ロモントの謝罪
「大変申し訳ありませんでした!」
ロモントは深く頭を下げてそう謝罪した。
場所はロモントの屋敷である。吹っ飛ばした冒険者達は気絶していた為、屋敷の中の部屋で安静にさせている。
そんな状況で、ロモントの屋敷に戻った俺達にロモントは謝り続けていた。
実の息子であるフィンクルは呆れた顔でロモントと俺を見ている。
何故俺まで見られているのかは分からないが、ロモントは仕方ない。
結局、息子3人の言葉全てを盲目的に信頼したバカ親扱いになるだろう。
まあ、一般人の思考ならば仕方ないとは思うが、為政者としては最悪の対応となってしまった。
本来なら俺の戦績なんてのは初めての神話をなぞったガセ情報と判断される。
そうなると、後は息子達の情報から判断することになるが、この父親は息子達の情報全てを信じ、俺がフィンクルを騙している可能性を見出したわけだ。
だが、結果としては出来たばかりの小さな国相手に多大なる借りが出来た。
大失敗である。
「まさか、本当に神の代行者様と選ばれし英雄達であったとは…!」
ロモントは先程からずっとこの調子だが、その時間が延びれば延びるほど、フィンクルの目が刺すような鋭さを帯びていく。
「だから、そう報告したというのに…」
フィンクルがそう呟くと、ロモントは身体を硬直させて冷や汗を流す。
いや、フィンクルの報告は兄の手によって改ざんされた筈だろうが。
俺は怒り心頭のフィンクルに苦笑混じりに話し掛けた。
「まあ、そう言うな。これからロモントは罪滅ぼしに総力を挙げてガラン皇国から奴隷を回収してくるはずだ。そして、その奴隷の中から犯罪奴隷以外の奴隷はガラン皇国と決着をつけた後に我が国が貰い受ける」
俺がそう告げると、ロモントは顔を青ざめさせてから俺を見た。
フィンクルはそんな父親の姿に頭を抱えるように自らの手を額に押し当てた。
「…メーアスの亡国が回避されても、我が王家は破滅のようですね」
フィンクルがそう呟くと、ロモントは慌てて俺に対して口を開いた。
「な、何卒、何卒お願いします…全ての奴隷は不可能です! ガラン皇国との関係もありますが、何よりも商人としての信用が…!」
ロモントは必死に王家存続の為の交渉を行おうとしてきたが、その交渉はもっと早くにするべきだっただろう。
俺はロモントに半ば同情しながらも最後の言葉を告げる。
「何を言う。責任を取る人間は事足りるだろう? フィンクルの兄2人が情報操作の罪で投獄と王位継承権を破棄。そして、最終判断を誤った罪でお前が引退だ」
俺がそう言うと、ロモントは目を見開いて口を何度か開閉させた。
言葉も出ないロモントを見て、フィンクルは溜め息を吐いて眉根を寄せる。
「父上、諦めてください。俺も王位継承権を破棄します。メーアス存続を第一に考えて行動してください」
フィンクルはそう言って父親を慰めた。
だが、それは国の運営に関わる人間として正しいが、王家を担う人間として正しくない。
なにしろ、王家を継承する人間がいなくなるからだ。
国には民がいるが、王家にも歴史がある。
それは種類の違う責任だが、それも責任だ。
何よりも、俺の想定していた旨味が無くなる。
「フィンクル、お前が王家を継げ」
俺がそう言うと、フィンクルはこちらに顔を向けて眉を顰めた。
「…いや、もはや我が王家は再起不能となります。これから持てる全ての手を使い、奴隷兵達を回収しなくてはなりません。それはつまり、信用を失うということに…」
「それは分かる。だが、それで王家の滅亡という程の事態にはならんだろう。折角だ。ダメ元でデカい商売をしてみないか?」
俺がフィンクルの言葉を遮ってそう言うと、フィンクルは一度口を閉じ、慎重に言葉を選んで俺に聞き返した。
「…どういうことですか? 竜騎士様が口にするような商談です。是非、お話を聞かせていただきたいですね」
フィンクルがそう言うと、ロモントもこちらに顔を寄せて前のめりになった。
本当に王族らしからぬ2人だ。
俺は無意識に苦笑すると、おもむろに口を開いた。
「考えている商売は三つある。最速の空の物流と、黒鉄武具の供給。そして、全ての国に発言権を持たせる国際同盟という同盟の結成と運用だ」
俺がそう言うと、フィンクルとロモントは呆気に取られたような表情を浮かべて俺を見ていた。
もちろん、全ての案が我が国に利益になる予定である。
空の物流は飛翔魔術が刻印されたマジックアイテムで何とでもなるし、武具は黒鉄ならば大量に生産出来る。
そして、実質的に世界を牛耳れる国際同盟の結成だ。
このどれもが我が国を飛躍的に豊かにし、更に国際的な地位を押し上げるだろう。
必要なものは人員だが、それは今回の話によってメーアスから大量の奴隷が我が国に流れる予定である。
その為にこれだけ大掛かりに動いたのだ。
実は、ロモントの親心の暴走は渡りに船だったという部分もある。
これだけの、この世界の住人からすれば奇天烈な発想は読み切れないだろう。
もしもフィンクルがここまで推測していたとしたら、フィンクルは地球の出身に違いない。
俺がそんなことを思っていると、フィンクルはハッとした顔になって頷いた。
「そうか、その大事業の為に最大の物流経路と制度が整っているメーアスに繋がりを…! いや、まさか、だから奴隷にあれ程固執して…それに、国際同盟とはなんと画期的な…上手く仕組みを作れば戦争をせずに世界を思うように動かせるという…!」
フィンクルは独り言のようにそんなことをブツブツと呟いていた。
え?
地球の方ですか?




