国王襲来
俺はガラン皇国の侵攻に備えて、定期的にセディアやローザなどの斥候隊に偵察に行ってもらった。
勿論、レンブラント王国側にも偵察に行ってもらっている。
飛翔魔術を使える魔術士と一緒に行ってもらっているので、どの距離の偵察も日帰りで報告が来る。
そして、その日が来た。
俺は自分が渋面を作ってしまっているだろうと理解しながら、階段の下で片膝をついて跪くローザを見た。
「すまんが、もう一度頼む」
「はい。ランブラスにて、国王の姿が確認されました」
どうやら、聞き間違いでは無かったらしい。
俺は長い溜め息を吐いて目を細める。
「コックオーなんていうモンスターじゃあるまいな?」
「いえ、レンブラント王国の国王ですが…」
「…観光か?」
「いえ、2000程ですが、兵士もおりました。魔術士の姿も50は…」
ローザは言いにくそうに俺にそう報告した。
攻めてきたのなら、分かりやすくて良い。
だが、その程度の人数で真っ向勝負は無いだろう。
搦め手か? 策を講じているのか?
いや、それならばもう少し目立たないようにやる。
第一、王自らは来ないはずだ。
くそ、コックオーだったら良かったのに。
無駄に語感が気に入ってしまったじゃないか。
俺はそんな無駄なことを考えてから溜め息を吐いた。
「…国王は何をしているって?」
「ビリアーズ伯爵…いや、ビリアーズ大臣に会って話を聞いているようです」
「ビリアーズ大臣にレンブラント王国に帰るように言っていると思うか?」
俺が隣を見てそう尋ねると、エレノアが美しい金髪を揺らして否定した。
「それは無いと思います。何しろ、一方的に独立を宣言して、直後にご主人様の下へ転がり込んでおります。これは、レンブラント王国側から見れば面子を潰されたも同じこと。許し難い裏切りになるのでは無いでしょうか」
「つまり、ビリアーズ大臣がレンブラント王国に帰るとしたら王国内外が納得するような罰を受けねばならんということだな」
俺がそう言うと、エレノアは軽く頷いた。
色んなパターンの国王訪問を考えてみたが、もはや答えは俺にとって嫌なものしか残されていないらしい。
「…2人はどう思う?」
俺が尋ねると、エレノアとローザが顔を見合わせて頷いた。
「ご主人様の御国の属国になりに来ているかと」
エレノアが代表してそう答えると、ローザも深く頷いた。
いや、結論が極端過ぎるだろう。
「それは極論として、順当にいけば協力体制を構築したいといったところか。つまり、同盟だな」
俺がそう言うと、ローザが眉を顰めた。
「同盟? レンブラント王国の分際で?」
いやいや、仮にも五大国だから。この大陸でほぼトップの地位だぞ。
「ローザ。レンブラント王国は歴史ばかり無駄に積み上げた、土地だけ広い大国です。ハリボテみたいな権威でも、その国の王が頭を下げることは出来ないのですよ? だから、人がいない所で土下座させましょう?」
「いいね。裸にして転がそうか」
お前ら何処の苛めっ子だよ。
結局、実際に会ってみるしかないという結論になり、俺は自らランブラスに赴いた。
カルタスからは王自ら行くのは、と止められたが、すぐ近くに面倒なイベントが見え隠れしており、挙句に回避不可という状態である。
そのイベントを先延ばしにする方が面倒臭い。
最初からこちらの方が立場が上であると思わせる為に、目立ってしまうがドラゴンの姿になったラグレイトに乗って向かうことにした。
ローザに先行してもらい、 ランブラスにいるビリアーズ大臣に俺が向かっていると伝えてもらったので、ビリアーズ大臣と国王は街から出て来ているはずだ。
「ご主人様、良いのですか?」
ドラゴンの姿になったラグレイトの背で胡座を掻いていると、隣に座るエレノアが抽象的な問いかけをしてきた。
「何がだ?」
俺が聞き返すと、エレノアは曖昧な顔で首を傾げる。
「同盟の件です。ご主人様の御力を一端でも知れば、喜んで属国になることでしょう。それをわざわざ対等な関係になど…」
エレノアがそう言うと、サイノスが唸った。
「そうですな。残念ながら殿と同じ地位に立てる者はおりません。故に、殿を絶対の君主と仰ぐ配下が必要なのです」
サイノスは何故か妙にテンション高くそう言った。
ちなみに、今回の護衛はエレノアと前衛にサイノス。後は乗り物と化しているがラグレイトの3人である。
ただ、ランブラスにはすでにローザが斥候部隊を連れて先行しているので単純な戦力では中々の手勢である。
「上から押さえつけるだけだと反発されるものだろう? それに同盟にも上下関係はあるぞ」
俺がそう言うと2人は顔を見合わせた。
ラグレイトまでドラゴンの姿のまま唸り声をあげた。
同盟がそんなに気に入らないものなのか。
俺がそんなことを考えていると、サイノスが地上を見て声をあげた。
「殿、あそこにいるようです」
サイノスに言われて確認すると、そこにはランブラスの正門から出て隊列を組んでいる兵隊の姿があった。
話に聞いた数よりも確実に多い。
ビリアーズの兵も加わっているのだろう。
目算だが、報告の倍はいそうな印象を受けた。
「正面に降りろ」
俺がそう口にすると、ラグレイトが短く吠えた。




