表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強ギルドマスターの一週間建国記  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

94/243

奴隷少女

私は山の麓にある獣人族の村に生まれた。


本来、山は魔物が多く、集落なんて維持出来ないらしい。


ワイバーンなんて強大な魔物はそういないが、それでも多くの空を舞う魔物が襲い掛かってくるらしい。


だが、その山は珍しく空から襲いかかる魔物が少なく、地上を走って人を襲う魔物ばかりの山だった。


だから、この場所を見つけた人達はその地を永住の地と決めた。


もっと街道に近くて開けた場所なら魔物が少なくて安全らしいが、そういった場所は往来が多い為ヒト族の商人などに子供を攫われてしまうらしい。


なにせ、その村を作った人達は大規模な奴隷狩りというヒト族の狩りから逃げてきた人達だったからだ。


獣人は珍しいのだろうか。


当時の私は、他人事のようにそう思って村で過ごしていた。


木を組んで作った家は雨風が吹き込むし、食べ物が無い日もあった。


多分、大変な生活なのだろう。


だが、そこで最初から生まれ育ってきた私にはそこまでの苦労には感じられなかった。


たまに、村の周囲に張り巡らせた柵と掘りの修理をする村人が怪我をするくらいで、外に狩りに出る村人は村でも1番とか2番目に強い人が出るのでいつも汚れて帰るだけだった。


だから、私にはその村でも十分生きていける環境に思えたのだ。


しかし、事態は急変した。


冒険者という仕事をしている人達がこの村を見つけてしまったらしい。


冒険者はメーアスという大きな国で働く荒くれ者達だと村人の誰かが言っていたが、そんな生易しいものではなかった。


10人ほどでやってきた冒険者達は、村に火矢を放ち、村から私達をいぶり出したのだ。


そして、焼け落ちる村から散り散りになって逃げる私達を、罠が襲った。


脚に絡まる蔦に捕まった者や、落とし穴に落ちた者などもいたが、私の場合は地面から生えた針だった。


地面に生えた細い針を踏んだ私は、痛みに耐えながらひたすら走った。


だが、すぐに体の変調に気がつく。毒が塗ってあったのだ。


動けなくなり、地面に転がったままの私を、冒険者達は馬車に詰め込んだ。


馬車には十数人の村人達がいた。


半数以下しかいないことと、女子供しかいないことが、私の不安を強く煽った。


そして、私は奴隷になった。


お父さんやお母さんはどうしているのか。


そんなことが何度も頭を過ぎったが、その時の私は奴隷としての所作を覚えることで必死だった。


ご飯を貰えないのは1日か2日なら耐えられる。


だけど、鞭で打たれるのは涙が出るほど痛く、耐えられない。


ただただ、奴隷商人という人に叩かれないように必死に奴隷としての作法を覚えた。


そして、私にもご主人様が見つかった。


私よりも早く出て行った村の子もいたが、その子は優しそうな人に買われていった。


少しは期待があったと思う。


もしかしたら、もう叩かれずに済むのではないか。


もしかしたら、ご飯を毎日食べれるのではないか。


そんな考えが頭の中にあった。


だけど、私のご主人様は細い体をした、冒険者だった。


冒険者。


冒険者というだけで、私は怖かった。


震える私に、ご主人様は傷だらけになった鎧や剣を装着させた。


血の匂いがする鎧や剣を手に、私はご主人様に連れられて他の冒険者達と合流した。


6人の冒険者達。


凄腕の冒険者らしく、それぞれが名前を知られていた。


冒険者の1番上に立つSランク冒険者という存在らしい。


ご主人様もどうやらSランク冒険者という存在らしく、話を聞いていると、街を襲撃した魔物の群れの撃退と領主の怪我の治療の功績によりSランクになったようだ。


だが、街を襲撃した魔物の討伐は、実際にはかなりの数の冒険者達と一緒にしたことで、討伐が終わる頃、一緒に戦った冒険者達も殺してしまったらしい。


背後から棍棒で撲殺して魔物の死骸と一緒に転がせば、誰にもバレないとご主人様は笑った。


結果、ある程度の強さを持つ冒険者達すら死ぬような強大な魔物の群れを撃退し、死に掛かっていた領主を治療した功績は凄いもので、ご主人様はSランクに、他の人もSかAランクに上がったそうだ。


そんなご主人様は回復魔術士という仕事をしている。


骨折や切創など、かなりの種類の怪我をものの数分で治療する凄く優秀な人物らしい。


冒険者ギルドにいると、知らない人から声を掛けられて回復魔術のコツのような話をしているところも見た。


有名で、Sランクの冒険者で、知らない人から教えを請われる大人物だ。


でも、そんな大人物が良い人とは限らないみたいだった。


知らない誰かに教えを請われ、回復魔術を教える際に、私の腕や足、耳などを切って治療したりもした。


戦闘の時は、大きな魔物の攻撃を受けて折れた骨を、擦り傷を負ってしまったご主人様に蹴られたりもした。


そんな毎日を過ごし、痛いと泣けば叩かれるから、自然と泣かなくなった。


およそ1ヶ月耐えた頃、私は不思議な雰囲気の人達に会った。


その人達は、どうやら凄く強いらしく、他の冒険者をあっという間に倒してしまった。


本来なら、一人が傷付いたら私が敵を足止めし、ご主人様が治療する時間を稼がないといけない。


だが、治療する間も無いほど圧倒的だった。


驚いたご主人様は、私を前に押して自分は下がった。


「あ、あ、アンリ! 前に出ろ! 絶対に近づけるんじゃないぞ!」


ご主人様はそう叫んで更に後方に下がっていった。


私が冒険者の仲間を治療する時間を稼げるとは思わない。


だが、稼がねば叩かれる。


私はぼんやりとそんなことを思いながら敵の正面に立った。


そこには、犬に近い雰囲気の獣人族の男性が立っていた。


綺麗な顔。


なんとなく、私はそう思った。今まで、これだけ整った顔は見たことが無かった。


見れば、他の男女も本当に美しい顔をしていた。


そして、気が付けば私は寝ており、顔を上げると多くの人々が周囲にいた。


一体何が起きたのか。


確か、あの犬に近い雰囲気の獣人族の男性と戦っていた筈。


私がそう思っていると、私に黒い髪の美しい男性が私を見て声を掛けてきた。


名前を確認され、あの獣人族の男性の弟子になれという話だった。


獣人族の男性の名前は、サイノスというらしい。


また違うご主人様になるだけなのかもしれないが、結局どちらでも良いのだ。


私はすぐに頷いた。


「サニー。治してやれ。状態異常もな」


すると、男性はそんなことを言ってエルフの少女を見た。


サニーと呼ばれた少女は、私の側に来て手を私の顔に向けた。


サニーが何か呟いた瞬間、暖かい光が全身を包むのが分かった。


そして、どんどん身体が軽くなり、痛みも無くなった。


やがて、光が消えていったが、私は世界が鮮明に見えるような気がして顔を上げた。


辺りを見て、次に自分の手を見て確信する。


目が、また見えているのだ。


手の表面も綺麗に治っている。


それは、ただ傷が治ったという話では無く、奴隷商人やご主人様に付けられた傷が治ったのだ。


まるで、傷と共に辛い思い出も消えたような、そんな気持ちになった。


もしかしたら、私にも暖かい日が来るかもしれない。


また、あの村で過ごしていた毎日のような日々が帰ってくるかもしれない。


私は泣きながら、そんなことを考えて、ふと頭にあることが浮かんだ。


お父さんとお母さんは、元気にしているだろうか。


随分と久しぶりに、二人を思い出せた気がして、私はまた泣いてしまった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ