から仲が良いことである。






結局、俺と同行するメンバーはミラ、サイノス、サニーと追加でセディアがきた。


まあ、ミラは戦闘職では無いからな。そういう意味ではセディアが来るとパーティーの総合力がかなり高くなる。


と、俺がそんなことを考えていると、レンブラント王国の王都が飛翔魔術で飛んでいる俺達の眼下に迫っていた。


「降りるぞ」


俺がそう合図を出し、俺達はそっと王城の中庭に降り立つ。


一部のレンブラント王国の国民には見つかったかもしれないが、普通は勘違いと思うか宮廷魔術士と判断するだろう。


しかし、当たり前なことだが、王城の兵士達はそうではない。


「な、な、何者かが中庭に!」


「何!」


中庭にいても騒然とする目撃者の声が聞こえてきた。


暫く待っていれば兵士達が中庭に集まるだろう。そしたらクレイビス王の下へ案内してもらうか。


俺が気楽にそう考えていると、中庭の奥にある枝振りの良い木の下から声が聞こえてきた。


「まあ、お客様でしょうか」


何処かのんびりとした声でそう言ったその人物は、木の下に設置された椅子に腰掛け、丸い小さなテーブルに置かれたティーカップらしきものを手にしてこちらを見ていた。


若い女だ。


髪は長い見事な金髪で、少し垂れ気味の大きな目と細い顎が女をかなり若く見せている。


見た目通りなら年齢は十代中頃だろうか。


その少女は白いふんわりとしたスカートのドレスを着ており、特に緊張感も無い表情で俺達を見ていた。


見回せば城内の中庭というだけあって中々広いが、今現在中庭にいるのはその少女と、その後ろに立つメイドらしき女の二人だった。


「姫様、離れてください…あの者達は尋常なる者ではありません…」


メイドは静かに姫様と呼んだ少女の前に出ると、俺達の動向を注意深く見ながらそう口にした。


メイド姿の女は光沢のある灰色の髪を肩ほどの高さに切り揃えた、20代後半ほどの女だ。特に特徴が無いその姿を見るに、ヒト族だろう。


そして、その警戒心を露わにするメイドの後ろから、姫様と呼ばれた少女が顔を出した。


「キーラ? お客様はこちらに敵意は無いようですが…」


少女はそう言うと、キーラと呼んだメイドの横顔を見た。


キーラと呼ばれた女はそれでも警戒心を崩さずに俺達を見る。


「確かにそうかもしれません。しかし、飛翔魔術を難なく使いこなす魔術士の集団です…なにかあったら姫様をお守りするのは…」


キーラはそう言うと、ごく自然な動作でメイド服の横腹辺りをまさぐり、短めのナイフを二本出した。


それだけで修羅場を経験していそうな雰囲気を感じたが、武器を手にとったことで状況は変わってしまった。


護衛として気合いが入り過ぎたセディアが動いたのである。


一瞬でキーラの横に立ったセディアは、音も無くキーラの腕を捻り上げてナイフを奪った。


あまりの早業に、姫様とキーラだけでなく俺も吃驚である。


「…っ! いつの間にっ!」


そう声を荒げ、キーラが腕の関節を捻られた無理な体勢のまま、セディアから脱出しようと体を動かす。


「動くな」


だが、セディアが身を捩るキーラに一言そう言うと、キーラは観念したようにセディアを見て、俺に視線を移した。


「…お許し下さい。自衛の為に武器をとりましたが、こちらから敵対する意思はありませんでした。私は好きにしてもらって構いませんから、姫様だけでも…」


キーラは焦燥感に声を上擦らせながらそう言うと、頭を垂れた。


キーラのその様子に、姫様は眉根を寄せてこちらを見る。


「キーラは私の従者です。キーラが御無礼を働いたなら、私からも謝罪致します…どうかお許し下さい」


姫様は真摯にそう言うと、顎を引いて軽く俯いた。


箱入りのお嬢様のようなその雰囲気に、俺は本当にクレイビスと血が繋がっているのか不思議に思った。


いや、もしかしたら他の貴族の令嬢が王城に滞在しているだけなのかもしれない。


我が物顔でティータイムを楽しんでいたが。


俺は二人を観察しながら、姫様の方へ近づいた。


俺が歩み寄ると、キーラは奥歯を噛み締めてこちらを睨み、姫様は真っ直ぐに俺の顔を見上げた。


「お初にお目にかかる。俺は新しく出来たばかりの国、エインヘリアルの王をしている、レンというものだ」


「…っ! りゅ、竜騎士様…!」


俺が名乗ると、キーラの驚愕する声が聞こえたが、俺はそちらを振り返らずに姫様を眺め、口を開いた。


「お名前は?」


俺が尋ねると、それまで目を丸くしていた姫様が椅子から立ち上がり、ゆったりとした動作でお辞儀してみせた。


「初めまして…貴方様が竜騎士、レン様でしたか。私はレンブラント王国第5王女のリアーナと申します。大変な御無礼を…失礼致しました」


リアーナと名乗る姫様はそう言って顔を上げた。


王族としての態度にスイッチしたのか、顔を上げたリアーナは表情だけでなく雰囲気も別人のようだった。


リアーナは俺を見上げたまま微笑むと、キーラを横目に見て口を開いた。


「自慢ですが、キーラは城内屈指の実力者です。近衛兵3人を相手にしても互角の戦いが出来るのですが…レン様のお仲間の方はやはり段違いの腕前でした。竜騎士様であるレン様がお選びになった英雄の方ですか?」


リアーナはそう言ってセディアを見た。どうやら神話になっている神の代行者と英雄の物語のことを言っているようだ。


「セディア、放して良いぞ」


「はい」


俺の指示を聞き、セディアはキーラを解放して俺の斜め後ろに歩み寄った。


俺はキーラが解放された腕を確認しながら立ち上がるのを尻目に見ながら、リアーナに対して口を開く。


「自慢の従者か。キーラとやらも良い対応だったぞ」


俺がそう褒めると、リアーナは年相応の無垢な笑顔を浮かべて頷いた。


「はい! キーラは強いだけでなく、お菓子作りも凄い腕前なんですよ! それに裁縫も凄く上手で…!」


「ひ、姫様! そういうお話はせずとも…!」


リアーナがキーラの凄いところアピールを始めると、キーラは慌てた様子で俺達の後ろからリアーナに向けて手を振った。


場が和んでリアーナとキーラの緊張が薄れてきたその時、騒々しい足音が中庭に響いた。


振り返ると、揃いの鎧に身を包んだ兵士が十数人も駆け付けていた。


まあ、空から侵入者が現れたのだ。最大の警戒を持って人を集めるだろう。


つまり、まだまだ人が集まるということだ。


俺が早めに正体を明かしてクレイビスの下へ案内してもらうべきか。


そんなことを考えていると、やたら行動力のある何処ぞの国王の声が聞こえてきた。


「この城に侵入者だと! 全く、この忙しいのに…!」


「おお、クレイビス王。お邪魔しているぞ」


中庭に文句を言いながら姿を現したクレイビスに俺がそう言うと、クレイビスは目を見開いて頭を下げた。


「これはレン国王陛下! おはようございます!」


おい、なんだその挨拶は。



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